パシフィックフィル東京:ラヴェル、バルトーク、レスピーギ、ストラヴィンスキーの擬古典作品集2024/09/07 23:59

2024.09.07 東京芸術劇場コンサートホール (東京)
パシフィックフィルハーモニア東京
Henrik Hochschild (play & lead)
1. ラヴェル: クープランの墓
2. バルトーク: ディヴェルティメント BB118
3. レスピーギ: ボッティチェッリの三連画
4. ストラヴィンスキー: バレエ音楽「プルチネッラ」組曲

「パシフィックフィルハーモニア東京」は旧称「東京ニューシティ管弦楽団」が2022年に名称変更した在京9番目のプロオケで、どっちにしろ聴くのは多分初めて。昨年、「クープランの墓」が突如マイブームになり、ピアノ原曲、オケ編曲のいろんな演奏を聴き漁るうち、やはり実演で聴かぬことには、と思い探したところ、このコンサートを見つけた次第です。

本日のコンセプトは「ドイツ音楽界の重鎮が室内学的アプローチで導く、同時代を生きた4人の作曲家が描いた、精緻で鮮やかな音楽絵巻」とのことで、ラヴェル(1875-1937)、レスピーギ(1879-1936)、バルトーク(1881-1945)、ストラヴィンスキー(1882-1971)というまさに同世代の天才たちが擬古典的な形式を取り入れた小編成の作品が並んでいます。元より打楽器が登場しない演奏会などほとんど聴きに行くことがなく、それもあって今日はどれも大好きな作曲家たちにも関わらずこれらの演目を過去にほとんど聴いたことがなかったのですが、奇しくも去年から心がけている「念願の選曲を落穂拾いする演奏会」の一環になりました。

しかし、このような趣向は個人的には高く評価するのですが、一般ウケはしないだろうなと思っていたら、案の定、客入りは半分くらいで空席が目立ちました。今日の演奏会は指揮者を立てず、特別首席コンサートマスターのヘンリック・ホッホシルト(元ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管コンマス)の「弾き振り」による演奏になるのですが、実際には指揮行為は全くやらず、それどころか合図もほとんど出さず、まさにヴァイオリンの音とジェスチャーのみで楽団を引っ張る硬派なスタイルでした。最初登場したホッホシルトは、バティック(インドネシアの正装)とおぼしきキンキラのシャツで登場し、外見からして一人だけ異色に目立っていましたが、後でプロフィールを読むと現在ジャカルタのオーケストラでも音楽顧問をやっているようで、そういうことかと納得。

1曲目の「クープランの墓」は、第一次大戦に従軍したラヴェルが、戦死した知人たちを偲んで作曲したピアノ曲を後に自身で管弦楽版に編曲したもので、バロック音楽時代の形式を模倣した舞曲組曲になっていて、一見明るく華やかな曲調の中にも所々顔を出す憂いを帯びたハーモニーに何とも惹きつけられる名曲です。備忘録を見るとちょうど10年前に都響で聴いていますが、うーむ、ほとんど覚えていない…。今日のオケは弦が8-7-6-4-3の小規模な2管編成で、指揮者がいない分、安全運転気味の進行。ちょっと表情付けに乏しい気もしましたが、ピリオド系と思えばこれはこれで良いのかも。オーボエとトランペットを中心に管奏者の腕前が確かで、意外と言ったら失礼ですが、期待以上の少数精鋭で安心して聴いていられました。

次のバルトーク「ディヴェルティメント」は一度ロンドンでロイヤルカレッジの学生オケを聴いて以来。バルトーク好きの私も、これが演目に上がっている演奏会をフル編成のオーケストラではほとんど見たことがありません。弦楽合奏のみで、形式は古典的な合奏協奏曲を倣いながらも、内容はバルトークらしい民族色の強い旋律とリズムが特徴的な曲です。小編成ながらも弦の響きがオルガンのように重層的で、さすがに弦がよく鍛えられたオケだなと感じました。こちらも指揮者なしの影響か、角が取れて淡々とした演奏に終始し、バルトーク好きとしてはもうちょっとリズムをえげつなく際立たせて欲しかったところです。

休憩を挟んで3曲目のレスピーギは初めて聴く曲でした。いずれもウフィッツィ美術館に展示されているボッティチェッリの超有名な絵画、「プリマヴェーラ」「マギの礼拝」「ヴィーナスの誕生」をモチーフに作曲された交響詩で、こちらは古典から形式ではなくフレーズをいろいろと引用しているようです。ローマ三部作のような極彩色には届きませんが、小編成ながらもピアノ、チェレスタ、ハープに、グロッケンシュピール、トライアングルの金物打楽器を加えた効果もあり、コンサート前半の曲と比べると一気に色彩感が増します。また、テンポも頻繁に動くので、指揮者がいないと本当に大変そうな曲でした。それでもほとんど乱れることなく推進する音楽に、トレーナーとしてのホッホシルトの力量を見ました。多分これが一番練習した曲ではないかな。

最後の「プルチネッラ」は、昔から大好きな曲だったのですが実演で聴くのは初めて。ここまでは本来の指揮者スペースを空けて配置していたオケが、この曲ではそのスペースを詰め、ちょうど第1ヴァイオリンのコンマス、第2バイオリン、ヴィオラ、チェロのそれぞれトップが距離をぐっと縮めて弦楽四重奏をかたち作り、その周りをオケが取り囲むかのような配置になりました。もうこの曲に至っては指揮者なしでやる方が珍しいくらい複雑なスコアになってくるので、こまめなテンポ変化はなくやはり淡々とした印象とはなりました。しかしながら、ここでも管楽器が皆さん素晴らしかった。この曲は管のソロが肝で、ヘロヘロだととても聴いていられないのですが、ほぼ完璧な仕事に脱帽しました。弦も管も想像以上にしっかりしていて、普通にプロフェッショナルなオケでした。当たり前のようで、そう思わせてくれない演奏会も正直少なくないので…。しかし、今日のコンサートにはこの芸劇ホールは広すぎる。本来なら、文化会館の小ホールとか、もっとこぢんまりとしたスペースで聴かせるのが良かったでしょうね。


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