ルツェルン祝祭管/アバド/内田(p):至高の管弦楽の衝撃2011/10/10 23:59


2011.10.10 Royal Festival Hall (London)
Claudio Abbado / Lucerne Festival Orchestra
Mitsuko Uchida (P-1)
1. Schumann: Piano Concerto in A minor
2. Bruckner: Symphony No. 5

この演奏会、元々は11日のほうの安い席のチケットを買っていたんですが、その日から出張が入ってしまったため行けなくなり、がっかりしていたある夜、完売だった10日のほうにフロントストールで1枚だけポコッとリターンが出ているのを発見。チケット発売の時は70ポンドは高い、絶対買えねえと思いましたが、めったに聴けないしオケだしこれも何かの啓示だろうと割り切って、すかさずポチっと購入しました。ただしおかげで3日連続の演奏会通いとなってしまいましたが。

1曲目のシューマン、最初はソリストがエレーヌ・グリモーだったはずですが、いつの間にか内田光子に代わっていました。まあグリモーのシューマンは以前聴いたので変更は歓迎ですが、今日の席はピアニストを背中から見る方向だったので、光子さんの顔芸を堪能できなかったのが残念でした。そのシューマンですが、力が抜けてたいへん軽やかな演奏に、ある意味拍子抜けしました。冒頭のオーボエを筆頭に管楽器のソロは皆素晴らしく上手く、相当の名手が揃っているのは間違いありません。ルツェルン音楽祭のときだけ特別編成される臨時オケという性格から、個性的なソリストが各々勝手に名人芸を披露するような演奏を勝手に想像したのですが、あにはからんや、オケの音が非常に澄み切っていて、全体で一つの上等・上質な楽器のような、極めてまとまりの良いオケだったのが意外でした。各楽器の音はしっかりと芯があるにもかかわらず、徹底的に角が取れた、透明感の高いサウンドです。もっと重々しくも演奏できる曲ですが、アバドはあえて重心を高く構えてさらりと駆け抜けていました。内田光子のピアノは、オケが完璧だった分多少のミスタッチが目についてしまいましたが、同様に肩の力が抜けたリリカルなピアノで、オケと巧みに絡み合い、溶け合いながら一緒に天まで上って行きました。何だかモーツァルトの協奏曲を聴いているような感触でした。


さて休憩後のメインはさらに凄いことになっていました。私が初めてブルックナーなるものの音楽を聴いたのはこの交響曲第5番からでしたが(忘れもしない、ショルティ/シカゴ響の当時の新譜でした)、生演で聴くのは実は初めてです。プログラムにブルックナーが入っているとそれだけで優先順位を下げてしまうので。この演奏会も本当は、ルツェルンならやっぱりマーラー聴きてえよなあ、と内心思っておりました。しかし、そんなことはもう問題ではないくらい衝撃的な音響空間に包まれることになろうとは。まず冒頭の低弦のピチカートにヴァイオリン、ヴィオラの和音がかぶさって来るところですにでただならぬ繊細さと緊張感が漂い、さっきのシューマンとは空気が変わっているのに気付きます。次に来る金管のコラールは力みがなく、濁り澱みの一切ない清らかな音ながら、腹の底から痺れるような威圧感に寒気が走りました。これぞ天上のコラールというのを一発かまされた後は、これ以上ないくらいデリケートなヴァイオリンのトレモロに導かれてヴィオラとチェロ、それにクラリネットが寸分もずれぬ呼吸で第一主題を奏で始めたあたりでもう、これはタダモノではない演奏だということを認識し、一音たりとも聴き逃してなるものかと集中して耳を傾けました。高レベルで粒揃いの演奏者が集い、さらには気持ちが一つとなって、「人類補完計画」もかくやと、お互いの音が有機的に絡み合って文字通り境目なく一体に溶け合った音が響いてきます。至高の管弦楽とはまさにこのことかと瞠目しました。私に取っては初めてコンセルトヘボウ管を生で聴いたとき以来の衝撃ですが、所詮イベントの非常勤オケがここまでハイレベルとは思ってなかったので、二重に衝撃でした。

アバドも、今までニアミスはあったものの、生演は初めて聴きます。昔から好きな指揮者で、初期の頃DGから連発していたシカゴ響とのマーラーシリーズなどは熱狂的に聴いたものです。スルメのように脂の抜け切った風貌と、無駄のないローカロリーな指揮ぶりは、エネルギーに溢れていた壮年期のイメージとは全く合いませんが、しかしながら導かれる音楽はさらに数段スケールアップし、雑味を排除して純粋な音楽の高みをひたすら目指す、そのような演奏でした。出張で断念せず、聴けて良かったと本当に心から思います。終演後はまさに文字通りの場内総立ちで、十分その値打ちがあった演奏会でした。


コメント

_ voyager2art ― 2011/10/19 06:45

こんばんは。今さらのコメントですが、ほんとに凄い演奏でした。二日目はモーツァルトが凄かったんですけど、ブルックナーはちょっと粗が目立った気がしました。ブルックナーは何といっても初日の演奏が神掛かってました。たぶん一生忘れない演奏会です。
毎年ロンドンに来てくれませんかねー。

_ Miklos ― 2011/10/19 08:06

二日目の分はBBC Radio 3の放送をiPlayerで聴きました。やっぱり録音だと感動は薄れるなと思って聴いていたんですが、初日よりも完成度が少し落ちていたんですね。間違いなく、チャンスがあれば何度でも聴きたいオケですね。ただし、アバドが引退したらどうなるかはわかりませんが。

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