バラ・マーケット:懐かしい食材の宝庫2010/10/02 23:59


前から行きたい行きたいと思いながら機会を逃していたバラ・マーケットに、初めて行ってきました。バラ・マーケットとは古今東西極彩色の薔薇の花を売っている市場、ではもちろんなく、Borough Market、すなわち「区の市場」なんですが、ロンドンでバラ・マーケットというとこのロンドン・ブリッジ駅近くの市場をユニークに意味します。ご存知の方には言わずもがなですが、美味いものがないと言われるロンドンにおいても、美食への好奇心を失わない人々が集う場所があるんです。

春には妻がここで白アスパラを見つけて、店の人に「高いよ、そんなに買って大丈夫?」と心配されるくらい大人買いをしてしまったのですが、今回の目当ては秋になるとウィーンのナッシュ・マルクトまでよく買いに行ってた季節のキノコ。


ありましたありました。独語ではPfifferling、英語ではchanterelle(ってこれは仏語だよなあ)というんですか、それともちろん生のセップ(伊語ポルチーニ)も買って、第一目標はあっけなく達成。早速夕食でクリームソースのパスタにして、たいへん美味しくいただきました。


ここの市場は我々夫婦には(スイーツに関しては娘にも)面白すぎて、書こうとするときりがないのですが、本日の一番のヒットは、マーケットに入ってすぐ右横にあるフレンチ食材屋さん。一見ミュンヘン風の白ソーセージがあったので買ってみたら、これが大当たり。基本はミュンヘン名物の白ソーセージと同じものですが、口の中でほろりとくずれるデリケートな食感と、モリーユ茸のチップを練り込んだ絶妙の旨味は、本場ミュンヘンを含めて今まで食べたどの白ソーセージよりも上と言える強烈な美味でした。この繊細なソーセージには、ミュンヘンの甘いマスタードは合わないでしょうね。


また、同じ店で真空パックではありますが生フォアグラのしっかりしたホールがたくさん置いてあるのを発見。これで来年のおせち用にhideg libamaj(ハンガリー伝統料理のフォアグラ冷製)がつくれるぞ!と夫婦で盛り上がりました。


手作業で切っていたスペイン食材屋さんの生ハムもたいへん美味しそうで、試食させてもらったら実際たいへん美味しかったので買いたかったのですが、手作業のため切るだけで40分待ちと言われ、今日のところは断念。次回は朝一に来ます。

バーミンガムロイヤルバレエ:ロメオとジュリエット2010/10/14 23:59

2010.10.14 Sadler's Wells Theatre (London)
Birmingham Royal Ballet
Paul Murphy / Royal Ballet Sinfonia
Kenneth MacMillan (Choreography)
Nao Sakuma (Juliet), Chi Cao (Romeo)
Alexander Cambell (Mercutio), Robert Gravenor (Tybalt)
Joseph Caley (Benvolio), Tyrone Singleton (Paris)
Andrea Tredinnick (Lady Caplet), Michael O'Hare (Lord Caplet)
Viktoria Walton (Lady Montague), Marion Tait (Nurse)
1. Prokofiev: Romeo and Juliet

久々の演奏会の予定だった12日のLSO+ムターが仕事の都合で行けなくなって悔しがってるときに、Metroで半額プロモーションの広告がふと目に入り、思わず買ってしまいました。

バーミンガム・ロイヤルバレエは初めて見ましたが、やはりロイヤルバレエと比べると端役の人々、特に娼婦の人なんか踊りがけっこう雑だなと、素人の目には映りました。主役の佐久間奈緒、チー・ツァオはどちらもベテランのプリンシパルで、プログラムにもことさら頻繁に組むパートナーであることが強調されていましたので、もしかしたら私生活でもパートナーなんでしょうか。ただし正直な感想としては、そのわりには息が合っていないように見えました。各々ソロではしっかりしているのに、からむと流れがブツ切れになり、いちいち「よっこらしょ」と声が聞こえてきそうな感じでタイミングを合わせています。それであっても大きくよろめく箇所がいくつかありました。けんかでもしてたんでしょうかね。ロメオは男3人の踊りのほうがよっぽど柔軟でリラックスしていて良い感じでした。しかし、床のせいか靴のせいか、回転の度にキュキュと寒気を催す音が鳴って(発泡スチロールをこすると出るような音です)、それに弱い私はぞぞ気がしてちょっと落ち着きを欠きました。

佐久間さんは美人ですね。今日は日中モンゴロイド系のロメオとジュリエットだったので、日本のバレエ団を見ているような感覚に陥りましたが、白人に交じっても違和感はないお顔立ちですね。技巧も優れて安定している印象ですが、身体がちょっと固い感じはしました。ただ、うちがリファレンスとしてしまうのは1984年のアレッサンドラ・フェリ主演のロイヤルバレエDVDですので、あの奇跡のようなジュリエットと比べられたら、誰でもたまったもんじゃないでしょうけど。

振り付けは3月に見たロイヤルバレエと同じマクミラン版で、舞台装置はそれなりにしっかりしたものを使っていましたが、ステージが小さいので多少窮屈な感じがしたのと、群衆の数も減っていました。ただ同じ演出とは言え、細かい部分はいろいろ違いがあります。衣装はむしろロイヤルよりも凝っている印象で、袈裟のようなマントを着た中国人のロメオは、さながらお坊さんのような風貌でした。マンドリンの踊りの毛むくじゃらの着ぐるみは、いったい何だったのか…。

あとは、ロイヤルとの比較で言うと、何よりオケが貧弱なのが難点です。コーン・ケッセルズが音楽監督とのことで期待したのですが、弦はまだマシでしたが管はごまかしが多く、全体的に躍動感も情緒感も乏しく、これではダンサーがいかに健闘しても、ロイヤルに並ぶことはできないでしょう(並ぼうと思ってないかもしれませんが)。

サドラーズ・ウェルズは初めてでしたが、Angel駅という夜はあまり治安がよろしくないと言われる場所にあり、劇場周辺は繁華街から離れて食事できる場所もあまりないので、冬の時期はちょっと避けたいかな。

ヒューストン響/グラーフ:惑星(ファミリーマチネ)2010/10/16 23:59

2010.10.16 Barbican Hall (London)
Watch This Space Family Matinee
Hans Graf / Houston Symphony
Holst Singers (Women's voices)
1. Holst: The Planets - An HD Odyssey

ヒューストン響のロンドン公演、夜のほうがメインですが、昼にも「ファミリーマチネ」と称して15ポンド(子供は半額)のミニ演奏会を開きました。「惑星」が聴きたかった私としては、家族連れでも気兼ねないし、うってつけの企画でした。

開演前にはいつものファミリーコンサートのように子供向けイベントがありましたが、楽器の体験はトライアングル、タンバリン等の小物打楽器ばかりで、いまいち盛り上がりに欠けていました。

この「惑星」は「HDオデッセイ」と称して、NASAなどが提供した科学データを基に作成したリアリティ溢れるCG映像をバックにオケが生演奏するもので、米国や世界各地で披露している18番企画のようです。まず最初にこのムービーを制作したディレクターや科学スタッフのインタビューがあり、ロケット発射映像ののちに指揮者登場、再び場内が暗くなって第1曲「火星」が始まります。

夜の公演を控えた格安のマチネだからほとんどリハーサルのようなものかもしれないと思っていたのですが、さにあらず、「惑星」だけですが本番と同様の進行とクオリティを見せてくれました。オケに手抜きはなく、全体的にゆったりとしたテンポで、角を柔らかく削り取ったアメリカンらしからぬ演奏でした。金管の音色がモノクロームでなかなか渋い「惑星」でしたが、子供相手でも手を抜かずこのレベルを聴かせてくれるとは、「メジャー」のプライドを感じました。

場内は子供だらけでざわついており、中には乳児に近い子が泣きわめいていたりもしましたが、まあファミリーマチネですからそれは折り込み済みです。でも風邪が徐々に流行ってきたので大人もうるさいです。大人のノイズを減らせば場内は相当静かになるでしょう。ただ、「惑星」は実のところあまり子供が聴いて楽しい選曲ではないような気もします(特に後半)。開始から5秒で飽きて、お菓子の袋をバリバリと開けつつむさぼり食う男の子、親の膝に乗ったり降りたりして始終身体をふらふらと落ち着きのない女の子、曲に合わせて踊り出す兄弟(これは幼少の私の姿なのですが…)など、親がもうちょっとマナー教育をしたらんかい、と思ってしまう子供も多かったです。曲が終わるごとに拍手が起こり、海王星の最後では予想通り、舞台裏の女性コーラスが全然消えきらないうちに拍手喝采で演奏が中断。今日は夜のほうを聴くべきだったかと反省しました。

プラハ2010/10/23 17:29

出張で1年ぶりにプラハへ。旧市街広場は相変わらず観光客でいっぱいでした。

praha

10月下旬にして、プラハはすでに雪景色。


ということはなく、人工雪を降らせて広告か何かの撮影をやっていました。

smetanahall

スメタナホール。残念ながら今回は聴きに行くチャンスがなく、まだ中には一度も入っていません。

LSOファミリーコンサート:予期せぬサウンド2010/10/24 23:59

2010.10.24 Barbican Hall (London)
LSO Discovery Family Concert: Sounds Unexpected!
Stephen Bell / London Symphony Orchestra
Hannah Conway (Presenter), Wei Lu (Vn-3)
1. Grieg: In the Hall of the Mountain King, from 'Peer Gynt' Suite No. 1
2. Bartok: Concerto for Orchestra, mvmt. 2: Giuoco delle coppie
3. Ravel: Tzigane
4. Bartok: Concerto for Orchestra, mvmt 4: Intermezzo interroto
5. Trad arr. Rissmann: The Space Travel Song
6. Peter Maxwell Davies: Orkney Wedding and Sunrise

今日のファミリーコンサートは司会のお姉さんが早口で、半分くらいついて行けませんでした。それはさておき、今日は子供向けコンサートでバルトークをどう啓蒙するのか興味津々でしたが、なんと旋律に歌詞を付けて歌わせ、振りも付けるというアラワザに思わずのけ反りました。確かに、バルトークの曲は一見取っ付きにくくても、民謡をベースにしていることが多いので歌にすると意外とすんなり歌えます。他にも、2楽章で木管奏者を前に出してきて、最初ははっきり分かれていた旋律の分担が、中間部で折り返して以降の再現部では境界が薄れて複雑に絡み合ってくるのをわかりやすく見せていたり、なかなか工夫をこらしていて好ましかったです。

最後のマクスウェル・ディヴィスは現存の作曲家ながら非常に聴きやすいロマンチックな音楽で、最後は民族衣装をまとったバグパイプ奏者が客席後方からサプライズで登場し、やんやの喝采。私は知らなかったのですが、調べるとこの曲はバグパイプが使われる管弦楽曲としてけっこう有名だったんですね。

バルトークを丁寧にやって時間を食ったせいか、いつもよりも曲数が少ないにもかかわらず完全に時間オーバーでした。プログラムではあと1曲、「ET」のフライングテーマがあるはずでしたが、結局やらず。ファミリーコンサートはポピュラー曲で締めるのが定番で、マクスウェル・ディヴィスで終わるというのは普通は考えられないので、時間の都合で急きょ割愛することにしたんでしょう。ちょっとバタバタの印象が残るコンサートでした。

ロンドン響/ノセダ/エーネス(vn):バルトーク、プロコフィエフ2010/10/26 23:59

2010.10.26 Barbican Hall (London)
Gianandrea Noseda / London Symphony Orchestra
James Ehnes (Vn-2)
1. Ian Vine: Individual Objects (premiere)
2. Bartok: Violin Concerto No. 2
3. Prokofiev: Symphony No. 6

今日はもちろんバルトーク目当てですが、難解な曲ばかりで何ともよくわからんコンセプトの選曲ですね。1曲目はLSO委嘱作品の初演ですが、テープ逆回しのようなクレシェンドを付けられた和音のみで概ね進行する、中間色をべた塗りで並べた抽象画のような曲でした。旋律とかパッセージというものはほとんどなく、弦の左手の指はめったに動きませんが、右手は時々4本の指でぴらぴらと弦を叩いて(トレモランド・ピチカートというらしいですが)不思議な効果を出していました。「何じゃ、これ」という感想を禁じ得ませんでしたが、プログラムを読むとやはりミニマル系モダンアートに触発されて作曲したとのことです。

ジェームズ・エーネス。生で聴くのは初めてですが、噂通りテクニックがめちゃめちゃ手堅い人ですね。ゆったり目のテンポで始まり、まずはその太くて深い音色に引き込まれました。このバルトークは民族色(らしさ)を出すためにあえてワイルドな音で弾く人も多いですが、そういったわざとらしい野性味の演出は一切排除した、濁りのないヴァイオリンです。実に丁寧ですが繊細という印象ではなく、紳士の品格を感じさせるたいへん男らしい演奏でした。ちょっと他に似た人を思いつかない、ユニークな個性ですね。何でもこの人、ヴィオラも弾くんだとか。線の太いヴァイオリンの音は、ヴィオラもしっかり鳴らせる技術を持っているところにも秘密があるのかもしれません。ただ、比類ない技術には感心しつつも、この人の演奏からは歌心がほとんど感じられなかったのが残念でした。ワイルドな演出などは別になくてよいですが、時には泣いてみせたり、ハッタリをかましたり、というテツラフのような芸達者な人のほうが、私には好みかな。

ノセダは何と、私も持ってるBoosey&Hawkes版のポケットスコアを見ながら指揮をしていました。あんな小さい音符を見ながら指揮ができるとは、視力が相当良いんでしょう。猫背で覗き込むようにスコアを見ながら不器用そうにばっさばっさと腕を振り、ぼたぼたと汗が滴り落ちていました。終始涼しい顔をして弾いていたエーネスとは対照的でした。ノセダは、オケをよく鳴らすのは得意そうですが、今日はちょっと力み過ぎでしたかな。あのLSOが、最後には珍しく息切れしていましたから。

メインのプロコ第6番は、CDも持っていますが普段ほとんど聴くことはなく、正直馴染みの薄い曲です。プロコフィエフだからどの楽章も比較的きっちりとソナタ形式に乗っ取って作曲されているのはわかりますが、かといってこの曲の掴みどころや聴きどころがクリアに見えてくるかというと、その域に達するにはまだまだ素養が足らないようです。1、2楽章の重苦しさと3楽章の軽さのギャップにも戸惑いますし、私には難解すぎて苦手意識がありますね。一つ前の第5番は大好きなんですけどねえ。ということで演奏についてあまり何も語れないのですが、一つだけ。バルトークではまだソリストへの配慮があったのかもしれませんが、プロコではオケをさらにガンガン鳴らしてきていました。特に打楽器群の爆演は圧巻で、終演後のオヴェーションでは珍しく、まず最初に打楽器陣を立たせていたのが印象的でした。

今日は先日のファミリーコンサートと同じく、Wei Luがゲストコンマスでした。そのせいか客席にはいつもより中国人が目立ったような。しかしこの人は、休憩時間に一人でコーヒー持ってうろうろしていたり、終演後はとっとと一人で駅に向かって歩いていたり、どうも孤高というか、孤独な印象ですね。ステージ上でも、コンマスを取り囲む3人は(彼らも各々コンマス級だったりするわけですが)常にお互いにこやかに談笑していますが、コンマスは蚊帳の外で仏頂面で孤立しています。音楽家の世界もまあいろいろあるんでしょうが、若いゲストコンマスにはもうちょっと温かく接してやればいいのに、と思ってしまったのは素人感覚に過ぎないでしょうか。