フィルハーモニア管/ロウヴァリ:ヘヴィメタルと管弦楽の饗宴2026/04/22 23:59



2026.04.22 Royal Festival Hall (London)
Forged in Sound: Heavy Metal Orchestrated
Santtu-Matias Rouvali / The Philharmonia Orchestra
Zsolt-Tihamér Visontay (solo violin-13)
Mr Lordi (from Lordi, vocal-5, 16)
Alison Mosshart (from The Kills, vocal-7, 10)
Suzi Quatro (vocal-3, 12)
Marzi Nyman (guitar), Pete Friesen (guitar)
Jonathan Noyce (bass), Hayley Cramer (drums)
1. Wagner (arr. Iain Farrington): Ride of the Valkyries from Die Walküre
2. Metallica (arr. Iain Farrington): Orion
3. Suzi Quatro/Mike Chapman & Nicky Chinn (arr. Fiona Bryce): Can the Can
4. Shostakovich: Allegro from Symphony No.10 in E minor
5. Metallica (arr. Fiona Bryce): Enter Sandman
6. Daniel Nelson: Steampunk Blizzard
7. The Kills (arr. Fiona Bryce): Doing It To Death
8. Mosolov: The Iron Foundry
9. Holst: Mars, the Bringer of War from The Planets
10. Motörhead (arr. Fiona Bryce): Ace of Spades
11. Mahler: Excerpt from Adagietto from Symphony No.5
12. Guns N' Roses/Bob Dylan (arr. Fiona Bryce): Knockin’ on Heaven’s Door
13. Led Zepplin (arr. Jaz Coleman): Kashmir
14. Vivaldi (arr. Iain Farrington) Presto from Summer from The Four Seasons
15. Saint-Saëns (arr. Iain Farrington): Finale from Symphony No.3 in C minor (Organ)
16. Mr Lordi (arr. Marzi Nyman): Hard Rock Hallelujah

このコンサート、通常の定期演奏会とはチケット発売日も違っていて、特別演奏会のような位置付けで「Into The Void」という仮タイトルと、ヘビーメタルとオーケストラの融合を目指すらしいということ以外は出演者含め詳細が全く分からないながら、なんだか面白そうなので渡英前からチケットを買っていたものです。「Into The Void」というからにはブラック・サバスを軸にした70年代のハードロック中心の選曲で、願わくばオジー・オズボーンにも登場いただいて、という企画が当初のプランAだったのだと想像しますが、残念ながらオジーは昨年7月に亡くなってしまいましたので、急きょプランB以降をバタバタと調整した結果、Mrローディ、スージー・クアトロ、ザ・キルズのアリソン・モシャートの3ヴォーカルをゲストに迎えて、タイトルも「Forged in Sound」に変更されたのだと思います(これも全く個人の想像ですので事実は知りません)。ヘビーメタルと謳ってはいますが、Mrローディ以外の二人はパンクとかインディーズの文脈の人であって、ゲストの選定にだいぶ苦労の跡が感じられたのと、本人たちの心情としてもヘビメタと一緒くたにされるのはちょっと不本意なのでは、と心配してしまいました。

ホールに入ると照明が暗く、アンプ、PAが設置され、最後段にはアクリル板に囲まれたドラムセット、のっけから違う雰囲気です。客層も、ヘビメタTシャツに革ジャン、ピアスにアクセサリじゃらじゃらといった、いつもとは違う出立ちの人々がやっぱり多いなと思っていたら、登壇したオケメンバーも皆さん同じようにラフな格好。真面目なカタブツだと思っていたコンマスのジョルト氏も、レッド・ツェッペリンのTシャツに革ジャンを羽織り、右目には縦線のピエロメイクをしています。

本日のプログラムは多数の多彩な曲が用意されていますが、合計16曲のうち、純粋なオーケストラのレパートリーは以下の5曲。
・ショスタコーヴィチ:交響曲第10番から第2楽章アレグロ
・ネルソン:スチームパンク・ブリザード
・モソロフ:鉄工場
・ホルスト:組曲「惑星」から「火星」
・マーラー:交響曲第5番から第4楽章アダージエット(抜粋)

以下5曲はオーケストラとバンドの共演のための編曲。
・ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」から「ワルキューレの騎行」
・ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」から「夏」第3楽章プレスト
・サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付」からフィナーレ
・メタリカ「Orion」(1986)
・レッド・ツェッペリン「Kashmir」(1975)

あとは出演ヴォーカリストそれぞれの持ち歌と、ヴォーカルを取ったカバー曲。
・スージー・クアトロ「Can The Can」(1973)
・ガンズ・アンド・ローゼズ(原曲はボブ・ディラン)「Knockin’ on Heaven’s Door」(1990)
・ザ・キルズ「Doing It To Death」(2016)
・モーターヘッド「Ace of Spades」(1980)
・ローディ「Hard Rock Hallelujah」(2006)
・メタリカ「Enter Sandman」(1991)

今日の席は目の前にPAスピーカーがあって、そのおかげで音がうるさ過ぎた、ということはないのですが、特にオーケストラだけの曲では目の前の楽器の生音と、遠くにあるはずの楽器のスピーカーを通した痩せた音が有無を言わさず至近距離から同時に耳に入ってきて、非常に違和感がありました。PAを通して聴こえる弦楽器の音は実際の生音よりも荒れて汚く聴こえるため、オーケストラの演奏会という視点に固執すればせっかくのフィルハーモニア管の潤いある弦楽が台無しだったと言わざるを得ませんが、まあ今日の趣旨では仕方がないことです。あとは、オーケストラとヘビメタバンドの融合とはいっても、バンドがガッツリ入ってくるとオケのほうは結局あってもなくても大差ない音場になってしまって、やっぱりこの二つは水と油、融合させるアレンジはストレートにやっても難しいなという認識を深めました。そんな中でも最後のサン=サーンス「オルガン付」はパイプオルガンの迫力とブラスの音圧がバンドサウンドに対抗し、相乗効果でたいへん良い感じに共鳴していました。あと、Heavy Metal(重金属)の関連でForge(鍛造する)という聞きなれない用語をタイトルにした都合からか、後から追加されていたモソロフの管弦楽小品「鉄工場」は、まさに鋳造炉の騒音をそのまま楽譜にしたようなソリッドな描写音楽で面白かったです。同時代のオネゲル「パシフィック231」もコンセプトとしては同系列かと思いますが、重工業の隆盛にインスパイアされた、その前の時代にはなかった当時の前衛音楽かと思いました。

ヘビメタ系だとライブハウスでよくあるような耳がジンジンするほどの音量では全くなかったのですが、それでも楽団員の半数近くは耳栓型のワイヤレスイヤホンをしていて、いくらアクリルの衝立があるとはいえ真横でドラムやギターを鳴らされたら繊細な聴力がダメージを受けかねませんので、やはりそのへんはプロの演奏家、ご自身の耳を守る配慮はされているようでした。そういえばLSOの打楽器首席奏者、ニール・パーシーが珍しくトラで加わっていましたが、密閉型のヘッドフォン(多分耳栓代わり)をしながら淡々とシンバルを叩いてたりして、見た限りあまり楽しそうではない様子で、特に複雑な仕事を任されているでもなく、何でわざわざトラを引き受けたんだろうと疑問に思いました。

正直なところ、ローディ、ザ・キルズ、スージー・クアトロのいずれも自分の視野に入ってなかったミュージシャンにつき、思い入れ溢れる感慨はないのですが、皆さんそんなに若くはないはずなのにパフォーマンスはまだまだ現役バリバリの活力とオーラが出ていました。スージー・クアトロなんかもう75歳ですが、ステージに立つと「おばあちゃん感」を見せないしゃきっとした立ち姿で、先月見た同世代にあたる高中正義バンドの人々の元気溌剌ぶりが頭でカブリました。今日歌っていたセカンドシングルの「Can The Can」は1973年、スージーが22、3歳のときの曲ですから、50年以上の時を経て今なおステージでこれを歌っているバイタリティは率直に凄いです。なお、後から追加で発表された「Kashmir」は誰が歌うんだろうと思っていたら、コンマスのジョルト氏が立ち上がり、ヴォーカルの代わりにソロヴァイオリンでテーマを弾くという趣向でした。なるほど、それでツェッペリンTシャツだったのか。

バンドメンバーは、リードギターのハゲ親父、マルツィ・ナイマンが良かったです。プロフィールを見ると、クラシックからジャズ、ロックまで幅広く対応し、作曲も手掛けるマルチ・タレントですが、ギターが本当に好きなんだなと見て取れるプレイは好感が持てました。この人とMrローディはフィンランド人なので、ロウヴァリの同郷人脈から連れてきたのかもしれません。もう一人のギター、ピート・フリーゼンはアリス・クーパーやブルース・ディッキンソンと、ベースのジョナサン・ノイスはゲイリー・ムーアとそれぞれ共演歴があるようで、ドラムのヘイリー・クレイマーもプロバンド活動を続けているミュージシャンたちですが、今日のプレイでは可も不可もなく、まあ普通の演奏でした。長いブロンドヘアのスレンダーマッチョウーマン、ヘイリーには期待していたのですが、残念ながら自分の席からほとんど姿が見えませんでした・・・。

アンコールは(楽譜を覗き込むと)「She Sells Sanctuary」というイギリスのオルタナ系ハードロックバンド、ザ・カルトの1985年の曲を、ヴォーカル抜きのインストアレンジでやりました。渋すぎる選曲ですが、イギリス人には知名度の高い曲なんでしょうか?

このようなある意味イロモノ企画は、クラシックとヘビメタのどちらも通った自分的には非常に興味深く楽しいひとときではありました。と同時に、バンドとオーケストラの共演の難しさもひしひしと感じました。人選、選曲、アレンジ、PAスタッフ等、準備に膨大な労力をかけたと想像されるこのコンサート、同じものは多分二度とない、貴重な体験でした。

以下はローディのインスタグラムから引用。


コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策で「クイズ認証」導入してます。Tokyoを漢字で入力してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://miklos.asablo.jp/blog/2026/04/22/9856587/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。