9年ぶりのラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンは交響組曲二題:「惑星」「グランド・キャニオン」2016/05/03 23:59

2016.05.03 東京国際フォーラム ホールA (東京)
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016
Nabil Shehata / 新日本フィルハーモニー交響楽団
1. ホルスト: 組曲「惑星」 Op.32

9年ぶりにラ・フォル・ジュルネオ・ジャポンに行ってみました。最初は、ホールAで唯一売り切れたという新日フィルの「惑星」から。演奏前に井上道義(この公演の指揮じゃないのに)と月尾東大名誉教授によるプレトークがありました。スライドを使って、太陽系惑星の紹介、冥王星が入っていない理由、地球外生命の可能性など、ありきたりなプレゼンでしたが、一番興味深かったのは、この国際フォーラムのホールAが当初の予定から大幅に拡大して5012席になったのは、数年前に完成したパシフィコ横浜が5002席になったのに対抗して、絶対それ以上のホールを作らなければならないと強硬に主張する都議会議員がいたから、という月尾先生の暴露話でした。

さて肝心の「惑星」ですが、早いテンポで軽快に進むサクサク系演奏。指揮者のシェハタは元ベルリンフィルのコントラバス首席奏者で、昨年新日フィルに客演し、コントラバス協奏曲を弾き振りするという超絶芸を披露したよとのこと。指揮者としての実績はまだこれからのようです。ラ・フォル・ジュルネの昼公演でこの選曲ですから、仕事はきっちりやりますよという「まとめ力」をアピールしとけばとりあえずは良くて、まあ可もなく不可もなくという感じでした。

このホールは演奏会には大きすぎるのでハンデはあるにせよ、それにしても新日フィルは相変わらず音に迫力がない。「惑星」だから管はもうちょっと頑張って欲しかったし、特にトランペットは足を引っ張るのみ。奏者の顔ぶれが若かったし、もしかしたら一軍ではなかったのか。チェレスタ、オルガンは奏者がいましたが(オルガンは電子式だろうけど)、「海王星」の女声コーラスはどうするのだろうと思っていたら、録音でした…。


2016.05.03 東京国際フォーラム ホールC (東京)
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016
井上道義 / 新日本フィルハーモニー交響楽団
1. 武満徹: グリーン
2. グローフェ: 組曲「グランド・キャニオン」

国際フォーラムのホールCは1500席ほどで、音響はともかく、コンサート用としてはまあまあ程よい大きさ。ステージが若干狭いので合唱付きの大曲などは無理ですが。

最初の「グリーン」は、著名な「ノヴェンバー・ステップス」と同時期に作曲され、当初は「ノヴェンバー・ステップス第2番」と名付けられていたそうですが、こちらはショートピースですし、曲の趣きもずいぶんと違います。今回のラ・フォル・ジュルネのコンセプトである「ナチュール〜自然と音楽」とはぴったりな、あからさまに森林を思わせる幻想的な音楽です。初めて聴くので演奏の良し悪しは判定できず。

続く「グランド・キャニオン」が私的には今日のお目当て。よくできた曲と思うのですが、プロオケのプログラムに乗ることがほとんどないので、生で聴くのはこれでやっと2回目。ここでもやっぱりトランペットがデリカシーのない音で雰囲気をぶち壊しますが、他のパートはまあまあ健闘。音が拡散し放しのホールAと違って、音がまとまるのでそれなりの音圧で身体に届きます。あたらめて、ファミリーコンサート専用の演目にしとくにはもったいない、シンフォニックな佳作だと思いました。終楽章のウインドマシーンは、やはり録音っぽかったですが…(よく見えなかった)。

ジャガーバックス いちばんくわしい世界妖怪図鑑2016/05/17 23:59

復刊ドットコムに最初にリクエストを出してから、気がつけば15年を超え、ほとんど諦めの境地に達していたところ、ようやく復刊が成りました。


人気アイテムなので、ヤフオク等で活発に取引されていたとは言え(状態極悪のものがほとんどですが)、今日届いたピカピカの新品を手にすると、なんだか感無量です。


そうそうこれこれ、このイギリスの妖怪「モズマ」が、小学生のころトラウマで、思い出すと夜も寝れませんでした。

これからゆっくりと懐かしみつつ熟読します。こいつが出版できたということは、姉妹編の「日本妖怪図鑑」の復刊も近いのでしょう。今から楽しみです〜。(^^)

下野竜也/新日本フィル:涅槃交響曲など、和製現代音楽の古典を聴く2016/05/27 23:59

2016.05.27 すみだトリフォニーホール (東京)
下野竜也 / 新日本フィルハーモニー交響楽団
東京藝術大学合唱団
Thomas Hell (piano-2)
1. 三善晃: 管弦楽のための協奏曲 (1964)
2. 矢代秋雄: ピアノ協奏曲 (1967)
3. 黛敏郎: 涅槃交響曲 (1958)

日本の現代音楽の中では「古典」に相当するこれら3作品でも、実演で聴ける機会は珍しく、CDも持っていないので、各々ほとんど初めて聴く曲になります。開演前のミニコンサートではオケの打楽器奏者がライヒの「木片のための音楽」を披露。プリミティヴに気分を高揚させる効果がありました。

1曲目、三善晃の「オケコン」は、10分足らずの短い時間の中に凝縮された急・緩・急の3部構成で、無調を装いながらもかなり保守的な作りに見えました。指揮棒を持たず手刀で切り込んでいく下野竜也は、縦割りリズムをキビキビと指示し、キレ良くオケを統率。こういう難解ではない部類の現代曲を、さらにわかりやすく紹介するのは、下野の性に合っていると見受けました。オケもリラックスしていて、とてもやり易そう。

続く矢代秋雄のピアノ協奏曲も、全編に渡り無調を貫く音楽ながら、様式は極めて古典的。ミニマル系っぽい反復の連鎖は、時々バルトークのようにパーカッシヴでもあり、緩徐楽章では叙情的にも響き、世間の評判が高くファンが多いのも頷ける佳曲でした。欧州の近現代曲を得意とするドイツ人ピアニストのヘルが、何でまたこんな極東の作品をレパートリーにしているのか謎ですが(公式HPを見るとリゲティ、シェーンベルク等と並んで武満はレパートリーに入っているようですが矢代は記述なし)、アンコールで弾いたバッハを聴いていると、民俗色とか土臭さとかを排除した純粋音楽としてのコアは矢代とバッハで通じるものがあると捉えてくれているのではないかいな、と根拠もなく感じました。

最後は本日のメインイベント「涅槃交響曲」。東京藝大の男性合唱団約80名が奏でる力強い経文がたいへんいい味を出していて、まさに「仏教カンタータ」という異形の音楽をギリギリのところでイロモノからすくい上げているように思いました。フルート、ピッコロ、クラリネット、鈴、グロッケンのバンダその1が舞台を向いて右後方、ホルン、トロンボーン、チューバ、コントラバス、銅鑼のバンダその2が左後方の客席内に各々配置され、幸い今日は平土間前方に座っていたので、3方向からの音響効果を十分に体感し、堪能することができました。この音響空間が作り出す別世界は、確かに実演でなくては理解することができません。新日フィルとしては珍しく、オケも終始しっかりとしており、下野は良い仕事をしてくれたと思います。