ロイヤルバレエ:プリンシパルのいない「パゴダの王子」2012/06/21 23:59

2012.06.21 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: The Prince of the Pagodas
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Kenneth MacMillan (Choreography), Colin Thubron after John Cranko (Scenario)
Beatriz Stix-Brunell (Princess Rose), Itziar Mendizabal (Princess Epine)
Ryoichi Hirano (The Prince), Gary Avis (The Emperor)
James Hay (The Fool), Thomas Whitehead (Emperor's Counsellor)
Andrej Uspenski (King of the North), Valeri Hristov (King of the East)
Jonathan Watkins (King of the West), Brian Maloney (King of the South)
1. Britten: The Prince of the Pagodas

ブリテン作曲のバレエ「パゴダの王子」は彼の作曲キャリアの中でちょうど折り返し点あたりに位置する曲ですが、これ以降に作曲した重要な作品と言えば「真夏の夜の夢」と「戦争レクイエム」くらいですので、成熟度ではまさにスタイル完成の境地にあると思います。来年のブリテン生誕100年を目前に、16年ぶりにロイヤルバレエでリバイバルされたプロダクションというくらいですからめったに見る機会はないバレエですが、うちにはDVDがあったりします。以前買った「マクミラン・3DVDパック」みたいなセットにロメジュリ、マノンと共に含まれていまして、てっきりマクミランの代表作の一つと思っておりましたら…。16年も上演されなかったのは故なきことではないのだなあと、実演を見てあらためて思いました。

まず言っとかなければならないのは、今日のキャストは相当二転三転しました。発表当初はカスバートソン、ヤノウスキー、ペネファーザーという取り合わせでしたが怪我のために結局全員降板、今年大抜擢でアリスを踊ったスティックス=ブリュネルがカスバートソンの代役とのことでしたが、5月末にラム、モレラ、ボネッリの組でキャストが落ち着いたのもつかの間、直前になってやっぱりスティックス=ブリュネル、メンディザバル、平野亮一の組に変更になりました。最後の変更は怪我のせいではないので、理由がよくわかりません。ともあれ、プリンシパルが一人もいないこのCキャストは(プリンシパルと名のつくのはキャラクターアーティストのエイヴィス唯一人)、ヌニェス・ロホ・キシュのAキャスト、ラム、モレラ、ボネッリのBキャストと比べてフレッシュではありますが、だいぶ格落ち感がしてしまうのは致し方ないところです。

このような事情のためどうしてもネガティブな先入観を持ちつつこのバレエを見ると、何とつまらない演目であることよ。あらすじは、こんな感じですか。とある国の王様が二人の娘に領土を分け与える際、妹ローズのほうを贔屓したのに姉エピーヌが怒って、妹の恋人である王子を呪いで山椒魚に変えてしまいます。姉は王様を隠居させて国を牛耳り、東西南北から四人の王をはべらせ、妹は従者(道化)と共に放浪の旅に出ます。妹は最果ての国で山椒魚になった王子と再会しますが、目隠しをしている間だけ王子は元の姿に戻ります。山椒魚と国に戻った妹は口づけで王子の呪いを解き、元の姿に戻った王子は道化の助けを借りつつ四人の王と姉を撃退し、国に平和がやってきてめでたしめでたし、皆で踊ってハッピーエンド、というお話です。

たわいもないストーリーはともかく、振付けが全体的にヌルい感じで、エキサイティングな踊りがさっぱりありません。四人の王の踊りはどこか醒めていてこのバレエに対して距離を置いているように見えてしまったし、プリンシパルがいないとこうもオーラがないものかと、ある意味興味深かったです。主役ローズ姫のベアトリスちゃんは昨年ロイヤルに来たばかりのまだ19歳。称号もまだ一番下の「アーティスト」だし、前回の「アリス」に続き飛び級でここまで抜擢されるその背景が、私にはよくわかりません。一つ一つの動作が固くて小さく、まだ若いんだなあという印象しかなかったです。幕を追うごとにほぐれては来ましたが。エピーヌ姫のメンディザバルも一昨年ライプツィヒバレエから移籍して来た人で、多分初めて見ますが、気の毒なくらいに存在感がない。四人の王はどれもタルい踊りで、しらけてしまいました。このメンバーの中では王子の平野さんが一人気を吐いてキレのある踊りを見せていましたが、いかんせん振付けが私には全然ユルユルとしか感じられず、こりゃー今日はダメだなと、集中力の維持が困難でした。

ちょっとよくわからなかったのですが、第1幕と第3幕で王子と山椒魚がノータイムで入れ替わる場面は、山椒魚は平野さんじゃなくて別の人が入れ替わってましたよね?第2幕で出てきた山椒魚は、着替える時間が30秒くらいありましたから、最初から平野さんでした。意味不明と言えば第2幕の前半。スキンヘッドになった四人の王が唐突に出てきてローズ姫をなぶりものにしますが、意味が分かりません。その後、最大のアクシデントが!気を失ったローズに道化が目隠しをすると、元の姿の王子が出てきて目隠ししたままのローズと踊る場面で、道化が袖から目隠しの布を引っ張り出そうとしても引っかかって出て来ず、相当手こずった後に結局諦めて目隠ししないまま、さーっと退場して行きました。ベアトリスちゃんも気を失っているわけだから、何が起こったのかよくわからなかったかもしれませんが、あるはずの目隠しがないのは事実。その後のパ・ドゥ・ドゥは、あたかも目隠しをしているかのように、決して目線を合わせないで踊っていたのは立派でした。もしかしたら主役の二人の適応能力を試すためにわざとやったんでは、ともちらっと思いました。

オケは残念ながら悪い日のほうのROHオケで、ヘロヘロ。そのおかげで音楽自体がつまらないという感想しか持ち得ず。何にせよ、これはクラシックバレエの音楽ではないよ。金属打楽器とマリンバを多用した東南アジアのテイストで、それもそもはず、バリ島の音楽(ガムラン)の影響を受けた曲なんだそうです。だから曲としては雄弁ではなく寡黙なほうで、理解するには時間がかかるかも。ただ、今日のこの公演を見ただけで言うなら、是非もう一度見たいとは決して思わないバレエです。家にあるDVDを見ると、踊りはもっと滑らかでいろんなものを表現していて、音楽にも緊張感があり、冗長なところはあるにせよ、決して最悪な演目ではありません。ヌニェスとロホのベテラン対決だったらさぞ凄かっただろうに、ラムとモレラでも存在感はもっとあったろうに、カスバートソン・ヤノウスキーだったら演技の濃さにやっぱ目が釘付けだったかなーなどと思うと、結論は次のチャンスまで保留にしときます。