アプサラス第10回演奏会:50年後も演奏され続ける曲2022/12/19 23:59

2022.12.19 東京文化会館小ホール (東京)
アプサラス第10回演奏会〜第2回「松村賞」受賞作品、会員作品と松村禎三作品
尾池亜美 (violin-5, 8, viola-5), 石上真由子 (violin-4, 7), 甲斐史子 (viola-1, 2, 6)
山澤慧 (cello-2, 4, 7), 夏秋裕一 (cello-3)
多久潤一朗 (flute-1, 3, 6, 8), Alvaro Zegers (clarinet/bass-clarinet-5)
飯野明日香 (piano-3, 5, 8), 田中翔一朗 (piano-1, 4, 7)
高野麗音 (harp-6), 會田瑞樹 (vibraphone-2)
高橋裕 (指揮-5)
1. 谷地村博人: ミューゼス第1番「月の道」~3人の奏者のために~〔第2回「松村賞」受賞作品・初演〕
2. 福丸光詩: フィグレスⅡ~ヴィブラフォン、ヴィオラ、チェロのために~〔第2回「松村賞」受賞作品・初演〕
3. 甲田潤: フルート、チェロ、ピアノのための《ラプソディ》〔初演〕
4. 中田恒夫: Whirlpools〔初演〕
5. 高橋裕: 「玄象」クラリネット、バスクラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、ピアノのための三重奏曲〔初演〕
6. 若林千春: 「木・林・森…鼎響」~フルート、ヴィオラとハープのために~〔改訂初演〕
7. 阿部亮太郎: この世の風 第5番〔初演〕
8. 松村禎三: アプサラスの庭〔1971〕

「アプサラス」は作曲家松村禎三氏の死後、その芸術作品の保存・普及と、新たな創作活動支援を目的として、弟子、遺族を中心に設立された有志の会です。アプサラス演奏会を聴きに行くのは2008年の第1回以来、12年ぶり。アプサラスでは生誕90年を記念して2019年に「松村賞」を創設し、今日はその第2回の受賞作品の表彰式と披露目という趣旨でした。あくまでアプサラスの場で披露できる規模の作品ということで、第1回は弦楽四重奏曲、第2回は三重奏曲(楽器はフルート、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ、ハープ、ヴィブラフォンに限定)の15分以内の小品という縛りがありました。

というわけで本日の演目は三重奏の曲ばかり、もちろん全て「日本の現代音楽」で、8曲のうち7曲が初演または改訂初演という、なかなか刺激的な内容。ゲンダイオンガクをこれだけ連続して聴くのも久しぶりなので、ちょっと疲れました。加えて、今日が初演の曲など素人にはとても作曲も演奏も論評できるものではありませんが、備忘録として一言ずつ印象を書き留めます。

1曲目はフルート、ヴァイオリン、ピアノの三重奏で、松村賞受賞作にふさわしい、ドビュッシーのような情緒を感じる美曲。

2曲目は、本日の演奏者の中で唯一名前を知っていた會田瑞樹さん(以前NHK BSのクラシック倶楽部に出ていた)のヴィブラフォンをフィーチャーした面白い曲。片手に複数の撥を持ちノールックで的確に打つのはもはや驚くまでもなく、ブラシで擦ったり、素手で叩いたり、狙った音以外の音が鳴り放題の特殊奏法、楽譜にはいったいどう書いてあるんだろうか?

3曲目はがらっと雰囲気が変わり「和テイスト」で、一昔前の理屈っぽいゲンダイオンガク風。

4曲目も不協和音たっぷりの現代音楽ながら、構成はクラシカル。ヴァイオリン、チェロ、ピアノの編成も手堅く、しっかり作りました感が高い重めの曲。ヴァイオリンの石上真由子さんは目元がキリッとした美形で、京都府立医大出身という異色の経歴とか。

5曲目を作曲した高橋裕さんは、今日の中では(松村禎三氏を除き)唯一、過去に楽曲(シンフォニア・リトゥルジカ)を生で聴いたことがあります。京都出身で、禎三さんのお弟子さんですね。曲もオマージュを感じる、ゆったりとした流れの中にエネルギーが徐々に蓄積され、爆発して、また引いていくという構成。ヴァイオリンとヴィオラ、クラリネットとバスクラをそれぞれ持ち替えるという、かなり自由な発想の三重奏曲で、初演だし、本日の趣旨に無理やり合わせようとしたのかもしれません。なおこの曲だけ、三重奏にもかかわらず作曲家自身が指揮者として立っていましたが、ずっと4拍子をゆっくり振っていただけなので、本当に必要だったのかな、とは思いました。もちろん、初演だということを考えれば、奏者としては作者自身が指示を出してくれるのは非常に助かるでしょうが。

ここで休憩。意外と席の入りは良かったのですが、受賞者を見にきた方が多かったのか、休憩で多くの人が帰ってしまいました。

6曲目は再び「和テイスト」で、尺八と琵琶の邦楽曲のように呼吸で合わせる丁々発止が見ものでした。

7曲目は子守歌か夜想曲のような癒しの曲想から、途中の微分音的な展開が一つのアクセントになっていました。

最後の「アプサラスの庭」は、この会の名前の由来にもなった、1971年の作品。ここまで初演曲ばかり立て続けに聴いた最後にこの曲を聴くと、やはり別格。大胆な発想と円熟の構成力が聴き手を飽きさせません。奏者にも自然と熱が入り、特にツンデレなピアノが良かったです。この曲は演奏機会も多いし、録音もあり、50年以上経った今でもこうやって演奏され続けている。今日聴いた初演曲の中で、50年後も演奏されている曲が果たして何曲残るのか。全く論評も分析もできないですが、多産多死どころか少産多死の超絶厳しい世界であることは間違いないと、あらためて感じ入りました。


うちにあったCD「松村禎三の世界」2枚組。「アプサラスの庭」も収録されています。

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