ロイヤルバレエ:レイヴン・ガール/シンフォニー・イン・C2013/05/24 23:59


2013.05.24 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Raven Girl / Symphony in C
Koen Kessels / Orchestra of the Royal Opera House

ロイヤルバレエのダブルビル。ウェイン・マグレガーの新作にして久々の(初の?)ストーリーものである「レイヴン・ガール」と、バランシンがビゼーの名曲に振付けた著名作「ハ調の交響曲」の新旧二本立てです。

1. Gabriel Yared: Raven Girl (world premiere)
Audrey Niffenegger (author), Wayne McGregor (choreography)
Sarah Lamb (raven girl), Edward Watson (postman)
Olivia Cowley (raven), Mirabelle Seymour (raven child)
Paul Kay (boy), Thiago Soares (doctor)
Eric Underwood (raven prince)
Beatriz Stix-Brunell, Tristan Dyer (19th-century couple)
Camille Bracher, Fernando Montaño, Dawid Trzensimiech (chimeras)

アメリカの童話作家オードリー・ニッフェネッガーがこのバレエのために書き下ろした新作ストーリーだそうで、あらすじはこんな感じです。郵便配達夫が岩場のカラスに恋をし、二人(?)の間に翼がない女の子が生まれる。女の子は成長して親元を離れ大学に行くが、キメラの研究を発表していたマッドな医者と出会う。女の子は彼に誘惑されて手術を受け、ついに翼を手に入れるが、親にバレて翼を手放す。医者は転落死し、女の子を密かに好いていた男の子は絶望して岩場に姿を消す。最後は女の子とカラスの王子が結ばれ、一件落着(?)。うーむ、自分でも書いていて、特に最後の展開がよくわからないストーリーです。

舞台も照明も衣装も、全体的に一貫して暗い上、「アリス」のようにビデオを多用するために半透明スクリーンがずっと下りていて、ビジュアルが常にぼうっとしていたのがまずマイナスでした。もちろんそれは承知の上でその効果を狙ったのかもしれませんが、あそこまでビデオで何でもかんでも説明しなくても良かったのでは、と思います。言葉の力を借りずに音楽と踊りだけで全てを表現しつくす芸術がバレエだったのじゃないかと。ある意味言葉以上に饒舌なビデオという媒体に頼り、また音楽も生演奏に加えてサウンドエフェクトや打ち込み演奏を多用して、安易な反則ワザが多いように思えました。それがなくても、音楽はB級映画のサウンドトラックみたいで正直安っぽかったです。これは音楽だけで独り立ちはできないでしょう。

振付は、皆さんポワントシューズで踊ってましたし、コンテンポラリーよりは多少クラシックバレエに近い感じ。パドドゥ(特に最後の)はなかなか密度の濃いものでした。主役のラムは柔軟な身体を余すとこなく駆使し、少女の幼さと大人の色気がほどよくミックスされた、今まで見たことがない境地にたどり着いていたと思います。脇を固める人々もエース級でしたが、ふと、主役の出来に対する依存度が高い演目なのかなと見受けました。逆に、ラムの他はあまり見所がなく、カラスの飛翔を模した群舞はひたすら退屈で間延びしました。バレエではなく一つの舞台作品として見れば、それなりに楽しめた部分も多々ありました。ただし一幕で70分もある尺は、もうちょっと短くしたほうがよいのではないかと。


左から2人目、母親ガラス役のカウリーはずっと黒覆面をつけて踊っていました。美人がもったいない…。


右は振付けのマグレガー。


ラムのすぐ後ろが、原作者のニッフェネッガーさん。


2. Bizet: Symphony in C
George Balanchine (choreography)
1st movement:
Zenaida Yanowsky, Claire Calvert, Fumi Kaneko
Ryoichi Hirano, Johannes Stepanek, Fernando Montaño
2nd movement:
Marianela Nuñez, Tara-Brigitte Bhavnani, Olivia Cowley
Thiago Soares, Nicol Edmonds, Tomas Mock
3rd movement:
Yuhui Choe, Akane Takada, Elizabeth Harrod
Steven McRae, Brian Maloney, Kenta Kura
4th movement:
Laura Morera, Yasmine Naghdi, Emma Maguire
Ricardo Cervera, Tristan Dyer, Valentino Zucchetti

一方の「ハ調の交響曲」は、ストラヴィンスキーにも同名の曲があるので要注意ですが、これはビゼーのほうです。ジョージ・バランシンの代表作で、特にストーリーはなく、4つの各楽章を各々男女3組ずつのグループで踊り、最後は全員で大団円となる、華やかで単純に楽しいダンスの饗宴です。主役級はプリンシパル中心の豪華な布陣で、まず第1楽章はヤノウスキー・平野亮一のペア。筋肉の逞しいヤノウスキーを支えるのに、ガッシリ体格の平野さんはなかなか良いペアなのではないかと。長身を活かしたダイナミックかつ安定感抜群のダンスに感服しました。それにしても、ヤノウスキーは白いチュチュが似合わないなあ…(私的感想)。第2楽章はヌニェス・ソアレスの夫婦ペア。アダージョの楽想に合わせて優雅さの機微をしっとりと表出する、余裕のベテランペアでした。ソアレスは「レイヴン・ガール」とダブルの出演お疲れ様です。スケルツォの第3楽章はマクレー様とユフィちゃんによる飛び技連発。この人達ならではの躍動感がうまくハマっていました。この楽章は他に高田茜・マロニー、ハロッド・蔵健太と、一番スキのないキャスト。しかも日本人率が高いです(笑)。トリの終楽章はモレラ・セルヴェラのちょっと地味なペア。モレラが白いチュチュを着て古典を踊っているのは初めて見たのでたいへん新鮮でした。見慣れてないせいか、破綻はないものの、何だかよそ行き感を覚えてなりません。最後の大団円まで来ると、やっぱりヤノウスキーとヌニェスの存在感は別格。この凄い人達と並んでプリンシパルになるかもしれないユフィちゃんは、これからたいへんかも。舞台装置はなく、衣装は皆同じ、ダンサーの身体能力だけで表現し尽くしたこの30分間は、どんなバレエよりもむしろ豪華絢爛に見えました。それにしても、オケは相変わらずのていたらくで、トランペットとホルンが酷いのはいつものこととして、今日は木管も酷かった。堕落が慢性化してますね。


ユフィちゃん、モレラにマクレー様。蔵さんも後ろに。今日は写真が取り辛い席でした…。


指揮者のケッセルズ。


蔵さんとペアを組んでいたのは、エリザベス・ハロッド。