ロイヤルバレエ:トリプルビル(ライメン/マルグリットとアルマン/レクイエム)2011/10/08 23:59

2011.10.08 Royal Opera House (London)
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House

本日はトリプルビルの初日。マチネもありましたが、カルロス・アコスタをまだ見たことがなかったので、彼が出るソアレのほうを取りました。

1. Limen (Kaija Saariaho: Cello Concerto "Notes on Light")
Wayne McGregor (Choreography), Tatsuo Miyajima (Set and Video Designs)
Anssi Karttunen (Solo Cello)
Leanne Benjamin, Yuhui Choe, Olivia Cowley, Melissa Hamilton
Sarah Lamb, Marianela Nuñez, Letica Stock, Fumi Kaneko
Tristan Dyer, Paul Kay, Ryoichi Hirano, Steven McRae
Fernando Montaño, Eric Underwood, Edward Watson

1つ目はフィンランドの作曲家サーリアホのチェロ協奏曲に合わせて、ロイヤルバレエの常任振付師ウェイン・マクレガーが振りを付けたモダンダンス。幕が開くと半透明のスクリーンにデジタル数字がうねうね動く映像が投影され、奥では闇からダンサーが浮かび上がってくねくねとよくわからないダンスを踊ります。サーリアホという作曲家は初めて聴きますが、調べると女性なんですね。初期は電子楽器を多用した作品が多かったものの、徐々にクラシカルで解りやすい作風に転じていったとのことで、2007年作曲のこの曲は確かに現代音楽と入っても技巧に縛られた窮屈なものではなく、北欧の厳しい大自然に通じるようなおおらかさを持っています。とは言え決して聴きやすい曲ではなく、舞台の上で繰り広げられる極めてフィジカルなダンスも私には肉体の限界を見極める連続実験のように見えてしまい、モダンダンスはやっぱりわからんなあ、という印象だけが残ってあえなく討ち死に。

この蒼々たるメンバーに交じって見慣れない日本人の名前が。今年ロイヤルバレエに入団したばかりの金子扶生さんという人で、女性らしからぬ長身でボーイッシュな体格がたいへん舞台映えしていました。まだ高校を出たてくらいの年齢のようですが、若いのにそのがっしりと線の太いダンスは大物を予感させました。今後が楽しみな人ですね。



2. Marguerite and Armand (Liszt: Piano Sonata in B minor)
Frederick Ashton (Choreography), Dudley Simpson (Orchestration)
Robert Clark (Solo Piano)
Tamara Rojo (Marguerite), Sergei Polunin (Armand)
Christopher Saunders (Armand's Father), Gary Avis (Duke)

次はエースのタマラ・ロホ登場。ROH歴2年にして実は初めて見ます。バレエは妻の好みでいつもマクレーさんの出る日を選ぶので、なかなか巡り合わせがありませんでした。

このバレエはフォンテインとヌレエフの黄金コンビのために1963年に作られたフレデリック・アシュトンの代表作で、音楽はリストのロ短調ピアノソナタをオーケストラ伴奏付きに編曲したもの。プロットはデュマの「椿姫」で、30分程度に圧縮されていますので、「ラ・トラヴィアータ」のダイジェストを早送り再生で見ているような感覚でした。ロホはカーテンコールで並ぶと意外と小柄なので驚きましたが、手足が長いんでしょうか、踊っている間はブレのないダイナミックな動きもあってか、ポルーニンと並んでも小柄と言う感じは全くしませんでした。ふっくらとした頬と黒髪のエキゾチックな美貌のおかげで、実年齢よりずっと若く見えますね。早変わりで着替えていった赤・黒・白の衣装も各々よく似合っていて(美人は得だなあ)、このバレエが彼女のために作られたと言われても信じたでしょう。フォンテインとヌレエフは19歳の「年の差ペア」ですが、ロホとポルーニンの年齢差も15歳あり、伝説のペアとイメージが重なります。ロホは鬼気迫る感情移入でこの悲劇を表現し切っていたと感じましたが、もう一つのめり込んで見れなかったのは、ひとえに演奏にキレがなかったせいです。管弦楽にも協奏曲にもなりきれない中途半端なアレンジに加え、やる気のないオケはピアノの邪魔にしかなっていません。リストは元々好きでもないので、なおさらげんなりしました。


ピンボケご免。今日はろくな写真が撮れませんでした。


3. Requiem (Fauré: Requiem)
Kenneth MacMillan (Choreography)
Anna Devin (Soprano), Daniel Grice (Baritone)
Leanne Benjamin, Rupert Pennefather, Carlos Acosta
Marianela Nuñez, Ricardo Cervera

最後はフォーレのレクイエム。これもやっぱり意味がよくわからない、シンボリックなダンスでした。振り付けは静的で、躍動感はない代わりに人海戦術でこれでもかというくらい超高いリフトが圧巻でした。初めて見るアコスタは思ったほど全身バネの筋骨隆々ではなく、わりと細身で華奢だったのが意外でした。体脂肪率はめちゃ高そうですなー。何にせよこの演目を見ただけでは何もわかるはずもなく、来年の「ロメオとジュリエット」に期待します。

バリトンのグライスは先日の「ファウスト」でもスター歌手陣に交じってきっちり存在感を出していましたが、今日もピットの中から核のある声を響かせていました。一方ソプラノのデヴァンも最近のROHで「ピーター・グライムズ」やプッチーニ三部作に端役で出ていましたが、あいまいな音程がお世辞にもプロのソリストとは思えませんでした。

ストーリー性のない舞台、何だかよくわからない踊り、気が抜けたオケと、難点のほうもトリプルで揃ってしまうので、トリプルビルは私にはどうも鬼門です。まだまだバレエ鑑賞の素養が足りませんです。


コメント

_ 守屋 ― 2011/10/14 14:51

おはようございます。

 僕は、ヤナウスキィ目当てなのでロホとポルーニンの回は行きませんが、レヴュウでは高い評価のようですね。

 ただ、12日に見たとき一番心にぐっと来たのは「レクイエム」でした。中でも、最高齢でもっとも小柄なベンジャミン。実年齢を隠すことはできませんが、ソロパートでは本当に童女のようでした。アコスタ、ご指摘の通り、本当にふっくらとしているように感じました。

 トリプル・ビルは難しいですよね。すべての演目を楽しめることなんてあまりないように思います。来月のトリプルでは、マクミランの「グロリア」が僕には鬼門です。

_ Miklos ― 2011/10/15 22:28

守屋さん、私はあの「レクイエム」が心に響くには、まだまだ修行が足りませんでした。マクミランもなかなか懐の深い人なんですねえ。今回、どれもあまり楽しめなかったので、以後のトリプルビルにはどうも躊躇の気持ちがあります。あと、このところオーケストラの演奏会が充実していたもので、ROHのピットオケがどうしても見劣りしてしまって…。

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