ロイヤルオペラ/ガッティ/マエストリ:50'sの「ファルスタッフ」2012/05/19 23:59

2012.05.19 Royal Opera House (London)
Daniele Gatti / Orchestra of the Royal Opera House
Robert Carsen (Director)
Ambrogio Maestri (Sir John Falstaff), Ana Maria Martínez (Alice Ford)
Kai Rüütel (Meg Page), Marie-Nicole Lemieux (Mistress Quickly)
Amanda Forsythe (Nannetta), Joel Prieto (Fenton)
Carlo Bosi (Dr Caius), Dalibor Jenis (Ford)
Alasdair Elliott (Bardolph), Lukas Jakobski (Pistol)
Royal Opera Chorus
1. Verdi: Falstaff

今シーズンのロイヤルオペラのニュープロダクション、「ファルスタッフ」はヴェルディが最後の最後に、ほとんど自分自身のために書いたと言われる喜劇です。肩の力が抜けたヴェルディらしからぬ軽さで、歌手が「どや顔」で歌い切るような聴かせどころのアリアはほとんどありませんが、音楽は円熟の極み、無駄なくナチュラルに次々と展開して行くので、飽きるところがありません。今日驚いたのは、ガッティがこの長いオペラを全て暗譜で振っていたこと。出てくるオケの音は最後まで美しく、力強く、まるでパッパーノ大将が横でにらみをきかせているかのような充実ぶり。先日の「リーズの結婚」といい、メンバー総入れ替えでもしたかのようなオケはレベルアップは、いったいどうしちゃったの?最近何かテコ入れをしたんでしょうか。何にせよ、在ロンドンのプロとして、誇りを持って是非クオリティをキープしてもらいたいと思います。

歌手陣は、ロイヤルオペラのヤングアーティストだったカイ・リューテルは何度か見ていますが、後は聞いたことない歌手ばかり。しかし、知らぬは私ばかり也だったようで、どこを切っても穴のない、真に歌える人を揃えたであろう内容の濃い歌手の布陣でした。特にファルスタッフのマエストリは、肉襦袢の必要ない自前の太鼓腹で、よく響くとっても良い声をしていました。老けメイクをしていますがその実私よりも若く、その年齢でその腹は健康上ちょっとマズいだろうとは思いましたが、脂の乗り切った歌唱に感動しました。女性4人も各々役どころを理解した完璧なキャラクター作り。スターはいないのかもしれないけど、けちのつけどころがどこにもない、バランスの取れた歌手陣に拍手喝采です。

演出は、原作のシェークスピア「ウィンザーの陽気な女房たち」が書かれた1590年代を1950年代に読み替えたものでしたが、よく整った舞台装置はセンスが良く、決して奇を衒っただけのモダン演出ではありませんでした。まあ、中世と第二次戦後の大量消費時代は趣きが根本的に違うので、よく見ると歌詞と演出が全然マッチしてない場面もありましたが。レストラン、カフェ、キッチンが舞台となっているので食べ物、飲み物がたくさん出てきて、全てが本物ではないでしょうが、オペラグラスで見ていても非常に美味しそうに見える、たいへんよく出来た小道具でした。娘も単純に楽しみ、概ね満足のいくプロダクションでしたが、少し苦言を言うと、演技する場所が左右に振れすぎていてバルコニーボックスからは見えにくい場面が多かったこと、間男を探すべくキッチンを荒らしまくるのはまだよいとしても、ダイニングテーブルの上を土足で歩いたり(しかもその後そのテーブルに食事をサーブする)、最後に全員で観衆を指差して嘲笑するといった、ちょっと度の過ぎたドタバタは品位を欠き、いただけませんなー、と思いました。

なお、開幕前にアナウンスがあり、この日の公演は前日に亡くなったディートリヒ・フィッシャー=ディースカウに捧げられました。フィッシャー=ディースカウは1967年にショルティの指揮の下、このロイヤルオペラでファルスタッフを歌ったそうです。


コメント

_ かんとく ― 2012/05/22 17:31

おっと、いらしたんですね。私は、Miklosさんファミリーの3階上の13ポンド席におりました。(まさに、ボックス席のブルジョアと天井桟敷のプロレタリアートの差ですね~(笑))。私も、ガッティが暗譜で指揮しているのを見てたまげました。オペラを暗譜で振る人ははじめて見た気がします。
席が上すぎて、舞台の躍動感を感じ取れなかった気がしました。ファルスタッフは素晴らしいと思ったのですが、女性陣の溌剌さがよう解らんかったですね。シェイクスピア劇のほうはファルスタッフも大事ですが、女性陣の掛け合いが大切なポイントなので、そこがこのオペラでは少し弱い気がしました。また、タイトルが違うんだから、ポイントが違うのも当たり前なんでしょうけど。

_ Miklos ― 2012/05/23 02:34

バルコニーボックスは全然ブルジョワじゃないですよ〜。さすがに13ポンドじゃないですけど。ガッティが暗譜で指揮しているのをみてふと思い出したのは中川右介の本で読んだエピソードで、若き日のカラヤンがオペラを暗譜で振っているのをみたヒトラーが、フルトヴェングラーにそんなことが可能なのかと聞いたところ、一言「不可能です」。カラヤンは飛ばされてしまいました、という話でした。逆に、オペラを振ることが少ないガッティだから可能なのかもしれませんね。

_ つるびねった ― 2012/06/18 06:24

遅ればせながら観てきました〜。ってもう5月の話ですが。
Miklosさんとは違う日の公演に行ってきましたが、感想が全く同じなのでびびってます。またブログコピペ疑惑が。。。
最後の聴衆を嘲笑するのぼんやりしていて気がつきませんでした。わたしの回でもやってたかなぁ?

_ Miklos ― 2012/06/20 08:34

「ブログコピペ疑惑」があるんですか?でもそう言えば実際、私がこのブログを書き始めた最初のころ、つるびねったさんのブログを見るとおおむねいつも私と同じ方向性の感想が書いてあったりして、感性が似ているんだなあと思ったことはありました。

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_ miu'z journal *2 -ロンドン音楽会日記- - 2012/06/18 03:37

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