チェコフィル/ビエロフラーヴェク/マルティニーク(Bs):ペトルーシュカ組曲、聖書の歌2012/10/18 23:59


2012.10.18 Dvořák Hall (Prague)
Jiří Bělohlávek / Czech Philharmonic Orchestra
Jan Martiník (Bs-2)
1. Janacek: The Excursions of Mr. Broucek, suite from the opera (arr. J. Smolka)
2. Dvorak: Biblical Songs
3. Stravinsky: Petrushka, suite from the ballet

今年の1月以来、2度目のドヴォルザーク・ホールです。プラハにはしょっちゅう出張で来ているのに、なかなかタイミングは合わないものです。

チェコフィルは今シーズンからビエロフラーヴェクが20年ぶりに首席指揮者の座に返り咲きました。BBC響の首席を今期限りで退くことが決まっているビエロフラーヴェクは、私もロンドンで初めて実演を聴くまで正直地味な指揮者とナメていましたが、バランスよいオケのコントロールとスコアへのリスペクトに加え、熟練の成せる技で音楽を自在に広げられるスケール感に感服いたしました。

1曲目のヤナーチェク「ブロウチェク氏の旅」は全く初めて聴く曲です。そもそもこのオペラの名前すら知りませんでしたが、あらすじを読む限り、月に行ったり、15世紀にタイムスリップしたりと、家族で楽しめそうなファンタジーでありながらも相当にぶっ飛んだストーリー。今回の6曲(導入〜夕暮れ、月のワルツ、夜明け前、夢と現実の狭間、フス派の合唱曲、勝者の凱旋)から成る管弦楽版組曲を聴いても音楽は円熟していてたいへん親しみやすいので、これは是非オペラの公演を見てみたいものだと思いました。

続くドヴォルザーク「聖書の歌」は全10曲で構成される歌曲集。チェコ語の旧約聖書の詩編から歌詞を取った宗教音楽でありながら畏まった雰囲気はなく、ボヘミア民謡牧歌集と呼んでも違和感のない素朴な曲調でした。最後の曲などは「雪やこんこ」のメロディにしか聴こえません。バスの若者ヤン・マルティニークは、そのパヴァロッティのような巨体から、実に良い声を深く響かせていました。歌はまだ未熟なところがあるかもしれませんが、とにかく声が素晴らしい。一瞬でとりこになってしまうような声は天賦のもの、会場総立ちの大拍手も納得です。是非世界の大舞台でどんどん経験を積んでもらいたい(ビエロフラーヴェクがBBC響とチェコのオペラを上演するときにもロンドンまで呼んでいたみたいです)。

メインのペトルーシュカは1947年の版でしたが(1911年版とは管・打楽器の編成が異なり、ティンパニの3連装飾音等に特徴があります)、第4部のクライマックス、ペトルーシュカとムーア人が決闘する場面で唐突に終ったのでガクンと肩透かし。全曲版ではなく、珍しい組曲版だったのでした。当然ラストのトランペットの掛け合いもありません。盛り上がるところでブツっと切ってしまうのは、「中国の不思議な役人」の組曲版と同じですね。ビエロフラーヴェクは淡々とオケを引っ張りますが、変拍子の箇所では聴いていてヒヤヒヤするくらいぎこちがなく、この人変拍子が実は苦手かも、と思ってしまいました。チェコフィルもちょっと後乗りというか反応の重いオケに見えるので、まるで風呂場のように残響の豊かなホールと相まって、分離が悪く切れ味にはいまいち欠ける演奏でした。肝心のピアノもよく聴こえなかったし。ただしチェコフィルの各ソロパートの名人芸は素晴らしいものがあり、特にホルンの力強いことと言ったら。

世界的に名を馳せたチェコ人マエストロの凱旋ですから当然ですが、ビエロフラーヴェクに対する聴衆の高揚度は相当なものでした。終始にこやかで楽団員とも良い雰囲気そうだし、機会がある限りまた聴きに行きたいと思います。

コメント

_ sony ― 2012/10/25 20:34

チェコフィルいいですね。出張とはいえこのように良い時間がもてるのはいいことです。
さてドヴォルザークの「聖書の歌」知りませんでした。メンデルスゾーンの詩篇の音楽が大変良かったので是非ともドヴォルザークのも聞きたいものです。きっと詩篇は150編中のどこかわかりませんが、いい歌詞だろうと思います。音源捜します。ちょっとボヘミアンのようですが。紹介していただきうれしいです。

_ Miklos ― 2012/10/26 07:13

sonyさん、私も知りませんでしたが、素朴で良い曲でした。調べてみると、ちょうどアメリカ滞在中、新世界交響曲や弦楽四重奏曲「アメリカ」、チェロ協奏曲と同時期の、まさに作曲家としての頂点の時期に書かれたものなんですね。そりゃ充実しているはずです。

_ sony ― 2012/10/26 23:04

インターネットで聖書の歌を調べましたら、ピアノとチェロの演奏がありました。全体的にしっとりとしていていい曲でした。勿論「詩篇」は歌によって書かれているので、作曲家にはいい内容なのかもしれません。
最後10曲目は本当に「ゆ~きやこんこ、あ~られやこんこ」ですね。ピアノの演奏で弾んでいるところも全く同じ。CDも探してみます。2枚ほど見つけましたが、手に入るかどうか?

_ かんとく ― 2012/10/27 20:24

プラハは是非もう一度訪れたいと思いつつ、結局1度行った切りでした。ドヴォルザーク・ホールも行った日は公演が無く、前を通って写真を撮っただけに終わっています。
チェコフィルは丁度1年前の11月にアテネで、インバルとマーラーの1番をやったのを聴きましたが、今まで聴いたマーラー1番では、一番の重厚な音で、非常に印象に残っています。ビエロフラーヴェクと日本に来てくれないだろうか?チェコフィルなら1万円前後で行けそうだし・・・・

_ Miklos ― 2012/10/29 10:29

>sonyさん
そうでしょう、そのまんま「雪やこんこ」で通用しますよね。レコーディングは、Amazon UKを見る限り、けっこうたくさんありそうです。

>かんとくさん
その昔、ノイマン/チェコフィルというと、しょっちゅう来日して京都にも来てくれる貴重な外タレでした。そうは言っても中学・高校生にとってはそのチケットも決して安くなかったので、私は結局聴けませんでしたが。ウィーンフィル、ベルリンフィルと比べたら二級の扱いをされてしまうので、安いギャラながらキツい日程でどさ回りをやらされて、団員は日本で寿司を食べるなんて夢のまた夢、毎食マクドナルドで飢えを凌いで、疲労を溜めながら仕事をこなすので演奏の質が下がってしまい、また次も二級の扱いを受けるという悪循環に陥っていると聞いたことがあります。ヨーロッパで聴くチェコフィルは掛け値なく素晴らしいので、もったいない話です。

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