ロイヤルオペラ/ディドナート/フローレス/バルチェローナ:ロッシーニ「湖上の美人」2013/06/07 23:59

2013.06.07 Royal Opera House (London)
Michele Mariotti / Orchestra of the Royal Opera House
John Fulljames (director)
Joyce DiDonato (Elena), Juan Diego Flórez (Uberto/King of Scotland)
Daniela Barcellona (Malcom), Michael Spyres (Rodrigo)
Simon Orfila (Douglas), Justina Gringyte (Albina)
Robin Leggate (Serano), Pablo Bemsch (Bertram)
Christopher Lackner (a bard)
Royal Opera Chorus
1. Rossini: La donna del lago

ロッシーニはブダペストのころに「理髪師」と「チェネレントラ」を1度ずつ見ただけで全く守備範囲外だし、この「湖上の美人」も名前すら知りませんでした。フローレスとディドナートじゃなければパスしていたことでしょう。

フローレスは、3年前の「連隊の娘」を一般発売で買おうとしてあえなく撃沈し、それ以降まだ聴けてませんでした。やっぱりROHはフレンズに入らなきゃチケット取れないのか、と思い立つきっかけにはなりましたが。実物のフローレスは、DVDで見た通りの甘いマスクに、甘ったるくない軽妙なクリアボイスが心地良い、まさにスーパーテナーでした。序盤でちょっと声が裏返りそうになったり、調子はベストじゃなかったかも。一方のディドナートはCD・DVDでもまだ聴いたことがなかったのですが、太くて野卑な声はたいへん個性的。評判のコロラトゥーラの技巧は、確かに速弾きギタリストと違って生身の肉体だけを駆使してあのトリルを声でやるのは凄いものの、私には文字通り「技巧」だと認識するのみで、音楽的な凄みを感じなかったのもまた事実。自分がロッシーニを好んで聴かなかった理由が今わかった気がします。

ベストとは言えないものの期待を裏切らない歌唱を聴かせてくれた主役二人の、さらに上を行っていたのがダニエラ・バルチェローナ。長身でがっしり体型は、メゾソプラノながらもまさに男の中の男、兵士の中の兵士。さらにこの人の歌が群を抜いて完璧で、今日一番の拍手喝采を浴びておりました。ロドリーゴ役のマイケル・スパイレスは、この中では割りを食ったのか、もうひとつ冴えない印象。フローレスと同じ旋律を追いかけて歌うという酷な場面がありまして、やっぱり並べて聴いては差が歴然なのが気の毒でした。バルチェローナよりも背が低くてデブに見えたのもマイナス。

この「湖上の美人」は、緊迫したり悲しかったりする場面でも徹底して能天気でヌルい音楽が続くという、ある意味開き直った楽観主義が貫く曲でしたが、演出は凄惨さを前面に打ち出したもので、スコットランド人反乱軍をことさら野蛮人に描いたのが、何とも意味不明なカリカチュア。図書館だか博物館の中で、ショーケースに入った標本が突如として動きだし、おそらく学者さんたちの空想中の物語を展開して行きますが、最後はまたショーケースに戻るという入れ子の構造で、これは自分の思想じゃなくて登場人物の空想の話なんですよ、という逃げの言い訳を演出家が用意しているだけのような。また、全体的に突っ立って歌うばかりで動きが少ないのは、歌が難しいからかもしれませんが、初めて見る私にはちょっと退屈な演出でした。


男より凛々しいバルチェローナ。後ろはスパイレス。


フローレス。


ディドナート。


敵役だった後ろの二人が、何だかとっても仲良さそうなのです…。

コメント

_ 守屋 ― 2013/06/25 05:45

こんばんわ。僕はMiklosさんよりはおそらく、ロッシーニの作品を多く聴いていると思いますが、作品によってのめり込めないものもあります。例えば、数年前にバルトリが主演した「イタリアのトルコ人」。作品として全く楽しめず、今回同様、スター歌手の歌だけに集中しました。ロッシーニで好きなのは、声のアンサンブルです。生で聴いたことはないですが、「ウィリアム・テル」や、2008年にフローレスとクジャアクの二人で大いに盛り上がった「シャブランのマチルド」のように、要所要所で5重唱や6重唱による声のアンサンブルを聴かせるロッシーニのオペラの方が好きです。

 バルチェッローナは本当に素晴らしかったですよね。ヴェルディにシフトしているようですが、今回の舞台でロンドンの聴衆を感動させた様なベル・カントでもっとロンドンに来て欲しいです。

_ Miklos ― 2013/06/26 04:06

バルチェローナ良かったですね。実はよく知らない人だったのですが、バルトリと同世代、ロッシーニ歌手として名の通った人だったんですね。新国立劇場に出演したこともあるようなので、今後要チェックです。

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