都響/インバル:集大成、マーラー/クック編の第10番 ― 2014/07/20 23:59
2014.07.20 サントリーホール (東京)
Eliahu Inbal / 東京都交響楽団
1. マーラー: 交響曲第10番嬰へ長調(クック補完版)
インバルは今年の4月から桂冠指揮者に退いたので、大野和士が正式着任する来年4月まで都響の音楽監督は空位なんですね。それはともかく、今日(と明日)の演奏会は、インバル/都響が2012年から取り組んできた第2次マーラー・チクルスの番外編で、「ありがとうインバル」の送別的意味合いが強いです。
3月の第9番はたいへん充実した演奏でしたが、今日もまた、驚くべき完成度に仕上げてきたこの人たちには降参するしかありませんでした。特に第1楽章の集中度は、先のフルシャのときと比べても明らかにテンションが違います。もったいぶらずに冒頭から本題をサクサクと語っていくような進行で、大仰にテンポを揺らしたり、音量を極端に押さえつけたりという彫りの深い表現がなかった分、このアダージョが全く新たな大曲の開始というよりは、第9番の終楽章から繋がった音楽であることを意識させるプロローグになっていたかと思います。
第2楽章が終わると小休止を入れ、インバルはいったん引っ込みました。チューニングをやり直すと、第2楽章で多少緩んできたかに聞こえた音が、短い第3楽章のプルガトリオで再びキリっと瑞々しさを取り戻しました。その後は最後までブレークなしで緊張感を切らさず進みます。太鼓叩きとしては聞き逃せない、終楽章の大太鼓連打では、わざわざそれ専用に深銅の2台目を用意。奏者は女性でしたが、黒布をかぶせてミュートした、ドライで腹に突き刺さる強打は立派なもの。終演後、ティンパニよりも先に立たされる大太鼓奏者というのも珍しいことです。また、大太鼓強打にかぶさるフルートは、京大オケ出身の主席寺本さんが渾身の濃密ソロを聴かせてくれました。ホルンとトランペットは、若干きつい箇所もありましたが総じて素晴らしいできばえで(インバルのときは魔法のように音色が変わり、音が確実になります)、指揮者が真っ先に立たせ讃えたのも納得できる健闘ぶりでした。このように管・打楽器が光ったのも、最後まで集中力が切れなかった弦アンサンブルのリードがあってのこそ。私も正直第1楽章以外は退屈に思っていたのですが、最後まで飽きることなく聴き通せました。指揮者のタクトが下ろされた後、いつものように叫びたいだけ人のウソくさいのとは違って、心から絞り出されたようなブラヴォーがとっても印象的でした。
さて、久々に100%日本で過ごした今シーズン(欧州に倣い9月開幕でカウント)は、ライブビューイング3件を除くと結局22回の演奏会に行きました。月平均2回のペースは最盛期と比べたら3分の1以下ですが、何としてもこれを聴いておかねば、という動機付けが極端に難しくなった環境の中で、まあまあ精一杯の数字でした。在京プロオケの様子はだいたいわかったので、来シーズンはさらに厳選して通うことになりそうです。
Eliahu Inbal / 東京都交響楽団
1. マーラー: 交響曲第10番嬰へ長調(クック補完版)
インバルは今年の4月から桂冠指揮者に退いたので、大野和士が正式着任する来年4月まで都響の音楽監督は空位なんですね。それはともかく、今日(と明日)の演奏会は、インバル/都響が2012年から取り組んできた第2次マーラー・チクルスの番外編で、「ありがとうインバル」の送別的意味合いが強いです。
3月の第9番はたいへん充実した演奏でしたが、今日もまた、驚くべき完成度に仕上げてきたこの人たちには降参するしかありませんでした。特に第1楽章の集中度は、先のフルシャのときと比べても明らかにテンションが違います。もったいぶらずに冒頭から本題をサクサクと語っていくような進行で、大仰にテンポを揺らしたり、音量を極端に押さえつけたりという彫りの深い表現がなかった分、このアダージョが全く新たな大曲の開始というよりは、第9番の終楽章から繋がった音楽であることを意識させるプロローグになっていたかと思います。
第2楽章が終わると小休止を入れ、インバルはいったん引っ込みました。チューニングをやり直すと、第2楽章で多少緩んできたかに聞こえた音が、短い第3楽章のプルガトリオで再びキリっと瑞々しさを取り戻しました。その後は最後までブレークなしで緊張感を切らさず進みます。太鼓叩きとしては聞き逃せない、終楽章の大太鼓連打では、わざわざそれ専用に深銅の2台目を用意。奏者は女性でしたが、黒布をかぶせてミュートした、ドライで腹に突き刺さる強打は立派なもの。終演後、ティンパニよりも先に立たされる大太鼓奏者というのも珍しいことです。また、大太鼓強打にかぶさるフルートは、京大オケ出身の主席寺本さんが渾身の濃密ソロを聴かせてくれました。ホルンとトランペットは、若干きつい箇所もありましたが総じて素晴らしいできばえで(インバルのときは魔法のように音色が変わり、音が確実になります)、指揮者が真っ先に立たせ讃えたのも納得できる健闘ぶりでした。このように管・打楽器が光ったのも、最後まで集中力が切れなかった弦アンサンブルのリードがあってのこそ。私も正直第1楽章以外は退屈に思っていたのですが、最後まで飽きることなく聴き通せました。指揮者のタクトが下ろされた後、いつものように叫びたいだけ人のウソくさいのとは違って、心から絞り出されたようなブラヴォーがとっても印象的でした。
さて、久々に100%日本で過ごした今シーズン(欧州に倣い9月開幕でカウント)は、ライブビューイング3件を除くと結局22回の演奏会に行きました。月平均2回のペースは最盛期と比べたら3分の1以下ですが、何としてもこれを聴いておかねば、という動機付けが極端に難しくなった環境の中で、まあまあ精一杯の数字でした。在京プロオケの様子はだいたいわかったので、来シーズンはさらに厳選して通うことになりそうです。
ツィガーン/都響:ローマの祭、セビーリャ交響曲、道化師の朝の歌ほか ― 2014/05/12 23:59
2014.05.12 東京文化会館 大ホール (東京)
Eugene Tzigane / 東京都交響楽団
1. ラヴェル: 道化師の朝の歌
2. ラヴェル: 組曲《クープランの墓》
3. トゥリーナ: セビーリャ交響曲 op.23
4. レスピーギ: 交響詩《ローマの祭》
ユージン・ツィガーンは日本人の母親を持つアメリカ人指揮者ですが、名前から推測すると民族的ルーツはロマ系ハンガリーでしょうか。顔の外見は北方よりも南方、もろラテン系の感じでしたが。ユージンと言えば、まず思い出すのはピンク・フロイド、次にオーマンディ…。
さて今日は、コストパフォーマンスで定評のある東京文化会館の5階席を初体験してみました。奏者の息づかいまで聴こえるかぶりつき席が好みの私は、今までなら絶対選ばない(そこしか無いなら行くのを止める)席ですが、東京の演奏会の価格設定にはそろそろ疑念を抱いてきており、各ホールでいろんな席を試しているところです。5階席は椅子が高くて斜度が急なのに転落防止の柵もないので、ちょっと恐いです。高所恐怖症の人には向かないでしょう。天井が近いせいか、ステージとの距離があるわりには至近距離のボリューム感があります。ダイナミックレンジが広くて分離は悪くなく、大太鼓もマンドリンもよく聴こえました。演目にもよりますが、確かにコスパの良い席と認識しました。それにしてもここは、不思議なホールです。側面の壁のよくわからんオブジェとか、下に凸の天井とか、反響を複雑にしていると思うのですが、昔からどこに座っても悪い音に当たった記憶があまりありません。
本日のプログラムはフランス、スペイン、イタリアのラテン系世界遺産ごちゃまぜ風ですが、1曲目の「道化師の朝の歌」はラヴェル得意のスペイン趣味に溢れた曲なので、スペイン色が若干強いですか。個人的にはあまり聴かない曲で、前回聴いたのはもう5年も前のミュンヘンフィルですが、その遥か以前にこのホールで聴いた山田一雄の生前最後の演奏(オケは新響)がアマオケとは思えない豪演で度肝を抜かれたのをおぼろげに憶えています。ツィガーン/都響のはあまりスペインっぽくなくて、躍動感に欠けリズムに乗り切れてないせいかと思ったのですが、身体がまだ温まってなかったかも。
続く「クープランの墓」、これは実演で聴くのは初めて。こちらは擬古典的フランス風の小洒落た小品で、ぐっと絞った編成でより透明度の高い演奏になってました。しかし、全体的にもっと柔らかい音が欲しいところ。トランペットなんかちょっとヤケクソ気味で、私的にはぶち壊しでした。
3曲目のトゥリーナ「セビーリャ交響曲」は全く初めて聴く曲です。コンセプト的には「ローマ三部作」のスペイン版のような写実的交響詩ですが、これは正直言って曲がつまらない。楽想から構成から色彩感から、どこを見てもレスピーギとは比類のしようもなく、この曲がポピュラリティを獲得できなかったのもむべなるかな。
ここでやっと休憩、前半はちょっと冗長でした。後半メインの「ローマの祭」は大好きな曲ですが、この曲には深みなんかよりもっと直裁的にフィジカルなカタルシスを求めます。金管が最後までヘタレず、オケがガンガン鳴っていれば基本はOKの曲ですが、そう言う意味ではホルンもトランペットもトロンボーンも、各々に残念な箇所はあり、厳しいかもしれませんがインバル指揮のマーラーで見せたような集中力をここでも発揮してもらいたかったところです。ただし最後の畳み掛けは無理をしてでもリズムの加速優先であるべきで、そこは私の好みとも一致して、都響のプロの意地を垣間見ました。計10人の大打楽器チームも健闘しました。この曲はやっぱり生で聴くのが格別ですわ。とここで思い出した余談は、この曲を初めて生で聴いたのも山田一雄(オケは京大)だったなあと、しみじみ…。
今日のプログラムだけでは何ともわかりませんが、ツィガーンはオケのドライブはちゃんとできるし、スマートなハンサムボーイで見栄えも良いんですが、時には泣き、時には土臭く歌う情感の引出しがまだ少なそうなのと、小さくまとまっていて、カリスマ性というかオーラが足りないです。時には斧を振り回すような狂気を目指してもよいんではないでしょうか。
あとさらに余談は、上から見ていてふと目に止まった優香似の美人ピッコロ奏者。あとで調べたら、中川愛さんという、東響から都響へ昨年移籍したフルーティストだそうです。今後、都響の演奏会では要チェックです!(何を?)
Eugene Tzigane / 東京都交響楽団
1. ラヴェル: 道化師の朝の歌
2. ラヴェル: 組曲《クープランの墓》
3. トゥリーナ: セビーリャ交響曲 op.23
4. レスピーギ: 交響詩《ローマの祭》
ユージン・ツィガーンは日本人の母親を持つアメリカ人指揮者ですが、名前から推測すると民族的ルーツはロマ系ハンガリーでしょうか。顔の外見は北方よりも南方、もろラテン系の感じでしたが。ユージンと言えば、まず思い出すのはピンク・フロイド、次にオーマンディ…。
さて今日は、コストパフォーマンスで定評のある東京文化会館の5階席を初体験してみました。奏者の息づかいまで聴こえるかぶりつき席が好みの私は、今までなら絶対選ばない(そこしか無いなら行くのを止める)席ですが、東京の演奏会の価格設定にはそろそろ疑念を抱いてきており、各ホールでいろんな席を試しているところです。5階席は椅子が高くて斜度が急なのに転落防止の柵もないので、ちょっと恐いです。高所恐怖症の人には向かないでしょう。天井が近いせいか、ステージとの距離があるわりには至近距離のボリューム感があります。ダイナミックレンジが広くて分離は悪くなく、大太鼓もマンドリンもよく聴こえました。演目にもよりますが、確かにコスパの良い席と認識しました。それにしてもここは、不思議なホールです。側面の壁のよくわからんオブジェとか、下に凸の天井とか、反響を複雑にしていると思うのですが、昔からどこに座っても悪い音に当たった記憶があまりありません。
本日のプログラムはフランス、スペイン、イタリアのラテン系世界遺産ごちゃまぜ風ですが、1曲目の「道化師の朝の歌」はラヴェル得意のスペイン趣味に溢れた曲なので、スペイン色が若干強いですか。個人的にはあまり聴かない曲で、前回聴いたのはもう5年も前のミュンヘンフィルですが、その遥か以前にこのホールで聴いた山田一雄の生前最後の演奏(オケは新響)がアマオケとは思えない豪演で度肝を抜かれたのをおぼろげに憶えています。ツィガーン/都響のはあまりスペインっぽくなくて、躍動感に欠けリズムに乗り切れてないせいかと思ったのですが、身体がまだ温まってなかったかも。
続く「クープランの墓」、これは実演で聴くのは初めて。こちらは擬古典的フランス風の小洒落た小品で、ぐっと絞った編成でより透明度の高い演奏になってました。しかし、全体的にもっと柔らかい音が欲しいところ。トランペットなんかちょっとヤケクソ気味で、私的にはぶち壊しでした。
3曲目のトゥリーナ「セビーリャ交響曲」は全く初めて聴く曲です。コンセプト的には「ローマ三部作」のスペイン版のような写実的交響詩ですが、これは正直言って曲がつまらない。楽想から構成から色彩感から、どこを見てもレスピーギとは比類のしようもなく、この曲がポピュラリティを獲得できなかったのもむべなるかな。
ここでやっと休憩、前半はちょっと冗長でした。後半メインの「ローマの祭」は大好きな曲ですが、この曲には深みなんかよりもっと直裁的にフィジカルなカタルシスを求めます。金管が最後までヘタレず、オケがガンガン鳴っていれば基本はOKの曲ですが、そう言う意味ではホルンもトランペットもトロンボーンも、各々に残念な箇所はあり、厳しいかもしれませんがインバル指揮のマーラーで見せたような集中力をここでも発揮してもらいたかったところです。ただし最後の畳み掛けは無理をしてでもリズムの加速優先であるべきで、そこは私の好みとも一致して、都響のプロの意地を垣間見ました。計10人の大打楽器チームも健闘しました。この曲はやっぱり生で聴くのが格別ですわ。とここで思い出した余談は、この曲を初めて生で聴いたのも山田一雄(オケは京大)だったなあと、しみじみ…。
今日のプログラムだけでは何ともわかりませんが、ツィガーンはオケのドライブはちゃんとできるし、スマートなハンサムボーイで見栄えも良いんですが、時には泣き、時には土臭く歌う情感の引出しがまだ少なそうなのと、小さくまとまっていて、カリスマ性というかオーラが足りないです。時には斧を振り回すような狂気を目指してもよいんではないでしょうか。
あとさらに余談は、上から見ていてふと目に止まった優香似の美人ピッコロ奏者。あとで調べたら、中川愛さんという、東響から都響へ昨年移籍したフルーティストだそうです。今後、都響の演奏会では要チェックです!(何を?)
都響/インバル:渾身のマーラー9番 ― 2014/03/17 23:59
2014.03.17 サントリーホール (東京)
Eliahu Inbal / 東京都交響楽団
1. マーラー: 交響曲第9番ニ長調
インバルのマーラーは、4年前にロンドンでフィルハーモニア管との「復活」を聴いて以来です。その時はフェスティヴァルホールのリアストール後方席だったので、ステージが遠くて音がデッドな上に、深く覆いかぶさった二階席のおかげで最悪の音響のため全然楽しめませんでした。今日もストールの後方だったのですがそこはサントリーホール、二階席が覆いかぶると言ってもフェスティヴァルホールより全然浅く、ブラス・打楽器が直に飛び込んでくる好みの音響で安心しました。
さて全体を通しての印象は、繊細で丁寧なマーラー。解釈はくっきりとしていてわかりやすい。例えば、タメるところは聴衆に「ここはタメである」とはっきりわからせるような演奏でした。それでも軽くなったり、下品になったりしないのは、楽器バランスとダイナミックレンジが適正にコントロールされていたから。緊張感溢れる第1楽章に続き、息抜きの第2楽章は写実的な田舎風。第3楽章の前で指揮者は一度袖に引っ込み、オケは軽くチューニングし直しましたが、多少くたびれてきていた音色が一転、再び研ぎすまされて光沢が出たのには感心しました。激しい第3楽章で音量が爆発しても、金管は一貫して柔らかい音を出していたので、日本のオケでこれだけ余裕のある演奏もなかなか聴いたことがありません。第4楽章がこれまたドラマチックな入魂の熱演で、ホルンは地味ながらも頑張ったし、クライマックスで弦はボウイングなんか気にせず各人が粘る粘る。ラストの消えゆく弦の弱音は極めてデリケートで、最後まで集中力を欠かさない、たいへん上質の演奏でした。
今日のマラ9は、この曲のベストかと問われればYESと答えられないけれど、ここまで何回か都響を聴いてきて、一流の指揮者が指揮棒一つでしっかり自分の音楽を作れるだけの地力がオケにあるのだな、と思い知らされました。こんなこと、ロンドンでは当たり前だったかもしれませんが、ここらあたりじゃ全然当たり前じゃないという事実をふと思い出させる一夜でした。
Eliahu Inbal / 東京都交響楽団
1. マーラー: 交響曲第9番ニ長調
インバルのマーラーは、4年前にロンドンでフィルハーモニア管との「復活」を聴いて以来です。その時はフェスティヴァルホールのリアストール後方席だったので、ステージが遠くて音がデッドな上に、深く覆いかぶさった二階席のおかげで最悪の音響のため全然楽しめませんでした。今日もストールの後方だったのですがそこはサントリーホール、二階席が覆いかぶると言ってもフェスティヴァルホールより全然浅く、ブラス・打楽器が直に飛び込んでくる好みの音響で安心しました。
さて全体を通しての印象は、繊細で丁寧なマーラー。解釈はくっきりとしていてわかりやすい。例えば、タメるところは聴衆に「ここはタメである」とはっきりわからせるような演奏でした。それでも軽くなったり、下品になったりしないのは、楽器バランスとダイナミックレンジが適正にコントロールされていたから。緊張感溢れる第1楽章に続き、息抜きの第2楽章は写実的な田舎風。第3楽章の前で指揮者は一度袖に引っ込み、オケは軽くチューニングし直しましたが、多少くたびれてきていた音色が一転、再び研ぎすまされて光沢が出たのには感心しました。激しい第3楽章で音量が爆発しても、金管は一貫して柔らかい音を出していたので、日本のオケでこれだけ余裕のある演奏もなかなか聴いたことがありません。第4楽章がこれまたドラマチックな入魂の熱演で、ホルンは地味ながらも頑張ったし、クライマックスで弦はボウイングなんか気にせず各人が粘る粘る。ラストの消えゆく弦の弱音は極めてデリケートで、最後まで集中力を欠かさない、たいへん上質の演奏でした。
今日のマラ9は、この曲のベストかと問われればYESと答えられないけれど、ここまで何回か都響を聴いてきて、一流の指揮者が指揮棒一つでしっかり自分の音楽を作れるだけの地力がオケにあるのだな、と思い知らされました。こんなこと、ロンドンでは当たり前だったかもしれませんが、ここらあたりじゃ全然当たり前じゃないという事実をふと思い出させる一夜でした。
都響/フルシャ:「アルルの女」と「オルガン付き」 ― 2013/11/23 23:59
2013.11.23 サントリーホール (東京)
Jakub Hrůša / 東京都交響楽団
小田桐寛之 (trombone-2)
室住素子 (organ-3)
1. ビゼー: 「アルルの女」第2組曲
2. トマジ: トロンボーン協奏曲
3. サン=サーンス: 交響曲第3番ハ短調 Op.78「オルガン付」
フルシャはロンドンで聴くチャンスがいっぱいあったはずですが、今まで逃していました。今更気付いたのですが、現都響の首席指揮者のインバル(前チェコフィル常任)とは「チェコ繋がり」ですね。今日は都響が休日の昼に開催している「プロムナードコンサート」という名曲演奏会で、そうは言っても指揮者、ソリスト、演目は通常の定期演奏会と比べても手抜き感がしないのは好ましいです。目当ては、ロンドンでは結局聴くチャンスがなかったサン=サーンスです。
サントリーホール平土間は超久々でした。2階がかぶさる後方の席は音が良くないという記憶だったのですが、かぶりが浅いため正面だと別段変な反射はなく、また、豊かな残響に負けて振り回されないだけのしっかりした音をオケが出していたのが良かったと思います。都響もえらい久しぶりに聴いたのですが(多分前回は故ベルティーニのマーラー復活)、昔の記憶通り、統率の取れた優秀オケでした。指揮者の力量でもあるのでしょうが、パートバランスが整っていて弱点が目につきません。金管、特にホルンが若干粗い気もしますが、総じて息切れすることなく最後までちゃんと指揮者に着いて行っており、日本のオケにしては珍しく馬力と根性があります。個々のプレイヤーも力があるんでしょうね。団員は都の公務員だから、レッスン等の副業に勤しむあまり本業である演奏活動が疎かになるということがない、のかなあ。私は今は東京都民ではないので税金で直接支える立場にないですが、都知事はこの価値あるな文化事業を絶やすことなくサポートしてもらいたいものだと思います(と書いているうちに、都知事は変わってしまいそうですけど)。
「アルルの女」第2組曲をプロのオケで真面目に聴くのは、初めてかもしれない。第1組曲は昔部活で演奏したことがありますが。特に第2組曲は通俗過ぎる名曲なので軽く流してしまう人も多そうですが、フルシャのリードはたいへんシンフォニックでシリアスなもので、好感が持てました。
トマジのトロンボーン協奏曲は初めて聴く曲で、ソリストは都響トップの小田桐さん。こちらは20世紀の音楽とは言えフランスっぽいエスプリを感じる小洒落た小品でしたが、肝心のトロンボーンがあまりピリッとしなくて、結局何だかよくわからない曲でした。金管楽器のコンチェルトは難しいですね。特に楽団員がソリストをやってる演奏では、楽しめた記憶がありません。ソロで腹くくってやってる人のほうが、サービス精神満載で面白いのは仕方ありません。
メインのサン=サーンスは、久々に聴いたサントリーホールのオルガンがまず素晴らしかったし、演奏効果の上がるよく出来た曲ですので、しっかり盛り上がりました。最後まで頑張れるブラスセクションが居てのことでもあります。このレベルの演奏がいつでも期待できるのであれば、日本の楽団もなかなか捨てたものではありません。というわけで、フルシャ/都響は今後も注目株なのでした。
Jakub Hrůša / 東京都交響楽団
小田桐寛之 (trombone-2)
室住素子 (organ-3)
1. ビゼー: 「アルルの女」第2組曲
2. トマジ: トロンボーン協奏曲
3. サン=サーンス: 交響曲第3番ハ短調 Op.78「オルガン付」
フルシャはロンドンで聴くチャンスがいっぱいあったはずですが、今まで逃していました。今更気付いたのですが、現都響の首席指揮者のインバル(前チェコフィル常任)とは「チェコ繋がり」ですね。今日は都響が休日の昼に開催している「プロムナードコンサート」という名曲演奏会で、そうは言っても指揮者、ソリスト、演目は通常の定期演奏会と比べても手抜き感がしないのは好ましいです。目当ては、ロンドンでは結局聴くチャンスがなかったサン=サーンスです。
サントリーホール平土間は超久々でした。2階がかぶさる後方の席は音が良くないという記憶だったのですが、かぶりが浅いため正面だと別段変な反射はなく、また、豊かな残響に負けて振り回されないだけのしっかりした音をオケが出していたのが良かったと思います。都響もえらい久しぶりに聴いたのですが(多分前回は故ベルティーニのマーラー復活)、昔の記憶通り、統率の取れた優秀オケでした。指揮者の力量でもあるのでしょうが、パートバランスが整っていて弱点が目につきません。金管、特にホルンが若干粗い気もしますが、総じて息切れすることなく最後までちゃんと指揮者に着いて行っており、日本のオケにしては珍しく馬力と根性があります。個々のプレイヤーも力があるんでしょうね。団員は都の公務員だから、レッスン等の副業に勤しむあまり本業である演奏活動が疎かになるということがない、のかなあ。私は今は東京都民ではないので税金で直接支える立場にないですが、都知事はこの価値あるな文化事業を絶やすことなくサポートしてもらいたいものだと思います(と書いているうちに、都知事は変わってしまいそうですけど)。
「アルルの女」第2組曲をプロのオケで真面目に聴くのは、初めてかもしれない。第1組曲は昔部活で演奏したことがありますが。特に第2組曲は通俗過ぎる名曲なので軽く流してしまう人も多そうですが、フルシャのリードはたいへんシンフォニックでシリアスなもので、好感が持てました。
トマジのトロンボーン協奏曲は初めて聴く曲で、ソリストは都響トップの小田桐さん。こちらは20世紀の音楽とは言えフランスっぽいエスプリを感じる小洒落た小品でしたが、肝心のトロンボーンがあまりピリッとしなくて、結局何だかよくわからない曲でした。金管楽器のコンチェルトは難しいですね。特に楽団員がソリストをやってる演奏では、楽しめた記憶がありません。ソロで腹くくってやってる人のほうが、サービス精神満載で面白いのは仕方ありません。
メインのサン=サーンスは、久々に聴いたサントリーホールのオルガンがまず素晴らしかったし、演奏効果の上がるよく出来た曲ですので、しっかり盛り上がりました。最後まで頑張れるブラスセクションが居てのことでもあります。このレベルの演奏がいつでも期待できるのであれば、日本の楽団もなかなか捨てたものではありません。というわけで、フルシャ/都響は今後も注目株なのでした。
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