BBCプロムス:華麗なるMET管/ネゼ=セガンのゴージャスなシュトラウス2026/08/26 23:59



2026.08.26 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: The Met Orchestra Plays Strauss
Yannick Nézet-Séguin / The MET Orchestra
Elza van den Heever (soprano-2)
Benjamin Bowman (solo violin-3)
1. Richard Strauss: Der Rosenkavalier - suite (arr. attrib. A. Rodziński)
2. Richard Strauss: Salome - final scene
3. Richard Strauss: Ein Heldenleben

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(通称MET)のオーケストラは、コンサート活動をするときは「The Met Orchestra」を名乗っています。本場のMETにまだ入ったことがないので(その向かいのエイヴリー・フィッシャー・ホールは行きましたが)、当然オケも生では初めて聴きます。有名歌劇場と言えども根付きのオケが上手いかというと経験上疑問に思う時もあり、実際このMETオケもかつては出演する超一流の歌手と比してあまりに実力不足という悪評があったのを、ジェームズ・レヴァインがテコ入れして鍛え上げたのだそうで、お手並み拝見です(←何かエラそう)。

ちょっと早めに会場に着き、疲れたので座って待ってようと思ってラウシング・サークルに入ろうとしたら、案内のおっちゃんが「早いもの順で、無料でアップグレードしてあげるよ」といってストールの良席のチケットを本当にタダでくれました。でも何で、って聞いたら、売れ行きが悪かったわけではないが、下階の席が空いたのでそれを埋めるためと言ってました。これまでBBCプロムスは20回以上聴きにきていますが、こんなサービスは初めてです。TV中継のある日だったので、空席を映したくない事情があったのかもしれませんが、いずれにしろラッキー。

今年のウィーンフィル・ニューイヤーコンサートを任されたカナダ人の人気指揮者、ヤニック・ネゼ=セガンは、以前私がロンドンに住んでいたころロンドンフィルの首席客演指揮者だったので名前はもちろん知っていましたが、なぜか当時は聴く機会がありませんでした。新進の若手と見ていて(と言ってもハーディング、ガードナー、ネルソンス等と同世代ですが)自分の中での優先度が低かったのかもしれませんが、その頃ちょうどフィラデルフィア管の音楽監督に就任し、その後すぐにMETの音楽監督に抜擢されて、今やトップランナーの一人です。満場の歓声の中登場したネゼ=セガンは金髪にピアス、目がチカチカするラメ入りジャケットを羽織り、爽やかな笑顔も相まって、いかにもゴージャスなアメリカンのキャラになっちゃってます。今回がプロムスデビュー、昨日ニューヨークから移動してきたばかりというMETオケは、メンバーの人種が様々で、これまたアメリカらしい多様性を体現していました。楽器は向かって左にチェロ、コントラバスがくる対向配置ですが、ちょっと変わっていたのが、打楽器は最後列の最上段に位置していながら、ティンパニは右の一段下に置かれて、その真後ろにトロンボーンとチューバが座るという、あまり見たことがない配置でした。

本日のプログラムはオール・リヒャルト・シュトラウスですが、1曲目はMETにとってオハコ中のオハコであろう「ばらの騎士」。よく使われるロジンスキの編曲による組曲版です。冒頭のホルンからもう参りましたという充実した音に、ツカミはオッケー。全体的にオケの音が高音成分多めで明るくきらびやかに響き、まさに「華麗なるメト」という月並みな表現が真っ先に浮かんでくる、いかにもゴージャスなオペラの音でした。オケは移動の疲れも見せず、金管も一切コケることなく、終始集中力の高いしっかりとした演奏を聴かせてくれました。ネゼ=セガンのタクトもオペラのダイジェストを意識した誇張したドラマ仕立てで、1曲目から大盛り上がりです。しかし、プロムスは普段のクラシックの演奏会とは客層がやはりちょっと違うのか、余韻を待たずすぐに拍手がやってきますね。

続く「サロメ」の最終シーンでタイトルロールを歌うのは、南アフリカ出身のエルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー。キャリアのスタートはメゾソプラノだったのが後にソプラノに転向したとのことで、苦労した時期も長かったそうです。フクシア色と言うんですか、赤紫のインパクトあるドレスで登場したヒーヴァーは、1979年生まれの今年47歳ですから脂が乗り切ったというよりは円熟期に入っている年齢かと思いますが、昨年のMETの舞台でもこのサロメを歌っており、バリバリの現役です。その貫禄ある立ち姿は、恰幅が良い(=太め)というのではなく、全体的に体のパーツがバランスよくゴツい感じ。小柄なネゼ=セガンを並ぶと、まるでママと少年です。この「サロメ」最終シーンは、有名な「7つのヴェールの踊り」が終わった後に、預言者ヨカナーンの生首をしつこくせがみ、ついに手に入れた首に向けて延々と語りかけるという狂気の場面ですが、ヒーヴァーとネゼ=セガンはMETの舞台でも共演しているので息はピッタリ、大船に乗ったかのように安心して役に入り込んだ圧巻の歌唱。元々メゾソプラノだった特質で中低音域成分を多く含んだ声を駆使し、金切り声を張り上げるのではない、ある意味狂信的なブレなさというか芯の太さを表現できる、稀有なソプラノだと思いました。


休憩を挟んでメインの「英雄の生涯」は、あまり好きではない曲ということもあって、実演で聴くのは2011年のヤンソンス/バイエルン放送響以来、15年ぶりのご無沙汰です。この曲だけはオペラと関係のないコンサート用レパートリーですので、METオケもオペラの片手間でちょろっとやるわけにはいきません。しかしそんなことは杞憂で、前半と比べてもむしろそれ以上に完成度の高い、ドラマチック、オペラチックな演奏でした。コンマスのヴァイオリン・ソロは、ゴリゴリ行くのではなく繊細にふわっと柔らかく仕上げる芸達者ぶり。ソリスト的なキャラクターは封印しているのか、オケのリーダーとして節度のある好演奏でした。戦いの狼煙をあげる舞台裏のトランペットは、舞台上の奏者がわざわざいったん退場し、キレの良いファンファーレを吹かした後、すぐに舞台に戻ってきていましたが、こういう要所をバンダ任せにしないオケの矜持を感じました。弦の厚み、金管の馬力と煌びやかさ、全てにおいて派手さが勝る、いかにもアメリカらしいオケでしたが、METオケがコンサートオーケストラとしても疑いなく一流であることを初登場プロムスの聴衆に見せつけた一夜だったと思います。

アンコールではヒーヴァーが同じ衣装のまま再び登場。曲はもちろんシュトラウスで、最初期の歌曲「Zueignung(献呈)」。しかしヒーヴァーはあろうことか途中で笑いながら「ストップ」といって演奏を止めてしまい、何でも歌詞の順番を間違えたとか。ネゼ=セガンが「でも少なくともドイツ語だったし、Mr.ビーンのベートーヴェン第9みたいに歌えばいいんじゃね?」と言い放ち、演奏再開前には自分の指揮者用スコアをヒーヴァーに見せて歌詞を確認するなど、コミカルなやり取りに場内大爆笑。そうやってやり直した「献呈」は当然のごとく素晴らしい歌唱で、短いながらもたいへん盛り上がったアンコールでした。

あとからこのMr.ビーンの映像をYouTubeで探してみたら、「Anthem of the New Europe」というコメディで、ローワン・アトキンソン(Mr.ビーン)扮する英国人バリトン歌手ロバート・ベニントンがベートーヴェン「歓喜の歌」をドイツ語で歌い始め、1コーラス目までは良かったものの、2コーラス目以降の歌詞が手元の楽譜になく、焦っておたおたしつつもアドリブの出鱈目なドイツ語で最後まで歌い切る、というシチュエーションコントでした。こんなのよく知ってるなあ。しかしなるほど、昨年のM-1チャンピオン、たくろうの無茶ぶり漫才の元ネタというか源流はこういうところにあったのかもと、一つ賢くなった気がしました。

看板に偽りあり、角川映画音楽祭@オーチャードホール2026/08/09 23:59



2026.08.09 Bunkamuraオーチャードホール (東京)
角川映画音楽祭 ~テーマ曲・挿入歌コンサート~
こがけん (MC), 南佳孝 (vocal, guitar), 小室哲哉 (vocal, piano), 松村とおる (vocal), マリーン (vocal), クミコ (vocal), 藤井空 (trumpet), 野村宏伸 (vocal), 松本隆/佐野史郎 (talk guests)
石黒彰 (keyboards), 渡辺格 (guitar), ハピネス徳永 (bass), 力石理江 (keyboards), 阿部薫 (drums), 鍬田修一(sax), 阿部美緒(violin), 丸山明子 (violin), 保科由貴 (viola), 大沼深雪 (cello)

いろいろ恨み節がありまして、半分以上は逆恨みであることは承知のうえで、思うところを正直に書いております。あくまで超私的な個人の感想にすぎませんが、私は口が悪いので、気分を害しそうな予感がする方はこの先読まれないほうがよいです。

1976年公開の角川映画第一弾「犬神家の一族」から、今年は50周年の記念イヤーになります。「犬神家」「人間の証明」「野性の証明」といった初期の角川映画に心奪われたのち、薬師丸ひろ子、荻野目慶子、原田知世のファンでもだった私は、角川の月刊誌「バラエティ」を毎号欠かさず買って熟読したものです。ちょうど5年前の45周年記念にも角川映画祭があり、4Kリストアの「犬神家」「人間の証明」を超久々にスクリーンで鑑賞しました。50周年にはさらに大規模な映画祭が行われるだろうから、2018年に行きそびれてしまった「角川映画シネマ・コンサート」を再現してくれないかなと密かに期待していたのですが、音楽関係だと今回は「角川映画音楽祭」なるコンサートが開催されることに。幸い、夏休みでちょうど帰国している時期であり、イギリスからがんばってチケットをゲットしました(ちなみに、チケットぴあは国外からの購入だとVPNを噛ませても携帯電話認証が突破できず、だいぶ試行錯誤しました)。

この音楽祭の情報は3月に開催が発表され、5月に予定出演者と予定演目の公表およびチケット発売開始だったのですが、初期三部作に素晴らしい音楽を提供し、角川映画スタートダッシュへの功績が絶大だったことは間違いない大野雄二大先生が5月4日に老衰のため亡くなります。「犬神家の一族」のテーマ曲「愛のバラード」は特に自分にとって特別な存在です。初めて出会った時に一瞬で恋に落ち、その後絶えることなくずっと愛し続けている曲で、そのような曲は他にはありません。他にも好きな曲、好きなアーティストは山ほどありますが、必ずどこかで飽きて心が離れる時期が来るのが普通ですが、大野雄二は例外的に別格でした。私個人の事情はそれとしても、「角川映画音楽祭」の名にかけて、当然のごとく大野雄二追悼企画は追加で盛り込まれるであろうと信じて伺わなかったのですが、その後のイベントニュースを追っかけていても、MCとしてピン芸人のこがけん参加決定が後から発表されたくらいで、演奏予定曲(下のセットリストと同じ)の下に思わせぶりに記された「and more…」の文字は、ずっとそのまま。このセットリストだけで「角川映画の音楽」を語るとしたらあまりにも消化不良ですが、結局その後も情報が更新される気配がまるでなく、告知動画でもクローズアップされるのは小室哲哉や野村宏伸ばかりで、大野雄二は完全スルー。日が近づくにつれ、すっかり諦めモードに陥っていました。

そうやって個人的関心が薄れつつあった中、演奏会当日を迎えましたがここでさらなる問題が。今回の電子チケットはMOALAというサービスを経由した受け取りになっていたのですが、こいつがイベント当日の開場時間ギリギリにならないと電子チケットにアクセスできないクソ仕様になっており、苛立ちました。私は元より心配性なので、普段なら演奏会やイベントのチケットを事前に何度も見直し、場所と時間、交通ルートを入念に確認するのですが、チケットがそもそも手元にない状態が直前まで続いたため、事前確認をつい怠っていました。なぜだかわかりませんが、開演時間を夜7時半だとずっと思い込んでいた私は、余裕で間に合うはずの時間にオーチャードホール近くのスタバで涼を取っていたところ、やっとスマホに表示されるようになったチケットを見て、開演時間が「7時30分」ではなく「17時30分」であることに気づき、愕然としました。あわててコーヒーを飲み干し、会場に向かったものの、音楽祭はすでに中盤に差し掛かっており、前半部分を聴き逃してしまいました。はい、開演時間を間違えるという初歩的なミスで、全くもって自己責任以外の何物でもありません。しかし、19時30分開演はイギリスでは普通なので疑うマインドが起こりにくかったし、他の電子チケットだと極めて一般的な、遅くともイベントの前日にはチケットが配布される仕様であればこのようなミスをやらかすことはなかったと断言できるので、MOALAには恨み節をぶつけます。ぴあも何でこんなとこを使っているんだろう(ネットで調べると総合的に見てもユーザの評判が非常に悪いサービスのようで…)。

というわけで、前半を聴き逃したのが痛恨ですが、気を取り直して、後半のトップバッターは南佳孝。ただし、「スローなブギにしてくれ」と「メイン・テーマ」(薬師丸ひろ子への提供曲を自身が後にセルフカバーした男性目線のバージョンではなくあえて女性目線の歌詞のままで歌った)、ともによく知っている曲ながら、どちらかというと苦手な部類の歌です。かつてはもっと艶やかな声とセクシーな歌い方だったように思いますが、76歳の今となってはすっかり枯れ切った味わいの歌唱でした。まあファンの人には元気で歌っている姿が見られたのは良かったんでしょうけど…。

続いて登場した野村宏伸は、「メイン・テーマ」の薬師丸ひろ子の相手役オーディションで2万3千人の中から選ばれたシンデレラボーイでしたが、元々役者をやりたかったわけではなく純粋に賞金が欲しくて応募したとトークで語っていました。実際、経済的にだいぶ苦労した少年期を過ごしたようです。その後俳優の道を進む決断をするも、初主演作「キャバレー」では監督の角川春樹に人格否定されまくりのパワハラを受け、その恨みが言葉の端々に滲み出ていました。今でもテレビドラマやバラエティでたまに見ることがありますが、実際に生で見る野村宏伸はかつてのシュッとしたイケメンの面影はなく、ルーズなジーンズ姿も相まって、くたびれたオジサン感が隠せません。トークゲストだけかと思いきや、自身が声優として主演したアニメ映画「ボビーに首ったけ」の主題歌「ボビーにRock 'n Roll」(この曲も作詞松本隆、作曲南佳孝ですね)を40年ぶりに歌うとのこと。嫌な予感はしましたが、やはりというか、はっきり言って人前で歌うレベルではない準備不足の拙い歌唱でした。

次がいよいよ今日のイベントの真打ちであろう、小室哲哉の登場です。客席のそこかしこから「てっちゃ〜ん」という黄色い歓声が止みません。小室哲哉は確かに「ぼくらの七日間戦争」と「天と地と」それぞれの劇伴音楽と主題歌(前者はTM NETWORK名義)を担当してはいるものの、角川映画の歴史を語る上でそんなにキーマンなのかなあと疑問に思っていたのですが、なるほど、これは角川映画音楽の名を借りた、内実は小室哲哉のファンイベントみたいなもので、自分のほうが「よそ者」だったのだとようやく理解しました。野村宏伸を交えたトークでは「あの方(=角川春樹)の名前はタブーじゃなかったでしたっけ?」などとボケをかましながらも、二人で「天と地と」および角川春樹との思い出話をひとしきりやった後、ステージ中央に置かれたグランドピアノに座って、まずは自身がボーカルを取った主題歌「天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜」を弾き語りで披露。続いて実質的なメインテーマといえる「炎」をバンドおよびストリングスメンバーと一緒に照明効果付きで演奏。もちろん、いろいろあったとはいえ、真に一世を風靡したスターミュージシャンである小室哲哉を生で見れる機会は貴重でしたが、特にファンというわけでもない私から見て、歌は正直いただけないレベルの弱さでした。

セットリストでまだやってない曲があるような気がしましたが、ここでひとまずエンドクレジットが流れ、小休止ののち、アンコールではマリーンが(再)登場し、「汚れた英雄」の主題歌「Riding High」(元の歌手はローズマリー・バトラー)を熱唱。マリーンもいい歳ですが声は衰えず、やっとプロの歌唱が聴けたと安堵したのも束の間、トリは今日の出演者がわらわらと出てきて、「ぼくらの七日間戦争」主題歌「SEVEN DAYS WAR」を全員でがやがやと斉唱。うーん、思い入れないし、カラオケにもならない雑な「みんなで歌いましょう!」なんかどうでもいい。出演者からしてやる気なしで、松本隆などはマイクを持たされてはいたものの歌うそぶりはみじんも見せなかったです。最後に、客席をバックに出演者全員で記念撮影をしてお開きとなりました。

こがけんの司会は、まあがんばっていたと思いますが、世代的に言って、どこまで角川映画という切り口に共感を覚えているのか。当事者感はなく、お仕事感でいっぱいでした。返す返すも、前半の「野獣死すべし」やマリーンの「You Are Love」「Left Alone」を聴き損ねたのは痛かったです。しかしこのイベント、音楽祭にしてはトークの部分が長すぎで、出演者の本気度も大いに疑問に思いました。企画自体がぬる過ぎて、まあこんなもんでいいっしょ、というやっつけ仕事感が満載。「角川映画の音楽」に対するリスペクトは残念ながらほとんど感じられなかったです。これで全席同一料金(席の選択もできない)の15,000円ですから、自分としてはコスパの悪いコンサートでがっかりでした。そしてこれは、もし仮に最初からちゃんと聴けていたとしても、評価は変わらなかっただろうと思います。角川映画を語る上で絶対欠かせない大野雄二の楽曲が一切なかったのは残念を通り越して暴挙ですし、ましてやタイミング的に追悼という二度とないきっかけを掴めたはずなので、なかった理由が逆にさっぱりわかりません。さらに言うと、角川映画が産んだ大スターである薬師丸ひろ子と原田知世、さらにはまだ存命であろう角川春樹本人まで引っ張り出してくれたら、真の意味で50周年記念に相応しい「角川映画音楽祭」になったのになあ、という思いがひとしおです。全席一律のこの価格設定で、いったいどこにお金を使ったのやら。どうせならチケットさらに高くなってもいいから、本当の功労者をもっと呼んで欲しかったですねえ。

セットリスト(公式ページより)
『復活の日』より 「You are love」 歌唱:マリーン
『キャバレー』より 「Left Alone」 歌唱:マリーン
『野獣死すべし』より 「野獣死すべしのテーマ」 演奏:藤井空
『Wの悲劇』より 「Woman “Wの悲劇”より」 歌唱:クミコ
『戦国自衛隊』より 「戦国自衛隊のテーマ」 歌唱:松村とおる
『スローなブギにしてくれ』より 「スローなブギにしてくれ」 歌唱:南佳孝
『メイン・テーマ』より 「メイン・テーマ」 歌唱:南佳孝
『ボビーに首ったけ』より 「ボビーにRock'n Roll」 歌唱:野村宏伸
『天と地と』より 「天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜」 歌唱・演奏:小室哲哉
『天と地と』より 「炎」 演奏:小室哲哉
『汚れた英雄』より 「汚れた英雄 -Riding High-」 歌唱:マリーン
『ぼくらの七日間戦争』より 「SEVEN DAYS WAR」 演奏:小室哲哉

都響/尾高/北村(p):受け継がれる1978年の邦人2作品と、その80年前のエニグマ2026/08/08 23:59

2026.08.08 東京芸術劇場コンサートホール (東京)
尾高忠明 / 東京都交響楽団
北村朋幹 (piano-2)
1. 三善晃: オーケストラのための《ノエシス》(1978)
2. 松村禎三: ピアノ協奏曲第2番(1978)
3. エルガー: エニグマ変奏曲 op.36

気にはなっていたのですが聴けなくて残念と思っていたら、ちょうど夏休みの帰国と重なったので、何はともあれ駆けつけました。松村作品の中でも個人的に最高傑作と思うピアノ協奏曲第2番、かつては実演で聴ける機会が何度もあったのですが、最後に聴いたのはCD化されている1992年の岩城宏之指揮都響の演奏会で、34年ぶりになります。折しもお盆のこの季節、8月6日が松村禎三氏の命日であることを思い出しました。

この日のプログラムは尾高さんの得意分野のみで構成されています。前半は自身が初演を行なった邦人作品の今や古典と言える2曲、後半はBBCウェールズ・ナショナル管(BBC NOW)の桂冠指揮者でもある自身が専心的に取り組んできた英国音楽のアイコン的名曲。日本の楽壇ではすでに最長老クラスの尾高さんだからこそ組める「ワガママ」プログラムですが、個人的にはたいへんウェルカムでありがたいです。

1曲目「ノエシス」は、この後のピアノ協奏曲と同年に尾高忠明指揮東京フィルによって初演されていますが、同じ日ではなく3日違いの別演奏会だそうです。初めて聴く曲で、三善晃らしい、と言えるほど他の曲を聴き込んでいないので何とも言えないのですが、音の重ね方、打楽器の使い方、文脈というか音楽の流れのいたるところで、以前まとめて聴いた反戦三部作(レクイエム、詩篇、響紋)と通じるものを感じました。実際、ちょうどこの三部作と重なる時期に書かれているんですね。短い中にも独特の音響が凝縮された、ちょっと難しめの曲でしたが、マリンバ、ヴィブラフォーンという通常のオケではあまり使われない音階打楽器の効果的な多用が印象に残りました。

続く松村のピアノ協奏曲第2番は、1979年に尾高賞を受賞(1969年の「管弦楽のための前奏曲」に次いで2回目)した他、同年発表の第10回サントリー音楽賞を作曲家として初めて受賞した際の受賞理由に挙げられた曲でもあります。そのサントリー音楽賞受賞記念コンサートを聴いたのがこの曲との最初の出会いでしたが、おお、調べてみるとその演奏会は偶然にも8月8日でした…。

昨年の大フィル東京公演でも「管弦楽のための前奏曲」を取り上げていた尾高さんは、個人的な親交もあり思い入れが強いのだろうと思いますが、今や貴重な「松村伝道師」です。しかしピアノ協奏曲となると、初演者の野島稔氏が亡くなって以降、この曲を受け継いで弾こうというピアニストが現れないことには演奏機会もなかなか生まれないわけで、今回この難曲に果敢に挑戦してくれる若手の登場は喜ばしい限り。北村朋幹氏は、見た目は若いというよりあどけない印象もありますが、35歳なのでそれなりのキャリアをすでに積んでおり、ベルリンを拠点として幅広いレパートリーで活躍する一方、現代音楽、特に邦人作品への情熱的な傾倒でも注目されているそうで、頼もしいです。

地平から突如マグマが湧き上がるような不協和音に導かれてトランペットのファンファーレが鳴り響く序奏から、ピアノの6連符オスティナートが暴力的にこれでもかと繰り返され、絡んでくる木管、金管、打楽器、弦楽もそれぞれバラバラな動きをしながら、ピアノと渾然一体になって疾走して行きます。オケはリッチな響きを醸し出し、良い感じだったのに対し、ピアノはちょっと線が細くて軽い印象。このバルトークばりの激しすぎる第一楽章は、ぐいぐいと進んでいく尾高氏の棒に何とか食らいついて行った感じで、ちょっと余裕はなかったかも。次の第二楽章は一転して休止と間が支配する「能」の世界。こちらはラヴェルを彷彿とさせますが、噛み締めるように静寂かと思うと、エネルギーを溜めてからめいっぱい叩き込むピアノのコントラストが、尾高氏が導くオケの重厚さに全然負けておらず、こういった間を取りつつ展開していく曲の方が北村氏は向いている様子。演奏後に拍手喝采を受けている北村氏を見つめる尾高氏のまなざしが、まさに孫を見守るお祖父ちゃんのようで微笑ましかったです。尾高氏は英国での活動歴が長く、BBCウェールズ・ナショナル管(BBC NOW)の桂冠指揮者の称号を得ていますので、北村氏を引き連れて、ぜひ英国や欧州でも松村作品を積極的にプログラムに取り入れてくれることを望みます。

ところでこの曲を聴くたびに思うことが一つあって、長い第二楽章が静かに終わった後に、あれ、この先はないのだろうかと。斬新で個性的な曲ではあるものの、語法としてはバルトーク、プロコフィエフ、ラヴェルなどの延長線上にあり、決して革命的なものではありません。であれば、第二楽章はもうちょっと刈り込んで凝縮し、さらにエッジの効いた第三楽章が付いていれば、より大きなポピュラリティを獲得できていたかも、という気がしてなりません。この曲は無調を装った調性音楽であって、その意味でとっつき易く、一聴して人を惹きつけるカッコ良さを持っているので、何かもったいないかなあと。まあ、もし3楽章構成だったら全く別の曲になっていたかもしれませんが。

休憩後のメインは、聴くのは今年2回目になるエニグマ変奏曲。尾高氏の専門分野である英国音楽の中でも、特にエルガーの交響曲を取り上げているプログラムをよく見かけますが、今日のプログラムであえて短い組曲のエニグマ変奏曲を選んだのは、前半の2曲が重すぎたからでしょうか。それはともかく、ここでも都響の演奏力をフルに引き出し、重心が低く濃厚、かつ起伏のはっきりとしたシャープな輪郭の演奏はまさに面目躍如の本領発揮で、先日聴いたLSOと比較しても引けを取らない素晴らしい出来栄えでした。特に低音を効かせた弦と、クリアで力強いトロンボーンが演奏を一段上のクオリティに引き上げていました。

時間的には短いプログラムでしたが、結局ピアノもオケもアンコールはなし。以前ロンドンで聴いた尾高/札響の演奏会ではエニグマ変奏曲から「ニムロッド」をアンコールでやってくれましたが、さすがに同じ曲の繰り返しはしませんでした。ここ数年で何人も亡くなったり引退したりといった日本の指揮者界隈において、現役では多分炎のコバケンの次くらいの長老になってしまった尾高さん、まだまだお元気で気力も充実してそうなので、このままぜひ日英を股にかけた活躍を期待しています。

BBCプロムス:ウィルソン/SOL:新世代の究極「ローマ三部作」2026/07/24 23:59



2026.07.24 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: John Wilson Conducts Respighi’s ‘Roman Trilogy’
John Wilson / Sinfonia of London
Jonathan Aasgaard (cello-2)
1. Verdi: The Force of Destiny – overture
2. Walton: Cello Concerto
3. Respighi: Roman Festivals
4. Respighi: Fountains of Rome
5. Respighi: Pines of Rome

14年ぶりのBBCプロムス、ただただ感慨深いです。しかし、チケットが高〜い!このコンサートは特に人気が高かったようで、希望していたクラスよりも2ランクも上の席になってしまいました。もとより音響も視界も総じて悪いこのホールで、気合を入れて聴きたいものは良席で、そうでもないものは安席で、というメリハリを効かせる余地もなく、「高い」か「超高い」か「鬼高い」しか選択肢がない、世知辛い世の中です。え?アリーナで立ち見しろって?全くもってごもっともです、自分も若いころなら…。

さて今年最初のプロムスは、謎の楽団、シンフォニア・オブ・ロンドン。特に今日の演目であるローマ三部作を収めたディスクが「新世代の名盤」として数年前に極めて高い評価を得ていたので、ぜひ一度生演奏を聴きたかったところでした。楽団の公式ホームページによると「英国及び国外のオーケストラの首席奏者、著名なソリスト、著名な室内楽グループのメンバーなど、優れた音楽家を集めて、年間通してレコーディングやコンサートのプロジェクトを敢行するスーパー・オーケストラ」とのことです。ルツェルン祝祭オケのようなコンセプトかと思いきや、趣旨はだいぶ異なるようです。歴史を辿ると、まず1955〜1969年に活動した第一期のシンフォニア・オブ・ロンドンがあり、これはフルート奏者のゴードン・ウォーカーがギャラの良い映画音楽の録音を行うために、ロンドン響から多数の奏者を引き連れて結成したとのこと。1982年にチェリストのピーター・ウィルソンと作曲家のハワード・ブレイクが、ウォーカー家から「シンフォニア・オブ・ロンドン」の命名権を買い取って、ブレイクが作曲したTVアニメ「スノーマン」のサウンドトラックを録音するため結成されたのが第二期になります。2002年までに「バットマン」「ヴァーチャル・ウォーズ」「ロボコップ」など数多くのハリウッド大作映画のサウンドトラックを手掛けました。そして時は流れて2018年に、映画音楽、ミュージカルなどライト・クラシック系の指揮やアレンジを得意とするジョン・ウィルソン(ピーターの血縁者ではなさそう)が、英国の独立系クラシック・レーベルChandosのバックアップを得て立ち上げたのが現在の姿になります。ホームページには音楽監督のジョン・ウィルソンを筆頭に、運営側の人は顔と名前が出ていますが、プレイヤーの具体的な情報が、コンサートマスターを含め一切公表されていません。年代から言っても第一期、第二期のメンバーが含まれているとは思えないし、実を言うと自分はCDを持っていないので、レコーディングごとのメンバー表が存在するのかどうかも不明です。プレイヤーの顔が見えず、今日目の前にいる人々が普段どこの楽団で演奏している人なのか、CDや去年の演奏会と同じなのかどうか、よっぽどの楽団員マニアならともかく、私にはお手上げの世界です。

前置きが長くなりましたが、見たところ奏者の年齢層は若く、女性が多め。今日のような大編成のプログラムでも、管楽器の数は必要最小限で、人海戦術で押し通すスタイルではなさそうです。1曲目の「運命の力」序曲はかつて部活のオケで演奏したことがあり、熟知した曲ですが、実演を聴いたのは2004年のコバケン指揮ブダペストフィル以来ですから相当のご無沙汰です。颯爽と登場したウィルソンは、気難しい芸術家風とは対極のビジネスマン風。記録をたどると過去に一度、2013年に英国ナショナルユースオーケストラで「惑星」を指揮した演奏会を聴いていました。冒頭のファンファーレは短く切り、キレの良い指揮で前ノリにオケを引っ張っていきます。ライト・クラシック系の人というと、どうしても「一流クラスではない」という先入観を持ってしまいがちですが、繊細なダイナミクスを上手くコントロールし、また奏者の演奏レベルも総じて高く、なかなかどうして、クラシック演奏として間違いなく上級クラスです。全体的にスマートな軽さがあり、今どきの人にはこういうのが受けるのかもしれません。

2曲目はウォルトンのチェロ協奏曲。家にCDはありましたが、ほぼ初めて聴く曲です。ソリストは、ノルウェー出身で普段はロイヤル・リヴァプール・フィルの首席奏者を務めるヨナハン・アースゴール。イタリアモノに挟まれて曲調も全く異なるこのご当地モノの選曲は、プログラムの意図がよくわからなかったのですが、昨年この顔合わせでCDが出たばかりなので、目的はプロモーションでしょう。緩急緩の3楽章構成で、無調に近い掴みどころのない曲。繊細で慎重な音出しは変わらず、こういう抒情的な曲も得意なんだよという自信の表れがある気もしました。

休憩後、後半にローマ三部作を一気に演奏するという、ある意味他で見たことがないチャレンジに、さらなる自信の表出を感じました。日本のオケなら、まず金管が鉄板で持たないから、もしこんな演奏会があったとしても怖くて聴きに行けません。演奏は、祭り、噴水、松の順。これは作曲順とは違いますが、CDと同じ流れとのこと。まず私の大好きな「ローマの祭り」は、サークル席の入口扉あたりに配置したバンダと、ステージ後方最上段にずらっと横並びした打楽器群がひときわ華やかな祝祭感を演出していました。やはりこのオケがただモノではないなというのがわかるのは、ほとんどブレない金管に、木管も一流のソロを聴かせ、タメを効かせた濃厚な味付けの弦アンサンブルも完璧で、どこを切っても立派な演奏。オルガンをことさらラウドに響かせていて、今まで聴いたことがない新鮮さもありました。なるほど、特に馬力が必要なこの曲を、オケが疲弊する前に最初にやってしまう曲順は、良い戦略かもしれません。

続く抒情的な「ローマの噴水」では、オケを上手くコントロールした繊細さが光りました。ここでもオルガンがはっきりと聴こえてきて、絶妙のパートバランスで、音圧をかけるところはこれでもかとかけ、繊細な箇所はとことんデリケートに、ダイナミックレンジが極端に広い演奏。これはやりたくても突然にできる話ではなく、単に優秀な奏者を揃えただけではないジョン・ウィルソンの統率力が透けて見えます。

最後の「ローマの松」では、オケの後方に配置した合計16人(のはず、数えた限りでは)のバンダが圧巻で、オケのメンバーも含めてこれだけの人数を集めて誰一人ヘタレないのがシンプルに凄いと思いました。「ジャニコロの松」のナイチンゲールのさえずり効果音ですが、一昨年聴いたルイージ/N響のように、昨今では打楽器奏者が鳥笛で対応することも多いのですが、今日はスコアに忠実にレコード(さすがにSP盤ではないでしょうが)を使っているようでした。終曲の「アッピア街道の松」はミドルテンポでひたすら山を上がっていく展開なので否が応にも盛り上がるためコンサートの最後に置くのはある意味定番ですが、それも最後までしっかりと鳴らし切れての話です。追加するバンダの力があれば乗り切りやすいのも確かとはいえ、オケ、特に金管がヘナチョコだと聴けたモノではないので、その意味でもこのシンフォニア・オブ・ロンドンはやはり噂通りタダモノではないハイクオリティの集団でした。まるで「ローマ三部作」をやるために結成されたと思えるくらい、ハマっていました。

帰りの足もあり、「松」が終わったらすぐに会場を出たのですが、後でBBC iPlayerを観ると、アンコールで「ウィリアム・テル」序曲のギャロップをやって笑いを取っていたもよう。三部作をやり切った後、さらにアンコールができる体力に感服します。現在の再結成後の体制ではまだ歴史が浅く、レコーディングもレスピーギの他はフランス界隈やラフマニノフ、コルンゴルドなど、オケの特質を活かしたレパートリーに絞っているようですが(確かに、このオケのベートーヴェン、ブラームスはちょっと怖い…)、今後もウォッチする価値は十分に感じました。セッション・オケなので当たり外れはありそうですが…。


最高!新しい学校のリーダーズ:ロンドン降臨@ラウンドハウス2026/07/19 23:59



2026.07.19 The Roundhouse (London)
Atarashii Gakko! (新しい学校のリーダーズ): “LONDON 降臨” AG! 11th Anniversary Show

クラシックの2025/2026シーズンがほぼ終了し、BBCプロムスが始まるまでの束の間の休息であるここ1ヶ月は、スティーブ・スミス、デフ・レパード、パット・メセニーときて、今日の新しい学校のリーダーズまでのこの流れは、我ながら節操ない雑食だなと思いました。

本日の会場Roundhouseは、地下鉄Northern LineのChalk FarmからCamden Townへ少し戻ったところに位置し、文字通り機関車の扇形庫だった施設をコンサート、演劇、映画等に使うため改装したものです。このクラスの会場では入口が一箇所のため入場に時間がかかり、行ってみたら案の定長蛇の列で、並んでから入るまで1時間近くかかりました。客層は若者中心で、原宿カワイイ系、ゴスロリ系、スーサイドスクワッド系など個性的なコスプレの人々が多数。中年、老年の人もそこそこおり、腕にびっしりと刺青している兄ちゃん姉ちゃんがセーラー服を着ているのはシュールながらどこか微笑ましいです。

中は円形のホールの一方にステージがあり、残りはオールスタンディング。着席の座席は上階になりますが、数はそんなに多くなく、結局全体でキャパは約3000人とのこと。上階の席は10列ほどしかなく、どこで見てもステージが結構近いのがこのホールの利点と思いました。元からあったと思われる柱が邪魔と言えば邪魔ですが、見通しは良かったです。

新しい学校のリーダーズはSUZUKA、KANON、MIZYU、RINの女性4人から成るダンスボーカルユニットで、全員20代後半の若い人々ですが、メンバー交代もなくすでに11年のキャリアがあります。自分のバンドのレパートリー探しで新しめのJ-POPを常々追いかけている中で、「オトナブルー」が流行った2023年ごろからウォッチはしていましたが、ライブを見るのはもちろん初めて。そのルックス、キャラ設定、音楽性から、海外志向があるとはとても思えなかったのですが、実のところ2020年から米国のレーベルと契約して、「Atarashii Gakko!(通称AG!)」の名称で積極的に海外展開しているのが非常に意外でした。しかも主戦場は中国・アジアではなく、欧州、北米、南米の西洋文化圏。日本独特のセーラー服仕様の女子制服に、全て日本語歌詞で五音階スケールを多用した楽曲、ガニ股で腰を折り重心を低くしたコミカルな振付など、どこにも外国に媚びた様子が見当たらないそのスタイルは、実は一周回って正解だったのかと思いました。

満員御礼のスタンディング客から「AG!」コールが湧き上がる中、日本人にはお馴染みの学校のチャイム音(この音階のオリジナルはビッグ・ベンの時鐘だそうですね)が鳴り、4人がすっと登場。生バンドはなく音源を使うパフォーマンスで、クラブイベントの様相でした。狭いステージも4人だけなら十分な広さがあります。ステージ後方のスクリーンはプリメイドの映像を流すのみで、ライブ中継の投影はありません ただ、ステージが近いのでスタンドから肉眼でも十分見えたし、オペラグラスだと表情までくっきりと見えたので良かったです。

キャラ設定が全く異なる4人ですが、11年もやってるからダンス・パフォーマンスは完成されていてたいへん上手く、息もぴったり。知らない曲がほとんどでしたが、激しいダンスナンバーありーの、アイドルチックな曲もありーの、韓流ともAKB・坂道系とも違う独自の個性が存分に発揮された、とても面白いライブでした。全部日本語の歌詞なのに、イギリスの若者はノリノリで歌います。一方のAGメンバーのMCは、さすがに原稿丸暗記の英語でしたが、時々飛んでたのが微笑ましい。「Our English is not good enough」と言い訳をして笑いを取ってました。「Tokyo Calling」では、ライブの定番だそうですが、SUZUKAがオールスタンディングの客を突っ切って反対側まで行き、フェンスのヘリに立って歌った後に、クラウドサーフでお客に持ち上げられながらステージに戻ってきました。もちろんずっとガードの人は付いていましたが、危なっかしくて見ていてハラハラしました。ウェーブの途中で方向がずれ、なかなか戻れないSUZUKAは「プリーズ」と叫びながら軌道修正し、無事時間内でステージに戻ってこれたので一安心。

アンコールではSUZUKAとRINが黒、KANONとMIZYUが白の「ロンドン降臨」限定のライブTシャツに着替えて、リリース間近の新曲と、SAIKO!で盛り上がる「One Heart」で締め。前座もなく全部で1時間20分という単独としては短めのライブでしたが、自分的にはちょうどいい長さで、十分満足しました。

2026/07/19 set list:
Go Wild
Toryanse
Chanka Chanka
Otona Blue
Arigato
TTTTOKYO
Catch That Train (Kanon solo)
Kore de E (Mizyu solo)
Waiting for Good Time (Rin solo)
Dance Dance
Oi AG!
Fantastico
Forever Sisters
UTAGE HIKARU
Pineapple Kryptonite (remix)
Fly High
Tokyo Calling
Encore:
Take Me with You
One Heart




パット・メセニー@バービカン・サマー・ジャズ・シリーズ2026/07/18 23:59



2026.07.18 Barbican Hall (London)
Pat Metheny: Side-Eye III+ Tour 2026
Pat Metheny (guitar)
Chris Fishman (piano, keyboards)
Joe Dyson (drums)
Jermaine Paul (vocal, bass)
Leonard Patton (vocal, percussion)

30年ぶりに生で聴くパット・メセニーです。自分のバンドで過去に何曲か取り上げた関係で、パット・メセニー・グループ(PMG)の初期のアルバムをいくつか持っているものの、1996年の来日公演@パシフィコ横浜を観て以降は、その間の動向をつぶさに追いかけていたわけではなかったのですが、バービカンに来るとなれば聴きに行かないという選択肢はありません。チケットが予想外に高かったのでバルコニー席でがまんすることにしたのですが、直前になってストール最前列ど真ん中の席がリターンされているのを発見、これはプライスレスだと思って即ゲットし、バルコニーのチケットはリターンしました。

世の中は30年前と比べるとずいぶん便利になっていて、ファンサイトながら「The Pat Metheny Database (PMDB)」という極めて充実したデータベースを公開されている奇特な方がいらっしゃいまして、それを参照すると1996年の横浜公演のメンバーとセットリストを確認することができました。
PMGの「James」や、ミルトン・ナシメントの「Vera Cruz」をやっていた他はカバー曲が多く、バンドというよりもジャムセッションだった、という自分の記憶を追認できました。2012年のバービカン公演も聴きに行くチャンスはあったのですが、他の予定とクラッシュしたので断念していました。

この8月で72歳になるメセニー、若手ミュージシャンを採用したユニット、Side-Eye III+で新譜を2月末にリリースしたばかりですが、3月から早速全米とヨーロッパを廻るワールドツアーを鋭意敢行中です。ほぼ毎日、日によっては昼夜2回のライブをずっとこなしていて、ヨーロッパではポーランド、スロヴェニア、ハンガリーの東欧圏を含む11カ国を歴訪するという移動もたいへんそうなツアーで、若いメンバーは良いとして、70歳を超えてもこれだけ精力的にドサ周り的な活動ができるメセニーの情熱と体力にまず脱帽です。

開演のセレモニーで、メセニー以外のメンバーは客席後方からマーチングドラムで入場。今回のユニットはメセニーに加えてドラムとキーボードがコアメンバーですが、ツアーではサポートとしてベースとパーカッションが加わった5人編成になります。キーボードはオタクっぽい白人メガネ、ドラムはドレッドヘアの黒人ヒゲ男で、72歳のメセニーと比べたら若いとはいえ、どちらも見たところ30代半ばの中堅セッションプレイヤー。サポートベースも同世代に見えましたが、パーカスはだいぶ年齢がいってそうで、このサポートの黒人ふたりはソウルフルな美声を活かしてボーカルも担当します。メセニーはトレードマークのもじゃもじゃヘアが変わらず健在で、年齢的にはもしかしてヅラかな、とも勘ぐりましたが、ジャズギタリストがあえてヅラにする理由も思いつかないので、幸せな地毛であろうと結論しました。

ドラムセットはワンタム、ツーフロアのシンプルなジャズのセットですが、ツースネアと多彩なシンバルが特徴です。キーボードはグランドピアノ、オルガン、シンセにぐるっと囲まれて、いかにもなオタク風。ベースはほとんどダブルベースで弾いていて、ときどきエレキベース、という感じ。

セットリストはざっくり言うと、新譜である「Side-Eye III+」の曲と、パット・メセニー・グループ(PMG)時代の曲を交互に演奏する構成でしたが、これが驚くほどスムースに繋がって、違和感がない。今回の新譜はPMG時代への回帰という評判が一部で言われているのもうなづけます。新譜を聴いた限りドラムはもっと尖った人の印象だったのですが、実演のプレイはそんなにアグレッシブではありません。スネアの抜けた音が気持ちよく、手は速いけれども変態的ではなく、シンバルワークを中心に、普通に上手いジャズドラマーの感じ。メセニーのギターおよびギターシンセは全く衰えを感じさせない、枯れるどころか瑞々しいパッション溢れるもので、しかも難曲の「First Circle」を含むPMG時代の曲を期待以上にやってくれたので、非常に盛り上がったライブになりました。「Phase Dance」はピアノとギターのデュオでしたが、構成はほぼ原曲通りだったので、だったらなぜドラム、ベースも入れたフル編成でやってくれないのだろうかと、不思議に思いました。アンコールは二回に分けて、どちらもアコギソロに続きPMGの曲という構成。休憩なしで2時間半のライブを難なくこなすメセニーは、まだまだ現役感満載でした。隣席で終始ノリノリ、キャーキャーと黄色い歓声を投げていたおばさんから、終了間際に「本当は息子と一緒に聴きに来る予定だったけど、息子は調子が悪かったのでその席のチケットを手放したのよ、あなたはラッキーね」と声をかけられ、おっしゃる通り、期せずして絶好の良席で生メセニーを堪能することができ、たいへん満足です、ありがとう。

Set list:
Opening drum intro
In On It
Bright Size Life
Don’t Look Down
Better Days Ahead (Pat Metheny Group song)
Timeline (Michael Brecker cover)
Make a New World
The First Circle (Pat Metheny Group song)
Urban and Western
The Red One (John Scofield & Pat Metheny song)
Más allá (Beyond) (Pat Metheny Group song)
Phase Dance (Pat Metheny Group song) (guitar and piano duet)
Round Trip / Broadway Blues
Zenith Blue
Encore:
America The Beautiful / The People United Will Never Be Defeated / Last Train Home (solo acoustic guitar)
Are You Going With Me? (Pat Metheny Group song)
Minuano (Six Eight) / As It Is / James / September Fifteenth / This Is Not America / Antonia (solo acoustic guitar)
Song for Bilbao (Pat Metheny Group song)

デフ・レパード with エクストリーム@O2アリーナ2026/07/02 23:59



2026.07.02 The O2 Arena (London)
DEF LEPPARD: Live 2026 with special guest EXTREME
Extreme:
Gary Cherone (vocal)
Nuno Bettencourt (guitar)
Pat Badger (bass)
Kevin Figueiredo (drums)
Def Leppard:
Joe Elliott (vocal)
Phil Collen (guitar)
Vivian Campbell (guitar)
Rick Savage (bass)
Rick Allen (drums)

初のO2アリーナ。2007年完成なので比較的新しいライブ会場です。かつての駐在時は、まだできて間もないこのO2アリーナでマイケル・ジャクソンが「THIS IS IT!」の連続公演をまさに行おうとしていたところだったのを思い出しました。こういった大きなアリーナ系や屋外会場は音とビジュアルのどちらも楽しめないという先入観があり敬遠していたのですが、他ならぬデフ・レパードということで、残りわずかになっていたチケットを思わずポチッと。デフ・レパードのライブは1993年の来日公演「Adrenalize Tour」を日本武道館で観て以来、実に33年ぶりです。さらに後になって、オープニング・アクトがエクストリームという予想外のビッグネームであることに驚きました。

3月の高中のライブが、開場時間を過ぎたころに着いてみたら長蛇の列が会場を一周半回るような状態で入場までかなり時間がかかってしまったので、その反省で早めに出発したら、18時半開場の1時間くらい前に着いてしまいました。それでもすでに数十人並んでいましたが、長蛇には程遠かったし、O2アリーナは入り口が多数あるので、これなら開場時間ギリギリでも全然余裕だったかと。中に入ると、ちょうどドーム球場のようにゆったりと広々した空間があり、アーティストのグッズ売り場も人が少なく余裕でツアーTシャツを買えました。

アリーナの中は、東京ドームほどにはバカデカくないけど日本武道館よりははるかに大きい感じです。実際にキャパを調べてみると、東京ドーム5万5千人、武道館1万4千人に対してO2アリーナは2万3千人、まあそんなところです。同じロンドンで比較すると、ウェンブリー・スタジアムの9万人は屋外会場なので除外するとして、ウェンブリー・アリーナの1万2千人からは倍近くになり、実際に屋内のライブ会場としてはヨーロッパ最大級だそうです。今回、一番安い席はどのみちステージから遠いので、できるだけ正面側の席を選びましたが、それにしても遠い。オペラグラスでLEDスクリーンを見るとちょうど良い、くらいの距離でした。

エクストリームは19時30分過ぎに始まりました。彼らのライブを見るのは初めてでしたし、聴き込んだバンドではないのであまり曲がわからなかったのですが、ゲイリー・シェローンとヌーノ・ベッテンコートはどちらも遠目に見た限りでは老けた感じは全くなく、若いころと変わらずスリムな体型で、動きもシャキシャキとした躍動感があり、現役バリバリ感がハンパなかったです。ゲイリーは今年65歳、ヌーノも60歳の還暦になりますが、歌もギターも衰えを感じさせず、いやー、さすがエクストリーム、カッコ良かったです。また彼らならではの遊びとして、曲のイントロで「We Will Rock You」ライブバージョンをちょろっとやってみたり、アコースティックタイムで「天国への階段」をちょろっと弾いてみたり、最後はオジー・オズボーン・メドレーで締めるというサービスぶり。フレディー・マーキュリー追悼コンサートでクィーン・メドレーを時間いっぱいやったその気骨は、今なお健在でした。

Extreme Set List:
Decadence Dance
#REBEL
Rest in Peace
Play With Me (With Queen's 'We Will Rock You' intro)
Hole Hearted
Midnight Express
More Than Words
Get the Funk Out
RISE
Flight of the Wounded Bumblebee
I Don't Know / Bark at the Moon / Crazy Train (Ozzy Osbourne cover)


少し休憩を挟んで、メインのデフ・レパードは21時きっかりに開始。1993年のライブと全く同じメンバーが今なおステージに立っているのは、よく考えると凄いことです。最年少のリック・アレンが62歳、最年長のフィル・コリンが68歳、とりあえず皆身体は元気そうです。元々短髪だったフィルはもうしっかりとハゲになり、1993年当時は加入したばかりだったヴィヴィアン・キャンベルも、チャラいカーリーロングヘアはもうありません。隻腕のドラマー、リック・アレンは若いころと比べるとずいぶん顔つきがイカツくなりましたが、ミドルテンポの曲を中心に、一発一発ビートを深く叩き込んでいく安定感は健在というかますます進化していました。ドラムセットを取り囲む円形のレールにはドラマー専用のカメラが設置されていて、遠隔操作でレールに沿って行ったり来たりで撮影された動画は時折そのままバックの大スクリーンに投影されます。不屈の精神力はもちろんのこと、技術の進歩にも支えられた、唯一無二のドラマーです。もし自分が右腕だけでドラムを続けたらと想像すると、片腕だけにかかるアンバランスな負荷は尋常じゃないハードワークになり、とても40年は身体が持たず、早々に頼みの綱の右腕も壊してしまってジ・エンド、という未来しか思い浮かびません…。

セットリストはやはり驚異的に売れたアルバム「Hysteria」からの選曲が多く、シングルカットされた7曲のうち6曲がセレクトされてました。他のアルバムからは多くても2曲で、個人的には「Foolin'」もやって欲しかったですが、概ね満足のセットリストでした。特にラスト、「Armageddon It」以降の畳み掛けるヒット曲波状攻撃は、古い曲ばかりとはいえ、バンドがここまで築き上げた実績があってこそできることで、大いに盛り上がりました。ただちょっと残念だったのは、ジョー・エリオットのボーカルが調子悪く、高音域がかなり苦くなっていた状況で、「Rock of Ages」から「Photograph」にかけての最高潮の場面ではもうサビが裏声しか出なくなってしまっていたことです。コーラスがしっかりしていたので曲としてはなんとか聴けましたが。ジョーも今年67歳、まあ高音域が出なくなるのは自然の摂理で仕方がないことですが、ほぼ同世代のゲイリー・シェローンがまだまだ現役感を出していたのと対照的に、ジョーについてはだいぶ「老い」を感じてしまいました。

11時手前まで、ほぼ2時間のショーが終わると怒涛の人数が会場を出て一斉にノース・グリニッジ駅に向かうので、大混乱と大混雑を避けるためにアンコールラストの「Pour Some Sugar On Me」が終わるや否や会場を飛び出し、一目散に駅にダッシュしました。O2アリーナはロンドン西側から行くにはちょっとアクセスが悪いうえに、ライブの終了時刻も遅いのがネックですね…。

Def Leppard Set List:
Rejoice
Animal
Let's Get Rocked
Personal Jesus (Depeche Mode cover)
Bringin' On the Heartbreak
Switch 625
Just Like '73
Rocket
Rock On (David Essex cover)
White Lightning
Slang (with Nuno Bettencourt)
Promises
Armageddon It
Love Bites
Rock of Ages
Photograph
Encore:
When Love and Hate Collide
Hysteria
Pour Some Sugar on Me


スティーヴ・スミス&ヴァイタル・インフォメーション@ロニー・スコッツ2026/06/27 23:59



2026.06.27 Ronnie Scott’s Jazz Club, Main Stage (London)
Steve Smith & Vital Information
Steve Smith (drums, konnakol)
Manuel Valera (piano, Fender Rhodes, Hammond B3 organ, synths)
Janek Gwizdala (electric bass)

1ヶ月ぶりのロニー・スコッツは、スティーヴ・スミスがジャーニー在籍時の1983年に結成したジャズ・フュージョンバンド、ヴァイタル・インフォメーション。ジャズドラマーとしてステップス・アヘッドやプレイヤーズでの活躍も評価されつつ、基本的にはやっぱり「元ジャーニー」という肩書きで語られる人で、ヴァイタル・インフォメーションがスティーヴ以外のメンバーはガラリと入れ替わりつつも40年以上に渡って商業的に活動できているのは、ひとえにその看板があってのことなんじゃないかと思います。

ロニー・スコッツ初心者につき色々試しているところ、今日はあえてRestricted Viewの席にしてみました。前回のStandard席は肝心のドラムが柱の影で見えず欲求不満が残ったので、ちょっと不安を感じていましたが、今日はステージにグランドピアノが入ったおかげでドラムの位置が変わり、柱に遮られることなく見通せるようになったのがラッキーでした。Sonorのドラムにジルジャンのシンバルを合わせたセットは、シンバルの位置も低く、至ってコンパクトでオーソドックス。特徴といえばブラシ用にスネアが二つあったことくらいでしょうか。

スティーヴ・スミスの生ドラムを聴くのは初めてですが、ドラムスタイルはジャーニーの面影など全くない、完全なジャズドラマーでした。ジャーニー時代のプレイはレコードで刷り込まれるほど聴いていますが、シンプルにビートを刻みつつも、安定したグルーヴ感が心地よい、非常に基本がしっかりしている(とアマチュアが評価するのも失礼ですが)ラウド系ロックドラマーという印象でしたが、リアルなスティーヴは、音が特別ラウドなわけでもなく、頻繁にグリップをマッチドからレギュラーに持ち替えて、ブラシも多用し、プレイ自体は既存のジャズプレイからはみ出ない極めてスタンダードなスタイル。この人しかできない、というような特殊技術のスーパープレイはない代わりに、手数自体は多いので全体的に「脈絡なく音が多くてうるさいドラム」という印象を持ちました。

曲はヴァイタル・インフォメーションのアルバム(いっぱいあるんですね、知りませんでした)からの選曲のほか、ステップス・アヘッド「Sumo」、サウンドガーデン「Black Hole Sun」のカバーに加えて、ジャーニーの「Don't Stop Believin'」「Who's Crying Now」もカバーしてました。ただしジャーニーはほとんど原型を留めないジャズアレンジで、言われなかったらわからないかも、というレベルのカバーでしたが。ドラムスタイルは全く変わっても、やはりジャーニーの看板は捨てられません。

ヴァイタル・インフォメーションのバンド歴は40年以上あるものの、現在のメンバーは2020年から。初期にはマイク・スターン、フランク・ギャンバレといったスーパーギタリストが参加していましたが、今はピアノトリオの編成です。ピアノとキーボードのマヌエル・バレラはキューバ出身、シンセの音作りがちょっと濁っている気がしました。ベースのヤネク・グウィズダラは、名前はポーランド系ですがイギリス出身の人気ベーシストとのこと。いずれにしてもこのバンドはスティーヴ・スミスが中心であってほかのメンバーはあくまで彼のサポートに徹することを要求され、スリーピースとしてのバランスは悪く、スリリングさに欠ける気がしました。先日のデイヴ・ウェックルは実質のリーダーがベースのトム・ケネディでしたので、ドラムをフィーチャーしつつも緊張感あるバランスを保っていたと思いました。もちろんスティーヴ・スミスの卓越したテクニックとコナッコル(口ドラム)は一聴の価値があると思いましたが、またぜひ聴きたいかと言うと…。すいません。

とこれを書いている今、ちょうどテレビで「Separate Ways」のビデオクリップが流れていて、見入っていますが、スティーヴは当時からレギュラーグリップ中心で、バンドでも一番長髪だったんですねえ…。今はその片鱗なくツルツルのボールドヘッドですがww。

おまけ。チャイナタウンはお祭り。


イブラギモヴァ・トリオ:最初期のドビュッシーと、創成期のラヴェル2026/06/15 23:59



2026.06.15 Wigmore Hall (London)
Alina Ibragimova (violin)
Christian Poltéra (cello)
Cédric Tiberghien (piano)
1. Debussy: Piano Trio in G (1880)
2. Ravel: Piano Trio in A minor (1914)

4月にここウィグモア・ホールでソロリサイタルを聴いたセドリック・ティベルギアンと、長年のパートナーであるアリーナ・イブラギモヴァ、さらにスイス人チェリストのクリスティアン・ポルテラが集ったピアノ・トリオの演奏会。普段行かない室内楽のチケットをなぜ取ったかと言えば、この演奏会が午後1時からのランチコンサート的な位置付けで、時間が短くチケット代も通常より安かったことと、何よりアリーナとティベルギアンのペアを生で聴いてみたくなったからです。

このトリオは、トリオとして特にパーマネントな活動をしているわけではなさそうです。年齢は、ティベルギアン51歳、ポルテラ49歳、アリーナ40歳ですが、やはり若き天才肌のアリーナをベテランおじさんたちが支える図式に見えてしまいますので、ピアノ・トリオでありながら、「ティベルギアン・トリオ」よりも「イブラギモヴァ・トリオ」と呼ぶ方がしっくりくる気がします。実際、チケット上に書かれていたのもアリーナの名前のみ。

さて、元々室内楽は守備範囲外のうえ、三重奏曲と言って頭に浮かぶ曲はほぼ皆無。2022年の第2回「松村賞」受賞作品演奏会を聴いた際も、このときの応募の縛りは「三重奏」だったのですが、受賞作にスタンダードなピアノ、ヴァイオリン、チェロの構成はほとんどなく、何の参考にもなりません。この程度のバックグラウンドしか持っていませんので、三重奏曲の聴き方や演奏の良し悪しなどまるでわかっていないのはご容赦。

1曲目はドビュッシーが18歳のとき、チャイコフスキーのパトロンで有名なメック夫人のために書かれた曲という史実の伝承はあったものの、フルスコアは作曲者の死後60年以上経ってからようやく発見され、若干の補筆を経てちょうど40年前の1986年に出版された曰く付きの曲とのこと。キャリア最初期の作品であり、いわゆるドビュッシーらしいメロディやハーモニーはほとんど見られませんが、多分当時の聴衆からすると、早熟の若者によるちょっぴりモダンなロマン派音楽、というふうに聴こえたのではないかと思います。

アリーナは過去2012年と2017年に聴いていますので、9年ぶり。素朴な童顔がチャーミングなピチピチの若手、というイメージだったのですが、やはり40歳になった今はだいぶベテランの風格が出てきています。非常に澄んだ音で瑞々しく進むかと思いきや、急に意図的な「荒れ」を入れてきたり、表現の振り幅が大きいヴァイオリンです。しかしチェロはでしゃばらずに終始大人の落ち着きで、ピアノも弦の二人をまとめて包み込むような角が取れてふっくらとした演奏。この3人での理想のバランスに到達していたと思います。全体としては、丁々発止の緊張感よりはもっと調和的な和やかさと統一感を醸し出していました。

ラヴェルのほうの三重奏曲は、こちらは作曲者が第一次大戦に従軍する直前の、作曲家としてまさに豊かな着想と意欲がみなぎっていた時期の作品なので、ラヴェルっぽい色彩感とリズムが随所で聴かれる佳作です。バスク地方の舞曲をヒントにしたと言われる、いかにも民謡調のペンタトニックなテーマで始まりますが、途中の展開が予想を裏切り、まるでピアノ協奏曲を聴いているかのような重層的でとても一言で言えない音楽。息がぴったり合っているのと、さっきと同じく絶妙なバランスで響かせるので、ホールの音響も相まってとても3人とは思えない音場が隅々まで伝播していました。ここは本当に音が良いホールで、どの楽器も粒立ちよく聴こえる分、誤魔化しが効かない怖さもあると思うのですが、この人たちにはもちろん心配ご無用、ハイクオリティの三重奏を聴かせていただきました。ピアノとヴァイオリンまたはチェロのデュオよりも、弦楽四重奏よりも、この三重奏という形態は自分にとって染み込みやすい室内楽のジャンルかもという予感があり、もっと研究をして臨まないといけないなあと思った次第です。


ロンドン響/パッパーノ:MTTに捧ぐ、エニグマ変奏曲とマーラー第5番2026/06/11 23:09



2026.06.11 Barbican Hall (London)
Sir Antonio Pappano / London Symphony Orchestra
1. Elgar: Variations on an Original Theme, ‘Enigma’
2. Mahler: Symphony No. 5

今日は今年4月に亡くなった桂冠指揮者、元首席指揮者のマイケル・ティルソン・トーマス(MTT)に捧げる追悼演奏会ということになり、開演前にパッパーノ及び理事長(その後第2ヴァイオリンで演奏にも参加)の挨拶がありました。

1曲目「エニグマ変奏曲」を前に聴いたのは2012年のティッチアーティ/LSOの女王降臨演奏会でしたので14年ぶりです。MTT追悼ということで気合いがみなぎるパッパーノ大将、いつにも増してドラマ仕立ての作り込みでした。ナイジェル・トーマスのティンパニが冴え渡り、ドラマチックな盛り上げに貢献します。

メインのマーラー第5番も久しぶりで、10年前、2016年の山田和樹/日本フィル以来です。こちらもメリハリ強めの演奏で、ホーンセクションの馬力に感服しました。トランペット、トロンボーンは言うまでもなく完璧な仕上がりで、ここ最近ピリッとしなかったホルンも、まあやっぱりもつれてしまってピリッとしない箇所もあるにはあったのですが、それで萎縮せず6人が一丸となって思い切りよく吹き切った結果、金管は圧倒的な迫力バランスで鳴り響き、最後まで馬力が落ちなかったのはさすがです。第5番はマーラーの中では3管編成+α、ティンパニも一人と、相対的には少ない人数で演奏する曲なのですが、それでいてこの音の洪水感は凄いです。ただ、メリハリの中でアクセルをかける部分はイケイケドンドンで良かったのですが、ブレーキをかけなくてはならない部分は逆に引っ張りすぎで胃もたれがして、この曲の冗長さが際立ってしまう演奏だったかなと思います。