都響/レネス/タベア・ツィンマーマン(va):ロマンを忘れた無骨なロシア風ラフマニノフ2023/09/23 23:59

2023.09.23 東京芸術劇場コンサートホール (東京)
Lawrence Renes / 東京都交響楽団
Tabea Zimmermann (viola-2)
1. サリー・ビーミッシュ: ヴィオラ協奏曲第2番《船乗り》(2001) [日本初演]
2. ラフマニノフ: 交響曲第2番 ホ短調

コロナがあったのでたいがいのものはご無沙汰なのですが、東京芸術劇場に来るのも非常に久しぶりな気がして、記録を辿ると4年ぶりでした。それよりも、ひところは演目に見つけては足繁く聴きに出かけていたラフマニノフの2番も気がつけばすっかりマイブームが去り、6年前に出張中のライプツィヒで聴いたのが最後でした。

さて本日は指揮者、ソリスト共に初めての人々です。ドイツ人ヴィオリストのタベア・ツィンマーマンは、大御所ピアニストのクリスティアン・ツィンマーマン(ポーランド人)と関係がないのはわかるとしても、同じドイツ人のヴァイオリニストのフランク・ペーター・ツィンマーマンとは一緒にレコーディングをしているので兄妹かなと思ったら、特に血縁関係はないようです。

1曲目のヴィオラ協奏曲はタベアさんのために作曲された作品ですが、初演を指揮する予定だったタベアの夫、デヴィッド・シャローンが都響定期を振るために来日した2000年9月に不幸にも急逝してしまったという因縁のある曲だそうです。20年以上の時を経て(本来は2年前に上演予定でしたがコロナのため延期)、タベア本人の都響への客演という形で日本初演が叶ったのは喜ばしいことですが、正直、私にはこの昼下がりの時間帯に聴くのは辛すぎた。タイトルからして「さまよえるオランダ人」とか「ピーター・グライムズ」のように劇的で写実的な曲を勝手に想像していたら、一貫してたおやかな雰囲気の、シベリウス寄りのベルク、みたいな抒情的な曲でした。あえなく撃沈、すいません。ただ、アンコールを機嫌良く2曲もやってくれて(多分バッハとパガニーニだろうと思っていたら、ヴュータンとヒンデミットでした…)、これがどちらも凄い演奏で、楽団員全員が凝視。この人の途方もない技術力と表現力の幅がよくわかりました。

メインのラフマニノフはちょっと不思議な演奏でした。ローレンス・レネスも正直初めて聞く名前で、宣材写真からヒスパニック系かなと思っていたら、南方系ではありますがマルタ系オランダ人の白人で、すらっと背が高く、ハゲ具合がスティーブ・ジョブス風。オペラに長けた人のようで、言われてみると確かにオケにはあまり繊細なコントロールはせずに、冒頭の弱音から朗々と鳴らす無骨な演奏でした。野蛮さ、田舎臭さはなく、ストレートにひたすら前進していくイメージ。しかしこの曲は、甘ったるくやるにも、即物的にやるにも、いずれの場合でも何かしらの細やかな揺さぶりをやらないと長丁場持たない気がしますが、そんなの関係ねえと弱音欠如のまま重戦車のように太く突き進むのが、ある意味今どきのロシア風かもしれません。期待とは違う演奏でしたが、オケは普段通りのハイクオリティで楽しめました。やっぱりこの曲は、特に生で聴く時は甘い気分に浸れる方がいいかな。