BBC響/大野和士:「ノヴェンバー・ステップス」英国初演って、本当!?2013/02/02 23:59

2013.02.02 Barbican Hall (London)
Total Immersion: Sounds from Japan
Kazushi Ono / BBC Symphony Orchestra
Kifu Mitsuhashi (shakuhachi-3), Kumiko Shutou (biwa-3)
1. Akira Nishimura: Bird Heterophony (1993) (UK premiere)
2. Misato Mochizuki: Musubi (2010) (UK premiere)
3. Takemitsu: November Steps (1967) (UK premiere)
4. Dai Fujikura: Atom (2009) (European premiere)
5. Toshio Hosokawa: Woven Dreams (2010) (UK premiere)
6. Akira Miyoshi: Litania pour Fuji (1988) (London premiere)

「全身浸礼:サウンド・フロム・ジャパン」と名付けられたこのイベントでは、武満徹を筆頭に、日本の現代音楽がこの日一日バービカンセンターを埋め尽くします。作曲者はいろんな世代に渡っていながらも武満を除いて皆存命の方々ですが、現代日本の曲をこうやってまとめて、しかも英国の一流オケで聴ける機会はそうそうありませんし、小澤征爾は別格として、現役日本人指揮者の中で海外での実績がダントツで格上な人であろう大野和士さんを実はまだ聴いたことがなかったので、1年前から楽しみにしていました。今週3日連続演奏会で無理したおかげで風邪はまだ良くなっていませんが…。

1曲目は西村朗(1953〜)の「鳥のヘテロフォニー」はオーケストラ・アンサンブル金沢のために書かれた曲。パプアニューギニアをイメージしたそうですが、確かにジャングルの森や川などのビジュアルイメージを喚起するような曲です。鳥と言ってもすいすい空を飛ぶ渡り鳥というよりは、地面をざわざわうごめく鶏の喧噪を表現しているような。後半のオスティナートで盛り上がる部分は全くの調性音楽で、比較的聴きやすい曲でした。

2曲目、望月京(1969〜)の「むすび」は東京フィルの100周年記念委嘱作品。雅楽の模倣風で始まり、途中で祭り囃子の笛太鼓が入ってくる、ジャパニーズサービス精神旺盛な曲です。このままコンテンポラリーバレエにもできそうな感じがしました。こういう曲も無難にこなしてしまうBBC響は、やはり器用なオケですね。


舞台に呼ばれた望月京さん。

武満徹(1930〜1996)の「ノヴェンバー・ステップス」はNYPの125周年記念委嘱作品。世界中で何百回と演奏され、録音も多数あり、日本の現代音楽としてはダントツで知名度の高い曲ですが、作曲から45年を経て、何と今日が英国初演なんだそうです。最初プログラムにUK Premiereと書いてあったのを見てミスプリントかと思ったくらいですが、後で聴いたBBC Radio 3の中継放送でも「驚くべきことに英国初演」と言ってたので、本当にそのようです。かくいう私も、レコードやFM放送では何度も聴いているのですが、この曲の実演を聴くのは初めてなのでした。本日の独奏は三橋貴風の尺八に首藤久美子の琵琶。二人とももちろん和服で、絵に描いたような日本男児に大和撫子というイメージです。あらためて聴くとこの曲は、オケの部分が本当に少ないですね。しかも「協奏」せず、尺八と琵琶の掛け合いに短く合いの手を入れるだけの役割に思えます。雄弁な尺八に比べて琵琶は終始伴奏的で一歩引いた感じでした。うちの娘は「墓場でひゅ〜と幽霊が出てきて、物悲しく恨みを語る」曲にしか聞こえなかったようで、怖がっていました。でも父は思うが、君の感性はけっこう正しいぞ。


渋い日本男児、三橋貴風さん。


礼節をわきまえたお二人。

後半のトップは藤倉大(1977〜)の「アトム」。読売日響の委嘱作品だそうです。この人はロンドン在住なので、名前は時々聞きます。フラグメントの連続で散漫とした印象の曲。もちろんしっかりと書けた質の高い曲と思いますが、どうも一本芯がないような感じがするのは、まだまだ作風として若いのでしょうかね。咽喉痛が直らず、そろそろ疲れてきました。


ロンドン在住なので、もちろん聴きに来ていた藤倉大さん。

細川俊夫(1955〜)の「夢を織る」はスイスの製薬会社Rocheの委嘱作品で、ルツェルン音楽祭にてウェルザー=メスト指揮クリーヴランド管というビッグネームにより初演されました。先ほどの「アトム」とちょっと通じるところもある、エネルギーを内に込めた陰気な曲で、またかという感じもしましたが、こちらは全体として確固たる一つの流れがあり、なるほど熟練とはこういうものかと納得しました。

最後は武満と同世代の大御所、三善晃(1933〜)の交響詩「連祷富士」。1988年にテレビ静岡開局20周年を記念して委嘱された作品です。富士山の美麗な姿を歌い上げる曲ではなく、山の激しさ、厳しさを余すところなく表現した仕上がりになっています。不協和音はいっぱい出てきますが、今日の選曲中では最も派手でエンターテインメント性の高い曲だったかと。この曲だけBBC Radio 3で放送されなかったのが残念。

体調も悪かったし、これだけの曲をまとめて聴くと、終わった後はさすがにぐったりしました。今日はストールはけっこう埋まっていましたが(休憩で帰ってしまった人もちらほら)、上の階はほとんど売れてなく、客入りがイマイチだったのは気の毒でした。もうちょっと宣伝の仕方はあったんじゃないでしょうかねえ。(良し悪しは別として)日本人の動員もなかったようですし。そういえばBBCの放送を聴いていて思ったのは、望月京、藤倉大といった若い世代の作曲家はあたり前のように流暢な英語をしゃべるんですね。大野和士さんより英語上手かったです(笑、っていいのか)。


ロンドンにも時々来ている大野和士さん。次はもうちょっとストレートな演目で聴きたいです。