今年もウィーン2012/05/04 23:59

今年の5月のバンクホリデーは、昨年と同じく白アスパラを食べにウィーンにまで行ってきました。まずは今年見て珍しかったものを。


ブダペストから通っていたころはほぼ定宿になっていたMercure Secessionに、今回久々に泊まりました。名のごとくSecession(ウィーン分離派会館)の近くにあります。今やってる企画展にからんで、入り口横の亀に支えられた瓶には緑緑としたスイカのオブジェが置かれており、かなり違和感がありました。


ちなみに上は7年前に撮った写真ですが、このときは植木が植えられていました。普段は何も入っていないはずです。

週末の繁華街ケルントナー通りには大道芸人が多く出ていますが、今回目を引いたのは「空中に浮くオジサンたち」。


棒に片手片足でくっついて中に浮いています。どの角度から見ても透明な椅子があったり、ピアノ線でつり上げていたりといった仕掛けがわかりません。女の子からツーショットの写真をひっきりなしにお願いされ、この日随一の人気者でした。


別の場所には宙に腰掛けるオジサンが。


さらには、完全に宙に浮いてしまっているブロンズおじさんもいました。この人も、やっぱり足の下には何もありそうになく、とすると、あと可能性としては、非常に丈夫な素材でできたフレームの上に乗ったり座ったりしているだけなのかなと。


さて、ホテル近くには「パパゲーノ通り」という名前の道があって、この先には何があるんだろうと行ってみると。


モーツァルトではなくベートーヴェンの名前をつけたホテルがありました。


どん詰まりにはアン・デア・ウィーン劇場がありました。「フィデリオ」や「英雄」「運命」「田園」の初演をやった場所で、やはりベートーヴェンとゆかりが深いとはいえ、この劇場を作ったシカネーダーはモーツァルト「魔笛」の台本を手がけ、初演でパパゲーノを歌ったことで有名です。ということで、話は上手くパパゲーノに着陸しました。


おまけ。ホテルのロビーの壁には所狭しとオペラ歌手のサイン入り写真が飾ってありました。元のオーナーの趣味なんでしょうか。



よく見ると下の段にアーダーム・フィッシャーのすごく若い頃の写真が。髪ふさふさ〜。何度もここに泊まりながら、今まで気付かなかったなあ。

とりとめがなくすいません。次回に続く。

ウィーンの白アスパラ 20122012/05/05 23:59

ウィーン旅行記の続き。昨年同様、この時期ウィーンに来た最大の目的はシュパーゲル(白アスパラガス)を食べることです。日本に帰ったらまず食べることはないだろうから、毎回「今年が最後かも」と言いつつ旅に出ていますが、なんだかんだで今年も食べてます…。



まず最初はAugustinerkeller、アルベルティーナ美術館の下にあります。夏は外の路上にもテーブルが出ますが、セラーの中のほうがよい雰囲気です。


ハムを添えた上品な一皿。ホイップして非常にフォーミーなオランデーズソースが別に添えてありました。ゆで加減はシャッキリしてOK、ただちょっと細めかな。



去年も来たFiglmüllerは、相変わらずいつも人が並んでいる人気店。ここではザンダー(カワスズキ、pike perch、ハンガリー語ではfogas)のグリルを添えてみました。オランデーズソースがこってりとして、アスパラが太かった。やはり白アスパラは太モノのほうが味が良いです。


このお店の名物でお客のほとんどが注文するのが、皿からはみ出るウィンナーシュニッツェル。ここのは仔牛ではなくポークですが、これだけ数がでるのなら、いたしかたないでしょう。皿からはみ出ると言っても、かなり薄く叩きのばしていますし、わざとはみ出るようにそもそも皿が小さめになってます。うちの娘でもペロリと食べられる量です。



歩いていてふと目に止まったので今回初めて入ってみたのがZum Weissen Rauchfangkehrer。「白い煙突掃除屋さん」という意味で、名前の通りの看板が出ています。


店内は鹿の角が飾ってあり、クラシックな雰囲気。


窓辺に飾ってある花もお洒落です。


お店はちょっと高めです。前菜で出てきた白アスパラのマリネ、春巻き添え。


シュパーゲルのオランデーズソースは太めのものが6本も。見た目も奇麗で、上品な味のソースでした。


シュパーゲルのリゾットにもふんだんに白アスパラが入っていて、上からコンソメゼリーのシートが被せてあったりして、贅沢〜。これは他の店ではなかなか巡り会えない一皿でした。



続いて、楽友協会からの帰りに軽く食べたのは、Café Museum。ここにもこの季節はシュパーゲルがあります。カフェなのでそれほどこだわりがあるわけではなく、まあ普通でした。



最後は、ホテルにグラスワインのバウチャーがあったので行ってみたZwölf-Apostelkeller。古いタイプの地下セラーで、夜にはジプシー楽団の生演奏が入る観光客向けのお店でした。ここは残念ながら、シュパーゲルはスープとマリネのサラダしかありませんでした。


ただしここのシュニッツェルはオーセンティックに仔牛なので好感度大。ポークのシュニッツェルもあったので両方頼んで食べ比べてみたら、あたり前ですがやっぱり仔牛は牛肉の味、ポークとは全然違いますね。ポークに食べ慣れていると本当の味を忘れていた気がします。

演奏会レビューを消化するのにヒーヒー言ってますが、ウィーン旅行記もまだちょっと続く予定です。

リンツ・ブルックナー管/D.R.デイヴィス@ウィーン楽友協会2012/05/05 23:59


2012.05.05 Musikverein, Grosser Saal (Vienna)
Dennis Russell Davies / Bruckner Orchester Linz
1. Mozart: Maurerische Trauermusik, KV 477
2. R. Strauss: Also sprach Zarathustra, Op. 30
3. Haydn: Symphony No. 86 in D major

バンクホリデー休暇のウィーン小旅行中に何か演奏会はないかと探したところ、オペラ座はすでに席なしだったけど、楽友協会で「ツァラ」を発見。デニス・ラッセル・デイヴィスとリンツ・ブルックナー管はまだ聴いたことがないし、チケットも安めだったのでこれに決定。聴衆はほとんど観光客という感じで、ゴールデンウィークということもあってか日本人も多数来ていました。


楽友協会大ホールのきらびやかさはやっぱり別格で、ここにまた来れた喜びも相まって、思わずため息が出ます。ただ、ウィーンの聴衆マナーは相変わらずで、演奏中の咳がうるさいこと。演奏中にバシャバシャとシャッター切る人もたくさんいましたが、極めつけは音楽が始まってもまだ高々とiPadを担ぎ上げ、内蔵カメラで写真を撮ってたヤツ。羞恥心はないのだろうか。もし自分が後ろの席だったらブチキレてますなー。

写真で見たデイヴィスはエッシェンバッハそっくりの風貌ですが、眼鏡をかけた実物はもっと温和な雰囲気でした。1曲目の「フリーメイソンのための葬送音楽」は非常にソフトなタッチの弦で開始し、ちょっとピリオド系が入った軽いビブラートでなかなか統率の取れた合奏を聴かせました。そのまま切れ目なく「ツァラトゥストラかく語りき」に突入。トランペットは一昨年のLSOのように豪快に外すことなく持ちこたえていましたが、ティンパニは派手な動作にしてはロールとシングルの繋ぎがどうもぎこちない。ここのホールのオルガンを聴くのは初めての気がするので、イントロはまあまあ感動的でした。その後はちょっと流れの悪い展開で、ソフトタッチなのはいいけれど、どうにもドライブ感がありません。普段ブルックナーを得意とするオケにしては、管楽器と低弦はパワー不足だなあと思いました。前半の最後、冒頭のド・ソ・ドをフル編成で総奏してブレイクする箇所で、指揮者がちょっと長めのパウゼを入れたので、今日の客ならここで拍手が起こらないかとヒヤヒヤしましたが、幸いそんなことはなく速やかに後半に突入。後半の鬼門、トランペットのオクターヴ跳躍は無難に切り抜けていました。と思ったら、その後のヴァイオリンソロは外しまくりでちょっといただけなかった。コンマスさんがこのレベルでは、オケ全体のレベルも疑われてしまいます。全体的にフォーカスが定まらない演奏で、「ツァラ」をやるにはちょっとオケが迫力不足、ホールの音響とオルガンに何とか助けられたという感じです。

うーむと思いつつ、気を取り直して後半のハイドンへ。これは小気味のよい好演でした。デイヴィスは元々は現代音楽寄りの人だったようですが、ブルックナー全集のほか、ハイドンの交響曲全集というなかなか敢行できる人が少ない仕事も成し遂げていて、面目躍如の本領発揮という感じでした。楽器はモダンですが軽めのビブラートをかけた準ピリオドスタイルの演奏は、昨今ではどこでもそんな感じなので差別化が難しく、個性はよくわからなかったものの、前半のシュトラウスよりはずっとハマっていました。アンコールではネタがなかったのか、終楽章の後半部分をもう一度演奏しました。しかし、このコンビがもしロンドンにやってきても、あえて再び聴きに行くことは、多分ないかも。


ウィーンのナッシュマルクト2012/05/06 23:59

ウィーン旅行記の続き。

ブダペスト在住のころ、セセッシオン近くに定宿を選んでいたのは、ひとえにナッシュマルクトで買い出しをするためでした。最終日の朝(だいたい月曜日)はノルトゼーで腹ごしらえし、マーケットで生鮮野菜や魚介を買い出した後、ホテルに戻って車に積み、12時のチェックアウトきっかりに出発する、というのが定番スケジュールでした。


ノルトゼーはドイツ、オーストリアで展開している魚料理のチェーンレストランですが、ナッシュマルクトのお店は鮮魚も売ってます。


巨大ナマズ。いったい誰が買うんでしょうか。


ノルトゼーのある市場の入口あたりは魚屋さんが集中していて、隣りのお店には無骨にアンコウの大きな切り身が置いてありました。ここは魚をその場で裁いてくれます。


その向かいのお店は、昔と変わらぬ素敵な看板。ここは冷凍の魚、貝類、ロブスターが充実してます。


簡単なバーもあって、言えば置いてある牡蠣をその場で開けてくれます。


せっかくなので、真牡蠣とフラット(ブロン)を2個ずつ開けてもらい、よく冷えた白ワインと一緒にいただきました。海のないオーストリアなのに新鮮で、非常に美味〜。


さて、牡蠣に満足したところで、ちょっと奥まで歩いてみましょう。


ナッシュマルクトはそのへんのスーパーよりも値段はちょっと高めですが、野菜も果物も種類が非常に豊富で、ちゃんとした良いものを置いています。ブダペストもわりと野菜、果物は豊富にあったんですが、やっぱり手に入らないものも多々あって、車で買い出しに行ける距離にナッシュマルクトがあって、本当に重宝しました。



この季節は何と言ってもシュパーゲル。太さやグレードによっていろんな値段がつけられています。


シュパーゲルの横にあるモリーユ(アミガサダケ)も、フレッシュなものは春先だけに出てくる貴重な季節の食材。高いんですけどね、見かけたら衝動買いしてしまってました。


日本じゃまずみかけない、コールラビ。ハンガリーで最初に見たときは、何じゃこのモンスター・インクのようなグロい野菜は、と引きましたが、カブとキャベツを足して二で割ったようなちょっと青臭い味わいは、ぬか漬け、鍋、みそ汁の具など、和食との相性も意外にグッド。


このお肉屋さんはすき焼き用薄切り牛肉を売っていて、ブダペスト在住の日本人がこぞって買いにきていました。ブダペストでは韓国・中華食材屋で冷凍の薄切り肉は売っていましたが、普通は肉はブロック売りのみなので、鮮肉の薄切りは貴重でした。我が家はブダペストに引越ししたとき、ミートスライサーを早々に買ったので(今でも現役で使ってます)、わざわざ外で薄切り肉を買うことはありませんでした。


いい感じに脂が乗った骨付きハム。カロリー高そうだけど、めちゃ美味しそう〜。


ここはオリーブオイルやビネガーを専門に量り売りしていたお店。秋にはシュトゥルム(ワインになる前の微発泡葡萄酒、飲みやすいけど酔いが回りやすいので結構危険)が並びます。


乾物屋、とでも言うんでしょうか。干したイチジクやナツメ、ドライトマト、ナッツ類などを売ってます。ドライトマトもブダペストではなかなか買えない食材だったのでここでまとめ買いしていました。


スパイス屋。これだけ並ぶと圧巻です。


かわいらしい焼き物のお店。昔はなかったお店です。


しかし、穴あきチーズには必ずネズミを添えるというヨーロッパ人のセンスには、ついていけません。ネズミ退治に相当苦労した身には、全然笑えない…。

ウィーン編、まだ続く、予定。

クリムト・イヤーのウィーンの美術館2012/05/07 23:59


今年はクリムト生誕150年にあたる記念イヤーなので、ゆかりの地ウィーンでは数多くの特別展が開催されるようです。すでに終ったもの、これから始まるものなどいろいろですが、とりあえず旅行中にやってるものはと探して、まずはミュージアム・クォーターのレオポルド美術館へ。


「Klimt: Up Close and Personal」と題した特別展は、撮影禁止だったので写真は撮れませんでしたが、なかなか貴重なものでした。元々この美術館が所有している「死と生」をX線で分析すると下に若干異なる図案が隠されていたことがわかったので、その復元図であるとか、ウィーン大学の講堂のために書いたが戦争中に火災で焼失してしまった大作天井画「哲学」「医学」「法学」三部作の白黒写真を原寸大に引き延ばしたものが目を引き、圧巻はクリムトが旅行先から愛人のエミーリエ・フレーゲに送ったおびただしい数の絵葉書。エミーリエは自分が書いた手紙は死ぬ前に全て処分したそうなのですが、クリムトからもらった400点に及ぶ絵葉書が遺品から発見され、まとめて公開されるのは今回が初めてだそう。ロンドンからの絵葉書もあり、当時のピカデリー・サーカスの様子がわかります。多数の写真も展示され、クリムトの生涯と人物像に多面的に迫ります。

次は、道を渡って美術史美術館へゴー。すごく久しぶりです。



この美術館が所蔵しているのは主に中世から、せいぜい19世紀までの絵画ですが、ここにはクリムトが若い頃に手がけた装飾画があり、今年は至近距離からそれを鑑賞できるよう足場を組み、特別展(追加料金なし)として公開していました。元々は5月6日で終了する予定でしたが、好評につき、来年1月まで期間が延長されたそうです。


普段はこのくらいの高さにある絵なので、正直、よく見たことはありませんでした。



後の奔放な絵画作品と比べたら相当よそ行き顔で、拡張高い古典風の装いながら、女性のエロチックな雰囲気は、まさにクリムト、という感じです。ちなみに後で気付いたんですが、撮影禁止だったようです、すいません。

これだけでは何なので、常設展のほうも、もちろん一通り歩きました。


ルーベンス「メデューサの頭部」。これに勝るインパクトはなかなかありません。子供の頃、ジャガーバックスの「世界妖怪図鑑」で見たのが最初だと思うのですが、記憶が定かでなし。


フェルメール「絵画芸術の寓意」。以前は小部屋にさりげなく置いてあったと憶えているんですが、角の中部屋に移されて、ちゃんと目玉作品としての取り扱いを受けるようになりました。


美術史美術館はブリューゲルのコレクションも有名で、代表作「バベルの塔」。見たところ、ロデムもロプロスも出てこないようです。


「子供の遊び」はこれぞブリューゲル、という感じで、一つの絵にひたすら大人数が各々事細かに描き込まれています。これを何時間もかけて隅から隅までじっくり鑑賞したら、さぞ面白いでしょうけど、そこまでの余裕はなく。


この「ベツレヘムの嬰児虐殺」は昨年中野京子著「恐い絵」で読んだので、興味ありました。ピーテル・ブリューゲル(父)によるオリジナルの真筆はロンドンのハンプトンコートにあり、これは息子(ピーテル・ブリューゲル(子)と表記される人)による模写ですが、オリジナルは何者かによって子供の死体が犬や壷に、曇り空が青空に塗り変えられてしまったため、父の傑作の本来の姿を後世に伝える貴重な資料となっています。


これも「恐い絵」に取り上げられていた、コレッジョ「ガニュメデスの誘惑」。


同じモチーフをミケランジェロが描いた絵の模写(です、多分)。


異色の画家、アルチンボルドの作品もこの美術館の目玉です。これは連作「四季」の「夏」。


こちらは「冬」。哀愁を誘います。


面白いのは「四大元素」の「水」。海の幸で顔を作るくらい、彼の手にかかれば何でもなかったんでしょう。


ベラスケスの「マルガリータ王女」シリーズ。ここまで来ると、もう身体も頭も疲れてしまってます。


ここは絵画だけでなく、エジプトやギリシャ・ローマの美術品も多数展示しています。上はなんだかよくわからない壁画。


ギリシャ彫刻の首だけが並んで、ライトアップされているのは相当不気味でした。


ここのカフェはゴージャスな内装が人気ですが、日曜日のランチタイムは予約しとかないと、並ぶことすらできないようです。ランチタイムの終る3時に、ちょっと休憩。


懐かしいアイスカフェ。ハンガリーではJegeskaveと言いました。日本のアイスコーヒーとは全く違い、氷とアイスクリームに熱いコーヒーを注いで、ホイップクリームを乗せたものです。歩き疲れてバテバテの娘も、バナナパフェを食べてご満悦。

と、オチはありませんが、6年ぶりの美術史美術館を堪能した我々でした。

ウィーン旅行記2012(終)

LSO/エトヴェシュ/ズナイダー(vn):バービカンの「コーラス席」2012/05/08 23:59


2012.05.08 Barbican Hall (London)
Peter Eötvös / London Symphony Orchestra
London Symphony Chorus
Nikolaj Znaider (Vn-2), Steve Davislim (T-3)
1. Bartók: Music for Strings, Percussion and Celeste
2. Bartók: Violin Concerto No. 2
3. Szymanowski: Symphony No. 3 (‘Song of the Night’)

4/29の演奏会同様、ブーレーズの代役でエトヴェシュ登板です。今日は平日ではありますが、ヴァイオリンコンチェルト目当てに家族揃って出かけました。

1曲目は「弦チェレ」、ロンドンでは初めて聴きます。楽器配置はスコア指定の通りピアノを挟んで弦楽器を左右対称に振り分け、第1楽章は遅めのテンポながらなかなか良い感じで始まったかに思いきや、盛り上がってくるに従い、どうもキレの悪さが目立ってきました。第2楽章では変拍子のリズムがさらにぎこちなく、躍動感がさっぱりありません。いったい何でしょうか、これは。よく考えたらエトヴェシュのバルトークは今回初めて聴くことに気付きました。ペーテルさん、ハンガリー人でありながら、実はバルトークが苦手?あるいは、LSOとのフランス&ベルギーツアーも終わって気が抜けたか、はたまたツアー中にオケメンバーと何かやり合ったか。ともかく、電池の切れた時計の様なバルトークに、だいぶ失望しました。

なお、最初から合唱団がステージに出ていて、弦チェレに合唱?といぶかしく思っていましたら、ただ演奏を聴いていただけの様子でした。全く演奏に関与しない人がステージに上がっているのは、他にあまり記憶にありません。しかし、これぞ世にも珍しい、バービカンの「コーラス席」ですかー。

楽器配置を大幅に変えるため、ここで休憩が入りました。後半はお目当てのヴァイオリン協奏曲第2番。ここでもやはり合唱団がすでにステージ上に座っています。シマノフスキと切れ目なしで演奏するはずはないので、これもまた鑑賞タイムなんでしょう。それにしても勉強熱心、好奇心旺盛な合唱団ですなー。私はただ非番の演奏を聴くためだけにステージに上がって観衆に不必要な姿をさらすのは、プロとしてはどうかと思ってしまいます。

さて前半はリズムが悪かったペーテルさん、後半も出だしのハープから早速テンポが定まらず迷走してます。ほどなく入ってきたズナイダーのヴァイオリンがまた、低音が雑で野暮ったく、ヤクザが啖呵を切るような品のない調子。バルトークが書いた最も素晴らしい旋律の一つであるこの曲の冒頭主題が、無残にも切り刻まれてちょっとムッとしました。ズナイダーはちょうど6年前にブダペストでコルンゴルドの協奏曲を聴いて以来です。そのときは見かけによらず繊細なヴァイオリンを弾く人だと思ったんですが、今日の演奏は音面だけ追っていて自分の音楽として全くこなれていないという印象でした。確かに、さすがは現代の第一人者だけあって途中はっとさせる美しさの箇所もいくつかありましたが、全体を通しての完成度はテツラフに遥か及ばない、と結論せざるを得ません。バックのオケがまた、さっきに輪をかけてぎこちないモタツキぶり。この曲は大好きなので、2年前のLSOも含め何度もライブで聴いていますが、ここまでギクシャクした演奏も初めてです。ヴァイオリン、オケ共に、正直聴いていてどんどん胸がしんどくなってしまう演奏でした。


演奏後、満足げな表情で手を取り合うズナイダーとエトヴェシュ。

すでに心が疲れ果てている中、まだメインの曲を残しています。最後のシマノフスキは合唱とテナー独唱付きの単一楽章交響曲で、全く初めて聴く曲でした。無調風で不協和音バリバリながら、どこか神秘的で原始宗教を思わせる穏やかな雰囲気の曲です。これはリズムがキモじゃない分、バルトークよりも全然良い演奏に聴こえました。前回のLSO同様、音の積み重ね方に作曲家としてのこだわりと巧みさを感じました。まあ、バルトークはあまりに聴き込みすぎているので、どうしても辛めの評価に傾きがちなのはいたしかたないところです。

今日は小学生の娘には楽しめる要素がなく、ちょっと気の毒な選曲でしたかなー。そりゃ、ミュージカルのほうがいい、と言うわいな。それにしてもエトヴェシュ、ハンガリー人指揮者なのにバルトークのリズムが苦手とは、正直がっかりです。来月のフィレンツェ歌劇場、バルトーク・ダブルビル(マンダリン/青ひげ公)も小澤征爾の代役でエトヴェシュが振りますが、何だかとっても不安になってきました。

LSO/ゲルギエフ/カヴァコス(vn):ストラヴィンスキー、開幕2012/05/11 23:59

2012.05.11 Barbican Hall (London)
Valery Gergiev / London Symphony Orchestra
London Symphony Chorus
Maud Millar (S-1), Chloë Treharne (Ms-1)
Allessandro Fisher (T-1), Sandy Martin (T-1)
Oskar Palmbald (Bs-1)
Leonidas Kavakos (Vn-2)
1. Stravinsky: Mass
2. Stravinsky: Violin Concerto in D major
3. Stravinsky: The Firebird – complete ballet

ゲルギエフとLSOが今シーズン取り組むテーマの一つ、ストラヴィンスキーのシリーズが今日から始まります。まず1曲目、初めて聴く「ミサ曲」は、10名のウインド・アンサンブルとコーラスという特異な編成ながら、キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイという基本要素はきっちり押さえた、たいへんコンパクトなミサ曲です。作風区分で言うと新古典主義時代の最後のほうで、伴奏は多少おどけた雰囲気も出てないことはないですが、全般的に端正にハーモニーが整えられた、いたって厳かで真面目な曲でした。

先日と同じくロンドンシンフォニーコーラスは勉強熱心、出番が終わっても「コーラス席」にそのまま座って次の曲を聴いていました。次のヴァイオリン協奏曲もバリバリ新古典主義時代の作品で、けっこうお気に入りの曲なのでよく聴いているんですが、CDはムローヴァのしか持ってなく、唯一実演で聴いたのもムローヴァだったので、他の人が弾くとどうなるのか興味津々でした。去年のプロムスで容貌の変わりぶりに驚いてしまったカヴァコスは、どうも長髪が気に入ったようで、今や無精髭ぼーぼーの完全なヲタクルック。漂う不潔感ではゲルギエフに負けていません(笑)。しかしヴァイオリンとなると話は別、やっぱりこの人は超盤石なテクニックでどんな曲でも余力を持って弾き切ります。特にこういった軽めの曲では、肩の力の入らなさが実にニクらしい。大らかであり男勝りにガツガツ弾くムローヴァとはひと味違った、男の余裕の美学が感じられて面白かったです。


ところでカヴァコスはこのところ3年連続でプロムスで見ていて、ブダペストのころも何度か見ているのですが、容貌の変容が面白いです。上の髪を伸ばしたヲタクルックは昨年のプロムスからです。


一昨年のプロムスではまだ上の写真のような感じだったので、その間で何か心境の変化をもたらすきっかけがあったに違いありません。


さらに昔は上のような南方系丸出しのお顔立ちでした(カヴァコスはギリシャ人です)。

メインの「火の鳥」はゲルギーさんの得意中の得意、これがまた腰を抜かさんばかりの豪演に痺れました。躍動という言葉を忘れてしまったかのような先日のバルトークから一転、終始ヴィジュアルを喚起するダイナミックな演奏。「良いLSO」と「悪いLSO」があるとすれば、今日は全く「良いLSO」が全面に出ていました。デリケートな弦の弱音から強烈な大太鼓のアクセントまで、どのパートも集中力を切らさず最後まで緊張感を持続し、キズなし完璧というわけではなかったものの、是非とも録音していて欲しかった演奏でした(マイクがなかったのでしてないと思いますが)。クライマックスの「魔王カスチェイの凶悪な踊り」では最後にあまりに無茶な加速をして、それに応えるLSOの凄さよ。「火の鳥」は来シーズンのロイヤルバレエのプログラムに入っていますが、このオケと指揮者をこのままそっくりオペラハウスのオケピットに持って行きたい、と思ってしまいました。

かんとくさんのアイドル、チェロのミナ嬢は、入場のときにちらっと姿は見えたものの、後ろのほうだったので演奏中は全く見えず、残念…。理想のポジショニングはなかなか難しいです。

PROMS 2012 ブッキング2012/05/12 10:00


今年は今日の朝9時からブッキング開始でした。例年通りProms Plannerで先にリストアップしておき、サイトに繋がったら一気に購入します。今年は9時6分ごろやっとWaiting Roomに入ることができ、すでに1450人待ち。昨年は820人待ちだったから、今年はちょいと出遅れました。それでも9時40分にはサイトに入れて、ピックアップした9演奏会のチケットをほぼ希望通りにゲットし、53分に無事脱出。ほっ。

PROMSも立見じゃなければけっこう安くなくて、家族で出かける分もあるので、今年は目玉の演奏会がそんなになかったはずなのに、気付けば去年よりもだいぶ多く出費してしまいました。ともあれ、運が良ければ皆様また会場でお会いしましょう。


コンセルトヘボウ管/ヤンソンス:華麗なるシュトラウス2012/05/12 23:59


2012.05.12 Barbican Hall (London)
Mariss Jansons / Royal Concertgebouw Orchestra, Amsterdam
1. R. Strauss: Also sprach Zarathustra
2. R. Strauss: Metamorphosen
3. R. Strauss: Der Rosenkavalier - Suite

先月に次ぎ、RCOチクルス第2弾は首席指揮者ヤンソンスの登場です。客席は盛況な入りで、日本人も多数見かけました。

前回がベートーヴェン1曲のみだったのに対し、今日はオール・リヒャルト・シュトラウスでけっこう軽めのプログラムです。1曲目「ツァラ」は先週ウィーンで聴いたばかりですが、比較するのはかわいそうとは言え、さすがにRCOは上手い。磐石のアンサンブルで手堅く聴かせます。冒頭から小気味のよいテンポですいすいと進んで行き、私の好みとしてはもうちょっと重厚にやってくれてもいいのになと感じてふと思い出したのは、ヤンソンスってどちらかというと軽めの曲でも大真面目に仰々しく響かせる人だったのでは、ということ。ちょっとさらさらとしすぎている気がして少し違和感を感じました。なお、最後のほうに出てくる鐘はチューブラーベルではなく、鉄板に切り込みを入れ、やすりで削って調律したサンダーシートの一種でした。


休憩時間に知人と「今日のヤンソンスは調子が悪いのではないか」というような会話をして、私はクオリティの低さは感じなかったけど、確かに前のヤンソンスとは違う感覚もあって、しかしそれは席が遠いせいだろうと思っていました。次のメタモルフォーゼン、CDはありますがほとんど聴かない曲です。なかなか指揮者が出てこないと思ったら、何とコンマスが弓を振り、指揮者なしで演奏を始めました。少人数の弦楽合奏のみですが、指揮者なしでは絶対厳しそうな複雑な曲です。よく知らない曲なので出来栄えの程はよくわかりませんが、コンマスは自分の演奏よりもアンサンブルの統率に腐心している様子でした。RCOの弦はいつも骨太で密度の濃いサウンドを聴かせてくれるのですが、その秘密は充実したヴィオラパートが寸分の隙間なく中音域を支えていることにあるのだなと感じました。

最後は再びヤンソンスが登場し、「ばらの騎士」組曲。最後のワルツはアンコールでよくやってくれますし、見るからに得意曲。ご機嫌な表情でオケをノリノリにドライブしていました。肩肘張らず気楽に聴ける極上の音楽は、贅沢の極みですね。またオペラのほうも見たくなってきます。ヤンソンス、やっぱり体調悪かったのか、終演後は息が上がって、肩で息をしてしていました。そのせいか、今日はアンコールはなし。後で教えてもらった情報によると、ヤンソンスはやはり風邪で体調不良だったそうで、翌日のマスタークラスはキャンセルしたそうです。妻の知人はキャンセルを知らずに出かけていって無駄足を踏んだそうで、嘆きのメールが飛んできていました…。

LSO室内楽アンサンブル/ゲルギエフ:狐/兵士の物語2012/05/13 23:59

2012.05.13 Barbican Hall (London)
Valery Gergiev / LSO Chamber Ensemble
Alexander Timchenko (T-1), Dmitry Voropaev (T-1)
Andrey Serov (Bs-1), Ilya Bannik (Bs-1)
Simon Callow (Narrator-2)
1. Stravinsky: Renard
2. Stravinsky: The Soldier’s Tale

3日連続、今週4回目のバービカン。今日はLSOの室内楽アンサンブルで曲目も渋かったためか、サークル、バルコニーは閉鎖されていましたが、それでもストールにも空席が目立ちました。

今日の驚きは、すでにROHの人気者となったヴィットリオ・グリゴーロ君が聴きに来ていたことです。LSOとあまり接点がなさそうなので、意外でした。派手な顔立ちの女性、老紳士と連れ立ってE列に座っていましたが、どうも「狐」に出演した歌手の一人がお友達のご様子。休憩後には消えていたので先に帰ったのかと思いきや、終演後、お連れの人と一緒に駐車場で車に乗り込むところを見たので、別室でお友達と盛り上がっていたんでしょうか。

1曲目の「狐」は男声4人とツィンバロンを含む15人の小管弦楽による、一種のバレエ作品。15分くらいの短い曲です。今日は演奏会形式なので踊りは無し。ストーリーは、鶏が狐に襲われて食べられそうになるが、猫と山羊に助けを求めて狐を撃退する、という単純な話です。男声4人は各々登場キャラクターの鶏、狐、猫、山羊に割り当てられており、そういう先入観で見ると、歌手の皆さんの風貌がまさに各々のキャラクターそっくりに見えてきて、可笑しかったです。ほとんど始めて聴いたのですが(それがこの演奏会に来た理由でもあります)、聴きやすくて楽しい曲です。是非バレエでも見てみたいです。


左から鶏、狐、猫、山羊です。特に右端のバンニクは、まさに山羊(笑)。

メインは「兵士の物語」。ストラヴィンスキーの代表作でかなり有名かと思いますが、こちらも実は聴いたことがありませんでした。7名の奏者とナレーターによる、朗読・演劇・バレエを融合した舞台作品、とのことで、様式的にはごった煮ながらも、わかりやすくて極めて魅力的な音楽です。ブレーク無しで1時間の長丁場を全く飽きることなく楽しめました。ストーリーは、兵役から故郷に帰る途中のヴァイオリン弾きジョゼフが悪魔に騙されて楽器と本を交換し、道草を食っている間に故郷の婚約者は別の男と結婚、当てもなく旅に出たジョゼフは病床のお姫様を悪魔から取り返したヴァイオリンで癒し、手に手を取って城から出て行くが、国境を越えたとたんに悪魔の手に落ち地獄行き、というお話(朗読は早くて途中着いていけなかったので、あらすじは後で調べました)。サイモン・キャロウ(映画「アマデウス」でシカネーダー役の人)の熱演もさることながら、LSOのトップ奏者が集った七重奏は、まさに粒が際立った至高のアンサンブル。ヴァイオリンのシモヴィッチはいつものごとく音楽に全く身を委ね、本当に楽しそうに弾いているのが、見ているこちらも幸せな気分になってきます。トランペットのコッブは対照的にクールに澄ました顔で、難しいフレーズも一点のキズなく吹きこなしてました。めちゃめちゃ贅沢な「兵士の物語」だったんではないでしょうか。


ゲルギーさん、いつものように爪楊枝を掴んで繊細なんだか無骨なんだかよくわからない指揮をしていました。今日はさすがに最後の拍手の際も、自分は脇に立って終始奏者を称えていました。


トランペットのフィリップ・コッブを称えるゲルギーさん。


ナレーターのサイモン・キャロウ。味わいの深いおじさんです。