ロンドン響/パッパーノ:モノホンのオケが映画音楽やってみた、のゴージャス感2025/12/17 23:59

2025.12.17 Barbican Hall (London)
Sir Antonio Pappano / London Symphony Orchestra
Roman Simovic (violin-2)
1. Miklos Rozsa: Prelude, The Mother’s Love and Parade of the Charioteers from ‘Ben Hur’
2. Miklos Rozsa: Movements 2 & 3 from Violin Concerto (adapted to 'The Private Life of Sherlock Holmes')
3. Bernard Herrmann: Scene d’amour from ‘Vertigo’
4. David Raksin: Laura from ‘Laura’
5. David Raksin: Love is for the Very Young from 'The Bad and the Beautiful' - Suite
6. Max Steiner (arr John Wilson): Opening Title Sequence from ‘Gone with the Wind’
7. William Walton: Selections from 'Henry V' - Suite
8. Nino Rota: Waltz from ‘The Godfather’
9. Ennio Morricone: Gabriel’s Oboe from ‘The Mission’ (Concert Version)
10. Ennio Morricone: Music from ‘Cinema Paradiso’
11. Ennio Morricone: Music from ‘Once Upon a Time in America’

今年あと一つくらいバービカン行っとこうかと急きょ買ったチケットです。LSOは古くから映画音楽のサウンドトラックでも多数演奏してきておりますが、パッパーノから年の瀬のクリスマスプレゼントのようなものでしょうか。前半は「ベン・ハー」「シャーロック・ホームズの冒険」「めまい」「ローラ殺人事件」「悪人と美女」「風と共に去りぬ」といったハリウッド・アイコン、後半は「ヘンリー五世」「ゴッドファーザー」「ミッション」「ニュー・シネマ・パラダイス」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の80年代大作映画でまとめた構成になっています。どれも映画史を彩る名作ばかりとは言え、よく考えたらちゃんと全編通して観ている映画は、封切り時に映画館で観た「ニュー・シネマ・パラダイス」くらいしかありませんでした…。映画は大好きなんですが、マニアと言えるほどの数を観ているわけでもなく、また古い映画を後追いで観ることは少なかったんだなあと、今更ながら気づきました。

コンサートはパッパーノがマイクを取り、作曲家ごとに解説を交えながら進行していきますが、とにかく、モノホンのオケが映画音楽やってみた、そのゴージャス感がハンパないです。弦の厚みと美しさ、管の迫力ときめ細かさ、全てが凄すぎました。ただ、ロイヤリティの都合でオリジナルのスコアは使えないようなことをパッパーノが話していた通り、フル編成オケ用に、よりゴージャスにアレンジされていたかと思います。映画のサントラは、レコーディング専用のセッションオーケストラがスタジオで録音し、実際の人数以上に豊かな響きになるよう加工技術を駆使するのが普通ですが、それはそれでオリジナルのスコアとレコーディングのほうが音楽に勢いがあり、映画のシーンと直接結びついている分、思い入れも深い場合があるので、一概に良し悪しは言えませんが。

ちゃんと観たことない映画でも、音楽は耳に入って来て記憶に定着しているから不思議なものです。また、フォロワーとして似たような(言い方を変えると「パクリ」)劇伴音楽もちまたに溢れているので、何も考えずにそのゴージャスな響きに浸れます。「ベン・ハー」を聴いて一瞬「野性の証明?」と思ってしまったり。「ゴッドファーザー」はメジャーなメインテーマではなく(解説で鼻歌を歌ったのみ)あえて「ワルツ」を選曲されていましたが、エレキマンドリンを使っていたのが新鮮、多分初めて見ました。

最後はモリコーネ三連発でしっとり終わる、はずもなく、アンコールでは打楽器隊が戻ってきて、待ってましたの「スターウォーズ」メインテーマ。大昔の部活でやったことがあり、けっこう難易度が高くリズムも面倒くさい曲なんですが、もちろんLSOはオリジナルを手がけたオハコなので、完璧以上の仕上がり。あれこれ深く考えず、無心に楽しめたゴージャスな一夜なのでした。

ロンドン響/パッパーノ:チャイコフスキーとRVWのマリアージュ2025/12/07 23:59



2025.12.07 Barbican Hall (London)
Sir Antonio Pappano / London Symphony Orchestra & Chorus
Antoine Tamestit (viola-2)
Julia Sitkovetsky (soprano-3)
Ashley Riches (bass-baritone-3)
1. Tchaikovsky: Symphony No. 4
2. Vaughan Williams: Flos Campi for Viola and Chorus
3. Vaughan Williams: Dona nobis pacem

12年ぶりにやっと聴けるLSOは、当時ロイヤルオペラの音楽監督だったパッパーノ大将が現在主席指揮者に就いています。当時から、ゲルギエフの後釜はパッパーノが適任ではないかと思っていたのですが(まさかラトルが来てくれるとは想定外だった)、その12年前にパッパーノの指揮で最後に聴いた演奏会が、くしくも同じチャイコフスキーの第4番というこの偶然。もちろんオケのメンバーはだいぶ入れ替わっているようでしたが、ダイナミックでドラマチックなパッパーノの指揮に圧倒的な演奏力で応えるLSOの組み合わせは、昔と変わらぬ充実感に溢れ、12年のギャップが一瞬で繋がりました。パッパーノは指揮棒なしの指先だけで、オペラの歌手に指示を出すかのように各楽器を操っていきます。管楽器のソロはさすがに皆上手く惚れ惚れしますが、主旋律以外もしっかり聴かせるバランスを保ち、以前「マカロニ・チャイコ」と表した、メランコリックに流れるチャイコフスキーからはだいぶ抑制的に変わってきた印象を受けました。第2楽章の中間部であえてテンポを上げて変化をつけ、第3楽章もしっかりと指揮をしてオケ任せにはせず、決してグリップを離しません。オケの演奏技術力を最大限に発揮した最終楽章は圧巻の馬力と音圧を見せつけました。まだ1曲目なのに全力投球で、ほぼ本日終了です。

そもそもこのヘヴィーなプラグラムのコンセプトがよくわからないのですが、前半のド派手な「喜びの讃歌」に対し、後半は打って変わって穏やかな音楽が続きます。馴染みのないヴォーン・ウィリアムズのマイナー曲で、しかも苦手分野の合唱曲なので後半は正直よくわからんかったです。後半最初の「野の花(Flos Campi)」は小編成室内オケとヴィオラ独奏に歌詞のないスキャットコーラスが加わる曲ですが、その編成のユニークさに比して、曲調はあくまで落ち着いて穏やか。続く「われに平和を与えたまえ(Dona nobis pacem)」ではオケが大編成になり、合唱に加えてソプラノとバリトンも加わります。ある種の「戦争音楽」になりますが、激しさはそんなにありません。ソプラノがちょっと不安定な仕上がりでハラハラしたのですが、バリトンは芯のあるたいへん良い歌唱でした。しかし最後まで聴きどころが掴めず漫然と聴き流してしまって、自分にはまだ英国スピリットを堪能できるだけの修行が足らんのだとしみじみ思いました。


LSO/ティルソン・トーマス/ヨーヨー・マ(vc):コープランドとタコとブリテンと、その22013/06/12 23:59


2013.06.12 Barbican Hall (London)
Michael Tilson Thomas / London Symphony Orchestra
Yo-Yo Ma (cello-2)
1. Copland: Inscape
2. Britten: Symphony for Cello and Orchestra
3. Shostakovich: Symphony No. 5

前日はメインが「パゴダの王子」組曲だったのでパスし、MTTとYYMのミニシリーズは結局初日と最終日に行きました。LSOもこれで聴き納めと思うと、感慨深いものがあります。

1曲目「インスケープ」は、意外にも不協和音に終始した前衛現代音楽でした。私の知るコープランドとは全く違う世界で、こんな曲も書いていたのねと、ただ驚き。

今回のシリーズでヨーヨー・マはショスタコーヴィチの1番、2番と続いて、最後はブリテンの「チェロ交響曲」を選択しましたが、新たなチャレンジだったのでしょうか、珍しくずっと楽譜を見ながらの演奏。先日のショスタコ第1番では恍惚とした表情で弾いていたのが一転、余裕のない必死の形相でガシガシとラフな音をぶつけていきます。ほとんど今日初めて聴いたので曲は正直よく咀嚼できなかったし、4楽章構成という以外、交響曲とわざわざ名乗るだけのフォーマルな要素もあまりなかったのですが、オケにとってもほとんど未知の曲なんでしょう、LSOの集中力は凄まじいものがありました。ヨーヨー・マのエモーショナルな演奏も、よくわからないながらも圧倒的な迫力。燃え尽きたに思えたヨーヨー・マ、今日はアンコールとしてサー・コリンに捧げる1曲(曲名不明)を披露しました。

メインのタコ5は、らしからぬぎこちなさが随所に見られ、明らかにリハ不足。今日のプログラムだと、リハ時間の大半をブリテンに使ってしまったのは想像に難くありません。タコ5は通俗名曲ですし、リハの時間がなくとも、とにかくオケのパワーで何とか押し切った感じです。各楽器のソロは皆さんさすがにめちゃ上手い。MTTはその草食系風貌と理知的発言からクールな分析家と見られがちですが、音楽は意外とエモーショナル全開の熱い演奏で、「苦悩→葛藤→勝利」というシンプルな組み立てはストレートに心を打ちます。ああ、この人はやっぱりバーンスタインの正統な後継者なんだなと、認識をあらたにしました。



コンマス氏は自分一人だけさっさと退場してしまい、後でまたMTTが出てきたときに、一緒にシレっと出てきておりました。横のお姉さん、大爆笑。


チェロ奏者が皆楽器を膝に抱えて待ってました。


演奏前は、隣りの奏者とずーーーっと横向いて談笑していたミナ嬢。

LSO/ティルソン・トーマス/ヨーヨー・マ(vc):コープランドとタコとブリテンと2013/06/09 23:59


2013.06.09 Barbican Hall (London)
Michael Tilson Thomas / London Symphony Orchestra
Yo-Yo Ma (cello-2)
1. Copland: Orchestra Variations
2. Shostakovich: Cello Concerto No. 1
3. Copland: Short Symphony (Symphony No. 2)
4. Britten: The Young Person's Guide to the Orchestra

ヨーヨー・マがLSOに登場するのは多分久しぶりだと思います。日本でも人気者のヨーヨー・マですから、今日はやたらと日本人の姿が目につきました(もちろん中国人も)。そこかしこで「3つとも行かれますの?」という会話を耳にしたので、ティルソン・トーマス(MTT)が指揮するこの3公演、日本人的には3つで特別なワンセットだったみたいです。私的には、LSOのシーズン終盤の一コマに過ぎないんですが…。しかしこのミニシリーズ、MTTですからもちろんテーマはあり、今回はコープランド・ショスタコーヴィチ・ブリテンという、同世代の人々ながらも一見よくわからん食い合わせ。プログラムを読むと、この3人はLSOと所縁が深く、MTTとも面識がある、というパーソナルな理由が全てみたいです。

まずはコープランド。「ロデオ」を昔演奏したことがありますが、それ以外は「アパラチアの春」と「エル・サロン・メヒコ」といった定番しか知らなくて、日本やイギリスでは演奏会のプログラムに乗ることも少なく、正直、未知の作曲家です。最初の「変奏曲」は怪獣映画のバックミュージックのように、重くて派手な曲。もう一つの「ショート・シンフォニー」は、グッとフォーマルな雰囲気の硬派な純粋音楽。どちらももちろん初めて聴く曲で、普段イメージする「アメリカ民謡を多用する国民的作曲家」とは一線を画した、お固いシンフォニストとしての側面を見ました。

ショスタコのチェロコン第2番は何度か聴いていますが、第1番は初めてでした。弦楽、木管、ホルン1本、ティンパニ、チェレスタという変な編成で、ホルンは準ソリストのような重要な役割です。どう聴いてもショスタコなマンネリズムに溢れた行進曲風の第1楽章から、ヨーヨー・マは、よくぞこの曲で、と思うほどしっかり没入型のよく歌う系チェロ。第2楽章まではその調子で、ホルンの素晴らしいソロと相まって良い感じだったのですが、後半はまず曲が尻すぼみで退屈したのと、チェロも集中力が切れてどうにも音が定まらないように見えました。ヨーヨー・マというビッグネームでなければ、あまり上手くないチェリストやなあ、と思ってしまったかも。これは後の演奏会でリベンジに期待です。


指揮者そっちのけで楽団員を讃えるヨーヨー・マ。

最後のブリテン「青少年のための管弦楽入門」は、演奏会のプログラムにこの曲を見つければ即チケットを買ってるくらい大好きな曲なのですが、実演で聴ける機会は実際にはそう多くありません(一昨年のBBCプロムス・ラストナイトで演奏され、大いに盛り上がっていたようですが、残念ながらラストナイトはそうそう行けません)。名手揃いのLSOだけあって、まさにガラ・コンサートを見ているような感覚で、奏者の妙技をただただ堪能しました。この曲を、このクラスのオーケストラで聴けたという感動は、後半のフーガ終盤でパーセルの主題が戻ってくる箇所で頂点に達し、涙腺にじわっと込み上げるものがありました。

振り返ると、選曲もせいもあるでしょうが、MTTのカラーはどこに出ていたか、よくわからなかったです。黒子のような働きでした。なお本日は、LSOとしては珍しく、クラリネットに日本人奏者の姿が。近藤千花子さんという人で、調べると東京交響楽団所属、現在はRAM(王立音楽院)に留学中だそうです。


笑顔のティルソン・トーマス。


LSO/パッパーノ:チャイ4は言葉にならない充実感2013/05/19 23:59


2013.05.19 Barbican Hall (London)
Sir Antonio Pappano / London Symphony Orchestra
1. Lutoslawski: Concerto for Orchestra
2. Tchaikovsky: Symphony No. 4

先週から、パッパーノ三連発になってます。先日のチャイコ5に続き、今日はチャイ4。しかしその前に、オープニングは生誕100年記念イヤーのルトスワフスキ「オーケストラのための協奏曲」、通称「オケコン」。古今東西数ある「オケコン」の中で、ダントツ人気のバルトークの次に有名なのが多分このルトスワフスキだと思いますが、実はほとんど初めて聴く曲でした。ポーランドの民族音楽に取材し、バルトークほどのカラフルさはなく終始重苦しい曲調ですが、熟練と洗練の境地であるバルトークよりもある意味荒々しい駆動力を感じる、なかなかカッコいい音楽です。パッパーノがどのくらいこの曲に思い入れがあるのかよくわかりませんが(少なくとも専門家ではないでしょう)、こういうぐいぐい押す音楽は得意とするところ、澱みなく畳み掛けて勢いをつけたままフィニッシュ。1曲目からお客大喜び。

メインのチャイ4。こないだのチャイ5と同様カンタービレ満開の「マカロニ・チャイコ」の系統でしたが、チャイ5ほど曲調がメランコリックではないので、第1楽章なんかは所々リズムにちょっとしたぎこちなさを感じたりもしました。しかし第2楽章ではパッパーノの本領発揮、作り物の匂いが一切しない、なめらかなエンヴェロープで流れて行く大自然の音楽。終楽章はLSOの高い演奏技術力を駆使して究極の「喜びの讃歌」を派手に演出します。先日のチャイ5も実はそうだったんですが、パッパーノのチャイコフスキーは何だか言葉にならない充実感に満ちあふれていて、あれこれ感想文をひねり出そうとするのですが、私の表現能力ではとても何かを書けたとは言えません。同じLSOでもどこか嘘っぽいゲルギエフのほうが、まだいろいろと言葉を連ねることができましたね。音楽を言葉にするって、本当に難しい…。

今日のティンパニは主席のトーマス。さてどうするかと注目していたら、やっぱり昨年同様、ペダルを駆使して勝手に俺流メロディを奏でていました。しかしふと思ったのは、こんな派手な改変をプロの指揮者が気付かないはずはないのに、この人、よく怒られないなと。




おまけ、本日のミナ嬢。

LSO/パッパーノ/テツラフ(vn):マカロニ・チャイコ!2013/05/16 23:59

2013.05.16 Barbican Hall (London)
Sir Antonio Pappano / London Symphony Orchestra
Christian Tetzlaff (violin-1)
1. Shostakovich: Violin Concerto No. 1
2. Tchaikovsky: Symphony No. 5

先週に続いてパッパーノ大将、今週はLSOです。まずはショスタコのヴァイオリン協奏曲第1番。テツラフは昨年9月のウィグモアホール以来、久々ですが、あご髭をたくわえてちょっとオジン臭くなってました。全身をしなやかに駆使した、ニュアンスの深いヴァイオリンは、何を弾いてもこの人のスタイルです。ただ、今日は角度のついた位置から聴いていたので、身体を揺らすたびに奏者自身が壁になって音を遮り、変に波のついた演奏に聴こえてしまいました。正確無比に指がよく回って、もちろんめちゃめちゃ上手いんだけれど、エモーショナルな部分は極力抑えてあり、こけ脅しのないストレートな上手さが、何度聴いてもまた次が聴きたくなる、この人の魅力です。アンコールは定番のバッハのパルティータから「サラバンド」。うーむ、何度目かなと思って過去の備忘録を読み返してみると、意外や、アンコールでは聴いてなくて、聴いたのは昨年9月のソロコンサートなのでした。



深々と、頭を下げる、クリスチャン(季語なし)

メインの「チャイ5」はパッパーノのオハコのようです。基本、スコアに忠実。必要以上に粘ったり、無理な加速をしたりという煽動的な要素はありませんが、特徴はとにかく旋律がよく歌う、カンタービレのチャイコフスキー。元々叙情的、感傷的な旋律の宝庫である曲ではありますが、オペラマイスター・パッパーノの「歌」は、凍土の上に吹雪吹きすさぶ北の大地のメランコリーと言うよりも、もっとラテン系でカラッと明るい、ロシアの風土からは異質のもの。言うなればマカロニウエスタンならぬ「マカロニチャイコ」でしょうか。とは言っても生粋イタリア人のような名前のアントニオ・パッパーノ、実はイギリスで生まれアメリカで音楽教育を受けた、音楽的にはバリバリのアングロサクソン系経歴の人なので、イタリアの風土はあまり関係ないようです。

オケは相変わらず上手いです。第3楽章の弦の速いパッセージなど、よくここまでピシッと揃うもんだと。金管も腹八分目の余力を持って流してます。今日のティンパニはサブのベデウィ。至って真面目に、スコア通りの音を正統に叩いていたのが主席のトーマスと対照的でした。

LSO/ガーディナー:70歳記念演奏会は、意外や原点のストラヴィンスキー2013/04/25 23:59

2013.04.25 Barbican Hall (London)
Sir John Eliot Gardiner / London Symphony Orchestra
Jennifer Johnston (Jocaste/mezzo-soprano)
Stuart Skelton (Oedipus/tenor)
Gidon Saks (Creon/bass-baritone)
Fanny Ardant (narrator)
Gentlemen of the Monteverdi Choir
1. Stravinsky: Apollon musagete
2. Stravinsky: Oedipus Rex

サー・ジョン・エリオット・ガーディナーの70歳記念コンサート。今シーズンで85歳記念だったLSOの総裁サー・コリン・デイヴィスは、結局記念コンサートを一度も振ることなく先日他界されましたが、今日のプログラムにはデイヴィスを偲ぶガーディナーの追悼文が掲載されていました。15歳のガーディナーがホーランド・パークのデイヴィス宅まで押し掛けて「指揮者になるには何をやればいいか」と聞いたところ、「春の祭典」を勉強しなさい、と教わったそうです。どちらかというとバロック古楽器系の人と思われるガーディナーが、実はストラヴィンスキーも原点の一つであって、この記念演奏会の一見不思議な曲目も故のある選曲だとようやくわかりました。

「ミューズを率いるアポロ」は2年前のベルリンフィルで聴いて以来です。指揮者に近い内側にチェロ、ヴィオラを並べ、その外側にヴァイオリンを立たせるという変則配置。コンサートマスター(今日はトモ・ケラー)が一番外側にいるのです。各パートの人数は作曲者指定よりも少し多めで、しかしパート各々をぴっちりと引き締め研ぎすましてから、相互に音を絡ませるという室内楽的なアプローチが、いかにも古楽の合唱・合奏を得意とするガーディナーらしい。ピリオド系奏法ではないものの、澄んだ響きであり、いぶし銀モノトーンの世界でした。


いつもは誰かの陰に隠れてしまうことが多い美人チェリストのミナ嬢、今日は変則配置だったのでラッキーにもバッチリ見えました。以下、サービスショットです。




そういえば書き忘れましたが、前回のLSOのとき、開演15分前にフードホールにて一人でお茶を飲んでらっさるのを見かけました。私が声をかけるスキもなく、いろんな人が声をかけておりました。

さて、「エディプス王」は「ミューズを率いるアポロ」と同じく新古典主義の時代の作品です。合唱は手兵モンテヴェルディ合唱団の男声陣を借りてきましたが、全員顔白塗りのゾンビメイクだったのに驚きました。後から出てきたテナーとバリトンも同じくヘンな白塗り。演出家は誰もクレジットされてなかったですが、まさか合唱団と歌手が勝手にやってた、ということはないですよね。

この作品はフランス語のナレーション(聴衆の言語に合わせて翻訳する)とラテン語の歌で構成されますが、今日のナレーションはオリジナルのフランス語のままでした。オペラ・オラトリオというだけあって、歌手の歌合戦よりも合唱のほうがむしろ主役に見えます。歌手で出ずっぱりなのは、もちろんエディプス王。テナーながらもまるでバリトンのような野太い声で、威圧感はありました。クレオン役のバリトンは出番が少なく遠くにいたため、よくわからず。メゾソプラノ(この人だけ白塗りメイクなし)は音程ヨレヨレで歌唱に難あり、でした。以上クレジットされている3名以外のソリスト(テナー、バリトン、バス)は合唱団の人が受け持っていましたが、これが意外と堂々とした歌いっぷりで、何気に上手かったです。特にバスは華奢な身体にもかかわらず技量も声量も素晴らしく、単なる合唱団員とは思えない立派な歌唱でした。

ガーディナーは以前ベートーヴェンで聴いたときと変わらず、長身をゴツゴツ振り回す感じのどちらかというと不器用に見える指揮でしたが、LSOはいつものごとく冴えた演奏を聴かせてくれました。それほど大編成ではないのに馬力は十分で、ずいぶんと派手な演奏です。私は聴けませんでしたが、この曲は確か昨シーズンもゲルギエフの指揮で演奏したはず。下地はそのときと同じなのかもしれません。


ギドン・サックス(右から2人目)のメイクなんか、ほとんどギャグ。



合唱団のソリストたち。この人らはめっちゃ上手かったんですが、何者でしょうか。

LSO/ズナイダー/アンデルシェフスキ(p):想定内のマーラー、想定外のモーツァルト2013/04/04 23:59

Firefoxをバージョン20に上げてから(というか気付いたら勝手に上がってた)、朝日ネットブログ(通称アサブロ)のエディタが機能しません。他の方のブログを読む限り、いつ直るかわからない感じ。しょうがないので今はSafari 使ってます。


2013.04.04 Barbican Hall (London)
Nikolaj Znaider / London Symphony Orchestra
Piotr Anderszewski (piano-1)
1. Mozart: Piano Concerto No. 25, K503
2. Mahler: Symphony No. 5

今年初のマーラーです。しかも5番はほぼ2年ぶり。過去3年を振り返ってマーラーの演奏会に何度行ったかを数えてみると、生誕150年だった2010年は8回、没後100年だった2011年はマゼール/フィルハーモニア管による全曲演奏会などもあったりして18回、記念イヤーが過ぎて落ち着いたはずの2012年も7回ありました。今年はこれ以降、一つもマーラーのチケットを買ってない…。

まずはモーツァルトのコンチェルト。ピアノのピョートル・アンデルシェフスキは初めて見る人ですが、一目見て、天然系。ピアノに向かっているとき以外は全く生活力なさそう(失礼)に見えます。その第一印象に違わず、ピアノは天才肌の個性的なモーツァルトでした。まず、音が異常に太い。ありがちなコロコロと音を回すモーツァルトではなく、軽快さを排除した非常にシリアスな演奏に、実は面食らいました。カデンツァも「え、これがモーツァルト?」と思うほどポリフォニックなものだったので、多分自作でしょうか。オケがこれまた重めの足取りでしたが、これはハイティンクの指揮でもそんな感じだったかもしれないので、LSOが奏でるモーツァルトの特質かもしれません。第2楽章がこれまた全く自分自身のモノローグ的な演奏で、本人の発するうなり声が気になって仕方がありませんでした。ともかく、余計なものがいっぱいくっついたモーツァルトという印象。うなり声を出す奏者はけっこういますけど、彼のは何だかとっても耳障りで、良いピアニストなんだろうけど、私にはダメでした。彼はポーランドとハンガリーのハーフらしいので、バルトークは絶対イケると思います。是非やってください。


メインのマーラー5番。ズナイダーはヴァイオリンでは過去2回聴いていますが、指揮は初めて。本音を言うと、器楽奏者が二足のわらじで、特に奏者として脂が乗ってしかるべきのころに指揮までやりたがるのには一般論として良い印象を持っていません。今日も「青二才のヴァイオリニストがマーラーとは、百年早いわ!」とまでは言いませんが、多少の色眼鏡はどうしても付けていました。さてこの人はどうしたもんかと半分眉唾で臨んだところ、ともかくオケが上手過ぎで、幸いというか、指揮者の力量など吹っ飛んでいました。前回LSOでマーラー5番を聴いたときにも増して、フィリップ・コッブのトランペットは胃に寒気が走るくらいパーフェクト。ホルンも負けじと、ちょっと音が揺れてしまったらその直後はムキになったりして、張り合っているのがよくわかりました。全体的にマーラーとしては全てが想定の範囲内で、特段個性の際立つところはありませんでした。オケを八面六臂にリードしているようには見えず、逆にリードされているようにも見えましたが、「良い日のLSO」をこれだけ確実に引き出しているのは、実は優れた指揮者なのかもしれません。コンマスのシモヴィッチはいつにも増して大きい身振りでノリノリの演奏でしたが、内実はこの人が全てを引っ張っていたのかも、と後になって気付きました。今日の結論として、少なくともLSOを指揮するズナイダーは、安心して聴ける音楽を与えてくれると言えそうです。


LSO/ハイティンク/ピレシュ(p):極東ツアー前哨戦第二弾2013/02/17 23:59

2013.02.17 Barbican Hall (London)
Bernard Haitink / London Symphony Orchestra
Maria João Pires (piano-1)
1. Beethoven: Piano Concerto No. 2
2. Bruckner: Symphony No. 9

12日に引き続き、LSO極東(韓国・日本)ツアーの前哨戦です。この日は図らずもダブルヘッダーになってしまい、午後サウスバンクでラベック姉妹を聴いた後、その足でバービカンに移動。地下鉄が止まっていたので車で行ったら、意外と近かったんですねえ。

当初の発表ではモーツァルトのピアノ協奏曲のうち21番がベートーヴェン7番と、17番がブルックナー9番とペアリングされていましたが、昨年8月の段階で、ソリストの意向により21番が外され、代わりにベートーヴェンの協奏曲第2番が入ってきてブルックナー9番とカップリング、17番はスライドでベートーヴェン7番と組むということになりました。21番はもちろん得意レパートリーのはずなので不可解な変更ですが、もしかしたらこれからベートーヴェンの協奏曲全集をレコーディングする予定で、その予行練習をしたかったのかもしれません。このケースではどのみち私はピレシュのピアノが聴ければ何でもよいので、バルトークでもやってくれるならともかく、曲目変更はどうでもよかったりします。

ベートーヴェンのコンチェルト2番はほとんど初めて聴く曲です。クラリネット、トランペット、ティンパニを欠く編成の、ベートーヴェンらしからぬ可愛らしい曲で、自作を宮廷で貴族相手に披露していた名残のような雅な雰囲気を感じます。今回ピレシュをほぼかぶりつきで見たのですが、けっこう高いかかとの靴でゴンゴンと床を叩いてリズムを取りつつ、時折大きな深呼吸もしつつ、一糸乱れぬ完全主義的な演奏にいたく感動しました。ぎくしゃくしたり、ヘンな仕掛けをしたりということは一切なく、音楽がそのままの姿で正直に流れていきます。ハッタリやこけ脅しとは全く無縁の世界で、模範演奏とはまさにこういうことを指すのだなあと感心。ハイティンクのスタイルとも共鳴する部分は多く、相性抜群の取り合わせを生で聴ける幸せをしみじみ感じました。


メインのブルックナー9番は、「ブル嫌い」の私にしては珍しく何度も聴いている曲ですが、前回聴いたのはちょうど2年前、同じくLSOをラトルが振ったときでした。先日のベートーヴェンのときにはなかった椅子が今日は指揮台に置いてありましたが、ハイティンクは楽章間の小休憩のときに少し座っただけで、基本はぴしっと背筋を伸ばした直立不動。健康に不安はなさそうです。音楽のほうは、壮大な建造物を思わせる、スケールの大きいブルックナー。ラトルのときはいろいろと仕掛けるあまり途中オケが振り落とされたりもしていましたが、ハイティンクはさすがにこの曲はオハコ中のオハコ、小細工抜きの全く危なげない展開。安心して聴いていられる、保守本流とはまさにこのこと。オケも最上級の真剣モードで、重厚な弦、迫力の金管、精緻の木管と、どれを取ってもLSOの「今」を余すところなく披露していました。ティンパニは最近暴走気味のプリンシパルのトーマスではなくベデウィでしたが、逆に手堅い演奏で良かったです。

来月の訪日公演のプログラムで、トップオケのパワーに酔いたいならブルックナー9番、重いのはちょっと…という人ならより聴きやすいベートーヴェン7番がオススメです。ごまかしのない高品質は、どちらを取ってもハズレはないでしょう。メンバーが前日六本木で飲み過ぎてヨレヨレにならない限りは…。一回あったんです、ブダペストでヨレヨレのLSOを聴いたことが…。

おまけ。チェロのミナさんです。大概ヴァイオリンの陰になってしまい、なかなかよいショットが撮れません…。




LSO/ハイティンク/ピレシュ(p):極東ツアーの前哨戦を10分の1の価格で2013/02/12 23:59

2013.02.12 Barbican Hall (London)
Bernard Haitink / London Symphony Orchestra
Maria João Pires (piano-2)
1. Britten: Four Sea Interludes from 'Peter Grimes'
2. Mozart: Piano Concerto No. 17, K. 453
3. Beethoven: Symphony No. 7

来月同じプログラムで日本ツアーに出かけるからでもないでしょうが、今日はやたらと日本人聴衆の多い日でした。かく言う私も、日本公演のチケットがS席3万円(日本の外タレ公演は酷いことに、ほとんどの席が「S」です…)と聞いて、同じものが10分の1の値段で聴ける環境をめいっぱい享受しようと思い慌ててチケット買ったクチです、はい。

しっかりした足取りでハイティンク登場。この人を見るのはこれで8回目ですが、今まで見た中で一番元気そうかも。すぐに極東ツアーを控えた御大ですから、体調が良さげなのはグッドニュースです。正直好きな指揮者じゃなかったのでレコード、CDは多分1枚も持っていませんが、この人の真価はライブにありということをロンドンに来てから発見しました。1曲目「4つの海の間奏曲」はイギリスでは定番のショートピース。これは意外にもゴツゴツとえげつない演奏だったので驚きました。小洒落たまとめ方には一切興味がなく、オペラ「ピーター・グライムズ」の本質を踏まえた悲痛な重厚さが一貫して漂っていました。

ハイティンクとピレシュの取り合わせを聴くのはこれで3年連続です。モーツァルトの27番、20番と来て今日は17番。先ほどのブリテンとは一転し、角の取れた伴奏に徹していたハイティンク御大とLSOでした。音のアタックを極力抑え、ビブラートも制限せずに、むしろオーボエ、フルートの木管楽器は実に瑞々しくロマンチックなアンサンブルを聴かせてくれました。ピレシュはいつものごとくツヤツヤに粒の揃ったドライなピアノで、粗探しも野暮以前に粗が無いし、高みに達した音楽家二人だからこそ成し得た境地に酔うしかなかったです。


メインのベートーヴェン第7番は今年で初演から200周年の記念イヤー。各所で演奏機会が増えることでしょう。ザ・巨匠のハイティンクが迷わず突き進んできた、粘ったり煽ったりが一切ない直球勝負のベートーヴェン。特筆すべきは、小細工なしにスコアの音楽を引き出しているだけなのに、何という躍動感よ!音楽そのものの力とは言え、ハイティンクがここまで「ロック」な演奏の出来る人とは思っていませんでした。もっと常に重い人かという印象でした。ハイティンクが指揮台に立てば、LSOだろうがどこだろうが、いつものように最大級のリスペクトで奏者が指揮者に着いて行く。本当にハッピーな老後を過ごしている人と思います。体調に不安はなさそうですし、LSOは相変わらず上手いし、日本公演は大いに期待できるんじゃないでしょうか。