ロイヤルバレエ・ライブビューイング:リーズの結婚2015/05/06 23:59


2015.05.06 Live Viewing from:
2015.05.05 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: La Fille Mal Gardée
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Frederick Ashton (choreography)
Natalia Osipova (Lise), Steven McRae (Colas)
Philip Mosley (Widow Simone), Paul Kay (Alain)
Christopher Saunders (Thomas), Gary Avis (village notary)
Michael Stojko (cockerel, notary's clerk)
Francesca Hayward, Meaghan Grace Hinkis,
Gemma Pitchley-Gale, Leticia Stock (hens)
Christina Arestis , Claire Calvert, Olivia Cowley,
Fumi Kaneko, Emma Maguire, Kristen McNally,
Sian Murphy, Beatriz Stix-Brunell (Lise's friends)
1. Ferdinand Hérold: La Fille Mal Gardée (orch. arr. by John Lanchbery)

半年ぶりのROHライブビューイングは古典バレエの名作「リーズの結婚」。原題は仏語で“La Fille Mal Gardée”(下手に見張られた娘=しつけの悪い娘)、英語では“The Wayward Daughter”(御しがたい娘)というタイトルですので、邦題で通用されている「リーズの結婚」は、以前から違和感を持っていました。最後のシーンが「結婚」という印象はなく、せいぜい「婚約」であろう、ということと、リーズとコラスの結婚に向けた道のりが話の本筋ではない(実質的な障害はほとんどなく、ずっといちゃいちゃしているだけ)、というのが理由です。「じゃじゃ馬娘」とか「おてんばリーズ」のほうが邦題として適当ではないかしらん。

過去ROHで観た2回はいずれもマクレー、マルケスの当時の定番ペアでしたが、最近マクレーはラムやオーシポワにペアを組み替えられたようで(近年は隈なくキャスト表を見ていないので、間違っていたらごめんなさい)、今日のリーズはオーシポワ。彼女をロンドンで観たときは、ボリショイ(コッペリア)、ペーター・シャウフス(ロメジュリ)、マリインスキー(ドンキホーテ)と毎回違うカンパニーでしたが、ロイヤルで踊っているオーシポワを観るのは初めてです。

過去に見た印象通り、今日の彼女も相変わらず躍動感が凄い。回転の加速とか、バランスの揺るぎなさとか、アスレチックな動きは抜きん出たものがあります。それだけで十分金を取れるダンサーであることは間違いない。一方、かつて見たマルケスを思い出しながら第1幕を見ていてすぐに感じたのは、この人、足技は凄いけど、手の動きがしなやかさに欠け、結果として全身の造作がぎこちなく見える場面が少々。実は意外と身体が硬いのでは、と思いました。また、マクレーと息を合わせて見栄を切ってほしいほんの一瞬で、客席への一瞥もなく、何だか自分の演技に没頭し過ぎている余裕のなさも垣間見られました。このバレエは小道具がたくさん出てきますが、長いリボンであや取りのように格子模様を作ったあとで、ほどくとリボンの中央に結び目が残ってしまうというミスも(まあこれはどちらのせいかわかりませんが)。資質的にはマクレーとはキレキレどうしで相性が良さそうにも思えますが、特にこの演目では、踊りの鋭さはなくとも、ラブラブ感をぷんぷんと匂わせていたマルケスに分があったでしょう。

幕間にビデオが流れた司会のダーシー・バッセルとバレエコーチのレスリー・コリア(我が家にあるDVDのリーズはこの人が踊っていました)の対談で、コリアが「オーシポワは技術的には完成されたものを持っているが、英国式のポール・ド・ブラ(腕の動かし方)を習得するのに苦労している」というようなことを言っていて、自分の感覚があながち外れていないことを確認できました。言い換えれば、こういう苦手な(というか向いてない)役をも乗りこなせば、オーシポワは無敵のプリンシパルになれるのではないでしょうか。

マクレーさんは今回も余裕で180度超の開脚を見せ、この人は相変わらず凄いです。マクレーファンの妻も大満足。何も言うことはございません。未亡人のフィリップ・モーズリーは、前に観たときも全てこの人が同じ役でした。木靴の踊りのキレはもう一つで(DVDで見る昔の人のほうが凄いです)、そのうちマクレーさんがこの役をやってくれないかなと真面目に思ってます。

幕間のオヘアへのインタビューでは、次シーズンのROHライブビューイングのバレエは、ロメジュリ(キャストはペネファーザーとラム)、くるみ割り人形、ジゼル、フランケンシュタイン(スカーレットの新作)、アコスタのミックスビル、アシュトンのミックスビルと、6本も予定されていることが告げられました。多分猟奇的なものになるであろうスカーレット新作は、是非見てみたいかな。その前に、来シーズンもライブビューイングを近場で上映してくれることをただただ祈るばかりですが。

N響/サラステ/バラーティ(vn):バルトークとシベリウス2015/05/10 23:59


2015.05.10 NHKホール (東京)
Jukka-Pekka Saraste / NHK交響楽団
Kristóf Baráti (violin-2)
1. シベリウス: 戯曲「クオレマ」の付随音楽より
 1) 鶴のいる情景 作品44-2
 2) カンツォネッタ 作品62a
 3) 悲しいワルツ 作品44-1
2. バルトーク: ヴァイオリン協奏曲第2番
3. シベリウス: 交響曲第2番ニ長調 作品43

今日はバルトーク、しかもサラステということで、普段あまり聴きに来ないN響、NHKホールに来てみました。予報に反して日中は好天に恵まれた日曜日。かつては渋谷区民だった私も、休日の原宿なんて、本当に何年(何十年?)ぶりだろうか。代々木公園も沖縄フェアで盛り上がっており、若者がうじゃうじゃで、オジサンは何だか落ち着かないです。


サラステを見るのはこれで4回目。ハンガリー、イギリス、日本の3カ国各々で聴いたアーティストは意外といなくて、サラステがまだ唯一です。一挙手一投足がいちいち颯爽と格好良く、音楽もドライブ感があって、外れがないという意味ではとても安心のできる贔屓の指揮者です。N響には11年ぶりの客演とのこと。1曲目の「クレオマ」劇音楽は、「悲しいワルツ」以外は初めて聴く曲でしたが、当然サラステにとってはオハコ中のオハコ。抑制の効いた弱音が美しく、リズムもメリハリがあり、どうだと言わんばかりの王道的演奏でした。

続くバルトークは、ほぼ毎年聴いていたのに昨年は結局1度も聴けませんでした。今日のソリストはハンガリー人若手(といっても35歳ですが)のバラーティ・クリシュトーフ。私がブダペストに住んでいたころにはすでに奏者として活躍していた人ですが、実演を聴くのは初めて。この人、確かに技術は上手いと思いますが、音が綺麗すぎて単調な印象を受けました。3階席という条件を割り引いたとしても、オケに埋没してしまっています。バルトークを弾くからには、要所でほとばしる野卑性も欲しいところ。サラステはバルトークも得意としているはずですが、淡々として盛り上がりに欠け、イマイチ流れの悪い演奏でした。なお、終楽章コーダは最後までヴァイオリンを引っ張った改訂稿のほうでした。

アンコールで弾いたいかにも難しそうなピースは、エルンストの「シューベルト「魔王」による大奇想曲」というんだそうで、わりと人気の超絶技巧曲だそうです。うむ、確かにこの人は上手いので、アンコールだけ器用、とか言われないだけのガメツさがあれば、と思いました。

メインのシベリウスは、またガラリと変わって、音楽が活き活きと息を吹き返しました。さっきとは明らかにノリが違います。バルトークも十八番とは言え、やっぱりサラステにとってシベリウスは水を得た魚。正直、思い入れのない曲で、細かいところはわからないので抽象的ですが、こまめにドライブしながらも、流れは滑らかで、淀みがありません。オケも弦は最後まで濁らず、よく応えました。シベリウスの交響曲というと第2番ばかりで食傷気味なので、生誕150年の記念イヤーには他の曲もどんどんライブで聴きに行きたいと思います。