フィルハーモニア管/サロネン/ブロンフマン(p):バルトーク三昧2011/10/27 23:59

2011.10.27 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Yefim Bronfman (P-1,4)
Zsolt-Tihamér Visontay (Vn-1), Mark van de Wiel (Cl-1)
1. Bartók: Contrasts (violin, clarinet and piano)
2. Bartók: Suite, The Wooden Prince
3. Bartók: Dance Suite
4. Bartók: Piano Concerto No. 2

またまたバルトークシリーズです。1曲目のコントラスツはピアノ、ヴァイオリン、クラリネットの三重奏曲で、ジャズクラリネットの巨匠ベニー・グッドマンのために書かれた曲です。なので、私はてっきりアメリカ移住後の作品と思い込んでいたのですが、調べてみたら1938年、渡米前の作曲でした。バルトークとベニー・グッドマンという全く接点がなさそうな取り合わせが刺激的ですが、この二人を繋いだヨーゼフ・シゲティを加えて残した記念碑的録音が有名です(といいつつ実はまだ聴いたことがないんですが)。一種の変奏曲ですが、なかなかつかみ所がわからない曲です。特にピアノは地味〜に下支えするのみですが、対照にクラリネットは大暴れ。おどけた民謡調、激しいスケールの上昇下降、ジャジーでハスキーなロングトーンなど、色彩豊かに吹きまくります。オケの首席奏者マーク・ファン・デ・ヴィールが渾身のヴィルトゥオーソを聴かせてくれました。一方お馴染みのコンマス、ジョルトさんはハンガリー人なのに意外と控えめなバルトークへの取り組み方。調弦を変えた楽器を持ち替えつつも、でしゃばらず他の二人を引き立てることに徹していました。


続く「かかし王子」、ハンガリーではバレエの定番メニューとしてよく上演されていましたが、組曲版は初めて聴きます。CDでも多分Hungarotonくらいからしか出ていない珍しいバージョンです。組曲は全部で35分くらいのバレエを半分の20分に抜粋したもので、実際聞いてみると、あれがない、これがない、と面食らう箇所もあったものの、コンパクトに上手く仕上がっているという印象です。多分聴き込みが足らないせいでしょう、私は「かかし王子」の音楽は冗長に感じることが多かったのですが、これは飽きませんでした。カラフルなオーケストレーションはラヴェルというよりリヒャルト・シュトラウスを連想させ、指揮者のドライブやオケの力量が量れる佳曲と感じました。「かかし王子」組曲のスコアは息子ペーター・バルトーク氏による決定版編集作業の一環として、数年前ようやく初出版されたそうです。「中国の不思議な役人」の組曲同様に、今後フルオケのレパートリーとしてもっと普及すればよいなと思います。

休憩後の「舞踏組曲」はブダペスト市成立50周年記念祭で、コダーイの「ハンガリー詩篇」と共に初演された祝典音楽です。比較的初期の作品になりますが、バルトークらしいメタモルフォーゼされた民謡調スタイルはすでに確立されており、聴き手にストレスを強いる舞曲集です。演奏は先の「かかし王子」と比べると演奏頻度が高い分、変に手馴れているのか、どうも集中力がなくてリズムのキレも悪かったです。それとこの曲を聴いていてあらためて思ったのは、サロネンさん、昔からライフワークのようにバルトークをよく取り上げてきていますが、何か別世界からのアプローチのように感じてなりません。いったいバルトークの何に共感して取り上げるのかというと、純粋にスコアに書き込まれたアヴァンギャルドな作曲技法のみであって、ハンガリー民謡の歌わせ方とかにはまるで関心がないようにも見えます。ハンガリーとフィンランドは言語的には同族と言われているので音楽でも根底の部分で共振するものがあるのかもしれませんが、それにしてもサロネンは、多分ハンガリーの素朴な自然を歩いたり、ハンガリーの田舎料理をこよなく愛するような人ではないんだろうなと思いました。最後、コーダの前のブレークは異常に長く、エンターテインメント性に長けた解釈ではありましたが。

最後はブロンフマン再登場でピアノ協奏曲の第2番。第1楽章は私も初めて実演で聴いたとき「なるほどそうだったのか」と瞠目したのですが、弦楽器が一切出てこない、ピアノと金管、木管だけのファンファーレ的音楽です。待ちくたびれた鬱憤を晴らすかのように、体重増殖中ブロンフマンのピアノはよくまあ激しく叩きつけること。打楽器奏者もかなわないくらいに手首がよく回ってます。しかも音がシャープで、打鍵は機械仕掛けのように正確。相変わらず硬質の切れ味鋭いピアノでした。これを聴けただけで今日は大満足。終楽章、せっかくのティンパニ連打でスミスさんが大見得を切ってくれなかったのと、全体的にオケの音(特に金管)が荒れていたのがちょっと残念。しかしラストの畳み掛けは最初からトップギアで爆走し、凄いの一言。来週の第3番もどう料理してくれるのか、とっても楽しみになりました。


バルトークシリーズはマーラーとはやっぱり違って、客入りはまあまあ。コーラス席には客を入れず、なお空席が目立ちました。ところで今日は第2ヴァイオリンのゲストプリンシパルとして船津たかねさんが、フィオナちゃんの隣りに座っていました。20年前にバーンスタイン指揮の第1回PMFオーケストラでコンミスを勤めたことで、若手美人奏者として一躍人気を博した人だそうです。今はさすがに年齢なりの落ち着きでしたが、今なお笑顔がかわいらしい小柄でチャーミングな女性でした。


たかねさんとフィオナちゃんのツーショットもなかなか…。