ハンガリーのオペラ/オペレッタ・アリアの夕べ:MAV交響楽団 ― 2024/03/21 23:59
2024.03.21 Béla Bartók National Concert Hall (Budapest)
"Famous Opera Arias and Operettas"
Christoph Campestrini / MÁV Symphony Orchestra
Orsolya Hajnalka Rőser (soprano)
Gergely Boncsér (tenor)
1. エルケル: 歌劇「フニャディ・ラースロー」- 序曲、ようやく静かなひとときが、宮殿の踊り、美しい希望の光
2. コダーイ: 歌劇「ハーリ・ヤーノシュ」- 間奏曲
3. コダーイ: 歌劇「セーケイの紡ぎ部屋」- チタールの山の麓
4. エルケル: 歌劇「ドージャ・ジェルジ」- 兵器の踊り
5. エルケル: 歌劇「バーンク・バーン」- 二羽の小鳥、我が祖国(Hazam, Hazam)
6. ヨハン・シュトラウス2世: 喜歌劇「ジプシー男爵」- 序曲、バリンカイの入場、誰が誓ったの?
7. レハール: ワルツ「金と銀」
8. レハール: 喜歌劇「メリー・ウィドウ」- ヴィリアの歌
9. カールマン: 喜歌劇「伯爵令嬢マリツァ」- ウィーンへ愛をこめて
10. ヨハン・シュトラウス2世: 喜歌劇「こうもり」- チャールダーシュ
11. ヨハン・シュトラウス2世: ポルカ「ハンガリー万歳!」
完全なオフとしては実に11年ぶりに、家族旅行でブダペストに行ってきました。いつものごとく、滞在中のコンサートを各会場一通り調べて、そんなに目玉演奏会が目白押しという週でもなかったので、今回はオーケストラ1つ、オペラ1つに厳選してチケットをゲット。このところの超円安でも、ハンガリーフォリントのレートはまだ上がり方がマシですが、ブダペストの物価そのものが、かつて住んでいたころと比べると3〜5倍になっているので、決してお安い旅行ではなかったのですがそれはまた別の話として。
バルトーク国立コンサートホールは2011年11月の旅行中にブダペスト祝祭管を聴いて以来です。今回も祝祭管を取ろうか迷ったのですが、演目がマタイ受難曲だったので家族イベントとしてはちょっとキツイかなと思い、それよりも日本では絶対に聴けないであろう、ハンガリーご当地オペラアリアを集めたお気楽コンサートのほうを選びました。しかしこの演奏会、当初の発表では指揮がメドヴェツキー・アーダーム、ソプラノはシュメギ・エステル、テナーはコヴァーチハージ・イシュトヴァーンという、かつてオペラ座でよく聴いていた懐かしい人々だったので、たいへん楽しみにしていたのですが、蓋を開けてみるとよりによって3人が3人ともこぞってキャンセル、全然知らない面々に代わっておりました。詐欺だー、と叫びたいところですが、皆さんもう若くないので(メドヴェツキーとシュメギは病欠)、まあ仕方がありません。
MAVとはハンガリー国営鉄道の略称ですが、第二次大戦末期の1945年設立とのことで、ヨーロッパの中ではそれほど老舗という方ではありません。れっきとしたプロのフルオーケストラで、国内中心に地道にシーズンプログラムをこなす一方、対外的には「ブダペスト・コンサート・オーケストラ」を名乗り、1999年の三大テノール公演@東京ドームの伴奏なんかもやっています。過去に1回だけ聴いていて、備忘録を辿ると2005年の創立60周年イヤーでした。その後聴いていないのは、他に聴くべきものが多数ある中で優先順位が低かったから、としか言いようがありません。
余談になりますが、ハンガリーのオーケストラの名称は歴史の中で変化したり、国外用のネームを持っていたり、地方都市にもそれぞれオケがあり、けっこう混沌としていますが、Wikipediaにも網羅的な情報はありません。自分の知る限り、ブダペストを拠点とするプロオケは以下の7つ。順番は、まあ何となく個人的見解の実力順と思ってください。
・ブダペスト祝祭管弦楽団
・ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団(旧:ハンガリー国立交響楽団)
・ハンガリー放送交響楽団(=ブダペスト交響楽団)
・ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団(≒ハンガリー国立歌劇場管弦楽団)
・コンチェルト・ブダペスト(旧:MATAV交響楽団=ハンガリー交響楽団)
・MAV交響楽団(=ブダペスト・コンサート管弦楽団)
・ブダフォキ・ドホナーニ管弦楽団
皆さんお初に見る本日のキャストですが、ソプラノのレーシェル・オルショヤ・ハイナルカ、テナーのボンチェール・ゲルゲイはどちらも40歳代でちょうど最盛期、国立歌劇場の第一線で現在活躍中の歌手のようです。レーシェルはトランシルヴァニア地方のコロジュヴァール(クルージュ・ナポカ)出身ということで、ネイティブハンガリアンかとは思いますが国籍はルーマニアかも。指揮者のクリストフ・カンペストリーニはオーストリア出身の56歳、壮年期のバレンボイムをちょっと連想させるとっちゃん坊やの風貌です。オペラもコンサートも何でも来い、世界中を飛び回る仕事人的な役回りのようで、堺シティオペラ「ルサルカ」の指揮で来日歴もあります。元々の発表キャストだったシュメギ、コヴァーチハージは今やどちらも還暦手前、御大メドヴェツキーに至っては80歳超えですから、出演者の若返りを良しとしつつも、やはり昔懐かしいオールドキャストでしみじみと浸りたかったという思いも残ります…。
オペラアリアの夜などという演奏会は、日本ではまず聴きに行くことはない、全くの守備範囲外です。しかし本日の演目は、前半がエルケル、コダーイの純正ハンガリーオペラ、後半はウィンナ・オペレッタからの選曲ですが、レハールとカールマンはハンガリー出身ですし、シュトラウス2世もハンガリーに縁のある曲ばかりで、終始一貫してハンガリーづくしなのが嬉しいです。客入りは、最上階以外はぼちぼち埋まっている感じで、見たところこれをわざわざ聴きに来る酔狂な観光客は他に見当たらず、客層は地元の年配者ばかりのようでした。
小柄なカンペストリーニが颯爽と登場し、まずは翌日オペラを観に行く予定の「フニャディ・ラースロー」の予習がてら、ちょっと長めの序曲から始まります。オケは約20年前に聴いた印象だったヘタレ感はなく、まあメンバーもだいぶ入れ替わっているでしょうから比較にはならんのでしょうが、弦の音色は多少ざらついていて野暮ったさがあったものの、期待以上にしっかりした欧州のオケです。前半はテナーが中心で、ボンチェールは実年齢よりもずっと若く見え、声も若々しく、ちょっと繊細な弱めの歌唱。しかし徐々に調子を上げて、前半ラスト、ハンガリー人が大好きな「Hazam, hazam」に至ってはオハコなのか実に堂々とした歌いっぷりで、やんやの喝采を受けていました(しかしオペラではお約束のリピートは無し)。コダーイのド民謡オペラ「セーケイの紡ぎ部屋」から登場したレーシェルは、恰幅の良いコロラトゥーラ・ソプラノで、技量も声量も申し分なく、美女とは言えませんが舞台映えするのでファンが多いと思います。前半の箸休め的「ハーリ・ヤーノシュ」間奏曲は、指揮者がハンガリー人ではないので土着の粘りは聴けず、節回しがやけにあっさりしていました。ここは願わくばメドヴェツキーで聴きたかったところ。
後半のウィンナ・オペレッタは、全く明るくない分野なのであまり論評もできませんが、ハンガリーに関係がある曲ばかりを揃えて、歌は原語ではなくハンガリー語バージョン(かつてのエルケル劇場ではそれが一般的でした)を採用し、ぐっとくだけた雰囲気で進行しました。歌手の二人も舞台さながらに踊りながらの歌唱。最後はニューイヤーコンサートでも時々聴くポルカ「ハンガリー万歳」で、歌無しでは終われないぞと思ったら、アンコールはシュトラウス2世「騎士パズマン」から「チャールダーシュ」と、もう1曲デュエット(多分またシュトラウス)のダメ押しで、大いに盛り上がりました。拍手は必ず拍子系になっていくのがブダペスト聴衆のクセですが、咳マナーが悪いのも20年経ってコロナ禍を経験した後でも相変わらず、あちこちで演奏中でも遠慮なくごっほんぐっしゃんやっていたのが、むしろ潔く懐かしかったです。
さらに余談ながら、かつてあったRoszavolgyiミュージックショップの出店がもぬけのカラになっていて、今年1月に閉店になったとのこと。いろいろと他には置いてない掘り出し物があったので物色する気満々だったのですが、残念。ここに限らずブダペストの街中でもCDショップはすでに絶滅危惧種になっていて、ダウンロードとサブスクが基本的に嫌いな私には寂しい世の中になりました(まあ日本でも事情は同じですが・・・)。
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