LSO/ゲルギエフ:チャイコフスキー国際コンクール優勝者コンサート2011/09/21 23:59


2011.09.21 Barbican Hall (London)
Valery Gergiev / London Symphony Orchestra
XIV International Tchaikovsky Competition Winners Concert
Sun-Young Seo (S-2), Narek Hakhnazaryan (Vc-3), Daniil Trifonov (P-4)
1. Tchaikovsky: Polonaise from' Eugene Onegin'
2. Tchaikovsky: Letter Scene from 'Eugene Onegin'
3. Tchaikovsky: Roccoco Variations
4. Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1

チャイコフスキー国際コンクールは4年に1度開催される世界最高峰の音楽コンクールと言われていますが、近年は外国スポンサーの意向(カネ)と審査員との師弟関係(コネ)が入賞者の選出に大きく影響しているという批判がなされてきました。そこで第14回の今回はゲルギエフがコンクールの総裁に就任し、演奏者が師事する音楽教師を審査員から排除するなど、より公正で透明性の高い審査を実現しコンクールの権威を復活させるという意気込みのもと、6月に開催されました。その結果、ほぼ毎回日本人の優勝者を輩出していたこのコンクールが、今回は日本人の入賞者ゼロ(それどころか本選進出すらいない)という事態になったのは、何とも淋しいというか、ビターな思いがします。

LSOの今シーズンのプレオープニングでもあるこのコンサートは、コンクール優勝者による国外では最初のお披露目演奏会のはずだったように思うのですが、調べると「チャイコフスキー国際コンクール優勝者ガラ・コンサート」なるものが今月初旬すにで日本で行われていて、さすが日本におけるこのコンクールの集客力は、日本人が出なくても健在なんですね。

今日出演のソリストは、声楽女声、チェロ、ピアノ各部門の優勝者で、元々は声楽男声の優勝者(パク・ジョンミン)も名を連ねていたのですが、理由はわかりませんが後になってキャンセルになっていました。なお、ヴァイオリンは今回優勝者なしだったので最初から出演予定はなしでした。

声楽女声の優勝者、ソ・スニョン(と読むのでしょうか?)は27歳と相対的には年齢が高いです。プログラムの経歴を読むと、実際にどのくらいの実キャリアがあるのかはよくわかりませんが、すでにオペラ経験豊富で、今年からバーゼル劇場のアンサンブルになって活動の拠点を欧州に移しているようで、そのふくよかな容姿も相まってまさにベテランの貫禄を醸し出していました。声量が抜群にあり、ソプラノらしからぬ芯の太い声質は、全くオペラ向きです。表現力はちょっと一本調子だなと感じたのと、27歳にしてすでに貫禄のマダム然としたその見た目は役を選んでしまうだろうな、このタチアナ役は回って来ないんじゃ、と失礼ながら思ってしまいましたが、確かに良い声は持っているので、スイスでも存分に活躍してもらいたいです。


続いてチェロ優勝者、ナレク・アフナジャリャンはアルメニア出身の23歳。12歳からモスクワで勉強をしている、ロシアの教育システムの中で上がってきた人のようです。ひょろっとした長身と神経質そうであどけない顔から、いったいどんな演奏をするのか予測がつかなかったのですが、音がどこか枯れていて、老かいな演奏だったのが意外でした。ほとんど目を閉じて演奏に没頭し、目を開けたと思ったら指揮者よりもコンマスとのアイコンタクトが多く、何があっても動じることのない完成されたスタイルです。もちろん上手いのはめちゃめちゃ上手いですが、この若さで妙に枯れた感が強いのはちょっと問題かも。しかし聴衆のハートはがっちりつかんだようで、休憩時間の終わりごろ客席に出ると、瞬く間に囲まれてサイン攻めにあっておりました。


最後はピアノ部門の優勝、弱冠20歳のダニール・トリフォノフです。さらにあどけない顔のロシア美少年ですが、弾いているときの表情がかなり個性的。きつい猫背でピアノにかぶりつき、鋭い眼光はしかしピントが鍵盤よりももっと先にあっているような感じです。要は「いっちゃってる目」で、弾いてないときも一点見つめで別世界に飛んでいます。タフな箇所では見る見る顔が赤らみ、半泣き状態になるのが面白かったです。弾き終わったら瞬時にあどけない美少年顔に戻るのもなかなかキュート。もちろん技術的には申し分なく、アタックは力強くて常に正確。アンコールで弾いた「ラ・カンパネッラ」がまた凄すぎで、さすがこのコンクールの優勝者の上手さは半端じゃありません。それでいて、先のナレク君と比べると何というか音が暴れており、落ち着くまでにまだまだ伸びしろがある感じです。先行きの楽しみなピアニストだと思いました。