BBCプロムス:マーラー・アカデミー管/シュタイネッカー:温故知新の第9番 ― 2026/09/11 23:59

2026.09.11 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: Mahler’s Ninth with the Mahler Academy Orchestra
Philipp von Steinaecker / Mahler Academy Orchestra
1. Mahler: Symphony No. 9
今年のBBCプロムス、ラストナイト前の最後の公演は、シュタイネッカー指揮のマーラー・アカデミー・オーケストラという、正直言うと初めて名前を聞く人たちのコンサート。マーラー・ユーゲント・オーケストラは聴いたことがありますが、最初はそれと混同していました。いろいろ調べてみると、クラウディオ・アバドらによってイタリアのボルツァーノに設立されたグスタフ・マーラー・アカデミーという研究機関に所属し、マーラーの楽曲に関する学術研究成果を具現化する目的で結成されたプロジェクト・オーケストラとのこと。メンバーはプロ(コンセルトヘボウやベルリンフィルなど超一流の団体からも参加)とアマ(世界中から集まった若手音楽家)の総勢100名ほどの混成です。ですのでメンバーは流動的ですし、技量レベルもレコーディングや演奏会ごとにバラツキは大きいと思われます。
一方で、マーラー・ユーゲント管弦楽団、マーラー室内管弦楽団というより著名なオケもあり、マーラー・アカデミー管弦楽団も含めてこれらは全てアバドが設立に関わっていることがよけいにややこしさを増していると思うのですが、ざっくり言うと、ユーゲントは旧共産圏出身の若手音楽家の育成及び雇用の目的でウィーンに設立されたユースオーケストラ、室内管はユーゲント出身の音楽家が卒業後にも集って音楽を高めるための遊牧民的オケ(ただし力量はハンパない)、という明確な性格の違いがある別団体になります。現在マーラー・アカデミー管の音楽監督兼キュレーターのシュタイネッカーはかつてマーラー室内管のチェロ奏者で、その後アバドのアシスタントなどを務めて指揮者としてのキャリアを重ね、2019年には都響への客演も果たしています。
前置きが長くなりましたが、自分が不勉強なだけで、このシュタイネッカーとマーラー・アカデミー管によるマーラー交響曲の「ピリオド演奏」は好評を集める一方で賛否両論飛び交う議論にもなっているそうです。マーラーが作曲した当時の楽器方式と演奏様式を追求し、その後の楽器の進歩と様々なスタイル変遷の色眼鏡をいったん剥ぎ取って、作曲者がスコアに込めた楽曲の本来の姿を蘇らせるというプロジェクトの意義は理解します。しかし、バッハやモーツァルトと違ってマーラーは20世紀まで活躍した人であり、その弟子筋の巨匠たち、第9番の初演を指揮したワルターは1962年まで生き、クレンペラーも1973年まで生きて、彼らが残した数多くのステレオ録音は今日でも広く愛聴されているのがクラシック音楽の世界なので、歴史上の人物ではありながら現在と地続きで繋がっている感覚はあります。楽器や演奏スタイルがそんなに本質的に違うものなのか、ピリオド系という仮面を被っているが実は単なる演奏解釈の違いだけの場合とどこまで区別ができるのか、という疑念が、聴く前からいっぱい頭に浮かびます。

ロイヤル・アルバート・ホールのステージは翌日のラストナイト仕様ですでに張り出しが組み立てられており、その分立ち見のスペースが少し後退させられていますが、デッドスペースを作らないで、この演奏会が終わってからの組み立てではダメだったんでしょうかね?ステージを観察すると、ティンパニはペダル式ではないものの、今でも珍しくないシングルスクリューのモダンなチューニング方式で、そしてこれはこのホールの事情だったかもしれませんが、ステージの最後段中央に位置するコントラバスの上手にファースト・ティンパニ、下手にセカンド・ティンパニを置く対向配置。とは言ってもこの曲のセカンドは第1楽章の一部しか出番がないため、第2楽章以降はグロッケンシュピールにシフトしていましたが。大太鼓は今との比較だと小ぶりで、櫓に置くロールしにくいタイプ。管楽器の構造には明るくないのですが、金管は自分の位置からそもそもよく見えず、チューバが小ぶりだったくらいしか違いがわかりませんでした。木管は全て木製の古いタイプ。2台のハープも現代のグランドハープよりはだいぶ小型でした。
マーラーの時代のピリオド系演奏って、ノンビブラートだけどポルタメントはかけまくる感じかな、と聴く前は冗談半分に想像していたら、本当にそうだったので驚きました。弦楽器は今と見た目こそ同じですが、スチールではなくガット弦を張っているため柔らかく、ちょっと弱々しい感じの響きになります。当時の演奏スタイルの影響下にあると言われるワルター/ウィーンフィルの戦前の歴史的録音でもポルタメントが多用されていますが、それよりももっとズリズリと指を滑らせていて、今まで聴いたことがない新鮮さがありました。慣れるまではちょっと気持ち悪い。
シュタイネッカーは目つきの鋭いシュッとしたおじさんで、譜面台を置かず全て暗譜で指揮します。この曲を暗譜で指揮する人を他で見たことがありませんが、研究者だから隅々まで全て頭に入っている、ということでしょうか。いかにも感情を煽るような指揮ではなく、冷静にテンポや音量の指示を細かく出しているのですが、動作が激しく、結果的に熱量は伝わって来ます。オケのほうも、元々技量のある人たちだし、楽団としてのレパートリーが少ないから1曲に集中して取り組む時間はたぶん十分にあり、演奏は非常に手慣れていて傷がほとんどありません。マーラー演奏の鬼門である金管も、常に柔らかに音を出し、決して外さないのは立派です。よく聴くとコンサートマスター含めて個々の音色は艶やか、煌びやかという形容詞は決して付かない、ちょっとざらついた素朴な音でしたが、合奏になったときに突然見通しが良くなり、どの楽器がどういう音を出しているか、解像度よく聴き取れるようになります。これを「透明感」というなら、まさにそんな感じの演奏でした。ただしティンパニはちょっとドタバタしすぎていただけませんでした。
サクサク進むかと思いきや止まりそうなほどテンポが落ちたりというメリハリある第1楽章が静かに終わり、入念にチューニングし直してから始まった第2楽章は、アゴーギグたっぷりの田舎風ダンスを強調した演奏で、学究的とは言っても感情のないのっぺりとした演奏では全くなく、逆に今どき珍しい極端な箇所も多々あって、全体的にユニークさは予想以上。第3楽章もわざとらしい狂喜乱舞の揺さぶりはなくとも、元々のスコアがそのまま等身大に具現化されるだけでここまで激しい音楽になるということがよくわかりました。終楽章がその真骨頂で、聴きなれたアダージョも厚化粧を落とした後の透き通る響きが非常に新鮮でした。今までの自分の趣味だと、弦楽合奏が主役のこの楽章では重低音がオルガンのように響く演奏がカッコいいと思っていたので、ちょっと目が覚めた感がしました。最後はいっそう慎重に、コントラバスが消え、第1ヴァイオリンが消え、指示通り「死に絶えるように」音が下がっていく中、ひどいフライングの「ブラヴィ〜〜!」が最良の瞬間を見事にぶち壊してくれました。この阿呆を生涯出禁にして欲しいです。
BBCプロムス:ベルリンフィル/ペトレンコ:生まれ変わった「チャイ4」 ― 2026/09/02 23:59
2026.09.02 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: Berlin Philharmonic Plays Elgar and Tchaikovsky
Kirill Petrenko / Berliner Philharmoniker
1. Elgar: ‘Enigma’ Variations
2. Tchaikovsky: Symphony No. 4 in F minor
BBCプロムスにはほぼ隔年で、ウィーンフィルと交互に登場するベルリンフィル。ペトレンコの振るベルリンフィルは今年5月にウィーンで聴いたばかりですが、手垢にまみれたカラヤン時代のオハコであるチャイコフスキーなんかをメインに持ってくるのは、尖ったペトレンコのイメージに合わず、らしくない「普通の」プログラムに見えました。
1曲目のエルガー「エニグマ変奏曲」は、たまたまですがこのところ連続して聴くことになり、ここ3ヶ月の間で3回目です。イギリス人にとってはもちろん定番の人気曲ですが、ベルリンフィルのエルガーは自分のイメージがなく、あえて今回のツアー用のサービスで組み入れたレアものではないかと思いましたが、よく考えたら前任のラトルはイギリス人だからエルガーとか絶対取り上げてるよな、とも思い直しました(真相は知りません)。
演奏は、質実剛健なドイツ風、穏健素朴なイギリス田舎風といった主張は全く感じられない無国籍メトロポリタンの丁寧な演奏でした。ベルリンフィルは奏者それぞれがもちろん高レベルで、繊細から爆発まで自由自在、容赦ない高速パッセージも難なく弾き切って、さすが!上手い!という賞賛しか思いつきません。省略されることも多いオルガンが最後ガッツリ入っていましたが、それを上回るオケの馬力は驚嘆です。個人的には、ティンパニが見た目若そうですがめちゃめちゃ上手くて感服しました。音に芯があってブレないし、強打弱打どちらも音がストレートに突き抜けて、バチを小まめに持ち替えてロールも完璧で、どこを取っても素晴らしいプレイでした。
メイン、ベルリンフィルのチャイコフスキーというと私の世代ではどうしてもカラヤンの亡霊が付きまとって離れないのですが、亡くなってもう40年近く経つので直接その指揮に触れた団員も今はほとんどいないと思われますし、カラヤン以後にそのスタイルを引き継いだ弟子が音楽監督になったことはなく、むしろその伝統から離れて独自の路線を築こうとする人たちばかりだったと思いますので、今なお亡霊に囚われているのは古いレコード・CDを熱心に聴き続けるクラヲタ老人だけなんでしょうね。
ロシア出身のペトレンコのチャイコフスキーは予想通り、郷愁を誘うような感傷的なものではなかったのですが、何も気を衒ったことはしてないものの、あまり他で聴いたことがない個性的な演奏でした。指揮棒によって外からビートを与えるのではなく、常に内から湧き出てくるリズムだけでドライブしている感じで、だからリズムは頻繁にうねるのですがぎこちなさはなく、流れは極めてナチュラル。とはいえ、後半の2楽章は内なるリズム自体がハッキリとしたビートで表出して、さらに高速化し、音圧も極限まで開放されて行きます。これを余すところなく実現するオケのハイスペックは今更言うまでもなく、ティンパニも相変わらず印象に残る良い爪痕を残しました。やはりベルリンフィルはハズレなし、世界最高峰は揺るぎありません。

BBCプロムス:オスロフィル/グラジニーテ=ティーラ/コパチンスカヤ(vn) ― 2026/08/29 23:59
2026.08.29 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: Stravinsky and Prokofiev with the Oslo Philharmonic
Mirga Gražinytė-Tyla / Oslo Philharmonic
Patricia Kopatchinskaja (violin-2)
1. Øyvind Torvund: Symphonic Poem No. 1, ‘Forest Morning’
2. Stravinsky: Violin Concerto
3. Prokofiev: Romeo and Juliet - excerpts
1) Montagues and Capulets
2) Juliet as a Young Girl
3) Masks
4) Romeo and Juliet (Balcony Scene)
5) Death of Tybalt
6) Friar Laurence
7) Dance of the Five Couples
8) Dance of the Girls with Lilies
9) Juliet's Funeral
10) Death of Juliet
オスロフィルは2014年の東芝グランドコンサート(指揮者は現在ロイヤルフィルの音楽監督ヴァシリー・ペトレンコ)で聴いて以来です。本日の指揮者はリトアニア出身のミルガ・グラジニーテ=ティーラ。初めて見る人ですが、最近は女性の指揮者が本当に増えましたね。山田和樹の前任でバーミンガム市交響楽団の音楽監督を勤めていましたが、現在は特に常任ポストには就いておらず、家族と共にザルツブルク在住のようです。
前日の28日にノルウェー国王のハーラル5世が89歳で崩御されたため、コンサートに先立ち、急遽ノルウェー国歌の演奏と黙祷が行われました。続いて、ノルウェーの作曲家兼ギタリストのエイヴィン・トルヴンによる2019年作曲の交響詩第1番「森の朝」。作曲家の名前も、もちろん曲も初めて聴きますが、電子音のサウンドエフェクトと生演奏の音が境目なく混じり合う不思議な音楽でした。両者が溶け合ってどっちがどっちかわからなくなるのをあえて狙っている感じです。私には「森の朝」というよりも、海辺や水の底を想起させる音楽に思えました。いずれにせよヒーリング系の耳に優しい音楽です。トルヴンはクラシック現代音楽の枠に収まらず、ロック、フォーク、ゲーム音楽なども幅広く手がけてジャンル融合的な作風が特徴のことで、確かにそんな感じの仕上がりでしたが、手法としては劇伴音楽ではすでに腐るほどやられている印象があり、既視感があります。演奏後、サイドストール後方で聴いていたトルヴン本人が立たされ、スタンディングオベーション。
2曲目は本日のお目当て、このところお気に入りのパトリシア・コパチンスカヤ。とにかく普通ではいられないこの人は、今日ももちろん裸足で、東欧系の民族衣装をモチーフにしたヘンなドレスで登場。ストラヴィンスキーのヴァイオリンコンチェルトは好きな曲な割にはあまり実演に接する機会がなく、過去に聴けたのは2010年のムローヴァ、2012年のカヴァコスの2回ぽっきり。いかにもコパチンスカヤが好きそうな曲だし、実際にロンドンフィルと共演したCDもあるのでオハコだと思いましたが、今日の落とし穴はこのスカスカで巨大なホールだったかもしれません。この人のヴァイオリンはいろいろトリッキーな技を仕掛けるから一見乱暴なスタイルに見えますが、その実は極めて繊細に作り込んだ演奏を聴かせる人です。時々声を出したりもしますが、これだけ距離があると音も声も届きにくく、このホールには最も向かない類のヴァイオリニストであると思いました。
オケは擬古典風の曲調を反映して端正な透明感で、少人数ながらよく響きよく通るバランスで絶妙に鳴らし、指揮者の統率力はなかなか素晴らしいと思いました。一方のコパチンスカヤは、指揮者を見てはいるけど全部自分のタイミングで入って行くので、特に頭がビシッと決まらないもどかしさがありました。協奏曲でありながら、ヴァイオリンはオケよりも聴衆と対話しているようで、オケは淡々と受け流して自分の仕事に集中し、相互のシナジーが希薄な演奏だったかと。楽章の合間合間に拍手が入ったのも致し方なしという気がします。
元々普通のアンコールはやらないコパチンスカヤですが、今日は「ストラヴィンスキーがこの曲のカデンツァを書かなかったので、自分が作ってみました」と言って、確かにストラヴィンスキーは多分書かないであろうモダンな自作品を披露。途中でコンミスのサラ・クリスティアンを巻き込んだデュエットになっていましたが、おそらく本気でコンサートのレパートリーにするつもりはないんでしょう。
後半はコンミスが交代していましたがこちらも女性。「ロメオとジュリエット」は王道のセレクションで、第1組曲の5〜7曲と、第2組曲の1〜4及び6曲の計8曲を概ねストーリーに沿って並び替え、さらにバレエ版の最後の2曲を加えた全10曲という構成です。最後の場面を通しでやりたい場合は組曲から選ぶのは難しいので、理にかなった選曲です。個人的には「ロメオとジュリエット」を演奏会よりもバレエで観る(聴く)ことが多かったので、序曲(導入部)から始まらないと気分が出ないなあと思う一方で、組曲用にツギハギで作られた「モンタギュー家とキャプレット家」と「ティボルトの死」は、やっぱりカッコ良くできていて演奏会映えするのは間違いない、ということも再認識しました。
グラジニーテ=ティーラは、アー写よりはずいぶんコワモテのお顔だちですが(失礼)、ガシガシと男勝りに棒を振るタイプではなく、その佇まいとしなやかな腕がいかにも女性らしい指揮者です。しかし出てくる音楽はしっかりとダイナミックでドラマチック。これを「男らしい」と言うと昨今は怒られそうですが、弦楽・金管が核となって木管・打楽器が色を添えるというシンプルな役割分担が明確にあり、見通しの良い音作りです。「ティボルトの死」ではかなり無茶なアクセルをかけたりもしますが、オスロフィルはそれに応えて着いていくだけの機動力があります。聴きごたえのある「ロメジュリ」ダイジェストでした。ただし、テンポの設定などダンサーのことは念頭にないのが明らかで(コンサートだとそういう演奏が多い)、バレエの伴奏向きではないなあと思いました。
アンコールは再びトルヴンの小曲「星月夜(Starry Night)」を披露。「ロメジュリ」には必要ないコンガとシンセサイザーが後半も舞台に出しっぱなしだったので、まあそう来るだろうとは思いました。指揮者がマイクを取った説明では、なんでも管弦楽用の編曲は5日前にできたばかりだったとのこと。ノルウェーで始まり、途中ロシアを挟みながらも、最後はまたノルウェーで終わるという構成に矜持を感じました。
BBCプロムス:華麗なるMET管/ネゼ=セガンのゴージャスなシュトラウス ― 2026/08/26 23:59

2026.08.26 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: The Met Orchestra Plays Strauss
Yannick Nézet-Séguin / The MET Orchestra
Elza van den Heever (soprano-2)
Benjamin Bowman (solo violin-3)
1. Richard Strauss: Der Rosenkavalier - suite (arr. attrib. A. Rodziński)
2. Richard Strauss: Salome - final scene
3. Richard Strauss: Ein Heldenleben
ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(通称MET)のオーケストラは、コンサート活動をするときは「The Met Orchestra」を名乗っています。本場のMETにまだ入ったことがないので(その向かいのエイヴリー・フィッシャー・ホールは行きましたが)、当然オケも生では初めて聴きます。有名歌劇場と言えども根付きのオケが上手いかというと経験上疑問に思う時もあり、実際このMETオケもかつては出演する超一流の歌手と比してあまりに実力不足という悪評があったのを、ジェームズ・レヴァインがテコ入れして鍛え上げたのだそうで、お手並み拝見です(←何かエラそう)。
ちょっと早めに会場に着き、疲れたので座って待ってようと思ってラウシング・サークルに入ろうとしたら、案内のおっちゃんが「早いもの順で、無料でアップグレードしてあげるよ」といってストールの良席のチケットを本当にタダでくれました。でも何で、って聞いたら、売れ行きが悪かったわけではないが、下階の席が空いたのでそれを埋めるためと言ってました。これまでBBCプロムスは20回以上聴きにきていますが、こんなサービスは初めてです。TV中継のある日だったので、空席を映したくない事情があったのかもしれませんが、いずれにしろラッキー。
今年のウィーンフィル・ニューイヤーコンサートを任されたカナダ人の人気指揮者、ヤニック・ネゼ=セガンは、以前私がロンドンに住んでいたころロンドンフィルの首席客演指揮者だったので名前はもちろん知っていましたが、なぜか当時は聴く機会がありませんでした。新進の若手と見ていて(と言ってもハーディング、ガードナー、ネルソンス等と同世代ですが)自分の中での優先度が低かったのかもしれませんが、その頃ちょうどフィラデルフィア管の音楽監督に就任し、その後すぐにMETの音楽監督に抜擢されて、今やトップランナーの一人です。満場の歓声の中登場したネゼ=セガンは金髪にピアス、目がチカチカするラメ入りジャケットを羽織り、爽やかな笑顔も相まって、いかにもゴージャスなアメリカンのキャラになっちゃってます。今回がプロムスデビュー、昨日ニューヨークから移動してきたばかりというMETオケは、メンバーの人種が様々で、これまたアメリカらしい多様性を体現していました。楽器は向かって左にチェロ、コントラバスがくる対向配置ですが、ちょっと変わっていたのが、打楽器は最後列の最上段に位置していながら、ティンパニは右の一段下に置かれて、その真後ろにトロンボーンとチューバが座るという、あまり見たことがない配置でした。
本日のプログラムはオール・リヒャルト・シュトラウスですが、1曲目はMETにとってオハコ中のオハコであろう「ばらの騎士」。よく使われるロジンスキの編曲による組曲版です。冒頭のホルンからもう参りましたという充実した音に、ツカミはオッケー。全体的にオケの音が高音成分多めで明るくきらびやかに響き、まさに「華麗なるメト」という月並みな表現が真っ先に浮かんでくる、いかにもゴージャスなオペラの音でした。オケは移動の疲れも見せず、金管も一切コケることなく、終始集中力の高いしっかりとした演奏を聴かせてくれました。ネゼ=セガンのタクトもオペラのダイジェストを意識した誇張したドラマ仕立てで、1曲目から大盛り上がりです。しかし、プロムスは普段のクラシックの演奏会とは客層がやはりちょっと違うのか、余韻を待たずすぐに拍手がやってきますね。
続く「サロメ」の最終シーンでタイトルロールを歌うのは、南アフリカ出身のエルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー。キャリアのスタートはメゾソプラノだったのが後にソプラノに転向したとのことで、苦労した時期も長かったそうです。フクシア色と言うんですか、赤紫のインパクトあるドレスで登場したヒーヴァーは、1979年生まれの今年47歳ですから脂が乗り切ったというよりは円熟期に入っている年齢かと思いますが、昨年のMETの舞台でもこのサロメを歌っており、バリバリの現役です。その貫禄ある立ち姿は、恰幅が良い(=太め)というのではなく、全体的に体のパーツがバランスよくゴツい感じ。小柄なネゼ=セガンを並ぶと、まるでママと少年です。この「サロメ」最終シーンは、有名な「7つのヴェールの踊り」が終わった後に、預言者ヨカナーンの生首をしつこくせがみ、ついに手に入れた首に向けて延々と語りかけるという狂気の場面ですが、ヒーヴァーとネゼ=セガンはMETの舞台でも共演しているので息はピッタリ、大船に乗ったかのように安心して役に入り込んだ圧巻の歌唱。元々メゾソプラノだった特質で中低音域成分を多く含んだ声を駆使し、金切り声を張り上げるのではない、ある意味狂信的なブレなさというか芯の太さを表現できる、稀有なソプラノだと思いました。
休憩を挟んでメインの「英雄の生涯」は、あまり好きではない曲ということもあって、実演で聴くのは2011年のヤンソンス/バイエルン放送響以来、15年ぶりのご無沙汰です。この曲だけはオペラと関係のないコンサート用レパートリーですので、METオケもオペラの片手間でちょろっとやるわけにはいきません。しかしそんなことは杞憂で、前半と比べてもむしろそれ以上に完成度の高い、ドラマチック、オペラチックな演奏でした。コンマスのヴァイオリン・ソロは、ゴリゴリ行くのではなく繊細にふわっと柔らかく仕上げる芸達者ぶり。ソリスト的なキャラクターは封印しているのか、オケのリーダーとして節度のある好演奏でした。戦いの狼煙をあげる舞台裏のトランペットは、舞台上の奏者がわざわざいったん退場し、キレの良いファンファーレを吹かした後、すぐに舞台に戻ってきていましたが、こういう要所をバンダ任せにしないオケの矜持を感じました。弦の厚み、金管の馬力と煌びやかさ、全てにおいて派手さが勝る、いかにもアメリカらしいオケでしたが、METオケがコンサートオーケストラとしても疑いなく一流であることを初登場プロムスの聴衆に見せつけた一夜だったと思います。
アンコールではヒーヴァーが同じ衣装のまま再び登場。曲はもちろんシュトラウスで、最初期の歌曲「Zueignung(献呈)」。しかしヒーヴァーはあろうことか途中で笑いながら「ストップ」といって演奏を止めてしまい、何でも歌詞の順番を間違えたとか。ネゼ=セガンが「でも少なくともドイツ語だったし、Mr.ビーンのベートーヴェン第9みたいに歌えばいいんじゃね?」と言い放ち、演奏再開前には自分の指揮者用スコアをヒーヴァーに見せて歌詞を確認するなど、コミカルなやり取りに場内大爆笑。そうやってやり直した「献呈」は当然のごとく素晴らしい歌唱で、短いながらもたいへん盛り上がったアンコールでした。
あとからこのMr.ビーンの映像をYouTubeで探してみたら、「Anthem of the New Europe」というコメディで、ローワン・アトキンソン(Mr.ビーン)扮する英国人バリトン歌手ロバート・ベニントンがベートーヴェン「歓喜の歌」をドイツ語で歌い始め、1コーラス目までは良かったものの、2コーラス目以降の歌詞が手元の楽譜になく、焦っておたおたしつつもアドリブの出鱈目なドイツ語で最後まで歌い切る、というシチュエーションコントでした。こんなのよく知ってるなあ。しかしなるほど、昨年のM-1チャンピオン、たくろうの無茶ぶり漫才の元ネタというか源流はこういうところにあったのかもと、一つ賢くなった気がしました。
BBCプロムス:ウィルソン/SOL:新世代の究極「ローマ三部作」 ― 2026/07/24 23:59

2026.07.24 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: John Wilson Conducts Respighi’s ‘Roman Trilogy’
John Wilson / Sinfonia of London
Jonathan Aasgaard (cello-2)
1. Verdi: The Force of Destiny – overture
2. Walton: Cello Concerto
3. Respighi: Roman Festivals
4. Respighi: Fountains of Rome
5. Respighi: Pines of Rome
14年ぶりのBBCプロムス、ただただ感慨深いです。しかし、チケットが高〜い!このコンサートは特に人気が高かったようで、希望していたクラスよりも2ランクも上の席になってしまいました。もとより音響も視界も総じて悪いこのホールで、気合を入れて聴きたいものは良席で、そうでもないものは安席で、というメリハリを効かせる余地もなく、「高い」か「超高い」か「鬼高い」しか選択肢がない、世知辛い世の中です。え?アリーナで立ち見しろって?全くもってごもっともです、自分も若いころなら…。
さて今年最初のプロムスは、謎の楽団、シンフォニア・オブ・ロンドン。特に今日の演目であるローマ三部作を収めたディスクが「新世代の名盤」として数年前に極めて高い評価を得ていたので、ぜひ一度生演奏を聴きたかったところでした。楽団の公式ホームページによると「英国及び国外のオーケストラの首席奏者、著名なソリスト、著名な室内楽グループのメンバーなど、優れた音楽家を集めて、年間通してレコーディングやコンサートのプロジェクトを敢行するスーパー・オーケストラ」とのことです。ルツェルン祝祭オケのようなコンセプトかと思いきや、趣旨はだいぶ異なるようです。歴史を辿ると、まず1955〜1969年に活動した第一期のシンフォニア・オブ・ロンドンがあり、これはフルート奏者のゴードン・ウォーカーがギャラの良い映画音楽の録音を行うために、ロンドン響から多数の奏者を引き連れて結成したとのこと。1982年にチェリストのピーター・ウィルソンと作曲家のハワード・ブレイクが、ウォーカー家から「シンフォニア・オブ・ロンドン」の命名権を買い取って、ブレイクが作曲したTVアニメ「スノーマン」のサウンドトラックを録音するため結成されたのが第二期になります。2002年までに「バットマン」「ヴァーチャル・ウォーズ」「ロボコップ」など数多くのハリウッド大作映画のサウンドトラックを手掛けました。そして時は流れて2018年に、映画音楽、ミュージカルなどライト・クラシック系の指揮やアレンジを得意とするジョン・ウィルソン(ピーターの血縁者ではなさそう)が、英国の独立系クラシック・レーベルChandosのバックアップを得て立ち上げたのが現在の姿になります。ホームページには音楽監督のジョン・ウィルソンを筆頭に、運営側の人は顔と名前が出ていますが、プレイヤーの具体的な情報が、コンサートマスターを含め一切公表されていません。年代から言っても第一期、第二期のメンバーが含まれているとは思えないし、実を言うと自分はCDを持っていないので、レコーディングごとのメンバー表が存在するのかどうかも不明です。プレイヤーの顔が見えず、今日目の前にいる人々が普段どこの楽団で演奏している人なのか、CDや去年の演奏会と同じなのかどうか、よっぽどの楽団員マニアならともかく、私にはお手上げの世界です。
前置きが長くなりましたが、見たところ奏者の年齢層は若く、女性が多め。今日のような大編成のプログラムでも、管楽器の数は必要最小限で、人海戦術で押し通すスタイルではなさそうです。1曲目の「運命の力」序曲はかつて部活のオケで演奏したことがあり、熟知した曲ですが、実演を聴いたのは2004年のコバケン指揮ブダペストフィル以来ですから相当のご無沙汰です。颯爽と登場したウィルソンは、気難しい芸術家風とは対極のビジネスマン風。記録をたどると過去に一度、2013年に英国ナショナルユースオーケストラで「惑星」を指揮した演奏会を聴いていました。冒頭のファンファーレは短く切り、キレの良い指揮で前ノリにオケを引っ張っていきます。ライト・クラシック系の人というと、どうしても「一流クラスではない」という先入観を持ってしまいがちですが、繊細なダイナミクスを上手くコントロールし、また奏者の演奏レベルも総じて高く、なかなかどうして、クラシック演奏として間違いなく上級クラスです。全体的にスマートな軽さがあり、今どきの人にはこういうのが受けるのかもしれません。
2曲目はウォルトンのチェロ協奏曲。家にCDはありましたが、ほぼ初めて聴く曲です。ソリストは、ノルウェー出身で普段はロイヤル・リヴァプール・フィルの首席奏者を務めるヨナハン・アースゴール。イタリアモノに挟まれて曲調も全く異なるこのご当地モノの選曲は、プログラムの意図がよくわからなかったのですが、昨年この顔合わせでCDが出たばかりなので、目的はプロモーションでしょう。緩急緩の3楽章構成で、無調に近い掴みどころのない曲。繊細で慎重な音出しは変わらず、こういう抒情的な曲も得意なんだよという自信の表れがある気もしました。
休憩後、後半にローマ三部作を一気に演奏するという、ある意味他で見たことがないチャレンジに、さらなる自信の表出を感じました。日本のオケなら、まず金管が鉄板で持たないから、もしこんな演奏会があったとしても怖くて聴きに行けません。演奏は、祭り、噴水、松の順。これは作曲順とは違いますが、CDと同じ流れとのこと。まず私の大好きな「ローマの祭り」は、サークル席の入口扉あたりに配置したバンダと、ステージ後方最上段にずらっと横並びした打楽器群がひときわ華やかな祝祭感を演出していました。やはりこのオケがただモノではないなというのがわかるのは、ほとんどブレない金管に、木管も一流のソロを聴かせ、タメを効かせた濃厚な味付けの弦アンサンブルも完璧で、どこを切っても立派な演奏。オルガンをことさらラウドに響かせていて、今まで聴いたことがない新鮮さもありました。なるほど、特に馬力が必要なこの曲を、オケが疲弊する前に最初にやってしまう曲順は、良い戦略かもしれません。
続く抒情的な「ローマの噴水」では、オケを上手くコントロールした繊細さが光りました。ここでもオルガンがはっきりと聴こえてきて、絶妙のパートバランスで、音圧をかけるところはこれでもかとかけ、繊細な箇所はとことんデリケートに、ダイナミックレンジが極端に広い演奏。これはやりたくても突然にできる話ではなく、単に優秀な奏者を揃えただけではないジョン・ウィルソンの統率力が透けて見えます。
最後の「ローマの松」では、オケの後方に配置した合計16人(のはず、数えた限りでは)のバンダが圧巻で、オケのメンバーも含めてこれだけの人数を集めて誰一人ヘタレないのがシンプルに凄いと思いました。「ジャニコロの松」のナイチンゲールのさえずり効果音ですが、一昨年聴いたルイージ/N響のように、昨今では打楽器奏者が鳥笛で対応することも多いのですが、今日はスコアに忠実にレコード(さすがにSP盤ではないでしょうが)を使っているようでした。終曲の「アッピア街道の松」はミドルテンポでひたすら山を上がっていく展開なので否が応にも盛り上がるためコンサートの最後に置くのはある意味定番ですが、それも最後までしっかりと鳴らし切れての話です。追加するバンダの力があれば乗り切りやすいのも確かとはいえ、オケ、特に金管がヘナチョコだと聴けたモノではないので、その意味でもこのシンフォニア・オブ・ロンドンはやはり噂通りタダモノではないハイクオリティの集団でした。まるで「ローマ三部作」をやるために結成されたと思えるくらい、ハマっていました。
帰りの足もあり、「松」が終わったらすぐに会場を出たのですが、後でBBC iPlayerを観ると、アンコールで「ウィリアム・テル」序曲のギャロップをやって笑いを取っていたもよう。三部作をやり切った後、さらにアンコールができる体力に感服します。現在の再結成後の体制ではまだ歴史が浅く、レコーディングもレスピーギの他はフランス界隈やラフマニノフ、コルンゴルドなど、オケの特質を活かしたレパートリーに絞っているようですが(確かに、このオケのベートーヴェン、ブラームスはちょっと怖い…)、今後もウォッチする価値は十分に感じました。セッション・オケなので当たり外れはありそうですが…。
PROMS 2026 ブッキング ― 2026/05/16 23:59
BBCプロムスのチケット購入バトルを久々に体験しましたので記録として残してきます。システムは以前と変わらず、スケジュールが公開されたら(今年は4/21)買いたいチケットのランクと枚数をProms Plannerにあらかじめ入力しておき、販売開始以降にそのデータからスムースに購入を進める、というものです。ただし、チケット代が昔と比べると鬼のように値上がりしており、音響最悪クソホール(失礼)のくせに、格安で聴ける席がもはや存在しません…。
販売開始は5月16日土曜日の9時からだったのですが、8時15分までは準備のためサイトがクローズ、8時15分から「Holding Room」が開くのでそこで待機して、9時ジャストになったら「Waiting Room」へ自動的に導かれる、ただし順番は先着順ではなく抽選で決まる、ということでした。まず、8時15分になってアルバートホールのサイトをクリックしても同じ「準備のためサイトがクローズ」警告ページが出るだけで、何度押してもダメ。結局、Waiting Roomに入るために何度もクリックを繰り返していた昔と状況は変わらず、8時32分にようやくHolding Roomに繋がりました。そこから28分待ってWaiting Roomに移行し、待ち時間が表示されるのですが、12600人超のキュー、more than one hourと出ました…。ウヒョーとのけ反りましたが、後から入った人はキューの最後から並ぶ、とも書いてあったためサイトに繋ぎ直すという手もなく、一般人として最大限努力した結果がこれなら、待つより他ありません。
過去、2010〜2012年にかけてプロムスチケットのブッキング状況をブログに残していたのでそれを見返すと、当時も販売開始時刻からマウスクリックを繰り返していましたが、遅くとも10分以内にはWaiting Roomに繋がっていましたし、そこからのキューもせいぜい1000〜1500人くらいのレベルだったので、30分以内には購入が完了していました。それが今回、キューは9時前から待機していたにも関わらず10倍に伸びているし、チケット購入までたどり着いたのも結局10時30分でしたので、最初の列順を決める抽選で運が悪くほとんど最下位だったのか、それともこの15年の間に何か大きな変化点があったのか…。
・プロムス人気が昨今爆発的に増大した?(でも今年は正直去年より見劣りするラインナップだしな〜)
・AIボットによる高速チケット購入メソッドが存在し、それを使うのが当たり前になっている?(う〜む、だったら太刀打ちできない…)
・Holding Roomのシステムが機能していない?(サイトが落ちたりはしなかったので、まあ現状でこれが最善なんでしょうけど)
・単に今年は運気が最悪だっただけ?(そうかもしれないが、来年はましになる保証は何もない…)
全体的にチケットが高く、このホールの演奏会にそんな大枚をはたきたくないので、今回はラストナイトの抽選に参加できる最低条件の5回の演奏会に厳選し、それは何とか確保できたので良かったのですが、高人気が予想された演奏会は希望通りのチケットが取れず、2ランクも上の席になってしまいました。まあ、チートもハックもなしで正攻法で挑んだ結果がこれなので仕方がありませんし、今後も状況が改善されることはないでしょうから、プロムスはお祭りだからこんなもの、と諦めるしかありませんね。
2012プロムス75:ハイティンクが引き出した、本流のウィーンフィル ― 2012/09/07 23:59
2012.09.07 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 75
Bernard Haitink / Wiener Philharmoniker
1. Haydn: Symphony No. 104 in D major, 'London'
2. R. Strauss: An Alpine Symphony
今年のプロムス最後は、6月にもラトルと来たばかりのウィーンフィル。指揮はロンドンではお馴染みのハイティンクですが、レパートリーが硬直化していて(若くしてコンセルトヘボウの常任だったころは、もっと節操なく何でもやってレコード出していたと思うんですけどねえ)、どのオケを振ってもブルックナー、マーラー、ベートーヴェン、シューベルトばかり繰り返しやってる気がするので、今日の「アルプス」みたいな機会はなかなか貴重です。
コンマスはキュッヒル。やはりこの人が座っているとウィーンフィルの音も一段ときりっとしてる気がします。1曲目のハイドン「ロンドン」は、実はほとんど初めて聴く曲でした。仕掛けも何も無い直球勝負は実はハイティンクの決め球で、いかにもウィーンフィルらしい、きめ細かく柔らかい音が素晴らしいです。楽友協会という普段から残響の長いホールで演奏しているからか、アルバートホールみたいな箱でも響かせ方をちゃんと心得ているように見受けられました。
BBC Proms 2012 PROM 75
Bernard Haitink / Wiener Philharmoniker
1. Haydn: Symphony No. 104 in D major, 'London'
2. R. Strauss: An Alpine Symphony
今年のプロムス最後は、6月にもラトルと来たばかりのウィーンフィル。指揮はロンドンではお馴染みのハイティンクですが、レパートリーが硬直化していて(若くしてコンセルトヘボウの常任だったころは、もっと節操なく何でもやってレコード出していたと思うんですけどねえ)、どのオケを振ってもブルックナー、マーラー、ベートーヴェン、シューベルトばかり繰り返しやってる気がするので、今日の「アルプス」みたいな機会はなかなか貴重です。
コンマスはキュッヒル。やはりこの人が座っているとウィーンフィルの音も一段ときりっとしてる気がします。1曲目のハイドン「ロンドン」は、実はほとんど初めて聴く曲でした。仕掛けも何も無い直球勝負は実はハイティンクの決め球で、いかにもウィーンフィルらしい、きめ細かく柔らかい音が素晴らしいです。楽友協会という普段から残響の長いホールで演奏しているからか、アルバートホールみたいな箱でも響かせ方をちゃんと心得ているように見受けられました。
メインの「アルプス交響曲」は先ほどのハイドンと違い、いくらウィーンフィルと言えど放っておいても勝手に演奏してくれる曲ではありません。ハイティンクはその点、道を見失わないしっかりとした足取りで、ストレートにオケを牽引していました。冒頭からして金管の弱音が渋過ぎ、先日同曲を聴いたシモン・ボリバルとはやっぱり雲泥の差です。木管のソロも余裕で惚れ惚れする素晴らしさで、ウィーンフィルの「楽器」としての優秀さを再認識しました。それに、ハイティンクの動じない風林火山ぶりはタダモノではなく、大きなエンヴェロープの中で細かく揺れ動く起伏が過不足無く配置され、俯瞰した登山の全体像をパーフェクトに表現していました。見たことないようなどでかいサンダーシート(要は大きい鉄板ですが、狭い楽友協会のステージにこのサイズは乗らないのでは?)をガタガタと揺らす様は、ビジュアル的にも見物でありました。さすがのウィーンフィルも最後はちょっと息切れ気味でしたが、こないだのラトル以上に、ウィーンフィルらしい音楽を聴けたなあという満足感でいっぱいでした。
ハイティンクとしては珍しくアンコールがあり、ウィーンらしくシュトラウス二世の「春の声」。これなんか、ハイティンクは実質ほとんど何も指示してないですよね。どこの一流オケを振っても皆協力的で一緒に音楽を作ってくれる、晩年のハイティンクは今一番幸せなポジションにいるのではないかと思いました。
でかいサンダーシート。
2012プロムス71:らしくないベートーヴェンと、スイングしないガーシュイン ― 2012/09/04 23:59
2012.09.04 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 71
David Robertson / St Louis Symphony
Christian Tetzlaff (Vn-2)
1. Brahms: Tragic Overture
2. Beethoven: Violin Concerto in D major
3. Schoenberg: Five Orchestral Pieces, Op. 16
4. Gershwin: An American in Paris
テツラフ目当て一点張りで来ました。セントルイス響はNYPに次いで米国で2番目に古いオケだそうですが私的にはマイナーで、「スラットキンのオケ」という情報の記憶が残っているくらいで、演奏を聴くのは多分初めてです。現在の首席指揮者はロバートソン。この人のプログラムのセンスはちょっとビミョーで、今日のブラームス、ベートーヴェン、シェーンベルク、ガーシュインというセットも多分「ドイツ音楽本流→新ウィーン楽派からアメリカ移住→アメリカ音楽の元祖」という流れを頭に描いたのだと思いますが、だとしたらシェーンベルクはもっと別の選曲になるべきだろうし、結局ごちゃごちゃして何だかわけがわかりません。
1曲目の「悲劇的序曲」、ロバートソンの明快な指揮から導かれるのは想像通りアメリカンな、軽くて明るい音。弦のアインザッツはきちんと合っていて、良いトレーナーぶりが伺えます。ブラスは時々外しますが、日本のオケに比べたら全然馬力があってまともです。今年聴いたブダペスト祝祭管のある種ぶっ飛んだ演奏と比べると、危なげない、でも普通過ぎて面白みのない演奏でした。
続いて待望のテツラフ。ベートーヴェンのコンチェルトは元々馴染みのない曲で、2004年にブダペストフィルの演奏会を聴いて以来、多分一度も聴いていません。ですので世間的な良し悪しは全然語れませんが、その私にしても何とか理解できたのは、テツラフのベートーヴェンがかなり異色なこと。いつものようにと言えばそうなんですが、極めて繊細にコントロールされたフレーズが独自の呼吸を持ち、時空を超えて、20、いや、21世紀の音楽のように耳に響いてきます。オケは相変わらず軽いし、ドイツ的質実剛健からは全然「らしく」ないベートーヴェンでした。第1楽章のカデンツァはティンパニとの掛け合いが物珍しくて新鮮でしたが、後で調べると、これはピアノ編曲版からの転用なんですね。何にせよ、このだだっ広いホールにテツラフのデリケートなヴァイオリンは合わないなあと。アンコールはバッハのソナタからの選曲。息をするように自然に音を紡いでいくテツラフ節に、すっかり参りました。というわけで、今月のウィグモア・ホールのソロコンサートへ期待は益々高まるのでした。
BBC Proms 2012 PROM 71
David Robertson / St Louis Symphony
Christian Tetzlaff (Vn-2)
1. Brahms: Tragic Overture
2. Beethoven: Violin Concerto in D major
3. Schoenberg: Five Orchestral Pieces, Op. 16
4. Gershwin: An American in Paris
テツラフ目当て一点張りで来ました。セントルイス響はNYPに次いで米国で2番目に古いオケだそうですが私的にはマイナーで、「スラットキンのオケ」という情報の記憶が残っているくらいで、演奏を聴くのは多分初めてです。現在の首席指揮者はロバートソン。この人のプログラムのセンスはちょっとビミョーで、今日のブラームス、ベートーヴェン、シェーンベルク、ガーシュインというセットも多分「ドイツ音楽本流→新ウィーン楽派からアメリカ移住→アメリカ音楽の元祖」という流れを頭に描いたのだと思いますが、だとしたらシェーンベルクはもっと別の選曲になるべきだろうし、結局ごちゃごちゃして何だかわけがわかりません。
1曲目の「悲劇的序曲」、ロバートソンの明快な指揮から導かれるのは想像通りアメリカンな、軽くて明るい音。弦のアインザッツはきちんと合っていて、良いトレーナーぶりが伺えます。ブラスは時々外しますが、日本のオケに比べたら全然馬力があってまともです。今年聴いたブダペスト祝祭管のある種ぶっ飛んだ演奏と比べると、危なげない、でも普通過ぎて面白みのない演奏でした。
続いて待望のテツラフ。ベートーヴェンのコンチェルトは元々馴染みのない曲で、2004年にブダペストフィルの演奏会を聴いて以来、多分一度も聴いていません。ですので世間的な良し悪しは全然語れませんが、その私にしても何とか理解できたのは、テツラフのベートーヴェンがかなり異色なこと。いつものようにと言えばそうなんですが、極めて繊細にコントロールされたフレーズが独自の呼吸を持ち、時空を超えて、20、いや、21世紀の音楽のように耳に響いてきます。オケは相変わらず軽いし、ドイツ的質実剛健からは全然「らしく」ないベートーヴェンでした。第1楽章のカデンツァはティンパニとの掛け合いが物珍しくて新鮮でしたが、後で調べると、これはピアノ編曲版からの転用なんですね。何にせよ、このだだっ広いホールにテツラフのデリケートなヴァイオリンは合わないなあと。アンコールはバッハのソナタからの選曲。息をするように自然に音を紡いでいくテツラフ節に、すっかり参りました。というわけで、今月のウィグモア・ホールのソロコンサートへ期待は益々高まるのでした。
休憩後のシェーンベルク「5つの管弦楽曲」は全く初めて聴く曲でした。もう無調の作風に突入している年代の作曲ですが、この曲はまだ調性に名残を持っていて、無調を装った後期ロマン派音楽の様相で、ヴェーベルンの「6つの管弦楽曲」を先取りしたような感覚も覚えます。今のところ、好きでも嫌いでもない、あまり尾を引かない曲、としか言いようがない。もっと繰り返し聴かないと身体にすっと入ってこないかな…。
最後の「パリのアメリカ人」は、昔部活でオケをやってたとき、いつもベートーヴェン、ブラームス、ドヴォルザークばかりじゃなくて、せめてこのくらいの曲にチェレンジしてみないかと周囲の説得を試みたがあえなく却下された思い出深い曲ですが、あらためて聴いてみると、めちゃめちゃたいへんな曲やん。若気の至りとは言え相当無謀なことを主張していたのだなと、今更ながら反省しました。しかし今日の演奏は、音楽が全然スイングしてなくて、いただけなかった。ロバートソンは真剣な顔つきで終始まるでシンフォニーのように棒をカクカクと振りまくり、この曲からスイングの要素を取り去ってしまったのは、ある意味画期的にユニークな演奏だったのかも(笑)。極めて真面目な人なんでしょうねえ。でも、こんなのはガーシュインじゃねえ、とちゃぶ台をひっくり返す自分をつい思い浮かべました。そんな中でもがんばって気を吐いていたのが、布製の変わったミュートを駆使していたトランペット。アンコールは「キャンディード」序曲でアメリカらしく能天気に(偏見か?)シメました。
奏者を讃えるロバートソン。この人も微妙だなあ…。
2012プロムス69:ゲヴァントハウス管/シャイー:マーラー6番 ― 2012/09/02 23:59
2012.09.02 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 69
Riccardo Chailly / Gewandhausorchester Leipzig
1. Messiaen: Et exspecto resurrectionem mortuorum
2. Mahler: Symphony No. 6 in A minor
プロムス終盤戦は、出張のためベルリンフィルを聴き逃したりもしましたが、気を取り直して久々のゲヴァントハウス管、1年ぶりのマーラー6番です。開演前入り口付近で、何とフィルハーモニア管のフィオナちゃんを見かけましたが、シャイな私は声をかけることもなく、すぐに見失ってしまいました(泣)。
1曲目のメシアン「われ死者の復活を待ち望む」は、昨年3月のLSO以来、生涯2回目に聴きます。会場に行って楽器配置を見るまですっかり忘れていましたが、ウインドアンサンブルと金属打楽器群のための、プリミティブな味わいの佳作です。ガムランのようなリズムにアイヴズっぽい無調旋律が乗っかり、さらに不協和音がぐしゃーとからんでくるという、私には無国籍無節操音楽にしか聞えませんが、解説を見ると「宗教的色彩が濃厚」であると…。独特の音響空間は純粋に楽しめるものの、内容は私の理解を超えております。ゲヴァントハウス管の管楽器は音がよく、アンサンブルも確か。ソロを聴くと一つ一つの音がしっかりとしたオケですが、合わせるとお互い溶け合って格好のよいクラウドを形成する、よくまとまったオケだなと思いました。
さてマーラー。記念イヤーが終わってすっかり下火かと思いきや、今年に入ってからもすでに1、2、3、4、9番を聴いていますので、マーラーは依然としてプログラムの花形ですね。シャイーのマーラーは初めて聴きます。イタリア人らしく、快活なテンポでさっそうと開始。第1楽章の印象は、節回しというのか、フレージングがユニークな、何だか不思議な演奏でした。アルマの主題の直前で弦ピチカートに乗せて木管がコラール風の旋律を奏でるところ、中間のブレスを大きく取っていったん旋律をぶつ切りしたのが特にひっかかって、後で楽譜を確認したら確かに木管にはブレスがありますが弦にはないので、ここはインテンポで行くところじゃないのかなあと。この曲はマーラーの中でも特に好きな曲なのですが、演奏の細かいところでどうも自分の好みに合わない部分があり、没頭しにくさを感じました。なお遠くから響くカウベルはバルコニーで鳴らしていたようです。
中間楽章はアンダンテ→スケルツォの順。ゲヴァントハウス管の渋い弦が映えるアンダンテは期待通りにロマンチックな味付けで、「泣き」が入っていました。このオケはしかし、個人の腕は確かながら、誰も浮き出ないのが好ましい。よく鍛えられたアンサンブルと思います。第3楽章スケルツォは一転して超高速。古典的な楽章配置を意識してか、舞曲性を強調した感じでした。終楽章、序奏は遅めに入ったもののすぐに急かされるように高速で進んで行きます。メリハリつけた演奏ですが、ちょっと上滑りしていて重心が高い。エネルギーの蓄積も爆発もあえて抑え、小さいセグメントでまとめているという感じです。そうこうしているうちに「運命の一撃」の箇所。大きな木製ハンマーを打ち下ろす台は、巨大な木の箱の横に巣箱のように穴が開いている、まさにこの曲のために開発したと思われる特注品。これはガツンとよく響きました。「マーラーのハンマーおよび台」として打楽器の商品になるんじゃないかな。昨今のプロオケはこの曲を演奏する機会が必ずあるだろうから、需要はあるんじゃないかと。ラストのティンパニは渾身の力を込めて叩き込み、ディミヌエンドしてふつっと途切れた後、珍しく長い静寂があってから、割れんばかりの拍手が起こりました。楽章毎に拍手が起こったりすることも多いプロムスですが、今日の客層はちょいディープめだったようです。
オケの一体感と特製ハンマー台には心惹かれたものの、全体的に自分の好みとは微妙に違う違和感をかかえながらの80分でした。出張疲れが抜けず体調がイマイチだったせいもあるでしょう。ちと残念。
BBC Proms 2012 PROM 69
Riccardo Chailly / Gewandhausorchester Leipzig
1. Messiaen: Et exspecto resurrectionem mortuorum
2. Mahler: Symphony No. 6 in A minor
プロムス終盤戦は、出張のためベルリンフィルを聴き逃したりもしましたが、気を取り直して久々のゲヴァントハウス管、1年ぶりのマーラー6番です。開演前入り口付近で、何とフィルハーモニア管のフィオナちゃんを見かけましたが、シャイな私は声をかけることもなく、すぐに見失ってしまいました(泣)。
1曲目のメシアン「われ死者の復活を待ち望む」は、昨年3月のLSO以来、生涯2回目に聴きます。会場に行って楽器配置を見るまですっかり忘れていましたが、ウインドアンサンブルと金属打楽器群のための、プリミティブな味わいの佳作です。ガムランのようなリズムにアイヴズっぽい無調旋律が乗っかり、さらに不協和音がぐしゃーとからんでくるという、私には無国籍無節操音楽にしか聞えませんが、解説を見ると「宗教的色彩が濃厚」であると…。独特の音響空間は純粋に楽しめるものの、内容は私の理解を超えております。ゲヴァントハウス管の管楽器は音がよく、アンサンブルも確か。ソロを聴くと一つ一つの音がしっかりとしたオケですが、合わせるとお互い溶け合って格好のよいクラウドを形成する、よくまとまったオケだなと思いました。
さてマーラー。記念イヤーが終わってすっかり下火かと思いきや、今年に入ってからもすでに1、2、3、4、9番を聴いていますので、マーラーは依然としてプログラムの花形ですね。シャイーのマーラーは初めて聴きます。イタリア人らしく、快活なテンポでさっそうと開始。第1楽章の印象は、節回しというのか、フレージングがユニークな、何だか不思議な演奏でした。アルマの主題の直前で弦ピチカートに乗せて木管がコラール風の旋律を奏でるところ、中間のブレスを大きく取っていったん旋律をぶつ切りしたのが特にひっかかって、後で楽譜を確認したら確かに木管にはブレスがありますが弦にはないので、ここはインテンポで行くところじゃないのかなあと。この曲はマーラーの中でも特に好きな曲なのですが、演奏の細かいところでどうも自分の好みに合わない部分があり、没頭しにくさを感じました。なお遠くから響くカウベルはバルコニーで鳴らしていたようです。
中間楽章はアンダンテ→スケルツォの順。ゲヴァントハウス管の渋い弦が映えるアンダンテは期待通りにロマンチックな味付けで、「泣き」が入っていました。このオケはしかし、個人の腕は確かながら、誰も浮き出ないのが好ましい。よく鍛えられたアンサンブルと思います。第3楽章スケルツォは一転して超高速。古典的な楽章配置を意識してか、舞曲性を強調した感じでした。終楽章、序奏は遅めに入ったもののすぐに急かされるように高速で進んで行きます。メリハリつけた演奏ですが、ちょっと上滑りしていて重心が高い。エネルギーの蓄積も爆発もあえて抑え、小さいセグメントでまとめているという感じです。そうこうしているうちに「運命の一撃」の箇所。大きな木製ハンマーを打ち下ろす台は、巨大な木の箱の横に巣箱のように穴が開いている、まさにこの曲のために開発したと思われる特注品。これはガツンとよく響きました。「マーラーのハンマーおよび台」として打楽器の商品になるんじゃないかな。昨今のプロオケはこの曲を演奏する機会が必ずあるだろうから、需要はあるんじゃないかと。ラストのティンパニは渾身の力を込めて叩き込み、ディミヌエンドしてふつっと途切れた後、珍しく長い静寂があってから、割れんばかりの拍手が起こりました。楽章毎に拍手が起こったりすることも多いプロムスですが、今日の客層はちょいディープめだったようです。
オケの一体感と特製ハンマー台には心惹かれたものの、全体的に自分の好みとは微妙に違う違和感をかかえながらの80分でした。出張疲れが抜けず体調がイマイチだったせいもあるでしょう。ちと残念。
後ろに見えるでっかい木箱が、ハンマーを叩き下ろす特製台。
2012プロムス41:今年の超大作その2、シェーンベルク「グレの歌」 ― 2012/08/12 23:59
2012.08.12 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 41
Jukka-Pekka Saraste / BBC Symphony Orchestra
Angela Denoke (S/Tove)
Simon O'Neill (T/Waldemar)
Katarina Karnéus (Ms/Wood-Dove)
Neal Davies (Br/Peasant)
Jeffrey Lloyd-Roberts (T/Klaus the Fool)
Wolfgang Schöne (Speaker)
BBC Singers
BBC Symphony Chorus
Crouch End Festival Chorus
New London Chamber Choir
1. Schoenberg: Gurrelieder
昨日に引き続き、大作プログラムの連チャンです。「グレの歌」は無調に傾倒する前のシェーンベルク初期の代表作で、マーラー「千人の交響曲」に匹敵する大人数を要するので有名です。完成したのは「千人」の初演が大成功した翌年、つまりマーラーの没年(1911年)ですから、時代がこういう超大曲を求めていた、ということでしょうか。私がほぼ初めてこの曲を聴いたのは6年前のブダペストでギーレン/南西ドイツ放送響の演奏会だったのですが、一体どんな凄い曲だろうとワクワクしていたら、全奏で音圧がマックスになるのはほんのわずかの時間で、大半は室内楽的なものすごくエネルギー効率の悪い進行だったのに思いっきり肩透かしを食らいました。
指揮は元々は常任のビエロフラーヴェクが振るはずが、2週間ほど前にサラステに変更になりました。サラステは颯爽と格好の良いドライブ感が魅力の人で、期待通りにドラマチックでロマンチックな表現が、私には好ましかったです。BBC響も穴が無く最後まで集中力の切れない演奏はさすが。前に聴いた南西ドイツ響は貧弱な音色に白けた(淡々とドライ、とも言えないことはないですが)演奏が、「現代音楽の雄にしてこの程度か」と、がっかりした記憶が蘇りました。
演奏者数はオケもコーラスも昨日のベルリオーズのほうが多かったです。女声コーラスなんか、2時間近く待って最後の最後しか出番がないのでかわいそう。ヴァルデマール王役のテナー、サイモン・オニールは今年の正月の「マイスタージンガー」でも見ました。そのときは風邪で調子が悪かった(ということだった)のですが、この人は結局普段から声が弱く遠くまで届かない、ということが今日よくわかりました。アリーナの立見でかぶりつきでもない限りヴァルデマール王の歌を堪能するのは無理でした。トーヴェを歌うアンゲラ・デノケは2年前にROHで「サロメ」を聴いて以来でしたが、こちらは細い身体ながらコアのしっかりした歌唱で、表現も演奏に引きずられてか劇的で、聴き応えがありました。第一部終盤に歌う山鳩のカルネウスも切々とした情感が秀逸。しかし第一部が終ると出番の済んだ女声陣二人は退場し、代わりに出てきた農夫、道化師、語り手の野郎どもはどれも印象に残らず。語り手のシュプレヒ・シュティンメ、これだけはギーレンのときのほうがずっと上手かったです。
最後は音量もクライマックスに達し、それなりに盛り上がりますが、カタルシスというほどでもなく、頂点に登る手前でふっと力を抜くような終り方です。休憩なしで2時間たっぷり演奏しましたが、お尻が痛かったので休みが欲しかったです。お客さんの入りは残念ながらイマイチで、特にサークルは空席ばかりでした。みんなオリンピックの閉会式を見ていたのかな。
BBC Proms 2012 PROM 41
Jukka-Pekka Saraste / BBC Symphony Orchestra
Angela Denoke (S/Tove)
Simon O'Neill (T/Waldemar)
Katarina Karnéus (Ms/Wood-Dove)
Neal Davies (Br/Peasant)
Jeffrey Lloyd-Roberts (T/Klaus the Fool)
Wolfgang Schöne (Speaker)
BBC Singers
BBC Symphony Chorus
Crouch End Festival Chorus
New London Chamber Choir
1. Schoenberg: Gurrelieder
昨日に引き続き、大作プログラムの連チャンです。「グレの歌」は無調に傾倒する前のシェーンベルク初期の代表作で、マーラー「千人の交響曲」に匹敵する大人数を要するので有名です。完成したのは「千人」の初演が大成功した翌年、つまりマーラーの没年(1911年)ですから、時代がこういう超大曲を求めていた、ということでしょうか。私がほぼ初めてこの曲を聴いたのは6年前のブダペストでギーレン/南西ドイツ放送響の演奏会だったのですが、一体どんな凄い曲だろうとワクワクしていたら、全奏で音圧がマックスになるのはほんのわずかの時間で、大半は室内楽的なものすごくエネルギー効率の悪い進行だったのに思いっきり肩透かしを食らいました。
指揮は元々は常任のビエロフラーヴェクが振るはずが、2週間ほど前にサラステに変更になりました。サラステは颯爽と格好の良いドライブ感が魅力の人で、期待通りにドラマチックでロマンチックな表現が、私には好ましかったです。BBC響も穴が無く最後まで集中力の切れない演奏はさすが。前に聴いた南西ドイツ響は貧弱な音色に白けた(淡々とドライ、とも言えないことはないですが)演奏が、「現代音楽の雄にしてこの程度か」と、がっかりした記憶が蘇りました。
演奏者数はオケもコーラスも昨日のベルリオーズのほうが多かったです。女声コーラスなんか、2時間近く待って最後の最後しか出番がないのでかわいそう。ヴァルデマール王役のテナー、サイモン・オニールは今年の正月の「マイスタージンガー」でも見ました。そのときは風邪で調子が悪かった(ということだった)のですが、この人は結局普段から声が弱く遠くまで届かない、ということが今日よくわかりました。アリーナの立見でかぶりつきでもない限りヴァルデマール王の歌を堪能するのは無理でした。トーヴェを歌うアンゲラ・デノケは2年前にROHで「サロメ」を聴いて以来でしたが、こちらは細い身体ながらコアのしっかりした歌唱で、表現も演奏に引きずられてか劇的で、聴き応えがありました。第一部終盤に歌う山鳩のカルネウスも切々とした情感が秀逸。しかし第一部が終ると出番の済んだ女声陣二人は退場し、代わりに出てきた農夫、道化師、語り手の野郎どもはどれも印象に残らず。語り手のシュプレヒ・シュティンメ、これだけはギーレンのときのほうがずっと上手かったです。
最後は音量もクライマックスに達し、それなりに盛り上がりますが、カタルシスというほどでもなく、頂点に登る手前でふっと力を抜くような終り方です。休憩なしで2時間たっぷり演奏しましたが、お尻が痛かったので休みが欲しかったです。お客さんの入りは残念ながらイマイチで、特にサークルは空席ばかりでした。みんなオリンピックの閉会式を見ていたのかな。
ピンボケしまくりですが、オニールとデノケ。














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