BBC響/大野和士:「ノヴェンバー・ステップス」英国初演って、本当!?2013/02/02 23:59

2013.02.02 Barbican Hall (London)
Total Immersion: Sounds from Japan
Kazushi Ono / BBC Symphony Orchestra
Kifu Mitsuhashi (shakuhachi-3), Kumiko Shutou (biwa-3)
1. Akira Nishimura: Bird Heterophony (1993) (UK premiere)
2. Misato Mochizuki: Musubi (2010) (UK premiere)
3. Takemitsu: November Steps (1967) (UK premiere)
4. Dai Fujikura: Atom (2009) (European premiere)
5. Toshio Hosokawa: Woven Dreams (2010) (UK premiere)
6. Akira Miyoshi: Litania pour Fuji (1988) (London premiere)

「全身浸礼:サウンド・フロム・ジャパン」と名付けられたこのイベントでは、武満徹を筆頭に、日本の現代音楽がこの日一日バービカンセンターを埋め尽くします。作曲者はいろんな世代に渡っていながらも武満を除いて皆存命の方々ですが、現代日本の曲をこうやってまとめて、しかも英国の一流オケで聴ける機会はそうそうありませんし、小澤征爾は別格として、現役日本人指揮者の中で海外での実績がダントツで格上な人であろう大野和士さんを実はまだ聴いたことがなかったので、1年前から楽しみにしていました。今週3日連続演奏会で無理したおかげで風邪はまだ良くなっていませんが…。

1曲目は西村朗(1953〜)の「鳥のヘテロフォニー」はオーケストラ・アンサンブル金沢のために書かれた曲。パプアニューギニアをイメージしたそうですが、確かにジャングルの森や川などのビジュアルイメージを喚起するような曲です。鳥と言ってもすいすい空を飛ぶ渡り鳥というよりは、地面をざわざわうごめく鶏の喧噪を表現しているような。後半のオスティナートで盛り上がる部分は全くの調性音楽で、比較的聴きやすい曲でした。

2曲目、望月京(1969〜)の「むすび」は東京フィルの100周年記念委嘱作品。雅楽の模倣風で始まり、途中で祭り囃子の笛太鼓が入ってくる、ジャパニーズサービス精神旺盛な曲です。このままコンテンポラリーバレエにもできそうな感じがしました。こういう曲も無難にこなしてしまうBBC響は、やはり器用なオケですね。


舞台に呼ばれた望月京さん。

武満徹(1930〜1996)の「ノヴェンバー・ステップス」はNYPの125周年記念委嘱作品。世界中で何百回と演奏され、録音も多数あり、日本の現代音楽としてはダントツで知名度の高い曲ですが、作曲から45年を経て、何と今日が英国初演なんだそうです。最初プログラムにUK Premiereと書いてあったのを見てミスプリントかと思ったくらいですが、後で聴いたBBC Radio 3の中継放送でも「驚くべきことに英国初演」と言ってたので、本当にそのようです。かくいう私も、レコードやFM放送では何度も聴いているのですが、この曲の実演を聴くのは初めてなのでした。本日の独奏は三橋貴風の尺八に首藤久美子の琵琶。二人とももちろん和服で、絵に描いたような日本男児に大和撫子というイメージです。あらためて聴くとこの曲は、オケの部分が本当に少ないですね。しかも「協奏」せず、尺八と琵琶の掛け合いに短く合いの手を入れるだけの役割に思えます。雄弁な尺八に比べて琵琶は終始伴奏的で一歩引いた感じでした。うちの娘は「墓場でひゅ〜と幽霊が出てきて、物悲しく恨みを語る」曲にしか聞こえなかったようで、怖がっていました。でも父は思うが、君の感性はけっこう正しいぞ。


渋い日本男児、三橋貴風さん。


礼節をわきまえたお二人。

後半のトップは藤倉大(1977〜)の「アトム」。読売日響の委嘱作品だそうです。この人はロンドン在住なので、名前は時々聞きます。フラグメントの連続で散漫とした印象の曲。もちろんしっかりと書けた質の高い曲と思いますが、どうも一本芯がないような感じがするのは、まだまだ作風として若いのでしょうかね。咽喉痛が直らず、そろそろ疲れてきました。


ロンドン在住なので、もちろん聴きに来ていた藤倉大さん。

細川俊夫(1955〜)の「夢を織る」はスイスの製薬会社Rocheの委嘱作品で、ルツェルン音楽祭にてウェルザー=メスト指揮クリーヴランド管というビッグネームにより初演されました。先ほどの「アトム」とちょっと通じるところもある、エネルギーを内に込めた陰気な曲で、またかという感じもしましたが、こちらは全体として確固たる一つの流れがあり、なるほど熟練とはこういうものかと納得しました。

最後は武満と同世代の大御所、三善晃(1933〜)の交響詩「連祷富士」。1988年にテレビ静岡開局20周年を記念して委嘱された作品です。富士山の美麗な姿を歌い上げる曲ではなく、山の激しさ、厳しさを余すところなく表現した仕上がりになっています。不協和音はいっぱい出てきますが、今日の選曲中では最も派手でエンターテインメント性の高い曲だったかと。この曲だけBBC Radio 3で放送されなかったのが残念。

体調も悪かったし、これだけの曲をまとめて聴くと、終わった後はさすがにぐったりしました。今日はストールはけっこう埋まっていましたが(休憩で帰ってしまった人もちらほら)、上の階はほとんど売れてなく、客入りがイマイチだったのは気の毒でした。もうちょっと宣伝の仕方はあったんじゃないでしょうかねえ。(良し悪しは別として)日本人の動員もなかったようですし。そういえばBBCの放送を聴いていて思ったのは、望月京、藤倉大といった若い世代の作曲家はあたり前のように流暢な英語をしゃべるんですね。大野和士さんより英語上手かったです(笑、っていいのか)。


ロンドンにも時々来ている大野和士さん。次はもうちょっとストレートな演目で聴きたいです。

OAE/デブレツェニ(vn)/オグイケ(振付):ヴィヴァルディ「四季」でコンテンポラリーダンス2013/02/08 23:59


2013.02.08 Queen Elizabeth Hall (London)
V4 The Seasons
Kati Debretzeni (violin) / Orchestra of the Age of Enlightenment
Henri Oguike (choreographer)
Dancers: Sunbee Han, Noora Kela, Rhiannon Elena Morgan,
Edward Kitchen, Wayne Parsons, Teerachai Thobumrung
1. Vivaldi: Violin Concerto in E major, Op. 8-1 (Spring)
2. Vivaldi: Violin Concerto in G minor, Op. 8-2 (Summer)
3. Vivaldi: Violin Concerto in F major, Op. 8-3 (Autumn)
4. Vivaldi: Violin Concerto in F minor, Op. 8-4 (Winter)

今年に入って何故だかOAEづいてます。ふと目に入ったので中身も知らず買ってしまったのですが、演目はヴィヴァルディ「四季」のみという1時間足らずの短いコンサートで(そのため6時半と8時半の2回公演があって、これは6時半のほう)、ダンスパフォーマンス付きだということに後で気付きました。バロックの「四季」だからてっきりバレエかと思っていたら、ふたを開けたら男女6人のコンテンポラリーダンス。うーむ、あんまり得意分野じゃない…。蝶がはためくように写実的かと思えば、心象風景を抽象的に表現したような箇所もあり、「これは何だろう」といちいち考えていたらあっという間に終わってしまいました。ダンサーは女性も含めて皆筋肉質のがっしりした体格で圧迫感がありましたが、全般的に踊りは軽いノリに思えました。ピョンピョン飛び跳ねるところなんかはまるでPSYの「江南スタイル」、と言ったら怒られるかもしれませんが。

ソリストのカティ・デブレツェニは全くハンガリー系の姓名ですが、ルーマニア(トランシルヴァニアのクルジュ=ナポカ、ハンガリー語ではコロジュヴァール)の出身だそうです。彼女もオケの指揮はそこそこに、舞台に出てきてソロを弾きながらダンサーとからみます。これも振付けの一部なのですが、ヴァイオリンの周りを至近距離でダンサーがぐるぐる回っているのを見ると、アクシデントでぶつかって高価な楽器が壊れやしないかと気が気でなかったです。

オケの編成は、ソリストを除いて4+4+3+2+1の弦楽器に、通奏低音としてリュート(首の長いテオルボ)とギターを一人の奏者が持ち替えていました。バロック演奏の良し悪しは私にはよくわかりませんが、チューニングのピッチが低く、モノトーンの色調です。モダンダンスであえて古楽器オーケストラを伴奏にしなくても、と最初は思いましたが、終わってみれば、レオタードのダンサーとは意外と相性が良かったのかも。

激しくピンボケした写真しかなく(すいません)、雰囲気だけ味わってください。



ロンドンフィル/マッツォーラ:似て非なる、イタリアとスペインの夜の音楽2013/02/09 23:59


2013.02.09 Royal Festival Hall (London)
Enrique Mazzola / London Philharmonic Orchestra
Javier Perianes (piano-2), Maria Luigia Borsi (soprano-3)
1. Respighi: Fontane di Roma
2. Falla: Noches en los Jardines de España
3. Respighi: Il Tramonto (The Sunset) for mezzo-soprano & strings
4. Ravel: Pavane pour une infante défunte
5. Ravel: Rapsodie espagnole

去年のイースターにグラナダのファリャの家を訪れた後、ファリャの音楽を無性に聴きたくなって買ったチケットです。ずいぶんと時間が経ってしまって、待たされた気分。それによく見ると、スペインの曲と言えるのは2曲しかなくてしかもその一つはラヴェルですが。

今日がロンドンフィルデビューのエンリケ・マッツォーラは1968年スペインはバルセロナ生まれですが、イタリア人のようです。本人の公式HPにはスペイン生まれとしか書いてないし、Wikipediaにはスペイン人指揮者とありましたが、当日のプログラムではイタリア人と書いてあり、本人が演奏前のトークで「自分はイタリア人だ」とはっきり言ってたので、人種的にはイタリア人で間違いないんでしょう。実際、つるっぱげ頭ながらこだわりの赤ブチ眼鏡に、垢抜けたシャツを途中で着替えたりして、伊達男ぶりはイタリア人ですね。

まずは「ローマの噴水」でスタート。一聴してわかったのは、この人はオケの交通整理が上手く、繊細さを犠牲にしても各楽器を際立たせ、すっきりと見通しの良い音楽作りをする人だなあということ。今回の選曲は夜を思わせる曲ばかり並んでいるので(少なくとも昼の陽射しが似合う曲は一つもない)、この一貫した透明感はどれにもよくマッチしていました。反面、特に「トレヴィの泉」あたりだと弱い金管と相まってスケール感の欠如が如実に。大仰な音楽作りはキャラクターに合わないのかもしれません。

「スペインの庭の夜」は、いかにもスペインっぽいメロディ満載の印象主義的な曲。特に1曲目のアルハンブラ宮殿離宮ヘネラリフェは、極彩色の花壇と品の良い噴水の情景を思い出して、ノスタルジーを誘いました。協奏曲的でありながらピアノは終始控えめで、ペリアネスの力量はよくわからんかったというのが正直なところ。アンコールでもファリャのピアノ小曲を弾いてましたが、国外ではスペインもののスペシャリストとして振る舞わなければならないのでかえって窮屈なのかも。逆にスペイン国内ではベートーヴェンとか堂々と弾いてたりして、そっちのほうが面白いかもしれません。

休憩後、レスピーギの歌曲「黄昏」は、ソプラノのマリア・ルイギア・ボルシには音域があまり合わないのか、黄昏というより夜の帳が下り切ったようなローテンション。初めて聴く曲でしたし、ボケッとしている間に終わってしまった感じです、すいません。この人本職はオペラ歌手のようなので、個性的なお顔立ちもあって、是非オペラで聴いてみたいものです。

残りはラヴェルが2曲。「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、冒頭のホルンにもうちょっと味があればなお良かったと思いますが、音をきっちりと整理し、全体的に透明度の高いハーモニーが心地よい、なかなかの名演でした。「スペイン狂詩曲」は大管弦楽ながらもうるさい部分はちょっとしかなく、効率の悪い曲ですが、ここに至るまで抑えに抑えて溜め込んだエネルギーを最後に開放させ、オケが自発的に鳴りまくるままにしていました。今日のプログラムで派手にジャンと終わるのはこの曲だけだったので、ここまでちょっと醒めていた聴衆もようやく盛り上がって、やんやの大喝采に終わりました。

本日はセカンドヴァイオリンのトップにゲストプリンシパルとして船津たかねさんが座っていました。一昨年フィルハーモニア管で見て以来です。しかしそれよりも今日一番驚いたのは、ホルンにLSOトップのデヴィッド・パイアットが座っていたこと。プログラムを見ると確かに彼の名前が2番目のプリンシパルとして書かれてありました。道理で最近バービカンでは見かけないなと思っていたら、いつのまに移籍したのかなー。でも後でLSOのサイトを見てみたらまだ彼の名前も残ってたりして、本当にごく最近移ったんでしょうかね。今日の演奏でもホルンが弱いと思った「ローマの噴水」と「パヴァーヌ」は、パイアットは降り番でした。今後のLPOブラスセクションは大いに期待ができるかもしれません。



LSO/ハイティンク/ピレシュ(p):極東ツアーの前哨戦を10分の1の価格で2013/02/12 23:59

2013.02.12 Barbican Hall (London)
Bernard Haitink / London Symphony Orchestra
Maria João Pires (piano-2)
1. Britten: Four Sea Interludes from 'Peter Grimes'
2. Mozart: Piano Concerto No. 17, K. 453
3. Beethoven: Symphony No. 7

来月同じプログラムで日本ツアーに出かけるからでもないでしょうが、今日はやたらと日本人聴衆の多い日でした。かく言う私も、日本公演のチケットがS席3万円(日本の外タレ公演は酷いことに、ほとんどの席が「S」です…)と聞いて、同じものが10分の1の値段で聴ける環境をめいっぱい享受しようと思い慌ててチケット買ったクチです、はい。

しっかりした足取りでハイティンク登場。この人を見るのはこれで8回目ですが、今まで見た中で一番元気そうかも。すぐに極東ツアーを控えた御大ですから、体調が良さげなのはグッドニュースです。正直好きな指揮者じゃなかったのでレコード、CDは多分1枚も持っていませんが、この人の真価はライブにありということをロンドンに来てから発見しました。1曲目「4つの海の間奏曲」はイギリスでは定番のショートピース。これは意外にもゴツゴツとえげつない演奏だったので驚きました。小洒落たまとめ方には一切興味がなく、オペラ「ピーター・グライムズ」の本質を踏まえた悲痛な重厚さが一貫して漂っていました。

ハイティンクとピレシュの取り合わせを聴くのはこれで3年連続です。モーツァルトの27番、20番と来て今日は17番。先ほどのブリテンとは一転し、角の取れた伴奏に徹していたハイティンク御大とLSOでした。音のアタックを極力抑え、ビブラートも制限せずに、むしろオーボエ、フルートの木管楽器は実に瑞々しくロマンチックなアンサンブルを聴かせてくれました。ピレシュはいつものごとくツヤツヤに粒の揃ったドライなピアノで、粗探しも野暮以前に粗が無いし、高みに達した音楽家二人だからこそ成し得た境地に酔うしかなかったです。


メインのベートーヴェン第7番は今年で初演から200周年の記念イヤー。各所で演奏機会が増えることでしょう。ザ・巨匠のハイティンクが迷わず突き進んできた、粘ったり煽ったりが一切ない直球勝負のベートーヴェン。特筆すべきは、小細工なしにスコアの音楽を引き出しているだけなのに、何という躍動感よ!音楽そのものの力とは言え、ハイティンクがここまで「ロック」な演奏の出来る人とは思っていませんでした。もっと常に重い人かという印象でした。ハイティンクが指揮台に立てば、LSOだろうがどこだろうが、いつものように最大級のリスペクトで奏者が指揮者に着いて行く。本当にハッピーな老後を過ごしている人と思います。体調に不安はなさそうですし、LSOは相変わらず上手いし、日本公演は大いに期待できるんじゃないでしょうか。


ロイヤルバレエ:ついてなかった、アシュトン・ミックスビル2013/02/15 23:59

2013.02.15 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Ashton Mixed Programme
(La Valse/Méditation/Voices of Spring/Monotones I, II/Marguerite and Armand)
Emmanuel Plasson / Orchestra of the Royal Opera House
Frederick Ashton (choreography)

アシュトン振付の小品を集めたミックスビル。昨年ENBに移籍したタマラ・ロホの退団記念公演、さらには元プリンシパルの問題児ポルーニンがゲストで復活というエポックメイキングな公演でもありました。ですが、今日は寝不足の悪い体調で臨んだ上、悪条件が重なったせいで、あまりポジティブなことは書けません。ロイヤルバレエ団に一切非はないんですが。ちなみに今日はテレビカメラが多数入っていたので、3月に日本のNHK BSで放送する映像撮りがあったのかもしれません。そのせいか、今日のオケは普段よりずっとしっかりしてました(これができるんなら、普段からそうやらんかい…)。


1. Ravel: La Valse
Hikaru Kobayashi, Samantha Raine, Helen Crawford
Ryoichi Hirano, Bennet Gartside, Brian Maloney

最初、スモークの向こうで華やかな舞踏会の様子が垣間見え、霧が晴れたとたん目の前に広がるきらびやかな世界。音楽が形を崩すに従い踊りも宮廷ワルツから自由になっていき、最後は曲が終わらないうちに幕が下りてしまう。ラヴェルの音楽に対するリスペクトがあります。飽きる暇もない濃密度な展開に、こいつは一発で気に入りました。しかし問題は、真後ろの席の母子連れ。多分就学前の男の子は風邪がひどいようで、上演中ず〜〜〜〜〜っとコンコンゴホゴホと咳をし続け(もちろんマスク、ハンカチなど持っておらず、菌バラ撒きまくり)、迷惑この上ない。こっちのイライラオーラが立ち昇っているのを母親のほうは察知してか、時々子供の口を押さえたりしてましたがそれで収まるわけもなく。舞台の上にあまり集中できないうちに終わってしまい、やれやれと思いつつカーテンコールの写真を一枚撮ったところ、妻の横の席のおばさんがすかさず、私ではなく妻に「写真はだめよ」と。マナー違反は承知の上なので、正面から言われたらやめるしかないです、すいません。もちろんこの日はロホの引退公演なので、立ち上がって写真・ビデオを撮っている人は他にもいっぱいいましたが…。


というわけで、唯一撮れた写真。

2. Massenet: Méditation from Thaïs
Mara Galeazzi, Rupert Pennefather (replaces Thiago Soares)

「タイスの瞑想曲」にちょっとアラビックテイストな振付がなされています。高いリフトが印象的ですが、うーん、私ごときの素養では、何のこっちゃ感の残る不思議な一品でした。後ろの子供の咳はまだ止まらず。この曲に後ろでずっとゴホゴホやられたら、たまったものじゃありません。そもそも子供が一番気の毒、さっさと家に帰してやんなさい、と思いましたが、お母さんは我関せずで「ブラヴォー」叫びまくってました。

3. Johann Strauss II: Voices of Spring
Emma Maguire (replaces Yuhui Choe), Valentino Zucchetti

ヨハン・シュトラウス二世の「春の声」。こちらもリフトで登場、リフトで退場という持ち上げワザが目を引きます。いかにも春らしい、活気あふれる楽しいデュエットでした。最近見てないユフィちゃんが降板してしまったのは残念です。ところでカーテンコールの写真を撮ってないと、どんな衣装だったかも早速おぼろげというか記憶がごっちゃになってしまっているので、記録としての写真が残ってないのは非常に痛い。と、ここで最初の休憩。

4. Monotones I and II
1) Satie: Préludes d’Eginhard (orch. by John Lanchbery)
2) Satie: Trois Gnossiennes (orch. by John Lanchbery)
3) Satie: Trois Gymnopédies (orch. by Debussy and Roland-Manuel)
Emma Maguire, Akane Takada, Dawid Trzensimiech
Marianela Nuñez, Federico Bonelli, Edward Watson

休憩後、子供は戻ってきませんでした。ほっ。序曲の後に、とんねるずの「モジモジ君」を連想せずにはいられない黄緑色の全身スーツに身を包んだ3人が、サティの寂寞な「グノシェンヌ」に乗せて組み体操のような踊り(と言うんでしょうか)を静かに繰り広げます。後半は白の全身スーツの、よく見るとヌニェス、ボネッリ、ワトソンという凄いメンバーが、これまたストレッチのような寡黙なパフォーマンス。これは正直、眠かった。ヌニェスの驚異的な身体の柔らかさ以外はほとんど記憶から飛んでます。せっかくうるさい咳がなくなったのに、これではいけませんなー。

5. Marguerite and Armand (Liszt: Piano Sonata in B minor, arr. by Dudley
Simpson)
Robert Clark (solo piano)
Tamara Rojo (Marguerite), Sergei Polunin (Armand)
Christopher Saunders (Armand's father), Gary Avis (Duke)
Sander Blommaert, Nicol Edmonds, Bennet Gartside
Ryoichi Hirano, Valeri Hristov, Konta Kura
Andrej Uspenski, Thomas Whitehead (Admires of Marguerite)
Jacqueline Clark (Maid)

もう一つ休憩を挟んで、本日のメイン「マルグリートとアルマン」ですが、これは前にも同じロホ、ポルーニンのペアで見ています。久々のロイヤル登場、自分のさよなら公演にあえて首になったポルーニンを引っ張り出してきたのは、よほど気に入ったのか、あるいはポルーニンに復活のチャンスを与えたいという温情とか、はたまた将来ENBに引っ張り込みたいという政治的思惑があったり、いろんなものが渦巻いていたのかもしれませんが以上は全て勝手な想像です。なお今回は二人ともゲスト・プリンシパルではなく単なるゲスト・アーティストという取り扱いでした。

久々に見るポルーニンは、めちゃカッコいい。シャープな立ち振る舞いは今のロイヤルにも代わりがいない、貴重な逸材です。身体のキレも衰えているようには全く見えず、ロホとの息もぴったし。ロホの美貌も、超柔軟な身体も、プリンシパルの貫禄も、この人はもうここにはいないんだということを忘れてしまうくらい、このオペラハウスの舞台に自然に馴染んでいました。前回見たときと感想に大きな変化はないんですが、私の趣味から言うとこの演目は音楽が絶望的に退屈です。申し訳程度にオケがサポートしてはいるものの、伴奏のメインはあくまでピアノですが、しかしそのピアノに舞台の上のパフォーマンスを受け止め支えるだけの力が全くない。曲のせい、ではないんでしょう。ピアニストも前と同じ人でしたが、せっかくのさよなら公演、スペシャルなゲストを呼んでくるアイデアでもあればまだ状況は違ったかも。とにかく、この演目は私にはちっとも楽しくなかったです。やっぱり自分は、バレエの公演でも6割くらいは音楽そのものに意識が行っているのだなあと、自己の性向を再認識するしかありませんでした。

例の子供はまた席に戻ってきていて、だいぶ風邪の様子はよくなっていたものの、幕が上がっても母親にずっと小声で話しかけていたかと思えば、そのうちまた咳き込み始め、やっと静かになったと思いきや、グーグーいびきをかきながら寝てしまいました。もうぶち切れ寸前。こんな状態の幼児を無理やり劇場に連れてきて、わざわざ害悪を周囲に撒き散らすのは、二重の犯罪行為だと糾弾さしてもらいます。帰り際によっぽど「あんたのおかげで最悪な夜だった」と言ってやろうかと思いましたが、とっとといなくなってました。さらに悪いことには、終了間際ですが、我々の後ろの立ち見席の人が意識を失って大きな音と共に突然倒れ、大騒ぎになってまして、とても舞台に集中するどころではありませんでした。長丁場の立見は、くれぐれも体調と相談してくださいね…。

ラベック姉妹+カラカン:4本腕の凄腕ピアニスト?2013/02/17 17:59


2013.02.17 Queen Elizabeth Hall (London)
Katia & Marielle Labèque (pianos)
Kalakan Trio (percussion-4)
1. Debussy: "Nuages" and "Fêtes" from Nocturnes (transc. Ravel for piano duo)
2. Ravel: Rapsodie espagnole (for piano duo)
3. Ravel: Ma mère l'oye (Mother Goose), suite for piano duet
4. Ravel: Boléro (arr. for piano duo & percussion trio)

一昨年のOAEで初めて生を見たラベック姉妹。そのときはバロックピアノ(フォルテピアノ)でしたが、今回は普通のモダンピアノデュオを最前列かぶりつきで観賞です。お姉さんのカティアは赤、妹のマリエルは黒というコントラストの衣装で登場(ですよね?この姉妹は双子のようによく似ているので見分けにくいです)。姉妹デュオでの活動に年季が入っているので、さすがに息がぴったり。音も同質でお互い溶け合っており、「4本の腕を持つ凄腕ピアニスト」とでも表現できそうです。その分、姉妹のキャラ分けと弾き方はけっこう対照的。職人肌系きっちりピアニストのマリエルに対して、カティアは全くの芸術爆発系。激しいアクションに、きついフレーズで自然とこぼれる野獣のうなり声。最後の音を手のひらでふわっと包み込んで温めるような仕草(もちろん鍵盤から手を離した後のそんな動作が音に影響するわけはなく、完全に気持ちの問題ですが)など、エモーショナルな弾き方がビジュアル的にも面白かったです。

前半は、先週オケで聴いたばかりの「スペイン狂詩曲」が圧巻でした。ラヴェル自身のトランスクリプションかどうかは確認できていないですが、骨組みだけみたいなこのピアノ版を聴くと、この巨大なオーケストレーションの構造と仕組みが見えて(と言えるまでの素養はないですが、少なくとも感じ取れて)きました。後半の「マ・メール・ロワ」は連弾なので、横並びで身を寄せ合ってあまり動けないせいか、多少大人しめの演奏でした。最後の「ボレロ」はバスクの民族打楽器トリオKalakanと共演。ボレロをただピアノだけで延々とやってもつまらない(やるほうも聴くほうも多分苦痛)ので打楽器で色付けするという趣向だと思いますが、ピアノはすっかり脇役でした。ただし正直な感想を言わせてもらえれば、このボレロに限っては打楽器も退屈でしたけど。あと3、4人笛系と弦系の民族楽器が加わればもっと多彩で面白くなったんじゃないかな。アンコールはKalakanのみで、拍子木の曲とアカペラ2曲を披露しました。その間ラベック姉妹は舞台脇にべたっと座りリラックスして鑑賞。拍子木は曲芸みたいなもんでしたが、アカペラは結構上手でした。


ボレロの小太鼓はこんなんでした。


大太鼓と、何だかよくわからない木琴のような拍子木のような打楽器。



LSO/ハイティンク/ピレシュ(p):極東ツアー前哨戦第二弾2013/02/17 23:59

2013.02.17 Barbican Hall (London)
Bernard Haitink / London Symphony Orchestra
Maria João Pires (piano-1)
1. Beethoven: Piano Concerto No. 2
2. Bruckner: Symphony No. 9

12日に引き続き、LSO極東(韓国・日本)ツアーの前哨戦です。この日は図らずもダブルヘッダーになってしまい、午後サウスバンクでラベック姉妹を聴いた後、その足でバービカンに移動。地下鉄が止まっていたので車で行ったら、意外と近かったんですねえ。

当初の発表ではモーツァルトのピアノ協奏曲のうち21番がベートーヴェン7番と、17番がブルックナー9番とペアリングされていましたが、昨年8月の段階で、ソリストの意向により21番が外され、代わりにベートーヴェンの協奏曲第2番が入ってきてブルックナー9番とカップリング、17番はスライドでベートーヴェン7番と組むということになりました。21番はもちろん得意レパートリーのはずなので不可解な変更ですが、もしかしたらこれからベートーヴェンの協奏曲全集をレコーディングする予定で、その予行練習をしたかったのかもしれません。このケースではどのみち私はピレシュのピアノが聴ければ何でもよいので、バルトークでもやってくれるならともかく、曲目変更はどうでもよかったりします。

ベートーヴェンのコンチェルト2番はほとんど初めて聴く曲です。クラリネット、トランペット、ティンパニを欠く編成の、ベートーヴェンらしからぬ可愛らしい曲で、自作を宮廷で貴族相手に披露していた名残のような雅な雰囲気を感じます。今回ピレシュをほぼかぶりつきで見たのですが、けっこう高いかかとの靴でゴンゴンと床を叩いてリズムを取りつつ、時折大きな深呼吸もしつつ、一糸乱れぬ完全主義的な演奏にいたく感動しました。ぎくしゃくしたり、ヘンな仕掛けをしたりということは一切なく、音楽がそのままの姿で正直に流れていきます。ハッタリやこけ脅しとは全く無縁の世界で、模範演奏とはまさにこういうことを指すのだなあと感心。ハイティンクのスタイルとも共鳴する部分は多く、相性抜群の取り合わせを生で聴ける幸せをしみじみ感じました。


メインのブルックナー9番は、「ブル嫌い」の私にしては珍しく何度も聴いている曲ですが、前回聴いたのはちょうど2年前、同じくLSOをラトルが振ったときでした。先日のベートーヴェンのときにはなかった椅子が今日は指揮台に置いてありましたが、ハイティンクは楽章間の小休憩のときに少し座っただけで、基本はぴしっと背筋を伸ばした直立不動。健康に不安はなさそうです。音楽のほうは、壮大な建造物を思わせる、スケールの大きいブルックナー。ラトルのときはいろいろと仕掛けるあまり途中オケが振り落とされたりもしていましたが、ハイティンクはさすがにこの曲はオハコ中のオハコ、小細工抜きの全く危なげない展開。安心して聴いていられる、保守本流とはまさにこのこと。オケも最上級の真剣モードで、重厚な弦、迫力の金管、精緻の木管と、どれを取ってもLSOの「今」を余すところなく披露していました。ティンパニは最近暴走気味のプリンシパルのトーマスではなくベデウィでしたが、逆に手堅い演奏で良かったです。

来月の訪日公演のプログラムで、トップオケのパワーに酔いたいならブルックナー9番、重いのはちょっと…という人ならより聴きやすいベートーヴェン7番がオススメです。ごまかしのない高品質は、どちらを取ってもハズレはないでしょう。メンバーが前日六本木で飲み過ぎてヨレヨレにならない限りは…。一回あったんです、ブダペストでヨレヨレのLSOを聴いたことが…。

おまけ。チェロのミナさんです。大概ヴァイオリンの陰になってしまい、なかなかよいショットが撮れません…。




フィルハーモニア管/アシュケナージ/ガベッタ(vc):ショスタコの酢の物2013/02/21 23:59


2013.02.21 Royal Festival Hall (London)
Vladimir Ashkenazy / Philharmonia Orchestra
Sol Gabetta (cello)
1. Britten: Suite from "Death in Venice" (arr. Steuart Bedford)
2. Shostakovich: Cello Concerto No. 2
3. Shostakovich: Symphony No. 15

日曜にサウスバンクとバービカンをハシゴした後、月曜早朝から水曜まで出張、木曜金曜と再び連チャンという、なかなかキツいスケジュールでした。アシュケナージは好きな指揮者じゃありませんが、それでも聴きたかったのは、チャレンジングなプログラムだったので。しかしあまりにチャレンジングなため、疲れの溜まった身には苦行のように堪えました。

1曲目のブリテン「ヴェニスに死す」は、同名オペラから抜粋して小編成オケの組曲に仕上げたものですが、ちょうど「パゴダの王子」みたいなアジアンテイストを感じます。編曲のベッドフォードは確かこのオペラの初演を指揮した人ですね。私の耳にはブリテンらしい煮え切らない曲で、結局よくわかりませんでした。

続くショスタコのチェロコンチェルト第2番は、2年ほど前にプラハで聴いて以来です。そのときのソリスト、イケメンのミュラー=ショットと比べて今日のガベッタのほうがずっと男勝りの力強さを感じました。この若き美人チェリストは一見華奢に見えて、二の腕など実はなかなか筋肉質でパワーがあります。その分繊細さや透明感に欠ける気がして、ミュラー=ショットのときとは全く別の曲のような印象でした。やはりこれもまたつかみどころのない曲ですわな。アンコールはチェロ奏者4人を伴奏に弾きましたが、休憩時に観客がチェロ奏者に「今のは何て曲?」と聞いたら、「えーと、何だっけ」と応えられなかったのが微笑ましかったです。


あー、動いてしまって写真撮れませんでした…。


速攻で着替えてサイン会に臨んでいたガベッタさん。

メインのショスタコ15番はその昔、タコというとまだ5番と9番しか知らなかった頃にFMラジオで初めて聴いて、第一印象は「何て変な曲」だったけど何故かハマり、エアチェックしたテープを勉強のBGMによく聴いていました。実演は初めて、すごーく久々に聴きましたが、やっぱり何て変な曲(笑)。思い出しましたけど、第1楽章の「ウイリアム・テル」の他にもワーグナーや自作からの引用がいっぱいあるサンプリングミュージックなんですね。アシュケナージはN響と一緒にブダペストに来たのを聴いて以来。とにかくこの人のギクシャクとした指揮はどうにもいちいちカンに触っていけません。棒振りが杓子定規であえて手の内を見せないような指揮者は他にもいますが、この人の場合は本当にずっとスコアに目を落としながら、オケに合わせて腕を振り回しているだけに見えてしまうので、指揮者としていかがなものか、という思いを禁じ得ません。そんな感じでリズムは重たかったものの、日本公演から帰ったばかりのフィルハーモニア管は好調を維持して上手かっただけに、ちょっと無理が続いてしまった自分の体調と、今日の指揮者がサロネンじゃないという事実をちょっぴり残念に思いました。


指揮棒をくわえたり、やっぱり指揮者らしくない人です。


本日のフィオナちゃん。

BBC響/ダウスゴー/ワン(vc):不滅のスタイリスト2013/02/22 23:59


2013.02.22 Barbican Hall (London)
Thomas Dausgaard / BBC Symphony Orchestra
Jian Wang (cello)
1. Prokofiev: Scythian Suite
2. Bloch: Schelomo
3. Nielsen: Symphony No. 4 'The Inextinguishable'

前日に引き続き、出張の疲れ取れず頭がボワワンとしていたので、あまり書けませんが、一応記録のために。

1曲目の「スキタイ組曲」はまだ「古典交響曲」を書く前の初期作品。「アラとロリー」という副題が付いてまして、実際そういう題のバレエとして最初作曲を始めたものの、ディアギレフに「春の祭典」の二番煎じだと言われて却下され、管弦楽組曲に書き直されたという経緯があるそうです。音楽的には春祭と似ているわけでは全然ありませんが。初めて聴くダウスゴー、非常にシャープな演奏に感心しましたが、第2曲以降は沈没してました、すいません。あとでBBC Radio 3の放送を聴くと、やっぱり速くてぴしっと統制の取れた演奏でしたね。

2曲目の「シェロモ」は「ヘブライ狂詩曲」とも呼ばれる、実質的にはチェロ協奏曲です。これは名前だけは昔から知っていましたが、初めて聴きました。ユダヤ人の作曲家は多数おりますが皆さん個性派で音楽はそれこそ多種多様、「ユダヤの音楽」と一括りに言ってもあまりピンと来るものがありません。旋律はベタな浪花節で、盛り上がった後の悲嘆ぶりにはちょっと自虐史観が入ってるかな、と思える曲でした。中国人チェリストのジャン・ワンは音がちょっと細いながらもよく歌う系のロマンチックな独奏でした。


これが目当てだったメインのニールセン「不滅」は、これまた最初から快速で飛ばします。バーンスタインで聴き込んだ世代としてはちょっと急ぎ過ぎに感じますが、これが最近のスタイルみたいですね。ダウスゴーもデンマーク人ですから民族的共感に基づく演奏を期待するところですが、あまりそういった民族臭の感じられないモダンな印象の演奏でした。それとも、この「スタイリッシュ感」が実はデニッシュ民族の特徴なのかという気も。いつものごとく、BBC響は安定して上手かったです。一つ疑問は、セカンドティンパニを舞台左の第1ヴァイオリンの後ろに置いたのに対し、第1ティンパニは位置を変えず舞台中央後方のままにしていたことで、これは「第2ティンパニは舞台隅で第1の真反対側に置く」という作曲者の指定とは違うでしょう。ビジュアル面の効果からして全然違いますので、ここは通例通りステレオ配置にして欲しかったです。


長身のダウスゴーさん。



ティンパニのお二人。