ロイヤルバレエ:トリプルビル(ラプソディ/センソリウム/ペンギンカフェ)2011/03/28 23:59

2011.03.28 Royal Opera House (London)
The Royal Ballet: Triple Bill

1. Rhapsody (Rachmaninov: Rhapsody on a theme of Paganini)
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Frederick Ashton (Choreography-1)
Jonathan Higgins (P-1)
Laura Morera, Sergei Polunin

2. Sensorium (Debussy/Matthews: Préludes)
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Alastair Marriott (Choreography-2)
Philip Cornfield (P-2)
Leanne Benjamin, Marianela Nuñez
Thomas Whitehead, Rupert Pennefather

3. Simon Jeffes: 'Still Life' at the Penguin Café
Paul Murphy / Orchestra of the Royal Opera House
David Bintley (Choreography-3)
Sara Cunningham (Ms-3)
Emma Maguire (The Great Auk)
Zenaida Yanowsky (Utah Longhorn Ram), Gary Avis
Liam Scarlett (Texan Kangaroo Rat)
Iohna Loots (Humboldt's Hog-Nosed Skunk Flea)
Edward Watson (Southern Cape Zebra)
Kristen McNally, Nehemiah Kish, Minna Althaus (Rain Forest People)
Steven McRae (Brazilian Woolly Monkey)

ロイヤルバレエのトリプルビルなるものを初めて見に行きました。私はROHのFriendsになってなくてチケットはいつも一般発売で買っているのですが(先日お会いしたブログ仲間の方々は皆さん当然のごとくFriendsでらしたので、私もまだまだ修行が足らんなあと)、狙っていた「フィデリオ」に安くて良い席がもう残ってなかったので気をそがれ、代わりに何かないかなあと探していて目に止まったのがこれでした。バレエもオペラも基本はフルサイズで一貫したものを見たいという志向ですのでこれまでトリプルビルは敬遠していたのですが、妻がファンのマクレー様も出ることだし、家族で行くにはまあ良いかなと。

ただし、コストパフォーマンスを考えて今回は初めてバルコニーのボックス席を買ってみたのですが(1ボックス4席分で1セット)、これはやはり値段なりのものでした。ボックス席は前列2席、後列はハイチェアーで2席となっていまして、当然前列に妻と娘を座らせました。前列はまだよいのですが後列は死角が多くて舞台の半分は見えません。前列にしても身を乗り出さないと見えにくいので皆さんそうするのですが、すると私の隣りのボックスのおばさんの頭がちょうど舞台中央部をがっつり遮り、つまり舞台の半分および中央部がよく見えない状況での観賞となってしまいました。メインキャストの踊りがほとんど見えないのは致命的で、オペラだったらまだ生の歌と音楽を聴くだけでよしと思えますが、バレエで踊りが見えなかったら劇場に行く意味がありません。ブダペストのオペラ座では、前列が3席あって、角度が浅いので舞台がよく見えるし、コートを預けないで済むし、だいたいいつもボックス席を取っていたんですが、ROHのバルコニーボックスを取る時は、まあ家族サービスと割り切るしかないです。惜しむらくは、今日がこのトリプルビルの最終日…。

そんなこんなで最初の2つは、飲み込んで噛み砕いて、というのは最初から半ば放棄して、見える断片を何とか楽しめればよいというスタンスでした。「ラプソディ」はラフマニノフの甘〜い「パガニーニの主題による狂詩曲(ラプソディ)」に振りを付けたもので、オケピット真ん中にグランドピアノが入っていたのがたいへん窮屈そうでした。メインキャストはプリンシパルのセルゲイ・ポルーニンとラウラ・モレーラ。先日「白鳥の湖」でチェ・ユフィと一緒にパ・ド・トロワを踊っていたのを見ています。基本、王子様とお姫様のような振り付けでしたが、あまり息が合ってなかったような。二人とも、ソロで踊っているときのほうが断然活き活きとしていました。ポルーニンは後半の連続ハイジャンプで拍手喝采を浴び、カーテンコールでもダントツ一番人気でした。舞台が進むに従って両腕の筋肉がどんどん赤くなっていき、ダンサーの過酷な稼業をかいま見ました。

次の「センソリウム」の音楽はドビュッシーの前奏曲集で、以下の7曲が使用されています。ピアノと書いていないのは全てコリン・マシューズ編曲の管弦楽版です。

1. 「霧」第2巻1
2. 「枯葉」第2巻2(ピアノ)
3. 「野を渡る風」第1巻3
4. 「カノープ」第2巻10
5. 「交代する三度」第2巻11
6. 「雪の上の足跡」第1巻6(ピアノ)
7. 「夕べの大気に漂う音と香り」第1巻4

ラプソディよりさらにストーリー性のない、抽象画を見ているような雰囲気。遠くから見ていると誰が誰だかよくわからない。せっかくヌニェスがでているのに、彼女の踊りがほとんど見えません(泣)。全体的には普通のクラシックバレエとは異質な、もっとフィジカルに訴えるような踊りでした。受粉をイメージさせ、セクシャルな暗喩を私は多少感じました。ぐでーと退屈していた娘に感想を聞いたら「うーん、でもイモ虫みたいで面白かった」。

最後の「ペンギン・カフェ」だけは事前に映像を見ていましたので、身体にすんなりと入って来ました。最初に登場するペンギンはクレジットを見るとGreat Aukとあります。これは日本語では「オオウミガラス」で、人間による乱獲が原因で19世紀半ばに絶滅した海鳥なのでした。本来はこの鳥が「ペンギン」と呼ばれていて、今で言うペンギンは姿形が似ている別の種だったのが、オオウミガラスの絶滅以降ペンギンと呼ばれるようになったそうです。ともあれ、その元祖ペンギンがウェイターをしている「ペンギン・カフェ」に掛かっている静物画(Still Life)から飛び出してくるように、絶滅危惧種の動物が次々とダンスを繰り広げます。これもクラシックバレエというよりはミュージカルのようなショーダンスですが、動物の動きがコミカルに取り入れられていて、単純に楽しめます。

「ユタ・オオツノヒツジ」のヤノウスキーはファッションモデルばりの長身でグラマラス、腰をくいっとひねる動作がいちいちコケティッシュで、セクシーな魅力が爆発していました。前回「白鳥の湖」で見たときはどうしてオカマさんだと思ってしまったんだろう。「テキサス・カンガルーネズミ」は代役の人だったようです。回りながらピョンピョン飛び跳ねて見た目より体力の要りそうな踊りですが、お疲れだったのかちょっと重たい動きでした。「フンボルト・ブタバナスカンクのノミ」は電波人間タックル(古い!)みたいなコスチュームの昆虫がチロル風民族衣装の男性5人とフォークダンスを踊りますが、振り回されて最後はフラフラになってしまいます。「ケープヤマシマウマ」は登場した瞬間からもう異様な雰囲気でインパクトがあります。おそろいのファーをまとった無表情な上流階級風レディ軍団も加わって、威厳のあるゆったりとしたパフォーマンス(もはやダンスとは言えないような)を展開しますが、最後は銃で撃たれて倒れ、レディは無表情のまま一人一人退場して行きます。DVDでショッキングだった血の痕が、今日の舞台ではありませんでした。「熱帯雨林民族」は裸族の両親と幼い娘による叙情的な踊り。子供のメイクが「呪怨」のようで怖いです。「ブラジル・ヨウモウザル」は待望のマクレー様。かぶり物なのが残念ですが、やっぱりこの人はダンスは凄いです。お猿なのでずっとピョンピョン飛んでいるのですが、ジャンプが全然ヘタらないし、終始キープしていたキレキレの躍動感が実に素晴らしい。最後は他の動物たちも加わって全員ダンスでクライマックスを迎えますが、突如として雲行きが怪しくなり、座り込んだダンサーたちがかぶり物を取ると、嵐がやって来ます。逃げ惑う動物たちがいなくなった後、最初のペンギン(オオウミガラス)だけポツンと取り残されますが、舞台後方には大きなノアの箱船が登場し、中には逃げた動物たちが座っています。乗り損ねたオオウミガラスは絶滅してしまいましたが、辛うじて生き延びた絶滅危惧種は何とか後世に残そうというメッセージが込められていますね。テーマは重いですが語り口は決してシリアスではなく、見ている最中は能天気に笑えて、見終わった後でしみじみと考えさせられる演目でした。

演奏はオペラハウスのオケだったはずですが、はっきりってイマイチ。千秋楽としてはひどい出来と言ってもいいくらいでした。トランペットを筆頭に、音を外すとかいうレベルではなくしょぼ過ぎる金管に萎えました。それでもまだラフマニノフはトランペット以外はましでしたが、時間を追うごとに悪くなって行くのはどうしたもんか。みんな早く帰りたいのか?ペンギンカフェの気の抜けた演奏は(特に弦)、正直なめているとすら思えました。格式あるコヴェント・ガーデン王立管弦楽団たるもの、こんなポップスまがいな音楽なんか真面目にやってられっか、とでも思ってるんでしょうかね。