新国立劇場:松村禎三「沈黙」2015/06/28 23:59


2015.06.28 新国立劇場 オペラ劇場 (東京)
下野竜也 / 東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団, 世田谷ジュニア合唱団
小原啓楼 (ロドリゴ), 小森輝彦 (フェレイラ)
大沼徹 (ヴァリニャーノ), 桝貴志 (キチジロー)
鈴木准 (モキチ), 石橋栄実 (オハル)
増田弥生 (おまつ), 小林由佳 (少年)
大久保眞 (じさま), 大久保光哉 (老人)
加茂下稔 (チョウキチ), 三戸大久 (井上筑後守)
町英和 (通辞), 峰茂樹 (役人/番人)
宮田慶子 (演出), 遠藤周作 (原作)
1. 松村禎三: 歌劇「沈黙」

このオペラは1993年の日生劇場での初演と、2000年の新国立劇場・二期会共催上演を見て以来ですので、15年ぶりの3回目になります。新国立劇場に足を運ぶのもえらい久しぶりで、前回来たのは2007年の「くるみ割り人形」でしたが、その年の夏に松村禎三氏は亡くなっていたのでした。

「沈黙」は日本のオペラの中では上演機会に恵まれているほうで、この宮田慶子版(2012年プレミエ)は3つ目のプロダクションのはずです。詳細はよく憶えていないものの、前にここで見たときの演出は、ひたすら暗かったのに、最後だけはまるで「白鳥の湖」のラストシーンかと思うくらい、取って付けたような天光が差してきて、分かりやすく神の救いを表現するというベタな演出でした。

一方今回の演出では、螺旋形で緩やかに上がっていく木製の回転ステージには巨大な十字架が刺さっており、シンプルながらも光と影を効果的に使ったシンボリックな舞台は、プロットがすっと身体に入ってきて好感が持てるものでした。音楽を邪魔しないというか、音楽の力が素直に引き立つよう作られており、一見根暗で前衛的なこのオペラが、そもそもいかにもオペラらしい劇的表現の宝庫かということがよくわかりました。不協和音の連続のようで、そこかしこに散りばめられる民謡、賛美歌、ムード歌謡まで、なんでもありのごった煮の世界。松村氏の他の作品と比べてサービス精神が突出しており、エンターテインメント志向が強い異色作です。見終わった後、晴れやかに劇場を出て行く、というものではなく、むしろ「どよーん」とした空気が何とも言えない作品ではありますが。

歌手陣は皆歌いなれた人たちで、危なげない歌唱で安心して聴いていられました。下野竜也と東フィルの演奏も穴がなく実に立派なものでした。演奏にどうしても熱が入ってしまうのか、頑張りすぎて時々歌をかき消していましたが。

日本を代表するオペラ作品だし、東西文化の衝突は題材としても海外向き。是非どんどん輸出して欲しいものです。ハンガリー語、チェコ語、ポーランド語のオペラ上演が欧米の主要劇場でちゃんと成立しているのだから、人口でははるかに多い日本語オペラの上演があっても不思議ではないですよね。まあ、日本人歌手をもっと輸出することが先決かもしれません…。

コメント

_ かんとく ― 2015/07/19 10:22

Miklosさん、こんにちは。松村さんのほかの音楽を知らないので分からなかったのですが、この音楽はエンターテイメント志向なのですね。なるほど。あと、確かにポーランド語とかチェコ語のオペラ作品は言語でやっているんだから、日本があったって不思議でないですよね。きっと、作品のテーマも含めて、いろいろ話題になると思うので、海外公演を期待したいですね。

_ Miklos ― 2015/07/21 00:11

かんとくさん、松村作品、ぜひ聴いてみてください。特に初期の作品と比べたら、「沈黙」はずいぶんサービスして作ってるなと感じると思います。今度会った時CDお貸ししますよ。私のイチオシはピアノ協奏曲第2番(この曲はクラヲタにけっこう人気のはず)。パーカッシブなピアノはバルトークに通じるものがあります。

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