今だからこそ「祈り」の音楽:読響/カンブルラン/金川真弓(vn)2024/04/05 23:59



2024.04.05 サントリーホール (東京)
Sylvain Cambreling / 読売日本交響楽団
金川真弓 (vn-2)
1. マルティヌー: リディツェへの追悼
2. バルトーク: ヴァイオリン協奏曲第2番
3. メシアン: キリストの昇天

今シーズンの読響でカンブルランが来るのはこの日だけのようなので、何はともあれ買ったチケットです。バルトーク以外は馴染みがなかったものの、カンブルランらしい東欧とフランスを取り混ぜたプチ玄人好みのプログラム。客入りはちょっと空席が目立つ感じでした。

1曲目はナチスドイツから逃れて米国に亡命したマルティヌーが、ドイツ軍が起こしたチェコ(ボヘミア)の小村リディツェの虐殺事件を題材に書いた小曲で、タイトルからして初めて聴く曲です。亡命チェコ政府に将校を暗殺されたことに激怒したヒトラーが、犯人を匿った(とされた)リディツェの掃討を命じ、男性200人は銃殺、女性と子供300人は強制収容所送りとなって、村が壊滅したという酷い話です。この時期、あえてこの曲をプログラムに乗せるのはいろいろと含みがあるでしょう。重苦しく始まり、途中でベートーヴェンの「運命の動機」が鳴り響いたりもしますが、悲痛な音を続けるわけではなく、どちらかというと祈りと癒しのような音楽でした。

バルトークのコンチェルトは最も頻繁に聴きに行く曲の一つで、前回は2022年の都響でした。金川真弓さんは1994年生まれの米国籍、現在はベルリン在住の若手ヴァイオリニストで、チラシで時々名前が目に入りますが、演奏は初めて聴きます。この曲は奏者によってガラリと表情が違ったりして聴き比べが非常に楽しいのですが、金川さんはゆっくりとしたテンポで非常に端正に弾くスタイル。音色は終始綺麗で澄んでいて、あえて荒っぽくワイルドに弾きたがる人も多い中で、先生の模範のような演奏でした。カンブルランも小細工なしでソリストにぴったり合わせてきます。過去に聴いた中では、ジェームズ・エーネスが近いスタイルでしょうか。民族色などあえて考えずにスコアと真摯に向き合うことで、この曲に内在する自然の力強さが逆に浮き彫りになってくるのが面白く、真の名曲だとあらためて思いました。

メインの「キリストの昇天」は、メシアン初期の代表作だけあって有名ですが、メシアンはあまり自分のカバー範囲ではないので、ほぼ初めて聴く曲でした。メシアンが独自に見出した「移調の限られた旋法」に基づいて作られており、いわゆる現代音楽とは一線を画する独特の音響感があります。フルの3管編成のオケながら、全員で演奏する時間は極めて短い、コスパの悪い曲。第1楽章の金管コラールからして、いちいちアタックがブレる上に音も濁り気味で、ブラスが弱い日本のオケにはなかなか厳しいものがありました。弦楽器は前半暇で、後半やっと出番が増えたかと思いきや、終楽章は弱音器を付けて、一部の奏者のみでミニマルでストイックな音楽に終始します。うーん、奏者には苦行のような曲で、達成感なさそう。しかしよく考えると、神に捧げる音楽に俗世の達成感は関係ないでしょうから、邪念にまみれた自分を恥じ入りました。

ということで、演奏よりも曲自体の感想に終始してしまいましたが、選曲にも、演奏のクオリティにも、さすがカンブルランの演奏会にハズレはありません。次のシーズンはもうちょっと来てくれたら良いなと。