コンセルトヘボウ管/ブロッホ/ハルテロス(s):悪魔の夢、死と変容2012/10/11 23:59


2012.10.11 Concertgebouw (Amsterdam)
Alexandre Bloch / Royal Concertgebouw Orchestra, Amsterdam
Anja Harteros (S-2)
1. Johan Wagenaar: Overture 'De getemde feeks' (The taming of a shrew)
2. Richard Strauss: Songs
 1) Allerseelen
 2) Die heiligen drei Könige aus Morgenland
 3) Waldseligkeit
 4) Wiegenlied
 5) Morgen!
 6) Zueignung
3. Jörg Widmann: Teufel Amor, a Symphonic Hymn after Schiller
4. Richard Strauss: Tod und Verklärung

ついについに、念願のコンセルトヘボウに初見参です。RCOはロンドンとブダペストで過去に5度聴いていますが、やはり本拠地で聴けていなかったのが長年の心残りでした。

今回は直前になってヤンソンスが病気のため降板、代役に抜擢されたのが、なんの偶然か、先日見に行ったドナテッラ・フリック指揮者コンクールで優勝したばかりのアレクサンドル・ブロッホ君でした。このはっきり言ってドマイナーなプログラムを変更無しで、短期間でモノにしなくてはならないのですから、よくぞ受けたと思います。そのアグレッシブ姿勢に拍手。聴衆も温かい人が多いのか、指揮者変更にもかかわらずほぼ満員に近い入りでした。


初めて中に入るコンセルトヘボウは、ウィーン楽友協会と同じく反響板無しの靴箱型ホール。ここの特徴はステージがやたらと高い位置にあることと、指揮者の花道がコーラス席の間を通る階段になっていることです。私が好んで買う最前列ど真ん中などという席は首が疲れる上に指揮者の足下くらいしか見えない悪席ということをあらかじめ聞いていたので、今回はバルコニーの席にしました。余談ですがここは歴史的建造物にもかかわらず、トイレは新しく奇麗でした。ロンドンのホール、特にバービカンは是非とも見習って欲しいものです。

1曲目は名前も知らなかったオランダのロマン派作曲家ワーヘナールの、序曲「じゃじゃ馬ならし」。当然シェークスピアを題材にしているわけですが、ロマン派バリバリの明るい曲でした。ブロッホはこのマイナー曲を暗譜で指揮。暗譜が必ずしもえらいわけではないですが、勉強熱心な姿勢は評価できます。棒振りは、気負いが勝っているのかちょっとアクセクしすぎてやり過ぎの感がないでもありません。

続いて、ロンドンではキャンセル魔として知られているアーニャ・ハルテロスのリヒャルト・シュトラウス歌曲集。定番の「4つの最後の歌」かなと思っていたら、全然知らない曲ばかりでした。ハルテロスはブロッホよりも長身で貫禄があり、あまり指揮や伴奏を気にすることなく、自分の世界に没頭するような入り込み歌唱でした。声量は抜群でしたが時々音が怪しく、ビブラートかかり過ぎの歌は正直私の好みではありませんでした。ミドルからスローテンポばかりの歌曲が連続すると、昼間の仕事疲れもあって、つい眠気が…。どうもピンと来なかったので、見栄えが活かせるオペラの舞台で見てみたいものです。

元々はここで休憩が入るはずでしたが、指揮者変更のついでに、何故だかわかりませんが休憩の位置が歌曲選集の後からその次の曲の後に変更になっていました。次のヴィトマン「悪魔の夢」は昨年完成し、今年パッパーノ/ウィーンフィルで初演されたばかりのホヤホヤな新曲。ショートピースかと思いきや、30分以上かかる長丁場の曲でした。冒頭はオケの低音限界を試すかのようなチューバが地鳴りのように響き、脅かしありーの、特殊奏法ありーの、微分音ありーの、何だかやたらといろいろ詰め込んだようなエネルギッシュな曲でした。こんな複雑な新作まで振らされて、アレックス君の対応能力もたいしたもんです。ヤンソンスだったらここまで細かく振ってないだろうから、オケとしてはアレックス君が代役で、やりやすかったかも。

休憩後のメインとしてはちと短い「死と変容」。CDは持っていますが、実はほとんど聴いたことがない…。先入観だけで暗くて地味な曲だと思い込んでましたが、あらためて聴いてみると、ドラマ満載のたいへん美しい曲ですね。オーボエ、クラリネット、フルート等、コンセルトヘボウの木管の名人芸と極上の音色を堪能させてもらいました。オケが協力的だったことも後押しして、ブロッホのバトンテクは相当立派なもので、指揮の技術も度胸も、すでに完成されたものを持っているようです。あとは経験値だけなので、こうやって天下のコンセルトヘボウに代役のオファーが来るくらいだったら、こないだの指揮者コンクール優勝の特典である「1年間のLSO副指揮者待遇」なんて、別に今更やらなくてもいいんじゃないですかねえ。

コンセルトヘボウの聴衆は皆さん優しく、ハルテロスにもブロッホにも、いちいち会場総立ちのスタンディングオベーションでエールを送ります。言わば喝采のインフレ。呼ばれるたびに花道の階段を上り下りする指揮者、ソリストはたいへんですね。何にせよこのホールの音響は素晴らしく、機会があったらまた何度でも来てみたいものです。


どこかドゥダメルを思い出させる風貌のアレックス君。

コメント

_ 守屋 ― 2012/10/21 16:54

おはようございます。今日は、どちらの空のしたでしょうか?

 こんな面白い巡り合わせが起こることもあるんですね。指揮者コンクールとこのコンサートを体験できたのは、Miklosさんだけでしょうね。

 ハルテロス、聞いたことはありませんが、キャンセルしまくりの事実を知るにつけ、意地になって聞こうとしなくてもいいやの歌手になっています。シュトラウスの歌曲群は、定番と言えば定番ですが、最後のディー・ツゥアイグヌングはいかがでしたか?これまでデボラ・ヴォイト、ベン・ヘップナーなどで何回か生で聞いていますが、シュトラウス歌手ではないであろうエディタ・グルベローヴァが最も印象に残っています。

_ Miklos ― 2012/10/22 08:34

出張はとりあえず落ち着きました。私も代役の案内を見たとき、最近どこかで聞いた名前だなーと思ったけど、こないだ見たばかりの彼とはすぐに結びつきませんでした。隣りの席のおばさんと話していて、ロンドンでコンクールを聴いたというと、「じゃああなたは彼のためにわざわざ来たの?」と驚かれました。違うって。

シュトラウスに限らず歌曲はてんで疎いので、すいません、どの曲がどうだったか、しっかり覚えてません…。定番曲ばかりなんですね。勉強します。

_ sony ― 2012/10/22 23:05

やはり本場で聞く音楽は違うでしょうね。今回はいろいろな偶然が重なったようですが、楽しめた様子何よりです。お仕事がらみとはいえロンドンからはすぐですね。
コンセルトヘボウは若い時にレコードで良く聞いたものです。このホールも特徴のありそうで一度行って見て、音楽も聞きたくなりました。オランダ絵画も好きですから一度訪れたいものです。が、日本からは遠いですね。

_ Miklos ― 2012/10/23 08:23

sonyさん、コンセルトヘボウはウィーン楽友協会と並んで、遠距離をわざわざ聴きに行く価値のあるホールと思いました。ウィーンみたいに観光客だらけじゃないのがよいかも。ただ、オランダは食事に特徴がないのが旅行先としてのポイントを下げています。

_ レイネ ― 2012/10/23 17:33

オランダにようこそ!と言っても、わたしはその頃日本に里帰り中でしたが。
コンセルトヘボウ・デビュー、おめでとうございます。同じ国ながら、アムステルダムからはとても遠いところに住んでるので、行けるのはほとんどマチネだけ。しかもバロックや現代曲のコンサートばかりで、コンヘボ・オケのコンサートには行ったことがないという。。。
かぶりつきに近くて視界も音もまあまあなのは、平土間7、8列目辺りでしょう。5列目より前だと、首が痛くなるし、音が頭上を通り抜けていく感じ。
でも、全体的にあのホールは音響も雰囲気も抜群ですよね。また、ぜひどうぞいらしてください。
最近は、アムスにもちらほらとまあまあ味のいいレストランも増えてます。(高いのがガンだけど)
ハルテロスは、アムスおよびコンヘボとの相性がよろしいようで、昨年のクリスマス・マチネにも出演したし(ライブTV放映され、たしかハイティンク指揮だった)、今のところこちらではキャンセル魔化してないようです。
わたしも、彼女はオペラ実演で聴いてみたいで~す。

_ Miklos ― 2012/10/24 07:46

レイネさん、我がホームタウン京都を堪能された様子、何よりです。アムスは今回ミュージアムスクエアあたり(つまりコンセルトヘボウの近く)のホテルに泊まったんですが、ホテルの兄ちゃんに「この近辺でオランダ料理の良いレストランない?」と聞いたら、「オランダ料理屋というのは誰も食べないので今はもう存在しない。家庭にしかない。外食はみんなイタリアン、フレンチ、アジアンを食べに行くよ」と言ってましたが、本当ですかね?あのあたりはそもそもカフェかシーフードくらいしかありませんでしたが、カフェ飯もシーフードも悪くなかったですよ。それをオランダ料理かというのかどうかはわかりませんが…。

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