行動展&チューリヒ美術館展2014/10/14 22:00

帰国以来、美術館に行ってないわけじゃないんですが、だいたいいつも演奏会の備忘録で手一杯なのでブログを書くチャンスを逃しています。この「行動展」も東京は2週間以上前に終わってしまいましたので悪しからず。


古い友人に招待状をもらい、見に行ってみました。彼がアーティストとして生き様を貫いているのは聞いていながら、こちらも故郷を離れて長く、このところ何年も海外に出ていたため最近の絵を見る機会がなく、ようやくじっくりと鑑賞できました。かんとくさんが詳細にレビューを書いてくださっているので私のほうで付け加えることはあまりないのですが、全展示品の中でも群を抜いてユニークだったものの一つ、とは確実に言えそうです。この「心細やかな、全編悪ふざけ」は、彼の人柄が大いに反映されているなあと思いました。

この「行動展」は、戦後すぐに設立された行動美術協会というアーティスト団体が毎年主催する公募展示会で、今年が第69回。絵画主体ですが彫刻もあって、屋外展示までありました。絵画はどれも2メートル四方くらいの大作品ばかりで、作者の費やした時間と情念がキャンバスに溢れている力作ばかり。彫刻も絵画も、実にいろいろな作風の作品があって、それは決して尖った前衛ばかりではありません。全体的に洋画寄りの傾向で、ジャパニーズテイストを押し出したものは少ないように思いました。ざっくりとした印象としては、抽象的な作品はむしろわかりやすいというか、色彩は予定調和的で、デザインアートとしてすぐにお金になりそうなところを狙ったものが多く、作品世界に入って行く敷居はそんなに高くないと感じました。ただ、それを逆に言えば、私ごときの鑑賞者に、鮮烈な印象を植え付けるものがあまりなかったのは事実です。

ちょうど同じ時期に「オルセー美術館展」と「チューリヒ美術館展」をやってて、国立新美術館としてはたいへんな賑わいでした。時間が余ったのでどちらかを見て帰ろうと思い立ち、オルセーは何度も行ったから、大好きなモンドリアン目当てでチューリヒ美術館展のほうを覗いてみました。

モンドリアン「赤、青、黄のコンポジション」は、まさにアイコニックな作品で見れてよかったし、ココシュカ「プットーとウサギのいる静物画」、ベックマン「スケベニンゲンの海岸の散歩」など、印象深い作品にも始めて巡り会えて、なかなか充実した展示会でしたが、とりわけ、ふと目に留まったジャコメッティの抽象画「色彩のファンタジー」の強烈な印象に、しばし釘付けになってしまいました。


漫画チックなヒョロヒョロ彫刻専門の人と思っていたジャコメッティが、こんな絵も描いているとはつゆ知らず。描かれて100年経ってなお鮮烈なその色彩感覚は、さっきの「行動展」では残念ながら一切見えなかったものです(もちろん、ジャコメッティと比べんなや、とは出展者の人たちも思うでしょうが)。繊細にして大胆、無秩序のようで調和。病的なビジュアルイメージは、気安いパクリを否定します。歴史のふるいにかけられた本物のオーラを、あらためて感じたハシゴ酒ならぬハシゴ展示会でした。