9年ぶりのラ・フォル・ジュルネはシューマン夫妻のコンチェルト2025/05/05 23:59



2025.05.05 東京国際フォーラム ホールA (東京)
ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2025
Kensho Watanabe / 東京フィルハーモニー交響楽団
小林愛実 (piano-1)
David Kadouch (piano-2)
1. ロベルト・シューマン: ピアノ協奏曲イ短調 op.54
2. クララ・シューマン: ピアノ協奏曲イ短調 op.7

ゴールデンウィークのお祭りとして定着したラ・フォル・ジュルネに行くのも実に9年ぶりです。創始のころはけっこうなビッグネームも招聘していてお値頃感があったのですが、音響の悪いホールに加えて、値上がりしていくチケットと反比例してアーティストは年々小粒になり、毎年一応チェックはするものの、興味をそそられる演奏会がなく足が遠のいていました。今回はたまたま、シューマン夫妻のピアノ協奏曲セットという珍しい企画が目に止まり、久々に行ってみることにしました。

だだっ広いホールAがほぼ満員だったのは、やはり小林愛実さんの人気でしょうか。2021年のショパンコンクールのファイナリスト(結果は4位)で、同じく2位だった幼馴染の反田恭平氏とデキちゃった婚をしたエピソードなどもほぼほぼ興味なく、当日になって、あーそういえば今日のソリストは、と思い出したくらいです。

曲順とかよく把握しておらず、てっきりクララが先だと思い込んでいたので、颯爽と登場した小林愛実さんがオケと弾き始めたのがロベルトのほうだったのでちょっとびっくりしましたが、初めて聴く小林愛実さんを、よく知っているこの曲で聴けるのはラッキーなことだと思い直しました。ピアノの低音部が響かないホールのハンデはあるとは言え、総じた印象としては「のっぺりとしたピアノ」。運指のお手本のような正確さで、抑揚とかニュアンスとかを極力排除した即物的な演奏でした。終始しかめっ面で演奏されていますが、その表情からしてほとんど変化がない。別に顔芸をしろとは言いませんが、奏でる音楽の内容はある程度以上に顔に出ますので、自分の好みとはだいぶ違ったところにいる人でした。他国の人のことはわかりませんが、日本人の国際コンクール優勝者ってだいたいこのタイプのような気がします。まあ自分的には、反田氏共々しばらく封印でよいかなと。

続くクララの協奏曲のほうでは別のソリストが登場し、こちらも初めて聴くフレンチピアニストのカドゥシュ。39歳というアブラが乗り切った年齢であり、先ほどの小林愛実とは対極と言える、ニュアンスとメリハリを効かせたヨーロピアンスタイルで、こっちのほうが断然面白かったです。顔芸をするわけではないのですが、その微妙な表情変化がちゃんと演奏とリンクしていて、懐の深さが感じられました。カドゥシュのピアノでロベルトの協奏曲を聴いてみたかったです。今回の2曲を奏者で分けるなら、逆の方が良かったのではないかと。

なお東フィルはお仕事モードの淡々とした演奏。指揮者のケンショウ・ワタナベも、手堅くこなしたという以上の印象はありませんでした。まだ若く、本格的に売り出すのはこれからと思うので、今後の露出に期待したいところですが、両親日本人で横浜生まれの生粋日本人なのに、米国籍だから漢字を当てないプロモーション方針は、日本ではちょっと足枷になるのではと思います。