フィルハーモニア管/マゼール:入魂のマーラー9番2011/10/01 23:59

2011.10.01 Royal Festival Hall (London)
Lorin Maazel / The Philharmonia Orchestra
1. Mahler: Symphony No. 9

ロンドン的には真夏が戻ってきたのかと思うほどの陽気の中、「マゼールのマーラー・チクルスを厳選して聴きに行く」シリーズ第9弾はそのものズバリ、第9番。一昨日同様、昨シーズンとはヴィオラとチェロを入れ替えた弦楽器の配置に変わっています。今日も譜面台は出ていました。

重そうな足取りでマエストロ・マゼール登場。チェロがいつにも増してデリケートなAの音で入って、弱音器のホルンが続くと、のっけから、これはちょっと今までとは違うぞという気合いと緊張感が漂ってきました。テンポが今にも止まりそうに遅いです。なかなか加速せず、じっくりじっくり〜と攻めます。ティンパニの暴走男、我らがアンディさんも今日は道を外れて暴れることができず、歯がゆさが伝わってきました。かといって禁欲的な演奏という風ではなく、鳴らすところは金管が最大限に咆哮し、ダイナミックレンジの広さは純粋器楽にもかかわらずこのシリーズ中でピカ一でした。時間は第1楽章だけで40分近くかかっていたでしょうか。奇をてらったところの一切ない、真摯にスコアと向き合った切実な演奏に心打たれましたが、聴いてるほうの疲労も相当でした(やってるほうはもっとでしょうが)。

第2楽章は、その前が遅かった分若干速めに聴こえましたが、多分これは至って普通のテンポです。わざとらしいアゴーギグも入れないし、マゼール先生はここでも変態の本性を隠し正攻法で行ってます。今年聴いたドゥダメルやゲルギエフの指揮のほうがよっぽどいびつな演奏でした。第3楽章はそもそも音楽が元々変態的なので、これ見よがしにアチェレランドでオケを追い込んだりしないマゼールのアプローチは、意外にもまともな音楽に聴こえさせる効果がありました。

ようやく到達した終楽章は、冒頭から弦のアンサンブルがあまりに美しい。もちろん鮮麗な美しさではなく、言うなればモノクロームな書道の美。それに色を添えるホルンはケイティ嬢が力強いソロをほぼ完璧に吹き奏でます。この人は見かけによらず凄みのある奏者ですね。ここに来てもオケの鳴りはすさまじく、集中力の賜物でしょう、金管のミス・コケも少なく、トロンボーンがまたベルアップでこれでもかと迫力の力演。最後はまたデリケートな表情に戻って、消え入りそうで消えないギリギリのところを保ったまま、音の微粒子の一つまた一つと空中に溶けていくまで十分に余韻をのばして終りました。終楽章も長くて、結局30分はかかったでしょうか、全体で100分かけての超スロー第9はしかし、非常に心を揺さぶるものでした。これが正統派のマーラーかというとちょっと違うのかもしれませんが、老境のマエストロ・マゼールがあらためてスコアと対峙し、達した境地なのでしょう。

実は今日のチケットは、買ったころに金欠だったこともあって最初はコーラス席にしていたんですが、その後、別の演奏会チケットをリターンした際のヴァウチャーを使ってストール真ん中の席にアップグレードしました。個人的にはこのシリーズで一番のヒットでしたので、アップグレードしたのは大正解でした。


開演前のフィオナ嬢(岩渕さんの左)。案の定、演奏中はコンマスが座るとすっぽりと隠れてしまい、よく見えませんでした。(涙)


ケイティ嬢が真っ先に指揮者に立たせられた場面は一瞬だったので写真撮りそこねました。充実した笑顔がステキですね。


お疲れのマエストロ、最後にようやく微笑がこぼれていました。

ところで余談ですが、マーラーの交響曲で人気投票をすると、いつどこでやっても1位は第9番になるという話を以前どこかで聞きました。確かに、例えばmixiのマーラーコミュニティの人気投票でも9がダントツ1位、後は5-2-6-3と続きます。演奏会のプログラムに上がるのは1番が圧倒的に多いように感じるんですが、けっこう人気ないんですねえ。しかし、素朴な疑問ですが、第9がダントツ一番人気というのは日本だけの現象なんでしょうか?例えばイギリス、ドイツ、アメリカで各々同様の投票をやったらどんな順位になるんですかねえ。ネットで調べてもそういうものの結果は見つけられませんでした。どなたかご存知の方、教えてくださいまし。

コメント

_ つるびねった ― 2011/10/24 02:20

フィオナちゃん2列目にさがっちゃいましたよね! マスコットなのに。ホルンの女の人はとっても上手かったですね。正式なプリンシパルなのかしら。
それはともかく、この日の演奏はとっても良かったと思います。マゼールさんらしさが出ていたように思えて、マゼールさんのサイクルでは、わたしにとって第5番と双璧でした。
あっそうそう、わたしが見たサイトでは人気投票、9番と2番が人気でしたよ。わたしはまだ、9番が好きとは言いたくありません。あれが好きになるというのはなんだかある結界を超えちゃうみたいで。。。

_ Miklos ― 2011/10/27 07:58

すいません、コメントしたつもりが忘れていました。マゼール先生のマーラーチクルスも、もう何だか遠い彼方のできごとのような…。最近バルトークばかりなので、記憶が薄れています。マーラーのシンフォニー人気投票は、英語のもありましたか?9番は私も一番好きとは言いがたいんですが、易しくて複雑、穏やかで激しく、優しくて厳しく、いつも二律背反なものを背負っていて、いつ聴いても飽きない曲ではあります。

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_ miu'z journal *2 -ロンドン音楽会日記- - 2011/10/17 04:25

01.10.2011 @royal festival hall

mahler: symphony no. 9

lorin maazel / po

聴きに行く予定ではなかったのでチケットは買ってなかったんです。マゼールさんのマーラー・サイクル、興味はあるけど、交響曲第9番は一昨年、同じオーケストラで聴いていたので。そのときの感想は、これがマゼールさんのやりたかった完成型なんだ、と。マゼールさんのマーラーが完璧に表現された感じ。なので多分今回も同じように思うでしょう。だったら、わざわざ聴きに行かなくてもいいかな、と。でも、なんだかせっかくの機会を逃すのも惜しい。やっぱり、マ...