ピーター・アースキン・ニュー・トリオ+1@コットンクラブ2017/05/10 23:59


2017.05.10 コットンクラブ (東京)
PETER ERSKINE NEW TRIO + 1
Peter Erskine (ds), Vardan Ovsepian (p), Damian Erskine (b), Aaron Serfaty (per)

そんなにたくさん聴いてきたわけじゃないけど、ピーター・アースキンのドラミングスタイルは、何を聴いても引き出しの多さに圧倒され、とても真似したり目指したりする気にならないので、正直好みではありませんでした。従って生で見る機会も今までなかったのですが、12月の読響演奏会でドラム協奏曲のソリストとして出演することが判明し、これは是非見に行かねばと楽しみにしていたところ、それに先立ってジャズトリオでの来日もあるということで、もう今年はピーター・アースキン・イヤーで行くしかないと、前哨戦として聴いてみました。

ステージ上のドラムセットは、シズルシンバルやペダル付きのカバサがちょっと目を引きますが、あとはワンタム、ツーフロアのいたってオーソドックスなジャズドラムセット。その横のパーカッションも、コンガ、ボンゴ、あと小物という感じで、スパイラルシンバルが珍しいくらい。さてトリオはドラム、ピアノ、エレキベースという構成で、今回はプラスワンとしてパーカッションが加わります。まあでも、パーカスは正直なくても困らない程度の存在感でした。甥っ子のベースを初め、ピーター以外は皆息子というよりむしろ孫に近いような若手を集め、「アースキン翁の音楽道場」といった趣きの朗らかさが漂っていました。若い3人はピーターを頼り切っている感じのバンドで、スリリングさはあまりなかったのが不満ですが、その中でもピアノは自身の作曲では時々エキセントリックな独特の曲調を覗かせて、良い味を出していました。

さて肝心のピーター・アースキンのドラムは、小技系かと思いきや、意外とラウド系。シンプルに粒のそろったビートを安定したタイム感で叩き出す、オーソドックスな正にお手本ドラム。バラードを含めリズミカルな曲ばかりで、16以外のありとあらゆるリズムのサンプルを聴かされた気分で、そのどれもが基本に忠実でありながら、やっぱり引き出しの多さは別格。ハメを外すことはなかったですが、リムショットしながら肘でスネアのヘッドを押してチューニングをグリッサンド気味に下げるというよくわからない裏技を披露する茶目っ気もあり。あらためて、凄い人でした。アコースティックなドラムの醍醐味を十二分に堪能させてもらいました。

(後で調べたら、ピーター・アースキン62歳、ヴァルダン・オヴセピアン41歳で、孫というほどの年齢差はないんですね、すんません…)

フェドセーエフ/N響:まずはご健在に祝福、ボロ2とチャイ42017/05/19 23:59

2017.05.19 NHKホール (東京)
Vladimir Fedoseyev / NHK交響楽団
グリンカ: 幻想曲「カマリンスカヤ」
ボロディン: 交響曲第2番ロ短調
チャイコフスキー: 交響曲第4番ヘ短調

フェドセーエフは新婚旅行の際、ウィーンで聴いて以来です。ここ数年何度かN響に客演していたのは知っていましたが、タイミングが合わず、もういいお歳なので下手すりゃ再見できずじまいかと諦めかけておりました。悠々と登場したフェドさんは、風貌が昔とあまり変わっておらず、よぼよぼしたところも皆無だったので、とても85歳には見えず、お元気そうで何よりでした。

1曲目は初めて聴く曲ですが、そもそもグリンカというと「ルスランとリュドミラ」序曲以外の作品を知りません。しかしこれが意外と小洒落た佳曲で、短い中にもロシアの情景が穏やかに詰まっています。中間部の軽妙なクラリネットソロがたいへん上手かったです。

続くボロディンの2番は、そこそこメジャーな交響曲の名曲で、レコーディングも多数ありますが、欧州在住時代でも演奏会のプログラムに乗ったのをあまり見たことがなく、生で聴くのは初めて。「だったん人の踊り」くらいは昔どこかで聴いたと思いますが、ボロディン自体、今までなかなか演奏会で聴く機会がなかったような。さて第2番ですが、第1楽章の勇者の主題はたっぷりと重厚に聴かせ、どっしりと行くのかと思いきや、楽章を追うごとに重しが取れて、終楽章などは実にあっさりこじんまりと軽くまとめていて、ある意味小細工なく、アンバランスさも含めてあるがままの曲の姿を浮き彫りにしたと言えそう。金管の音が汚いのがちょっと興ざめです。いちいちアタックが強いのはロシア風なのか・・・。

メインのチャイ4も何だか同じ芸風で、第1楽章はリズムが死んでいて、第2楽章もスローテンポで弦を重厚に響かせ、とにかく前半が重い。切れ目なく開始した第3楽章は、極めて抑制の効いたピッツィカートがそれまでの重さを払拭してくれました。元々合間をあまり置かないフェドさんなので、終楽章もアタッカで行くのかと思いきや、ここは弦楽器が弓を持ち変えるために一息いれたのがちょっと意外。しかし、第2主題の前は一瞬パウゼを入れる演奏が多い中、スコアに忠実なフェドさんはそんなもの一切入れず、おかげで第2主題の頭が聴こえないという、曲の問題点をやはりそのまま浮き上がらせてしまいます。音が雑だなあと感じてしまうと、そんな細かいことばかりが気になってしかたがない。まあしかし、こんなオハコ中のオハコであろう曲でも常にスコアを追いながらデリケートな音楽作りをするのがフェドさんの真骨頂なれど、理想の「音色」まで引き出すような指導はしないのだなあ、ということがわかりました。チャイ4に関しては、昨年聴いたチョン・ミョンフンのほうが指導力に勝るかなと思いました。

フェドセーエフ/N響/ベレゾフスキー(p):ロシア名曲集@昼下がりのミューザ2017/05/25 23:59

2017.05.25 ミューザ川崎シンフォニーホール (川崎)
明電舎創業120周年記念 N響午後のクラシック
Vladimir Fedoseyev / NHK交響楽団
Boris Berezovsky (piano-2)
ショスタコーヴィチ: 祝典序曲
チャイコフスキー: ピアノ協奏曲第1番変ロ短調
リムスキー・コルサコフ: スペイン奇想曲
チャイコフスキー: 幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」

平日はほとんど演奏会のないミューザ川崎。地元民じゃないから週末は川崎に来ない私にとっては、スポンサーの明電舎様様です。木曜日の午後3時開始なのに、やはりシニア層が中心ですが、ほぼ満員の客入り。ほらごらん、やっぱり聴衆は平日の演奏会にとっても飢えているのではないでしょうか。

さて今日の指揮は先週聴いたばかりのフェドさん。1曲目の「祝典序曲」は、先週全般的に感じた「重さ」がまだ残り、スローテンポでフレーズをじっくり聴かせるような演奏でした。うーむ、この曲はやっぱりもっとギャロップ感が欲しいかな。それにしても、相変わらずトランペットの音が汚い。ただし今日は他の金管、特にホルンは立派なものでした。

そのホルンで始まるチャイコンは、第2楽章までは意外と淡白とした進行。ベレゾフスキーは、いつもルガンスキーと記憶がごっちゃになるので今一度記録を調べると、ブダペスト(2005年)、パリ(2013年)で聴いて以来の3回目です。テクニックひけらかし系の人だったはずですが、今日はフェドさんに付き合ったのか、ピアノが突出することなくオケの中に溶け込み、ずいぶんと落ち着いてしまった印象。と思わせといて、終楽章ではいきなりフルスロットルの高速爆演が圧巻でした。このために前半は抑え気味だったのか、と思うほど。やはりこの人の凄テクは一聴の価値ありです。

後半最初の「スペイン奇想曲」は、フェドさんここまでと打って変わって、小躍りしながら楽しそうに振っています。オケも後半でようやくエンジンが温まってきたのか、鳴りが良く、個々のソロも際立ってきました。最後の「フランチェスカ・ダ・リミニ」は、正直苦手な曲だったのですが、途中飽きることなく終始ドラマチックに聴かせ通しました。アンコールはスネアドラムの人が戻ってきて、ガイーヌから「レズギンカ舞曲」。もうノリノリで、このギャロップ感が「祝典序曲」でも欲しかったところです。フェドさんは真っ先にスネア奏者を立たせただけでなく、指揮台のほうまで手を引っ張ってきて真ん中に立たせたのは、普段日の目を見ない打楽器奏者にとっては、何年に1回あるかないかの晴れ舞台だったことでしょう。全体的に、先週と比べると指揮者もオケも随分とリラックスした感じで、私はこっちのほうが断然良かったです。