バレンボイム/ベルリン国立歌劇場管:ブルックナー4番、モーツァルト20番2016/02/01 23:59

2016.02.01 サントリーホール (東京)
第35回 東芝グランドコンサート2016
Daniel Barenboim / Staatskapelle Berlin
1. モーツァルト: ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
2. ブルックナー: 交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』 WAB104

帰国以来、海外オケの生演奏はこの東芝グラコン以外結局行けてませんので、私にとっては東芝様様です。その東芝グラコン、今年は35周年を記念してバレンボイム/ベルリン国立歌劇場管によるブルックナー連続演奏会という、近年ではすこぶるゴージャスではあるけれども、企業のプロモーションとしてはマニアック過ぎやしないかと思ってしまう微妙な企画。ましてや東芝さんの昨今の状況を考えると風当たりが心配です…。グラコンは来年以降も続けてくれることを願ってやみませんが。

例によって過去の備忘録を探ると(本当に、記録をつけてなかったら自分事とは言えほとんどが忘却の彼方でしょうね)、バレンボイムの指揮は2012年BBCプロムスの「第九」以来、ピアノは2005年のブダペスト春祭(先日亡くなったブーレーズ/シカゴ響との協演でした…)以来です。シュターツカペレ・ベルリンを聴くのは初めてて、ドレスデンと並んで「まだ見ぬ強豪」の双璧だったので、重ね重ね、東芝様様です。

今日の選曲はどうするのだろうと思っていたら、さすがに、最も一般ウケする第4番を持ってきました。チクルスでの第4番は2月13日だけですので、先んじて聴けるのはちょい幸運。その前に、モーツァルト最初の短調曲、ピアコン第20番ですが、これはちょっと私的には違和感を覚える演奏でした。シュターツカペレ・ベルリンは軽やかな曲が性に合っていないのか、音楽は淀みなく流れるのだけれども、重心の低いどっしりとしたモーツァルト。バレンボイムはその対極に、コロコロした音色で、滑らかに上滑りするような、オーセンティックなモーツァルト。一見異質なもの同士の協奏によって縦に厚みのある音楽が構築されていると見れば、実は良い相性なのかもしれませんが、この取り合わせのCDを私は買おうとは思いませんでした。

メインの「ロマンティック」。バレンボイムはいつものごとくブルックナーでも完全暗譜は凄いです。低い身長を少しでも大きく見せるためとは言え、73歳にしてしゃんと伸びた背筋は、全く衰えを感じさせません。加えて、ミニマムな編成で、全体的に腹八分目くらいで抑えていながらも、要所では圧倒的な馬力で迫ってくる外タレオケの余裕綽々ぶりに、久々の快感を覚えました。特にこの曲で重要な役割のホルントップは、華奢な身体なのに非常にパワフル。全般的に管の音は、もっとマイルドで燻んだものを想像していたら、結構モダンでとげとげしい音色でした。弦も負けじと力強い音圧を感じさせ、特にヴィオラの中音域がしっかりしているので、音の厚みが普段聴いている在京オケとは格段に違いました。第2楽章の焦らないモノローグ的な語り口が特に圧巻。後半2楽章も、パワーを見せつけながらも単に鳴らすだけではないメリハリの効いた演奏に、ブルックナーは正直あまり好まない私も、こういうブルックナーなら毎月(毎日とは言いませんが)でも聴きたいものだと思ってしまいました。でも、チクルス全部を買う勇気はないかなあ…。

山田和樹/日フィル:マーラーチクルス折り返しの5番は鬼門2016/02/27 23:59

2016.02.27 Bunkamura オーチャードホール (東京)
山田和樹 / 日本フィルハーモニー交響楽団
赤坂智子 (viola-1)
1. 武満徹: ア・ストリング・アラウンド・オータム
2. マーラー: 交響曲第5番嬰ハ短調

山田和樹マーラーチクルス第2期の第2回、折り返し点にあたります。コンマスは顔色の悪い人から超太った人に変更になっていました。

1曲目の武満はフランス革命200周年記念の委嘱作品だそう。前回の「系図」はニューヨークフィル創立150周年記念作品なので、武満はさすがに世界のタケミツだったんですねえ。この曲は、音列作法でありながらも前衛的な匂いはなく、山場もなくとうとうと流れていく感じです。ヴィオラ独奏の赤坂さんは、自己主張の強い派手な衣装で登場。髪型も雰囲気も、若い頃の田嶋陽子みたいなウーマンリブ系の印象です。音もワイルドで、ちょっと好みとは違うかな。

マーラーはゆっくりとした開始。トランペットは良かったし、他の金管も珍しく最後まで崩壊しない粘りを持っているなと思っていたら、油断を突くように、クラリネットが崩壊気味。ティンパニを始め、トラの補強が入っている様子でしたが、先の4番にも増して、全体的に練習不足に見えました。ヤマカズはいろいろ試してみたい気満々で、テンポや強弱の揺さぶりを頻繁に仕掛けるも、オケがついてこれない。特に弦のアンサンブルが不安定で、ボウイングもポルタメントもいちいちバラバラで、聞き苦しいことこの上ない。アダージエットは盛り上がらないし、終楽章のフーガは瓦解寸前。ヤマカズが悪いというよりはオケのせいですが、聴衆の目線から言うと指揮者の責任も重大でしょう。ヤマカズは評価しているものの、4番、5番と聴く限り、マーラーを手中に収めるのはまだ道が遠そうです。