三善晃「反戦三部作」は魂の叫び、都響/山田和樹2023/05/12 23:59

2023.05.12 東京文化会館 大ホール (東京)
三善晃生誕90年/没後10年記念:反戦三部作
山田和樹 / 東京都交響楽団
東京混声合唱団, 武蔵野音楽大学合唱団 (1,2)
東京少年少女合唱隊 (3)
1. 三善晃: 混声合唱とオーケストラのための《レクイエム》(1972)
2. 三善晃: 混声合唱とオーケストラのための《詩篇》(1979)
3. 三善晃: 童声合唱とオーケストラのための《響紋》(1984)

この「三善晃反戦三部作」の演奏会は、ちょうど3年前に開催が予定されていてチケットを買っていたものの、コロナ禍初期の混乱の中、当時の幾多の演奏会同様、中止となってしまったものです。私は特に三善晃のファンというわけでもないのですが、こういう刺激的な企画は好物なので、3年を経てのリベンジ公演はもちろん「買い」でした。くしくも今年は、1933年に生まれ、2013年に亡くなった三善晃氏の、今年は生誕90年、没後10年の記念になります。その効果か、この非常に聴衆を選びそうな演目であるにも関わらず、蓋を開けてみると、何と完売御礼になっていました。

三善晃の曲を過去実演で聴いたのは、2013年の大野/BBC響の日本特集で演奏された交響詩「連祷富士」と、2016年の下野/新日フィルでの「管弦楽のための協奏曲」の2回だけです。2013年のときは、まだご存命だったんですねえ。日本の現代音楽にあって、比較的受け入れやすいというか、硬派な音楽ではあるけれども、あまり難解ではない作風の人だと思います。しかし、1曲目の「レクイエム」は、全編通してひたすら悲痛な叫びと不気味なハーモニーが支配する、全く耳に優しくない音楽でした。戦争の悲惨さを苦悶する詩で綴られたテキストを、80人ほどの混声合唱団が叫ぶように歌い、無数の打楽器を含む大編成の管弦楽は音のクラスター爆弾をこれでもかとぶつけてくる。聴き慣れてない曲なので理解がまだ浅いとは思いますが、真に心の叫びからこういう風に書かざるを得なかった、ある意味聴衆を置き去りにした作品にも感じました。しかし、作曲者の「エネルギー」が伝わってくるには十分な熱演だったと思いました。聴いているだけでこれだけ疲れるのだから、ヤマカズさんもオケも、前半から相当に疲れたことでしょう。

休憩を挟んで2曲目の「詩篇」は音源がなく、全く初めて聴く曲でした。戦争が直接的に生々しい「レクイエム」とは異なり、こちらは宗左近の詩集「縄文」からテキストを取っているので、戦争を仄めかした内容はあるものの、全体的なトーンはポエティックで穏やか。「レクイエム」から7年後の続編(というわけでもないでしょうけど)にしては、ずっとエンタメ系の仕上がりになっています。童謡「花いちもんめ」が挿入され、オケのトゥッティ、美しいハーモニーのコーラス、切ないチェロの独奏(新しいトップの人、若いけど上手いですね)など、随所に聴衆を意識した仕掛けと構成力が感じられました。

コーラスの人たちはこれでお役御免で退場、盛大な拍手。最後の「響紋」は、実はCDを持っていて何度も聴いたことがある曲ですが、「詩篇」と呼応するように、「かごめかごめ」の童謡から始まります。がらんとした合唱隊のスペースに、最初は小学生低学年とおぼしき子供たちが手を繋ぎ「かごめかごめ」を歌いながら登壇、追って、中学生くらいまでの年長組の児童合唱隊が、それぞれ楽譜を手に歌いながら歩いてきます。すると突如平穏を切り裂くような弦の不協和音。この曲のテキストは基本的に「かごめかごめ」の歌詞だけですが、オケはそれに寄り添うでもなく、ずっと童謡の邪魔をしているかのようです。再びエンタメ色は弱まり、何か子供たちがかわいそう。10分程度の小曲の最後は、「うしろのしょうめんだあれ」で合唱隊も客席に背を向ける演出。おそらく子供には理解するのがなかなか難しいであろう、この難曲に真面目に向き合っただけでも天晴れです。ヤマカズさん、都響のみなさんも、エネルギッシュな演奏ありがとうございます。お疲れ様でした。

写真は都響の公式ツイッターから



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