ロイヤルオペラ/パッパーノ:元旦から「ニュルンベルクのマイスタージンガー」2012/01/01 23:59


2012.01.01 Royal Opera House (London)
Sir Antonio Pappano / Orchestra & Chorus of the Royal Opera House
Graham Vick (Director), Elaine Kidd (Revival Director)
Wolfgang Koch (Hans Sachs), Simon O'Neill (Walter von Stolzing)
Emma Bell (Eva), Peter Coleman-Wright (Sixtus Beckmesser)
Sir John Tomlinson (Veit Pogner), Heather Shipp (Magdalene)
Toby Spence (David), Colin Judson (Kunz Vogelgesang)
Nicholas Folwell (Konrad Nachtigall), Donald Maxwell (Fritz Kothner)
Jihoon Kim (Hermann Ortel), Martyn Hill (Balthazar Zorn)
Pablo Bemsch (Augustin Moser), Andrew Rees (Ulrich Eisslinger)
Jeremy White (Hans Foltz), Richard Wiegold (Hans Schwarz)
Robert Lloyd (Nightwatchman)
1. Wagner: Die Meistersinger Von Nürnberg

皆様、あけましておめでとうございます。

今年は正月早々ロイヤルオペラです。あいにくの雨模様でしたが、ホリデーシーズンにつき普段より日本人の姿を多く見かけました。開幕前、新年の挨拶とともに、ナイト役テナーのサイモン・オニールがひどい風邪をひいてしまったが、ロンドンで手に入る限りの抗生物質を飲んで快方に向かっているので、今日は何とか歌いますというアナウンス。パッパーノがナイトの称号を付与されることが発表されてから最初の演奏会でもあり、指揮者登場の際はオケメンバーもぴしっと直立、会場は温かい拍手に包まれました。

最近オペラではバルコニーボックス専門になっていましたが、今日は久々に右側ストールサークルの舞台寄りに座りました。が、これが失敗。100番以上の席番号には客を入れず、A列100〜111番は座席と床板が取っ払われて、眼下にティンパニ奏者が丸見えになってました。そのおかげでティンパニの音だけが突出してダイレクトに響いて来て、うるさいことこの上なし。天気のせいか、オケ全体も湿っぽくピットの底に溜まるような音で「あれっ」と拍子抜けしたのですが、輪をかけて全てをぶちこわしてくれる雑なティンパニには閉口するしかありませんでした。

幕が開くとティンパニの出番はめっきり減るので一安心。第1幕、確かにオニールは声が出ていないと言うわけではないにせよ、声に張りがなく声量も負けています。エーヴァ役のベルは表情は硬いものの声はよく出ていました。ザックス役のコッホは声質が軽く、あまりカリスマがありませんがこちらもまずまず無難な出だし。しかし何と言っても、第1幕を引っ張っていたのはダーヴィド役のトビー・スペンスとエーヴァのお父ちゃんポグナー役のトムリンソン卿でした。オニールの調子が悪い分トビー君の演技力が際立ち、歌も見かけからは想像つかない野太いテナーで、立派な歌唱でした。トムリンソンは先日聴いた「青ひげ公」のときと同様、いちいち音程を手探りするような歌い方が好きになれませんが、よく響く低周波は非常に心地よく説得力のあるものでした。

第2幕の夜の町は、お菓子の家のようなメルヘンチックな舞台です。こちらの耳が慣れてきたのか、あるいはパッパーノの熱のこもった指揮に湿気が飛んで重しが取れたのか、オケの音もずいぶん外に向かって出てくるようになってきました。ザックスの歌の比率がぐっと多くなり、コッホの調子も上がってきますが、あまり低音が利いてなくて身振り手振りが大きいのでザックスよりはフィガロというキャラクター。靴職人とはいえマイスターなんだから衣装をもうちょっと威厳のありそうなものにしてくれたら良かったのでは。これでは丁稚のダーヴィドよりもみすぼらしいです。ベックメッサーは普通に笑わしてくれましたが、トーマス・アレンのように小芝居の細かさがもっと欲しかったところ。最後のドタバタ騒動になるところでは、天井から人が落ちてきそうになる演出が意表をついてて面白かったです。

第3幕、ザックスの苦悩の場面ですが、本や椅子を投げつけるなど相変わらず感情の起伏が激しいザックス。皆の尊敬を集めるマイスターの重鎮として常に沈着冷静、怒りも苦悩も内に秘めたるのを上手く表現するのがこの役の難しさだと思うので、こういうザックス像は、私はちょっと買えません。オニールの調子は下がる一方で、歌合戦で騎士ヴァルターが渾身の名曲を歌う場面では、破綻だけを避けるべく非常に思い切りの悪い歌になっていました。あのコンディションなら致し方なしですが、本来なら一番の聴かせどころのはずなので、本人にも聴衆にも残念ではありました。

とその時、足にふと冷たいものを感じたと思ったら、突如目の前に雨のような水滴がポタポタと落ちてきました。上の見ると、天井から雨漏りのように水が垂れており、ちょうど私の右足あたりを直撃します。足の位置を変え、ひざはハンカチで防御して事なきを得ましたが、そんなこんなで気を散らされたおかげで最後のザックスの歌をほとんど聴き損ねてしまいました、ちくしょー。水漏れは幕が閉まるころには収まっていたので一過性のもので、ここに水道管が通っているとは思えず、また、外が大雨になったとしてもこんなところまで水が流れてくるのも考えにくいので、多分上階のボックス席でペットボトルの水を気付かず丸々ここぼしたか何かでしょう。迷惑な話ですが、オペラハウスもやっぱり建物の作りは「英国クオリティ」なんですねえ。

ラストはせっかく盛大な合唱が入って誰がやっても盛り上がるのだから、音楽が切れると同時に照明を落とし、その後さっと幕を締めたほうが良かったのでは(前にブダペストで見たときはそうでした)。コーダの最中でじわじわと幕を締めるものだから中途半端に拍手が始まり、この長丁場の熱演に報いるには結果的にお寒い拍手となってしまいました。これは演出が悪いです。

何だか文句ばかりを書きましたが、休憩を入れて6時間に及ぶ長時間を、私としては奇跡的に一切居眠りせず聴き通せました。やはりこのオペラの音楽とコンセプトが放つ磁力は抗し難いものがあり、正月早々家族揃ってたいへん楽しめた公演でした。