ボリショイオペラ:エフゲニー・オネーギン(最終日)2010/08/14 23:59

2010.08.14 Royal Opera House (London)
Bolshoi Opera
Dmitri Jurowski / Orchestra of the Bolshoi Theatre
Chorus of the Bolshoi Opera
Dmitri Tcherniakov (Director)
Vasily Ladyuk (Eugene Onegin), Ekaterina Shcherbachenko (Tatyana)
Oksana Volkova (Olga), Roman Shulakov (Lensky)
Irina Rubtsova (Madame Larina), Irina Udalova (Nurse)
Mikhail Kazakov (Prince Gremin), Valery Gilmanov (Zaretsky)
1. Tchaikovsky: Eugene Onegin

今夏のボリショイ劇場引越し公演は、バレエの6演目に対して(コッペリアのみ鑑賞)オペラは「エフゲニー・オネーギン」1つでした。最終日の今日、チケットは直前までいっぱい余っていましたが最終的にはほぼソールドアウトになったようで、当日のリターンを求める人の列ができていました。

このオペラの実演は初めてです。グラインドボーン音楽祭のDVDで予習して行ったところ、全然違うので面食らいました。と言っても奇をてらったワケワカラン系演出では全くありません。大きな楕円テーブルが全3幕を通して終始ステージの中心に置かれており、物語は常にその周りで展開します。最初の2幕はずっとラーリン家の中が舞台で、休憩なしの2時間ぶっ続けで進みました。切りたくない演出家の意図もわからんではないですが、結局場面ごとに幕が下りてブツ切れになりますし、40分程度の第3幕とのバランスを考えると、あと1回休憩を入れてもよかったのでは、と思いました。パーティーのシーンではこれでもかと人が出てきて人海戦術で圧倒しますが、ハンガリー国立歌劇場もやたらと人をステージに乗せるのが得意ワザであったなあと、思い出しました。旧共産圏の傾向でしょうか。

タチアーナを歌ったシチェルバチェンコは昨年のBBCカーディフ国際声楽コンクールで優勝した期待の新星で、顔はちょっと宍戸錠が入ってますが、スリムでチャーミングな美麗ソプラノです。ボリショイ劇場ではこの演出のプレミエを歌ったそうで、ROHのWebサイトでもこの演目の解説では唯ひとり名前が載っていました(ので、彼女が出る日を選んだわけです)。声量は普通ですが、冒頭の地味で控えめな少女から、手紙のシーンでは内に秘めた情熱を激しく表し、ふられてしまった時の茫然自失ぶり、公爵夫人となった後の余裕のセレブぶりと冷淡さ、実に多彩な表現力に感心しました。一方、相手役のオネーギンを歌ったラデュークもロシアオペラ界期待の新星だそうですが、バリトンにしては低音があまりに薄く、テノールのような軽さでした。多分こればかりは練習や経験や変わるものではないので、転向した方がいいんではないでしょうか。レンスキ役のシュラコーフは元よりテノールですが、こちらも声と演技が軽く、主役の男声陣がこぞって軽薄な味を出していましたが、演出家の意図だったのかどうか。ただし、歌手陣の歌唱は総じてハイレベルでした。ROHのように突出したスター歌手がいるわけではありませんが、バランスよく粒ぞろいでした。しかしこの演出、レンスキはカワイソすぎ…。

指揮のディミトリ・ユロウスキはLPOの音楽監督ウラジーミルの実弟で、私は最初、お兄ちゃんが指揮者だと誤解していました。弟君はまだ30歳そこそこの超若手ですが、情感的で流麗なサウンドを引き出していました。特に弦の美しさは比類がなく、ロシアのオケにしては金管もマイルドな音にまとめていました。ただし、途中オケが鳴り過ぎて歌がかき消されてしまう箇所がいくつかあり、こればかりは若気の至りというか、オペラの経験不足なんでしょう。あと、お兄ちゃんを見習って少しダイエットした方が…。ともあれオケは非常に良かったので、コンサートホールでも一度このオケを聴いてみたいものです。

最後にちょっと一言。ROHのオーケストラストール(平土間)席は、前に座高の高い人が座ると絶望的に視界が遮られてしまうので困ります。作りが悪いといつも思いますね。今更どうしようもないことかもしれませんが。