ノット/新日本フィル:ミッチー欠場で生まれた一期一会、マーラー「夜の歌」 ― 2024/08/02 23:59
2024.08.02 ミューザ川崎シンフォニーホール (川崎)
フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2024
Jonathan Nott / 新日本フィルハーモニー交響楽団
1. マーラー: 交響曲第7番ホ短調『夜の歌』
ミューザ川崎のホールに来るのは6年前のサマーミューザ以来です。元々はこの演奏会、「道義Forever〜ラスト・サマーミューザ〜」と称し、今年限りで引退を表明した井上道義氏が各オケに客演しお別れ公演を行なっている引退ロードの一環だったのですが、本番3日前になって急性腎盂腎炎のためキャンセルになり、ジョナサン・ノットが代役で振ることがアナウンスされました。個人的には、引退ロードのチケットはこれしか取っていなかったのでミッチー最後の勇姿を是非拝みたかったところですが、誤解を恐れずに言えば、大方の聴衆の不満を払拭する「格上」の代役を充てることができた運営の調整力に敬意を表したいと思います。サマーミューザはホールの主催公演で、ノットはこのホールを本拠地とする東京交響楽団の音楽監督であり話を通しやすかったということと、7/27にサマーミューザのオープニングコンサートを振った後に少し滞在を伸ばしてもらうことで万が一に備えていたのだとは思います。結果的にノットと新日フィルの初顔合わせという話題性も生まれて、平日昼間のコンサートにも関わらず、今年の一番人気で早々に完売していた聴衆は、ほとんどキャンセルすることなく満員御礼の客入りでした。
マーラー大好きの私ですが、7番は聴く頻度が最も低く、のめり込める部分もほとんどないのが正直なところ。陰々滅々で退屈な第1楽章をどう乗り切って、「夜の歌」である第2楽章と第4楽章では繊細にメリハリを効かせ、最後の第5楽章は後腐れなくいかにパッションを全開するか、などというミッチー節を想定した聴きどころのプランを持ってはいたのですが、急場の代役でしかも初対面というハンデがありながらも、ノット指揮下の新日フィルは、パニクることなく、注意深く引き締まった演奏を聴かせてくれました。切れない集中力で金管のソロなどもほぼ完璧に切り抜け、すぐにバテてしまう新日フィルの印象を覆す、最後まで馬力を維持した好演だったと思います。弦楽器はチェロ、コントラバスを左に置く対向配置で、自分の席からは低弦がよく響き、重心の低い音場になっていたのは良かったのですが、その分ヴァイオリン、ヴィオラは馬力不足に感じました。またその分、第2、第4楽章できらきらしたメリハリはうまく出ず、全体的に重い感じが残りました。
終楽章冒頭で、ドイツ式配置のティンパニから叩き出されるアクセントの効いた硬質なソロは迫力満点。見た目ずいぶんと若い奏者でしたが、マレットをこまめに持ち替え、音色豊かなプレイが好感持てました。あとこの曲は、第1楽章冒頭のテナーホルン(一見ワグナーチューバかと思いましたが)や、マンドリン、ギターなど、長大な曲の中で少ししか出番がない奏者が何人もいて、ステージ上でずっと暇そうに待っているのは、お仕事とは言えちょっと気の毒に感じますね。
ノットの指揮は2015年に一度、バルトークやベートーヴェンを聴いていて、その時の印象は、唸り声が多くて、リズムの切れ味は鋭利とは言えず普通で、ちょっと前時代的な「遅れてきた巨匠」タイプの人かなと思っていましたが、概ね同じ印象でした。ただ、今日のようなマーラーの大作のほうが、大らかなフォルムの中でいろいろ仕掛けを打つことができて、持ち味が活きる面白い演奏になるんじゃないかと思いました。新日フィルとは初顔合わせだったのでどうしても慎重に探り合うような空気が一部あり、煽ってもオケが着いてこないような局面もいくつかあったように感じましたが、最後まで何十年来の相棒に対するタクトかのように引っ張り続けたのは、さずが百戦錬磨のベテラン。手兵の東響だともうちょっとスムースに一体感が出たのかもしれませんが、お初ならではの緊張感も、これはこれで良かったのでしょう。
緊張が解けてやっとノリが良くなってきた終楽章、最後のトゥッティが鳴り終わらないうちに、酷いフライング・ブラヴォーがありましたが、まあ、盛り上がっていたからいいか。しかし、演奏中からそわそわとタイミングを図り、絶対に誰よりも先んじてブラヴォーを叫ぶんだというその奇特なモチベーションは、私には理解不能ですが。ともあれ、満場の温かい拍手に包まれて、ノットもオケも一仕事終えた充実感を味わったことと思います。もちろん一般参賀あり。今回は、ミッチー欠場の大穴をその存在感で見事に埋めたノットに感謝ですね。
雛壇を上り奏者を称えるノット氏。
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