フィルハーモニア管/サロネン/ハーグナー(vn):カラッと明るい「英雄」2012/03/15 23:59

2012.03.15 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Viviane Hagner (Vn-2)
1. Beethoven: Symphony No. 1
2. Unsuk Chin: Violin Concerto
3. Beethoven: Symphony No. 3 (Eroica)

ベートーヴェンの交響曲は「第九」以外、わざわざそれを目当てにチケットを買うことがないので、2003年に「備忘録」を書き始めて以降、未だに聴いてない番号がいくつもあります。中でも「英雄」は元々苦手中の苦手であるため、前に実演で聴いたのはそれこそ30年ではきかない遥か昔、朝比奈/大阪フィルの演奏会で聴いたっきり、ずっと避けてきました。しかし、苦手な曲もトッププロの演奏で聴いたら印象が変わるかもしれないなー、とふと思い立ち、急きょ行くことにしました。まあ一番の理由は、ブダペスト祝祭管の後、珍しく3週間も演奏会の予定が入ってなかったので、こりゃーいかん禁断症状が出る、と思ったことなんですけどね。

ストールB列の席を買ったので前から2列目と思っていたら、A列が撤去されており、最前列で見ることになってしまいました。うーむ、ここだと第1ヴァイオリン以外は奏者がほとんど見えないなあ…。会場では内田光子さんが聴きにいらしてました。サロネン/フィルハーモニア管のベートーヴェンシリーズでは先日共演もしてましたし、ヴィヴィアン・ハーグナーはデュオのパートナーなんですね。


まずはチン・ウンスク。ロンドンに来るまでは全く知らない名前でしたが、ロンドンでは名前と顔写真を見る機会がやたらと多い女性作曲家です。2001年作のヴァイオリン協奏曲はハーグナー(この人は独韓ハーフなんですね)の独奏で初演の後、世界各国で再演され、テツラフなども取り上げているそう。最初、何だかよくわからない打楽器群が所狭しと並べてあったのが、俄然興味を引きました。チェレスタ、チェンバロがある上にさらに木琴、マリンバ、グロッケン、ヴィブラフォンといった鍵盤打楽器勢揃い、加えてオケには珍しいスチールドラム、鉄板(サンダーシート)、ドラム缶などが見え、相当賑やかなことになってました。後で調べたら、他にもリソフォン(石琴)、サンザ、ギロなどのエスニック打楽器もあったようで(気付かなかった…)、もはや無国籍を超えて無節操。曲は4楽章構成ながらも緩徐楽章のないハイカロリーの熱い曲でした。第1楽章はポリリズムのダイナミックな曲で、何かがもぞもぞと蠢くような生理に訴えるイメージです。変拍子、不協和音、無調のいわゆる「現代音楽」ではありますが、全編通して何かしらヴィジュアルなイメージを喚起するので、耳にすんなりと入ってきやすい曲調でした。そのヴィジュアルイメージは決してヨーロッパのそれではなく、アジア的なものを強烈に感じました。もっと言うと、自然の景観ではなくて、鈴木清順の映画のように人工的に着色された東洋の風景のイメージ。このわかりやすい個性はチン・ウンスクの不可換な魅力でしょう。ヨーロッパで人気が高いのもうなづけます。終演後にサロネンに呼ばれてステージに出てきたウンスクさん、50歳には見えない、写真通りのかわいらしい女性でした。ハーグナーと手を繋いで出て来た女子ぶりが微笑ましかったです。

さて本題のベートーヴェン。古楽畑の人は言うに及ばず、ラトルみたいにモダンな指揮者もこぞってピリオド風の奏法を取り入れたりして、かつての巨匠の時代から比べると演奏様式がずいぶんと変わりました。若くてモダンで理屈をこねる人ほど、ベートーヴェンでは古楽器系アプローチにこだわったりするというある意味逆説的な流行になっているようにも思えますが、そこで私のイメージでは超モダンな指揮者、サロネンがいったいどんなベートーヴェン像を見せてくれるのか興味津々でした。まずオケはフル編成の現代オーケストラ、楽器も見たところ通常の現代のものでした。ティンパニがいつもと違う手回し式の小型のものでしたが、これとて見た目ピカピカで、バロック楽器とは言えないような。弦楽器の並び方もチェロを右に置くモダン配置で、奏者は普段の通りヴィブラートをかけまくって演奏していました。つまり、ピリオド系アプローチなどほとんど気にしない、あくまで普段着の自然体演奏だったのでちょっと拍子抜けしました。テンポも最近の傾向であるせかせかした速さではなく、速すぎず遅すぎずの中庸路線。「英雄」の第2楽章、有名な葬送行進曲などはバーンスタイン並みに遅いテンポでじっくりと歩みますが(このかったるさがこの曲の特に苦手な部分なんですが)、全体的な印象はカラッと明るい、スカッと晴れやか、後腐れのないベートーヴェン。サロネンならもっと理詰めで窮屈な演奏に持ってくるかと想像していたのですが、どういうベートーヴェン像を描き出したかったのか、拘り所がよくわからなかったです。意外とあまり深い考えはなく、ただ朗々と気持ちの良いベートーベンをやってみたかっただけなのかも。それはそれで十分納得できる話です。これで「英雄」の印象が変わったかというと…。演奏し甲斐のある難曲で、さすがにファンが多いだけあってなかなかかっこいい部分もある曲だというのはわかりました。好きになれるまでには、もっと修行を積まないといけませんねー。

今年最初のフィルハーモニア管でしたので、久々に見たフィオナちゃんは相変わらずのツンデレ系(デレのほうは見たことないので単なる想像ですが)。ホルンのケイティちゃんはメンバー表にはありましたが姿は見えず、残念。今日の発見は、ライブラリアンの女性がなかなかの美人だったこと。やっぱりこのオケは見応えがありますね!(何が?)いい味系ティンパニの大御所アンディ・スミスさん、今日はベートーベンでは手回しの旧式小型楽器を使用。ピリオド系で硬質な音を出すためかと思いきや、LSOのトーマスさんほどの突き抜けた固さはなく、もう一つ中途半端な印象で、本領が発揮できてませんでした。この演奏だったらいつものモダン楽器でいつもの通りガツンとやったほうがよかったのではないでしょうかねえ。

コメント

_ つるびねった ― 2012/04/03 05:34

ううう、ライブラリアンの女性にまで手を広げるとは。。。
ケイティさんは、前半だけのっていました。フィオナちゃんのデレは恋人にしか見せませんよぉ。Miklosさん、アタックしてみたら?
と、音楽と関係ないことばかり。サロネンさんのベートーヴェンは特別に変わったことをやっていないので、新鮮味はないかも知れませんが、颯爽としてかっこいいです。わたしは、こういうベートーヴェンも好きです。意外とこういう演奏する人いないですしね。カラヤンくらい?

_ Miklos ― 2012/04/09 09:36

旅行で今週留守にしていました。すいません。

普段モーツァルト、ベートーヴェンなどの古典はほとんどやらないサロネンがあえて取り上げるのだから、どんな仕掛けがあるのかと思ったら、意外と鳴るがままに任せた巨匠風の演奏でした。確かに最近のベートーヴェン像標準とは違う演奏で、かえって新鮮でしたね。(と、音楽の話に終始して品格を維持します)

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_ miu'z journal *2 -ロンドン音楽会日記- - 2012/03/31 20:36

15.03.2012 @royal festival hall

beethoven symphony no. 1
unsuk chin: violin concerto
beethoven symphony no. 3

viviana hagner (vn)
esa-pekka salonen / po

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