都響/インバル/庄司(vn):最強のバルトーク・プログラム2013/12/20 23:59


2013.12.20 サントリーホール (東京)
Eliahu Inbal / 東京都交響楽団
庄司紗矢香 (violin-1)
1. バルトーク: ヴァイオリン協奏曲第2番
2. バルトーク: 歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)

拙HPの演奏会備忘録にある通り、2003年以降に出かけた演奏会は全て記録を付け統計を取ったりしておりますが、この10年で同じ曲を繰り返し聴いた回数のベスト3は、私の場合「くるみ割り人形」「青ひげ公の城」「バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番」なのでした。従って今日の演目は、自分的には一粒で二度美味しい最強のプログラムです。

庄司紗矢香さん、ロンドンにもよく来ていましたがタイミングが合わず、生演は今日が初めてです。インバルは昨年チェコフィルをドヴォルザークホールで聴いて以来。コンチェルトは、冒頭ハープのメジャーコードから、焦らず急がずのゆっくり進行。ただ遅いだけじゃなくて、スルメを噛みしめるようにスコアをしゃぶりつくします。音楽の縦軸としては、輪郭を際立たせた透明度の高い演奏と言えるのでしょうが、横軸の流れが悪いのが気になりました。つまり、この曲はバルトークにしては曲構成の緻密さがユルく、まともに演奏すればブツ切れの断片寄せ集めになってしまいがちなので、ソリストを巻き込んだ何かしらの「ドラマ」を作って横の流れを上手く繋いでいく工夫が、まさに指揮者の腕の見せ所だと思っているのですが、インバルはぶっきらぼうに、断片は断片のまま突き放します。庄司紗矢香もこの難曲を涼しい顔をして澱みなく弾いていましたが、全体的にニュアンスが足りない、というか、ない。指揮者と独奏者のインタラクションをあまり感じられず、盛り上がれないままちぐはぐに終わった印象を受けました。席が横のほうでヴァイオリンの音が直接届かなかったので、かぶりつきで聴いたらまた印象は違うのかもしれません。少なくともソリストは満足していないなと感じたのは、アンコールでハンガリー民謡の編曲を演奏した際、それまでとは打って変わって活き活きと前に出る音で、私もやればこのくらいはできるのよ、というささやかな抵抗にも思えました。

さて、メインの青ひげ公。欠かせない曲の一部であるはずの吟遊詩人の前口上を省略し、前半に輪をかけての超遅い開始に、かなりいやな予感がしました。が、幸いそれは杞憂でした。徐々にヴェールを脱ぐように見えてきたのは、オケがさっきとは違い、ドラマがあること。ダイナミクスとテンポを細やかにコントロールした説得力のある劇的表現で、明らかにインバルはアプローチを変えてきています。都響は元よりしっかりとした音を出しているのに、第5の扉ではオルガン前に金管のバンダを揃えて盤石の音圧補強。第7の扉の最後に青ひげ公が「4番目の女は〜」と歌い出す直前の、私の特に好きな場面では、一瞬の空気の変化をすっきり際立たせてユディットの心の揺れを演出。正直、9月に聴いた井上/東フィルとは、失礼ながら役者が違いました。インバル、天晴れです。

3年ぶりくらいに見るコムローシ・イルディコはさらに巨大になっていましたが、彼女独特の、強がり女の劇場型ユディットは健在。今日のインバルの演奏にはたいへんよくマッチしていました。未知数だったスイス人バリトンのマルクス・アイヒェは、非ハンガリー人なのでそんなに期待はしていなかったのですが、どうしてどうして、素晴らしい歌唱。ちょっと声質は軽い気がしますが(青ひげ公はやっぱりバスのほうがいいと思う)、この役に生真面目に取り組んでいるのがよくわかり、好感が持てました。後半でも、惜しむらくは、席。やはり歌手ものはフンパツしてでも真正面の前のほうで聴くべきだったと反省しきりです。

都響/フルシャ:「アルルの女」と「オルガン付き」2013/11/23 23:59

2013.11.23 サントリーホール (東京)
Jakub Hrůša / 東京都交響楽団
小田桐寛之 (trombone-2)
室住素子 (organ-3)
1. ビゼー: 「アルルの女」第2組曲
2. トマジ: トロンボーン協奏曲
3. サン=サーンス: 交響曲第3番ハ短調 Op.78「オルガン付」

フルシャはロンドンで聴くチャンスがいっぱいあったはずですが、今まで逃していました。今更気付いたのですが、現都響の首席指揮者のインバル(前チェコフィル常任)とは「チェコ繋がり」ですね。今日は都響が休日の昼に開催している「プロムナードコンサート」という名曲演奏会で、そうは言っても指揮者、ソリスト、演目は通常の定期演奏会と比べても手抜き感がしないのは好ましいです。目当ては、ロンドンでは結局聴くチャンスがなかったサン=サーンスです。

サントリーホール平土間は超久々でした。2階がかぶさる後方の席は音が良くないという記憶だったのですが、かぶりが浅いため正面だと別段変な反射はなく、また、豊かな残響に負けて振り回されないだけのしっかりした音をオケが出していたのが良かったと思います。都響もえらい久しぶりに聴いたのですが(多分前回は故ベルティーニのマーラー復活)、昔の記憶通り、統率の取れた優秀オケでした。指揮者の力量でもあるのでしょうが、パートバランスが整っていて弱点が目につきません。金管、特にホルンが若干粗い気もしますが、総じて息切れすることなく最後までちゃんと指揮者に着いて行っており、日本のオケにしては珍しく馬力と根性があります。個々のプレイヤーも力があるんでしょうね。団員は都の公務員だから、レッスン等の副業に勤しむあまり本業である演奏活動が疎かになるということがない、のかなあ。私は今は東京都民ではないので税金で直接支える立場にないですが、都知事はこの価値あるな文化事業を絶やすことなくサポートしてもらいたいものだと思います(と書いているうちに、都知事は変わってしまいそうですけど)。

「アルルの女」第2組曲をプロのオケで真面目に聴くのは、初めてかもしれない。第1組曲は昔部活で演奏したことがありますが。特に第2組曲は通俗過ぎる名曲なので軽く流してしまう人も多そうですが、フルシャのリードはたいへんシンフォニックでシリアスなもので、好感が持てました。

トマジのトロンボーン協奏曲は初めて聴く曲で、ソリストは都響トップの小田桐さん。こちらは20世紀の音楽とは言えフランスっぽいエスプリを感じる小洒落た小品でしたが、肝心のトロンボーンがあまりピリッとしなくて、結局何だかよくわからない曲でした。金管楽器のコンチェルトは難しいですね。特に楽団員がソリストをやってる演奏では、楽しめた記憶がありません。ソロで腹くくってやってる人のほうが、サービス精神満載で面白いのは仕方ありません。

メインのサン=サーンスは、久々に聴いたサントリーホールのオルガンがまず素晴らしかったし、演奏効果の上がるよく出来た曲ですので、しっかり盛り上がりました。最後まで頑張れるブラスセクションが居てのことでもあります。このレベルの演奏がいつでも期待できるのであれば、日本の楽団もなかなか捨てたものではありません。というわけで、フルシャ/都響は今後も注目株なのでした。