プロフェッショナルなアマオケ、新交響楽団のオール・ショスタコ・プログラム2023/10/09 23:59

2023.10.09 東京芸術劇場コンサートホール (東京)

坂入健司郎 / 新交響楽団

1. ショスタコーヴィチ: バレエ組曲「黄金時代」
2. ショスタコーヴィチ: 交響曲第9番 変ホ長調
3. ショスタコーヴィチ: 交響曲第12番 ニ短調「1917年」


1956年結成の老舗アマオケにして、毎回アマチュアとは思えない、いや、むしろアマチュアだからこそ実現できるのかもしれない、アグレッシブなプログラムで年4回の定期公演をこなしている新交響楽団。チラシを見るたびに気にはなっていたのですがなかなかタイミングが合わず、やっと聴きに行くことができました。以前このオケを聴いたのは、30年以上前の学生時代に山田一雄の指揮でフランクの交響曲とか「道化師の朝の歌」を聴いた演奏会で、調べると1991年7月21日の東京文化会館、同年8月に急逝した山田氏の生前最後の演奏会だったそうです。おぼろげな記憶ですがたいへん骨太かつ躍動感あふれるプロフェッショナルな演奏で、アマオケという印象が全くなかったです。


このオケのプログラムは、(1)近現代の曲、(2)大編成の曲、(3)日本の現代音楽、をほぼ毎回積極的に取り上げるので私の好みにガッチリ合致します。プロオケだったら基本は集客とか採算とかを考えないといけないので、どのオケも毎シーズン似たり寄ったりの名曲プログラムに落ち着いてしまうのが残念な現実です。一方、多くの大学オケはリソース(人数と力量)の制約から、やはり保守的なプログラムになってしまうケースがほとんどです。しかしこのオケは、自分たちがやりたい曲を納得いくまでやり遂げるのがポリシーのようで、理念を理想で終わらず実現できる人数と実力を保持できているところが、まさに他のアマオケとは一線を画する特長だと思いました。


1曲目の「黄金時代」、すっかり忘れていましたが備忘録を確認すると2016年にロジェストヴェンスキー/読響のオールショスタコプログラムで聴いていました。やたらと長い指揮棒がトレードマークのロジェベン翁に対して、今日の指揮者、慶應大出身の新進気鋭インテリ坂入健司郎は、割り箸くらいのやけに短い指揮棒。まあ、爪楊枝サイズのゲルギエフよりは普通ですが、世の中指揮棒を持たない指揮者も多いので、ここは非常にデリケートなこだわりなんでしょうかね。若い指揮者に対してオケ団員の平均年齢は在京プロオケと比べてもずいぶんと高そうで、リタイアしたシニア層とおぼしき人が多数を占めています。その分ベテランの妙味というか、管楽器のソロはどのパートもかなりしっかりとした演奏でした。コンマスは若い女性で、この人もアマオケレベルではなく、めちゃ上手い。プロでも大変な難曲をこれだけの音圧で鳴らし切った新響は、やはり大学オケや市民オケとは同列に語れません。


次のショスタコの第9が、ほぼ今日の目当てでした。好きな曲なのですが、ここ30年以上実演で聴く機会がありませんでした。前回の記憶を辿ると、1992年に初めてロンドンを旅行した際、着いて早速「Time Out」誌を買いイベントをチェック、その日にロイヤルフェスティバルホールでデュトワ/モントリオール響の演奏会があるのを発見し、当日券で観に行ったときの演目がこれでした。元々はアルゲリッチをソリストにベートーヴェンのコンチェルトの予定だったのですが、キャンセルにより曲目変更の結果です。という昔話はもう何度か書いた気がするので本題に戻ると、ちょっとゆっくりめで入った第1楽章から、コンマスのヴァイオリンソロや木管のソロが個人技が冴え渡ります。よく聴いていると縦の線が乱れ気味で、アンサンブルが甘いところも散見され、そこは個人の力量が確かでも、プロではなくアマである限界がありそうです。しかし、全体としてプロも青ざめるハイレベルであるのは間違いないとも思いました。最終楽章の中間部で一瞬音が止まり、木管が入り損ねて入り直したような事故がありましたが、これは指揮者の指示ミスな気がします。コーダに向けてのクライマックスで、舞台後方最上段で飛び跳ねながら嬉々としてタンバリンを打つおじさん(というかほぼお爺さん)がめちゃめちゃ楽しそうでウケました。


休憩後のメインは交響曲第12番。1917年の「十月革命」を題材にしてレーニンに捧げられたというこの硬派な大作は、あまり演奏会で取り上げられることがありません。私もCDは全集で持っているものの、普段ほとんど聴くことがないお蔵入り音源です。登場したコンミスを見て、あれっ、さっきの人と違う。前半のコンミスとその隣に座っていた第1プルトの人々を探すと、第34プルトまで下がっていました。よく見るとティンパニ奏者はさっきのタンバリンおじさんです。一瞬驚いたものの、そうでした、ここはアマオケなので、トップ奏者の途中交代も日常茶飯事なんでしょうね。馴染みの薄い曲だけに細かいところは論評できませんが、曲のエネルギーを全て解き放ったような爆演系で、破綻もなく、息切れもせず、最後まで鳴らし続けた新響の人たちにはリスペクトしかありません。今後も、演目とタイミング次第ではありますが、サブスクで通ってもいいかも、と思いました。池袋がもうちょっと近ければなー


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