読響/カンブルラン/金子三勇士(p):ちょっとおフランスなバルトーク2013/12/10 23:59


2013.12.10 サントリーホール (東京)
Sylvain Cambreling / 読売日本交響楽団
金子三勇士 (piano-2)
1. リゲティ: ロンターノ
2. バルトーク: ピアノ協奏曲第3番
3. バルトーク: 6つのルーマニア民族舞曲
4. バルトーク: 組曲「中国の不思議な役人」

演奏会に行く機会はめっきり減りましたが、バルトーク特集となれば、聴きに行かないわけにはまいりません。もしかしたら読響を聴きに行くのは初めてかもしれない。カンブルランも、実は名前すら知りませんでした。

リゲティの「ロンターノ」は、記録を見ると聴くのはこれで3回目。現代音楽の中では比較的メジャーなレパートリーみたいですね。しかしこの曲、私には何度聴いても「よくわからない曲」という印象です。何かが蠢くような旋律(とも言えないような音列)が楽器を変えながら延々と続き、虚無真空の宇宙的でもあるし、土の匂いがする生命力も感じられる、何とも不思議な曲です。不眠症によい音楽かもしれません。プログラムでは演奏時間約11分と書いてありましたが、20分はやってました。

続いてバルトーク晩年のピアノ協奏曲第3番。ソリストは日洪ハーフの若手ピアニスト、金子三勇士。当然「ミュージック」を意識した命名と思いますが、両親は桑名正博とアン・ルイスのファン、ということは、ないか。公式HPによると彼のハンガリー語名はKaneko Mijüdzsi Attilaだそうです。なのでハンガリーではアッティラと呼ばれるんでしょうね。さて弱冠24歳のあどけない金子君ですが、まだまだこれからの人のようです。破綻なく弾けるだけの技量はあるのでしょうが、ミスタッチもけっこうあって、それをカバーするに足るプラスアルファは感じられませんでした。終始型にはまった感じがして、タッチは至って普通でキレがなく、ただ流れで弾いているだけで奏者の「心」が響いて来ない。日本とハンガリーを行き来する人生ならば、この曲を弾きつつもっといろんなことを表現できるはず。若いんだからもっと向こう見ずにいろいろと可能性を追求して欲しいです。

休憩後の「ルーマニア民俗舞曲」はバルトークの代表作ですが、オケ版を実演で聴くのは初めてかも。ここまでカンブルランの描くバルトーク像を推し量るに足る材料がなかったのですが、同じくフランス人でバルトークを好んで演奏するブーレーズと比べて、アプローチは民族色の土着ピアノ系に少し傾いている気がしました。元々の読響の弦の音がハスキーなのも功を奏し、ハンガリー民謡(現在はルーマニア領のトランシルヴァニア地方ですが)の呼吸が、まるでピアノで奏でるかのような細やかなニュアンスで表現されていました。かと言って、ドハンガリーな田舎風演奏と違い、あくまでパリのエスプリを残した都会的な解釈。けっこう微妙な立ち位置の難しい演奏でしたが、ちゃんと着いていくオケも立派でした。

最後の「中国の不思議な役人」は演奏会用組曲版。このプログラムの負荷具合なら全曲版でやって欲しかったところです。ここでもオケのがんばりが際立ち、この難曲にして、一本芯が通って破綻なし。指揮者のリードが良かったのだと思います。出だしこそ控え目で「おや」と思ったのですが、冒頭にはクライマックスを持って来ないという作戦と見受けました。個々の奏者を切り出して見ればそりゃーこのオケはベルリンフィルでもロンドン響でもないですが、常任指揮者カンブルランの統率がよく利いている、チームプレイの勝利だと思いました。この取り合わせなら、また聴きたいと思わせるだけのものがありました。

アンコールはハンガリー舞曲でもやるのかなと思ったら、同じハンガリー繋がりでもベルリオーズの「ラコッツィ行進曲」。さすが、フランス人!