N響/沖澤まどか:実は苦手だったのか、フランス印象主義 ― 2024/06/14 23:59
2024.06.14 NHKホール (東京)
沖澤のどか / NHK交響楽団
Denis Kozhukhin (piano-2)
東京混声合唱団 (3)
1. イベール: 寄港地
2. ラヴェル: 左手のためのピアノ協奏曲
3. ドビュッシー: 夜想曲
コロナ禍以降、休憩なしの時間短縮演奏会だったN響の「Cプログラム」は、開始が遅くて料金も安かったので結構お気に入りだったのですが、来シーズンから通常モードに戻るためこれが最後のCプロです。ブザンソン指揮者コンクールの2019年度覇者、沖澤さんをまだ聴いたことがなかったし、最近多めになっている「念願の選曲を落穂拾いする演奏会」でもありますので、チケット買ってみました。
本日のプログラムは一言でまとめると「フランス印象主義」でありますが、年代的にも最初期の「夜想曲」から、もはや脱印象主義となったラヴェルの協奏曲まで、その歴史をコンパクトに辿る旅になっています。このあたりのフランス音楽は打楽器が多くカラフルで、絶対的に好みで間違いないのですが、記録を見るとそれほど多数聴いてないことに気づきました。イベールの代表作「寄港地」も実演は30年以上ぶりになります。前回は学生時代に初めてロンドンを訪れた際、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでデュトワ/モントリオール響を聴いた時以来です。
沖澤さんはアー写で見ると顔に圧があって、もっと男勝りな印象でしたが、実際は小柄で華奢、雰囲気も女性らしい柔らかさがありました。昨年から京都市交響楽団の常任指揮者になった先入観からか、確かに公家さんっぽい雰囲気があるなと思ったのですが、生まれ育ちは青森とのこと。指揮は至って真面目なスタイルで、動きに無駄がなくスムース、ちょっと悪く言うと遊びのスキが全くない感じです。フランス印象主義の管弦楽は楽器が多い割にローカロリーな曲が多く、ダイナミックレンジをいかに広く取れるかが一つの命綱だと思っていますが、その点はちゃんとオケを統率する力を持っていると思いました。終曲のリズムもキレとタメがバランス良く、緩急の変化も難なく振りこなせる感じです。ブザンソン優勝は単なる登竜門に過ぎず、その後いろんなマスタークラスを受講して研鑽を積んできただけあって、テクニックは確かなものだと感心しました。
次のラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」は、実演で聴くのは初めてです。もう一つの両手のピアノ協奏曲と比べてCDを聴く回数も少ないですし、正直何が凄いのかがもう一つわからない曲だったのですが、実演を見ると、何よりこれを左手一本で演奏しているのが凄いのだということがよくわかりました。ソロパートが貧弱にならないよう鍵盤の端から端まで縦横無尽に音を使い、おかげで腕の跳躍がハンパないので、視覚的にも見応えがあります。両手が健常なピアニストがこればかり演奏したら身体壊しそう。当然ながらこの曲を両手で演奏するのは反則なわけで、右手はやることありません(楽譜を置いていればそれをめくるくらいの役には立ちそうですが)。手持ち無沙汰な右手で何度も髪を掻き上げる仕草をしていたのが印象的でした。今日のソリスト、ロシア人のデニス・コジュヒンは沖澤さんと同い年だそうで、指揮者ならまだまだ若手の年齢でもピアニストだともうバリバリの中堅で、レコーディングもそれなりにあり、日本では山田和樹/スイス・ロマンドとの同曲ディスクで知られていますが、メジャーにはなりきれていない立ち位置。アンコールでは、ヒマな右手にずいぶんフラストレーションが溜まっただろうに、どれだけのテクニックを見せびらかしてくれるのかと期待したら、チャイコフスキーの「子どものアルバム」から「教会にて」という静かな小品だったので拍子抜けしました。リストやショパンではなかったのは、一つのロシア人の矜持でしょうか。
最後は女性合唱が加わっての「夜想曲」。曲を追うごとに打楽器が少なくなっていき、色彩感が落ち着いてきます。この曲を実演で聴くのは、記録を見ると3回目なのですが、過去2回(2006年ハンガリー国立フィル、2012年ロンドン響)の記憶がほぼない。確かにだいぶ苦手な部類というか、かなりの確率で寝てしまう曲なので、果たして今日はというと、やっぱり終曲まで持ちませんでした、すいません。朧げな感覚ながら、女性合唱は神秘的というには粒立ちがありすぎたし、ダイナミックレンジの点でも最後の方はちょっと力尽きている気がしました。ただ一つ、N響の木管はどのパートもソロが素晴らしく、今たいへん充実しているのではないかと思います。あと、前から気になっているチェロ最後列の女優のような美人さんはたいへん目が安らぎます…。
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