読響/カンブルラン/エマール:スタイリッシュな「東欧の20世紀」2023/12/05 23:59

2023.12.05 サントリーホール (東京)
Sylvain Cambreling / 読売日本交響楽団
Pierre-Laurent Aimard (piano-2)
1. ヤナーチェク: バラード「ヴァイオリン弾きの子供」
2. リゲティ: ピアノ協奏曲
3. ヤナーチェク: 序曲「嫉妬」
4. ルトスワフスキ: 管弦楽のための協奏曲

多分今年最後の演奏会になるのは、「東欧の20世紀」と題した、そそる一夜。とは言えヤナーチェクの「嫉妬」はギリ19世紀の作品ですが。国もチェコ、ハンガリー、ポーランドと、各々は「十把一絡げにしてくれるな」と怒りそうな、ナショナルアイデンティティの強い国ばかりの寄せ集めになってます。もちろん、それぞれどれも好物の私はこういう企画大歓迎です。なお、今年は生誕100年の記念イヤーであるリゲティを筆頭に、ちょっと苦しいですが、ルトスワフスキは生誕110年で来年没後30年、ヤナーチェクは来年生誕170年というこじつけっぽい記念イヤーの上塗りも可能なプログラムとなっております。

カンブルランは5年ぶりになります。もちろん、少なくない指揮者、演奏家は4年以上ぶりになるわけですが、カンブルランはわりと毎年聴いていたので、コロナ禍がなければ、その間もコンスタントに聴いていたことでしょう。やっている音楽のわりには気難しさはあまりなく、しかし芸術家の気品と風格が滲み出ている現代のカリスマだと思います。今回のヤナーチェクの2曲は、他人が取り上げない曲をあえて持ってくる、彼らしいこだわりが見えました。だって、ただでさえリゲティとルトスワフスキとくれば、せめてヤナーチェクは「シンフォニエッタ」を選びたくなるのが人情というもの。1曲目「ヴァイオリン弾きの子供」は全く初めて聞く曲で、家にあるヤナーチェク管弦楽曲集にも入っていませんでした。ストーリーのある親しみやすい交響詩で、本日のゲストコンマス(コンミス)日下紗矢子さんのソロが冴えていました。

2曲目のリゲティのピアノ協奏曲も、記念イヤーで今年CDを買うまでは聴いたことがなかった曲。元々リゲティは、ハンガリーに住んでいたころからもっと聴いていてもよかったはずですが、何故かほとんど接点がありませんでした。ポリリズムを駆使した複雑なリズムを醸し出す曲で、リゲティらしさとしては、オカリナ、スライドホイッスル、ハーモニカといった、普段オーケストラでは出てこないので打楽器奏者の担当となりがちな「変な笛類」がふんだんに登場します。小編成なところも含めて、3月に聴いたヴァイオリン協奏曲とよく似ていますが、内容はいっそうシリアスで、カタブツな変態という感じでしょうか。こういった変態曲を得意とするエマールは、もっと聴いたかと思っていたのですが、実演を聞くのは2006年以来、17年ぶりでした。何せ簡単に飲み込める曲ではないので深いことは何も言えませんが、複雑な地図を見失わないようなキレの良いリズムのピアノに、オケもぴったしと寄り添っていく引き締まった演奏でした。エマールのキャラは小難しい理屈屋とは真逆で、基本的に明るいエンターティナーの人とお見受けしました。アンコールは「もちろんリゲティ」と言って、民謡を基調とした親しみやすい小曲を2曲披露してくれました(「ムジカ・リチェルカータ」の第7、8曲だそうです)。

休憩後は再びヤナーチェクのマイナー曲。序曲「嫉妬」は、元々は代表作の歌劇「イェヌーファ」用に書かれたが自ら棄却したものだそうで、そのためにあまり日の目を見られることがない不幸な曲になってしまいました。この曲はうちにあったマッケラス/チェコフィルのCDに入ってましたが、どうしてどうして、ティンパニが終始活躍するカッコいい曲で、短い中にも展開が凝縮された佳曲だと思います。カンブルランはここでも力強くリズムを刻み、けっこうわかりやすい演出でこの隠れた名曲をドラマチックに披露します。

最後のルトスワフスキは、世に数ある「管弦楽のための協奏曲」の中ではおそらくバルトークの次に有名な曲。と言ってもかなり大差がある2位ですが。3位は多分コダーイで、この形式は東欧の作曲家と相性が良いようです。それ以外は、知名度において足元にも及びません。それでこのルトスワフスキですが、実演は10年前の生誕100年記念イヤーでパッパーノ/LSOで聴いて以来の2度目になります。民謡を素材として展開させる手法はバルトークと同様ですが、ソ連共産圏の支配下にあった1950年代の作曲なので、バルトークのようなカラフルさや遊び心はあまり見られず、形式を重んじた硬派一筋の音楽に思えます。いかにも厳しい圧制下に書かれた重苦しい曲として演奏することもできそうですが、カンブルランはそういう小細工なしに、重厚さは失わずともすっきりスタイリッシュに、実にカッコ良い音楽としてすっと聴かせてくれました。7人の打楽器は皆さん渾身の集中力で、金管のリズムが少しもたり気味の感はあったものの、全体的に音圧もバランスも説得力十分。やはりカンブルランにハズレなし、来年も聴きに行こうと意を決したのですが、シーズンプログラムの速報を見ると、来年は1回しか来てくれないんですね…。

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