読売日響/上岡敏之/ヴィルサラーゼ(p):個性的なシューマンとニールセン ― 2023/05/31 23:59
2023.05.31 サントリーホール (東京)
上岡敏之 / 読売日本交響楽団
Elisso Virsaladze (piano-2)
1. シベリウス: 交響詩「エン・サガ」
2. シューマン: ピアノ協奏曲 イ短調
3. ニールセン: 交響曲第5番
1年前に亡くなったラドゥ・ルプーを偲んでCDを聴き込んだのがきっかけで、それ以降シューマンのピアノ協奏曲がマイブームになり、いろんな演奏を聴き漁っておりました。かつては何度も聴いた曲なのに、いざ実演を聴きたいと思った時にはかえって機会がないもので、ようやく見つけたこの演奏会は迷いなく「買い」でした。
上岡敏之はドイツでキャリアを積み上げた逆輸入の鬼才との触込みですが、欧州に住んでいたころその名前を聞いた記憶がなく、新日フィルの音楽監督になったときも「誰?」状態で、結局生演に触れる機会もありませんでした(まあ、コロナもあったので仕方がないですが)。新日フィルとは喧嘩別れしたようなこともネットで書かれており、今日の読響は完全に客演で逆にリラックスして臨んだようにも感じられました。
1曲目の「エン・サガ」、私には捉えどころのない難曲です。読響はちょうど5年ぶりですが、のっけから音の濁りが気に障ります。あれ、ホルンこんなに弱かったっけなあ…。初めて見る上岡のバトンテクは非常にサマになっていて、「ザ・指揮者」という感じ。ただし私は経験上、いちいち棒で嬉々として指図する上部パフォーマータイプよりも、本番ではほとんど何もしないのに出てくる音が完璧なむっつりスケベタイプのほうが聴き手としては信用できるので、ちょっと最初から眉に唾つけて聴いてしまいました。しかし聴き進むうちに、霧の中から突出して上手いクラリネットが顔を出すに至り、この濁り気味の色彩感も実は狙い通りなのかと思い直しました。
猜疑心がまだ残りつつも、続く本日のお目当てのシューマン。ヴィルサラーぜは初めて聴くピアニストですが、ジョージア(グルジア)出身、1966年のシューマン国際コンクール優勝者、ソ連・ロシアでキャリアを築いたという経歴から、このご時世、一筋縄ではいかない複雑性を感じます。80歳とピアニストにしては高齢ですが、ヨボヨボ感は全くなく、キリッと粒が立って即物的なピアノでした。教育者だけあって技術は確かです。あっさり目でキャンキャンと響くピアノを前に、オケは逆に角が取れて柔らかに伴奏に徹します。ソリストは指揮者ではなくオケに直接アイコンタクトをしつつ曲を引っ張っていきますが、2楽章でもまだ即物的な感じだったピアノが、終楽章後半でようやくオケとトーンを合わせて柔軟路線に急に舵を切ります。好きな演奏かと問われればちょっと違うのですが、面白いマリアージュを見た、という感じです。
メインのニールセン第5番は、ロンドンで一度聴いた気になっていたんですが、記録を調べると実演で聴くのは今日が初めてです。多分LSO Liveの自主制作CD(コリン・デイヴィス指揮の4、5番のカップリングで、4番は確かに実演も聴いた)を買ってよく聴いていた記憶とごっちゃになっていたんでしょう。この曲を得意とするらしい上岡さん、前2曲とはまたガラッと変わり、集中力高くダイナミックレンジの広い演奏。クラリネットは相変わらず冴えています。スネアドラムも超繊細な入りから迫力のマーチングまで、硬質なティンパニと相まって、この曲のキーとなる軍靴を連想させる打楽器隊が圧巻でした。スネア奏者はバックステージからの演奏も自らこなし、ステージ上に居ない間のスネアはタンバリン奏者が代理で入るというやりくり采配。しかしスネア奏者は、若く見えましたがそれだけの価値ある演奏でした。全体的にも上岡の作り出すスケール感が生きた演奏で、最後の一音まで集中力を切らさず、拍手の前の静寂が聴衆の満足を物語っていました。
個性は好きなタイプの指揮者とは違う気がしますが、読響からこのクオリティを引き出してくれるのであれば、次も聴きたいものだと思いました。
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