2011 BBC PROMS 72:フィラデルフィア管/デュトワ/ヤンセン(vn):華麗なる魔術師サウンド2011/09/08 23:59


2011.09.08 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2011 PROM 72
Charles Dutoit / Philadelphia Orchestra
Janine Jansen (Vn-2)
1. Sibelius: Finlandia
2. Tchaikovsky: Violin Concerto
3. Rachmaninov: Symphonic Dances
4. Ravel: La valse

私もけっこういろんなオケを聴いてきましたが、フィラデルフィア管は自分にとって「まだ見ぬ強豪」の筆頭でした。プロムスは毎年世界中から一流の楽団が客演しに来るお祭りですので(チケットは決して安いとは言えませんが)、私のようにコレクター気質で広く浅く聴き漁るタイプのリスナーには重宝です。そのプロムスも今年はこれが最後のチケット。開場前にアルバート記念碑の前でばったり会ったかんとくさんと、我々駐在員はしょせんそのうち日本に帰る運命、これが生涯のプロムス見納めかもなどと話しつつ、しみじみとしてしまいました。

フィラデルフィア管はまずざっと見て、アジア系団員の多さが目に付きました。コンマスを筆頭に各パートのトップもアジア人率が高い。男女比は男性中心、年齢は若くもなく年寄りでもなく、中年〜壮年の層が厚い感じでした。そう言えば、今年4月に破産法の適用になったとのニュースがあり、演奏会ツアーのキャンセルなどをちょっと心配していたのですが、見たところそんな事情は全く匂わせず、いたって普通でした。

1曲目の「フィンランディア」は、部活のオーケストラで初めて出番をもらい(トライアングルと大太鼓ですが)舞台に立った記念すべき曲で、後年再び演奏した際には美味しいティンパニも叩きました。練習でいやになるほど繰り返し聴きこんでいますので、初めて聴くオケの力量を推し量るにちょうどよい曲ではあります。重く冷徹に始まったブラスは想像よりも硬質でモノクロームな音で、かつて「華麗なるフィラデルフィアサウンド」と賞賛された派手派手なイメージとはちょっと違いました。デュトワも「音の魔術師」との異名を欲しいままにする仕事人ですが、このコンビでは指揮者が完全にオケを掌握しコントロールしている印象です。金管はちょっと抑え目で、木管と弦の質が非常に高いのがヨーロッパ的バランス。冒頭はとことん粘って重くしておきながら、中間部の有名なメロディを軽くさらりと流してしまうのも、何となくフランス的エスプリに思えました。ティンパニは叩き方がスマートではなく個性的ですが、音は非常にしっかりしてオケの引き締め役になっていました。

続いてチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。初めて見るヤンセンはプロモーション用の華奢美人の写真とはだいぶイメージが違い、大柄長身の姐御肌な女性。お腹周りや二の腕にちょっとお肉も付いてきた感じですが、今でも美人には違いないのだから、写真をそろそろ成熟した大人の色気バージョンに変えてはどうでしょうか、って大きなお世話か。軽口はともかく、その大柄な外見とはうらはらに、極めて繊細に整えられたヴァイオリンでした。透き通る高音は一筋の曇りもなく、速いパッセージは淀みなくメカニカルに駆け抜け、スタイリッシュに洗練されています。しかしまあ、このホールのサークル席だと舞台との距離はいかんともしがたく、ヴァイオリンの音も耳に届く間にだいぶ痩せてしまっているのはしょうがないので、本当はかぶりつきで聴きたかったところです。あの体格と弾き方から見るに、出ている生音はもっと力強いものだったに違いない。アンコールはバッハのパルティータ第2番から「サラバンド」。あまりにアクロバティックな曲より、こういったしっとり系のほうが本来の持ち味かなと感じました。


拍手に応えるヤンセン。存在感あります。

休憩後はラフマニノフの最後の作品、シンフォニック・ダンス。実は、ほとんど初めて聴く曲です。フィラデルフィア管は70年前にこの曲の初演をやった楽団なんですね。ここでもデュトワの統率は冴えていて、語り口の引出しが多い、よくドライブされた演奏でした。最後のラ・ヴァルスも、これまた徹底的にオケを振り回した異形のダンス。最後の追い込みは圧巻で、満場の拍手喝采となりました。アンコールでは普通と逆でデュトワが花束を持って出てきたので何かアニヴァーサリーでもあるのかと思いましたら、その通り、勤続50年(!)の団員を祝福するためでした。そのままベルリオーズの「ラコッツィ行進曲」を演奏。

デュトワはこれまでモントリオール響、NHK響、ブダペスト祝祭管を振ったのを聴きましたが、トータルの印象では、どこを振ろうとも徹底的に「自分のオケ」にしちゃう人なんですね。フィラデルフィアにしても「華麗なる」と枕詞が付いた時代の後、サヴァリッシュ、エッシェンバッハというドイツ系指揮者の時代が長く続くうちにも徐々に変質してきたんでしょうけど、アメリカ的な明るさと馬力で押す突進力は影をひそめ、今やすっかり垢抜けたフレンチテイストを色濃く感じました(まあ、デュトワはスイス人ですが、ローザンヌだから文化的背景は全くフランス圏)。弦と木管の音色を磨き上げ、打楽器はどこまでもリズミカルに、でも金管はわりとおまけ、みたいな。実はまだ聴いてないのですが、現在芸術監督をやってるロイヤルフィルも、そんな感じの音に仕上がっているに違いあるまい。フィラデルフィアは来年から、ロンドンではお馴染みのネゼ=セガンが(こちらも実は未聴なんですが)音楽監督に就任するとのことで、フランス系が続きますね。是非早く経営不振から立ち直って、華麗なるサウンドを世界中に振る舞ってもらいたいものです。

プロムス終了までをシーズンの区切りと定義すれば、2010-2011シーズンは結局66の演奏会・観劇に行った勘定になりました。自分としては新記録です。東京圏でもやってるコンサートの数自体はロンドンにひけをとらないでしょうが、時間の融通や会場へのアクセスといった環境面の違いは決定的で、このような演奏会通いができるのも本当に今のうちだけです。私はゴルフはやらないし、特にスポーツもしないし、サッカーを見に行くわけでもなし、バンド仲間はこちらにはいないし、今はこれくらいしか趣味がありませんので、日々生きていくための最大の滋養源として欠かせないものです、はい。

おまけ。プロムスの立見アリーナの床に、こんな絵があったんですね。普段は入場したらすでにアリーナは人でいっぱいだし、コンサートが終わったら一目散に外を目指すので、今まで気付きませんでした。


2011 BBC PROMS 62:イスラエルフィル/メータ/シャハム(vn):テロリズムの憂鬱2011/09/01 23:59


2011.09.01 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2011 PROM 62
Zubin Mehta / Israel Philharmonic Orchestra
Gil Shaham (Vn-2)
1. Webern: Passacaglia, Op. 1
2. Bruch: Violin Concerto No. 1 in G minor
3. Albéniz: Iberia - Fête-Dieu à Séville; El Puerto; Triana
4. Rimsky Korsakov: Capriccio espagnol

1985年の来日公演を大阪で聴いて以来、超久しぶりのイスラエルフィルです。このときは、敬愛して止まないバーンスタインの生演奏を聴けた最初で最後の機会でもありました。

ホールに着くと、外では何かデモをやっている様子。イスラエルの国旗がはためいている傍らではパレスチナ問題のチラシを配っている人々がいて、いつもとちょっと雰囲気が違います。入場の際には手荷物の検査があり、物々しい空気です。


本日は上のサークル席。ステージが遠いし気温が暑いです。ホール内は別段普段と変わった様子はなく、時間通りにオケが登場し、オーボエがこの日の演目である「スペイン奇想曲」のフレーズを吹いてAで伸ばすというお茶目なチューニングをやって笑かしてくれました。そして仏頂面のメータが登場。私がちょうどクラシックを深く聴き始めたころ、メータはNYフィルの音楽監督に就任し、毎月のように新譜をリリースして絶好調の時期でした。レコードやFMを通して非常によく聴いた指揮者ではありましたが、生で見るのは今日が初めて。今ごろになって巡り会えるとは、何とも感慨深いものがあります。

1曲目の「パッサカリア」は、大編成とはいえ後の作風を先取りするかのようにどこかミニマルで繊細な味のある曲なので、この巨大なホールにはやっぱりそぐわないのかな、などと考えながら聴いておりましたら、突然あるはずのない合唱の声が被さってきたので驚いたというか、何が起こったのかすぐには頭が理解できませんでした。声の方向を見てみると、コーラス席にいた10数人が立ち上がって「FREE PALESTINA」と一文字ずつ書かれた布を掲げつつ、演奏中にもかかわらずベートーヴェンの「歓喜の歌」を高らかに歌っているではありませんか。聴衆の中には「シーッ!」と注意を促す人もいましたが、多くは息を呑んで成り行きを見守り、オケも中断することなくそのままクールに演奏を続けて、駆けつけた警備員にデモ隊はほどなく引っ張り出されました。妨害にもめげずに演奏を敢行した指揮者とオケには満場の拍手喝采でした。

気を取り直して2曲目のブルッフ。笑顔のシャハムとメータが登場し、さあ演奏開始となったときに、今度は右方のサークル席で突如立ち上がって「フリー!フリー!パレスチナ!」と叫び出す数人が。聴衆からブーイングと怒号が飛び交う中、デモ野郎は周囲の客と小競り合いしながらも、警備員によって速やかに排除されました。メータとオケは「こんなことは慣れっこだぜ」とでも言わんばかりに平静を保ち、デモ野郎がまだ抵抗して騒いでいる中、ティンパニに指示を出してさっさと演奏を始めていました。

シャハムは昨年聴いたときは調子が悪そうだったのですが、今日はこのような逆境にもかかわらず絶好調に見えました。終始笑顔を絶やさず、演奏に喜びが溢れています。ブルッフの1番は今まで五嶋みどり諏訪内晶子という日系女流奏者で立て続けに聴きましたが、そのどちらとも違ってシャハムはさっぱり明るく、粘着した情念など何もない非常にスポーティな演奏でした。上機嫌のシャハムは1回のコールで早速アンコールのバッハ(無伴奏パルティータ第3番のプレリューディオ)を余裕で演奏。心無い者の妨害行為はありましたが、このサービスで心洗われる気分でした。


私の腕前では、この距離でピンボケしないのは無理難題です。

そうそう、ブルッフだけはティンパニが一見して日本人の奏者に交代しており、後で調べたら神戸光徳(かんべみつのり)さんという昨年入団したばかりの若者だそうです。逆ハの字でロールを叩くのが個性的ですが、シャープな打ち込みが頼もしい、雄弁なティンパニでした。オケ全体では、ちょっと響きとリズムが重たいという印象はありましたが、定評のある弦はさすがに美しいものでした。

さて休憩後はスペイン特集。アルベニスの「イベリア」は初めて聴く曲です。指揮者が棒を振りかぶったその瞬間、またしても、今度は左方ボックス席から大声で「フリー!フリー!パレスチナ!」。満場のブーイングと「出て行け」コールが湧き上がり、犯人は即座に警備員に排除されましたが、この人などは見たところ会場のどこでも普通にいそうな白人の老紳士で全然デモ隊っぽくなく、これではどこに仲間が紛れているのかさっぱりわかりません。今度はメータも騒ぎが収まるまで手を下ろしてじっと待ち、さて気を取り直して手を再び上げたとたんに、サークル席後方で立ち上がって叫びだす別の集団。警備員が駆けつけて排除したら、またサークルの別の席から男女が立ち上がってシュプレヒコール。明らかに組織的で計画的な行動でした。もういい加減にしてくれという飽きれの感情が交じったブーイングが続き、いかにも狂信者っぽい顔立ちの男女が外に連れ出されて、やっとこさ演奏が始まりました。しかしもはや音楽に無心で耳を傾けるという気分ではなく、興を殺がれたとはまさにこのことです。

最後は「スペイン奇想曲」。まだしつこく迷惑野郎は潜んでいたみたいで、数人が立ち上がりかけましたが、拍手が鳴り止まないうちにさっさと演奏を始めたためにタイミングを失い、そのまま静かに退場させられていました。妨害も何とせず、オケはいたって冷静に演奏を進めていました。やっぱり重い音にはなっていましたが、野太い木管、渋い弦と、軽やかなカスタネットの対比が面白かったです。金管はちょっと陰が薄かったです。困難の中、何とか演奏をやり遂げた奏者に対するひときわ盛大な拍手に答えて、アンコールはプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」から定番の「ティボルトの死」。早めのテンポで無骨に突き進むのが何とも格好いい演奏でした。

メータは全てを暗譜で指揮し、軽めの選曲ながら重厚で彫りの深い演奏に終始していましたが、ずっと仏頂面で(いつもそうなのかもしれませんが)ちょっとテンションは低く見えました。このようにしつこい妨害行為を食らったのではそれもいたしかたないのかも。

それにしても卑劣な妨害を執拗に行った迷惑連中は、全くけしからんやつらですな。ホロコーストやその他無数の迫害を受けてきたユダヤ人の受難の歴史があるとは言え、現在の中東情勢の中でパレスチナ問題に対するイスラエルの罪も大きいことは否定しません。しかし、自らの政治的主張のためには何をやってもよいのだ、と考えるのはただのテロリズムです。音楽を生業とするイスラエルフィルを攻撃するのは全くのナンセンス。ただ、普段慣れ親しんできたコンサート会場にこのようなテロリストが数十人もまんまと潜入し、組織的なテロ行為が起こってしまったという事実には、空恐ろしくて憂鬱になってしまいます。先日の暴動騒ぎを見るに、イギリス人はいとも簡単に暴徒化するし、今後政治的にきな臭そうな演奏会があったら、近づかないほうが無難なのかも。そういう意味では、デモ隊と一般聴衆の小競り合いが大喧嘩、フーリガニズムに発展しなかったのは、サッカーとは客層が違うとはいえ奇跡だったのかもしれません。

2011 BBC PROMS 室内楽 7:ヨーヨー・マ(vc)/キャスリン・ストット(p)2011/08/29 23:59


2011.08.29 Cadgan Hall (London)
BBC Proms 2011 Chamber Music 7
Yo-Yo Ma (Vc), Kathryn Stott (P)
1. Graham Fitkin: L (London Premiere)
2. Egberto Gismonti/Geraldo Carneiro: Bodas de prata and Quatro cantos
3. Rachmaninov: Cello Sonata in G minor

珍しく室内楽でも聴いてみようかと思ったのは、もちろんヨーヨー・マが目当てです。ロイヤルアルバートホールの演奏会でもよかったのですが、曲目がフィトキンの新作チェロ協奏曲(初演)というちょっと得体が知れないものだったのと、あのホールでは距離がありすぎて多分不満が残るだろうなとの予測の下、カドガンホールの室内楽マチネのほうを狙いました。ラフな服装のストットに、お堅いスーツ姿ながらも出てくるなり人目をはばかることなく客席の知り合いに笑顔で手を振るヨーヨー、非常にリラックスした雰囲気です。

1曲目の「L」はローマ数字で50を意味します。長年の伴奏パートナーであるストットがヨーヨー50歳の誕生日プレゼントとしてグラハム・フィトキンに委託した曲で、ストットが50歳を迎えるのを待って、もちろん二人によって初演されたそうです。変拍子バリバリでユニゾンが多い、プログレロックを思わせる曲で、呼吸ぴったりな疾走感が際立っていました。

2曲目は、ジャンルを超えたコラボを積極的に行ってきたヨーヨーが2003年に発表した「オブリガード・ブラジル」からのピース。サンバやボサノバとはまた一味違った癒し系ブラジル音楽は、美しいの一言。ヨーヨーのチェロは輝かしいばかりに華のある音で、全くブレない高音が特に素晴らしいです。

メインはラフマニノフのソナタ。チェロソナタなどほとんど聴くことがない私にはもちろん馴染みのない曲ですが、チェロもピアノも難しいので有名だそう。浪花節、もといラフマニノフ節が解放されたという感じはなく、私的にはロマンチシズムを抑えたストイックな曲に思えました。ストットの硬質なピアノは曲想によくマッチしていましたが、ヨーヨーの明るくこぶしのよく回るチェロはまた全然個性が違い、この異質な二人の演奏が息はぴったりと合っているのだから面白いものです。終演後、お互いを称え合う二人はたいへん仲良さそうで、終始リラックスした空気がとても心地よかった昼下がりのひと時でした。


ピンボケ失礼。


健闘を称え合う二人。

2011 BBC PROMS 56:BBC響/ビシュコフ/ゲルシュタイン(p):BBC響も後ろから見る2011/08/26 23:59


2011.08.26 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2011 PROM 56
Semyon Bychkov / BBC Symphony Orchestra
Kirill Gerstein (P-1)
1. R. Strauss: Burleske
2. Mahler: Symphony No. 6 in A minor

時差ボケがいまだに抜け切らず、夕方になると目と頭がお眠りモードに引き寄せられて行ってしまいますが、そんな中の本日はビシュコフ/BBC響のプロムス。前回のLSOと同じく、本拠地バービカンでは体験できないコーラス席での鑑賞です。

1曲目のブルレスケは初めて聴く曲でした。リヒャルト・シュトラウスらしからぬストレートにロマンチックなピアノ・ヴィルトゥオーソですが、主題を導くメロディアスなティンパニから始まって、最後はまたティンパニの一音で締めくくられるのが特徴的です。キリル・ゲルシュタインは、かのバークリー音楽院のジャズ科出身で、その後クラシックに転向したという異色のキャリアを持つロシア人ピアニストですが、ここに限らずどのホールでも、コーラス席はピアノが聴こえにくいのが最大の難点ですね。今日も残念ながらピアノがどうのこうのという以前の問題で、どんな奏者なのかあまりよくわかりませんでした。BBCのサイトでじっくり聴き直したいです。

メインのマーラー6番は、今年2月にビエロフラーヴェクの指揮で聴いた、同じくBBC響の好演が記憶に新しいところですが、やはり指揮者が違うと趣きが相当変わります。ビシュコフはとことん歌を歌わせ、大仰なタメを作って壮大に盛り上げるのが得意な人という印象なのですが、果たして今日も早めのテンポで行進曲がキビキビと開始され、第2主題の「アルマのテーマ」もたっぷりとベルカントでとっても感傷的。ドラマ性重視のロマンチックな演奏です。管楽器のベルアップとか、カウベルや鐘を叩く位置とか、細かいところはスコアに忠実でしたが、全体的なフレームはビシュコフ独自のものでした。オケはさすがに堅実、堅牢で、トランペットやホルンも1カ所音がつぶれた以外はほぼ完璧な演奏。ティンパニの音が軽いのがちょっと気に食わなかったですが。ハープが4本立っていたのは音的にもビジュアル的にも圧巻でした。

ビシュコフは過不足ない的確な棒振りで、音楽をドラマチックに盛り上げるのがやっぱり非常に上手い。20年前の私だったら熱狂した演奏でしょう。しかし何故か、2月に聴いたビエロフラーヴェクの丁寧に積み上げられた節度ある演奏が、むしろしみじみと思い出されました。私も年を取ったのかな…。

なお、中間楽章はスケルツォ→アンダンテの順、終楽章のハンマーは現行のスコア通り2回のみでした。3回目を叩く実演にはなかなか巡り会えないので今日は期待したのですが、ちょっと残念。そのハンマー、見かけは特大ながら、打ち付ける台に重みがなかったのか、台ごと跳ね上がっていて、音は見かけほど重厚ではありませんでした。


打楽器群はステージ下手側上段に固められていました。前後に並んだティンパニが新鮮です。

2011 BBC PROMS 52:LSO/ゲルギエフ/カヴァコス(vn):LSOを後ろから見る2011/08/23 23:59


2011.08.23 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2011 PROM 52
Valery Gergiev / London Symphony Orchestra
Leonidas Kavakos (Vn-2)
1. Prokofiev: Symphony No. 1 in D major ('Classical')
2. Dutilleux: L'arbre des songes
3. Dutilleux: Slava’s fanfare
4. Prokofiev: Symphony No. 5 in B-flat major

今年はまだ2つめのプロムスです。本日は舞台後方のコーラス席。上のサークル席よりずっと音響が良いのに昨年気付きました。本日のアーティストはゲルギエフ/LSOのお馴染みコンビですが、本拠地バービカンホールにはコーラス席がないため、LSOをこうやって後ろから眺めるのはプロムスならではの楽しみです。


ティンパニをこの至近距離で見るのもなかなかないことです。

演目はプロコフィエフとデュティユーというプログラム。1曲目の「古典交響曲」、有名曲のわりにはフル編成オーケストラのプログラムに載ることは意外と少ないような気がします。私も実演で聴くのは多分3回目、前回は確か10年前に初めてブダペストに行ったときでした。ロシア人だけあってゲルギエフはプロコフィエフを得意としているはずですが、予想外にぎくしゃくしたテンポで始まり、アンサンブルがぎこちなかったので、あれっと思いました。今どきの古典風アプローチではなく、フレージングやダイナミクスをいじくり倒した、飾り気の多い演奏。縦の線が緩めだったのもむべなるかな。正面から見るゲルギエフの指揮は素人にはますますわかりにくく、あれでよく合わせられるものだと少し感心しました。

2曲目はデュティユーの「夢の樹」と題されたヴァイオリン協奏曲。カヴァコスはすっかりプロムス常連で、私も気がつけば3年連続で聴いています。髪が伸びて怪しいオタク系の風貌になっていたので、一瞬別人かと思いました。初めて聴く曲ですが(デュティユー自体初めてかも)、二昔前の現代音楽といった趣きのとっつきにくい曲で、琴線に触れるものではありませんでした。お手上げのためパスです、すいません。


演奏後のカヴァコス。ピンボケしまくりですいません。

休憩を挟んで最初は、同じくデュティユーの「スラヴァのファンファーレ」というブラスのみの2分しない小曲。タイトルの通り「スラヴァ」ことロストロポーヴィチのために書かれた曲で、最後にトランペットがドヴォルザークのチェロ協奏曲をフレーズを短く吹きます。こちらは一転して楽しい曲でした。

間を置かず、メインのプロコフィエフ5番に突入。これは非常に好きな曲でして、このためにチケット取ったようなものですが、力作でありながらどこか人を食ったような気の抜け方がえも言われず魅力的だったりします。相当な難曲なのか、立派な実演にはなかなかめぐり合えませんが、今日のLSOは期待通りほぼ完璧な演奏を聴かせてくれました。コーラス席だと至近距離のため金管とティンパニの生音がビンビン耳に入ってきましたが、バランスが多少悪いのは仕方ないにせよ、全然耳障りにならないのはさすが磨き上げられた音のおかげです。官能的な第1楽章は、ところどころで鋭く決まるアタックが強烈なアクセントになって、相当綿密にリハを積み上げていってる様子がうかがえました。さては、1曲目の「古典」はノーリハだったのかな。第2楽章は軽快なリズムに乗った小太鼓の音の粒が見事に揃っていて思わずニヤリとさせられました。短調で重苦しい曲調の第3楽章もどこか軽やかさを残しながら、強奏では大げさに盛り上げてゲルギーもなかなかの役者ぶりを発揮します。終楽章はもう混沌の極致で、そのまま押すのかと思いきや、ラストはインテンポのヴァイオリンソロでぐっとテンションを下げ、最後の一瞬で思いっきり急峻に音量を上げて、ハイ、おしまい。最後まで肩の力が抜けた好演で、やんやの大歓声も納得でした。時差ボケがまだ完全に取れておらず、体調はもう一つだったのが残念ではありました。

2011 BBC PROM 9:ハレ管/エルダー/シフ(p):祖国は遠きにありて2011/07/21 23:59


2011.07.21 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2011 PROM 9
Sir Mark Elder / The Hallé
András Schiff (P-3)
1. Sibelius: Scènes historiques - Suite No. 2
2. Sibelius: Symphony No. 7 in C major
3. Bartók: Piano Concerto No. 3
4. Janáček: Sinfonietta

今年もプロムスの季節がやって来ました。先週15日のPROM1開幕、17日のギネスブック級超大曲「ゴシック交響曲」を共に別件のため聴き逃してしまったので、今日が自身のPROMS開幕です。開演前、Voyage2Artさんとばったり、久々にお会いしましたが、以前よりさらにお元気そうだったのが何よりでした。

マンチェスターに本拠地を置くハレ管弦楽団は現存するイギリス最古のオーケストラ。英語の正式名称は単に「The Hallé」だけなんですね。名前は昔からよく聞いていましたが、イギリスのオーケストラとは実は全然意識しておりませんでした。バルビローリ指揮によるレコードを何枚か聴いたことがありますが、生は初めて。ついでに、マーク・エルダー卿も、シフ・アンドラーシュさえも、実演は初めてだったりします。

前半はシベリウス、正直苦手分野です。オケはざっと見たところ、女性比率がかなり高いです。ホルン以外の全パートに女性がいて、団員の半分以上が女性という構成。ティンパニも細身の美女でした。エルダーはサーの称号を持つ現役指揮者では多分唯一人、まだ聴いてなかった人ですが、いかにも英国紳士然とした品位のあるお顔立ちは、誰よりも「サー」にふさわしく見えました。指揮棒を使わずにきびきびと統率し、線のそろった堅実な音を導いていきます。オケはアンサンブルの乱れもなく、期待以上に上手いです。1曲目の「歴史的情景」第2組曲は全く初めて聴く曲でしたが、シベリウスらしい素朴な旋律と劇的なオーケストレーションがほどよくミックスされていて、なかなかの佳曲でした。続く交響曲第7番でティンパニが男性奏者(多分首席)に交代しましたが、プロの演奏会で奏者が途中で代わるのは珍しいです。こちらも普段はほとんど聴かない曲なので、内容がぐっと抽象的になった分、短い曲ですが道を見失い、漫然と聴き流してしまいました。

後半は北欧から東欧へ。ブダペスト駐在時代、「ハンガリー三羽がらす」のうちコチシュとラーンキは何度も聴きましたが、シフだけは聴くチャンスがありませんでした。シフは元々国外での活動がメインだった上に、ソロリサイタル中心だったので、大管弦楽派の私には食指をそそられる演奏会が少なく、記憶では2度チケットを買ったものの、最初はキャンセルを食らい、最後は自分の本帰国のほうが先に来てしまって、結局縁がありませんでした。

そのシフは現在、当面ハンガリーで演奏することはない、帰国もしない、という「祖国との決別宣言」をしております。そのいきさつはhaydnphilさんのブログ(例えば1/161/175/5、他にも多数あり)に詳しいのでそちらを是非参照いただくとして、手短に言うと、昨年政権を奪還した右派(と言いながらやってることはほとんど左派の)政党フィデスが、メディア法というEUの他国からも顰蹙を買いまくっている言論統制法案を議会で可決し、シフがそれに反対するコメントをワシントン・ポストに投稿したところ、フィデス系のマジャール・ヒルラーフという新聞がシフを名指しで「裏切り者」と非難、ユダヤ人差別を含む常軌を逸した内容の反論記事を書いたため、こういった祖国の風潮に抗議する意味で当分祖国へ帰らない決心をしたということです。

バルトークのピアノ協奏曲第3番は、ナチス支配を逃れて最晩年を過ごしたアメリカで、ピアニストでもあるディッタ夫人が自分の死後もレパートリーとできるような曲を、という目的で書かれた曲ですので、第1番、第2番の暴力的な激しさとはうって変わって、全編通して優しい雰囲気に包まれております。同時期のオケコンもそうですが、円熟した作曲技巧と実は持ち前のサービス精神が融合した傑作だと思います。以前ほどあからさまな民謡旋律をぶつけることはないながらも、時おり匂わせる、おそらく再び地を踏むことはないであろう祖国への強烈な郷愁が心を打ってやみません。シフは冒頭からとうとうと語りかけるようなピアノで、即物的なコチシュとは極めて対照的、人間味に溢れた呼吸です。バルトークのピアノ協奏曲集はいろんなCDを持っていますが、シフはやっぱり第3番が光っています。圧巻の技量で勝負する曲ではないので、丹念に彫り深く音を紡いでいくシフの表現スタイルはぴったしハマります。特に第2楽章、緩やかな弦の和音にかぶさる打鍵の情感がまさに溢れんばかりで、深みに引き込まれました。底支えするオケがこれまた精緻な演奏で、土臭さを感じさせない都会的でクールなもの。引き締まった音でピアノを際立たせる職人技の伴奏に、惜しみない拍手を送りたいです。

ベルリンの壁が壊れ、ハンガリーも政治体制変換の時を迎えた1990年に、永らく祖国を離れていたショルティがオールバルトークの凱旋帰国演奏会をブダペストで行った(当時のリスト音楽院ホールでは収容しきれず国際会議場での開催)映像を見たことがありますが、その時のピアノ協奏曲第3番の独奏が他ならぬシフでした。ショルティもシフも、母国に自由が取り戻され、この地で再開できた喜びを包み隠さず顔に出していたのが印象的でした。20年後、自由を再び奪うような祖国と決別し、もう帰らぬ決心を胸に抱きながらまたこの曲を奏でる胸中は、いかほどのものだったでしょうか。アンコールで演奏したシューベルトの「ハンガリーの旋律」という小曲がまた、意味深でした。


最後はチェコの英雄ヤナーチェクの代表曲「シンフォニエッタ」。「小交響曲」というタイトルながら、バンダがずらっと並ぶ大編成、でも内容はやっぱりプリミティブでこじんまりとしています。エルダー監督の下、きりっと集中力の高い弦、速いパッセージも危なげなくこなし 派手さはないが実力は本物の木管、鋭く切り立ったりブカブカ鳴ったりせず終始柔和な音色の金管、統一感があってたいへん好感の持てるオケの音でした。唯一、横滑りするような叩き方のティンパニにちょっとイラっとしましたが、それも含めてまさにプロの仕事。凝縮した小宇宙を垣間見た気がしました。このコンビ、ロンドンでは聴くチャンスがあまりないのは残念です。

最後に、今回初めてサイドストール席に座ってみましたが、真横ながらピアノもよく聴こえましたし、期待通り良い音響でした。後方のコーラス席も意外や音響は良いですし、ロイヤル・アルバート・ホールは方角関係なく、とにかくできるだけステージに近い席で聴くのが吉のようですね。

PROMS 2011 ブッキング2011/05/07 09:30

本日はBBC PROMSのチケット発売日。今年は土曜日だったので出勤時間を気にせず朝8時前からパソコン前でスタンバっておりました。

昨年から始まったProms Plannerという買いたいチケットリストをあらかじめ設定しておくシステムに、希望のカテゴリと枚数はすでに昨夜のうちに最終入力済み。サイトオープンの朝9時前からカチカチとアクセスを試みるも、昨年同様、Waiting Roomにすらなかなか入れません。何度もカチカチやっていると、昨年よりもちょっとだけ遅く、9時4分にWaiting Roomに入れました。この時点で820人待ち。999人待ちだった昨年よりはベターだし、昨年と違って今年はみんなが狙うであろう目玉のPROMも特にないので、まあ余裕で待っていました。20分くらい待って本サイトに入り、9時30分には全ての購入が完了。このシステムでは席の番号までは自分で選べませんが、早かったのでなかなか良さげな席が取れていました。

ということで、今年もPROMSチケット購入はつつがなく完了。あとは何事もなければ、またこの夏、Royal Albert Hallでお会いしましょう。

BBC PROMS 71: フランス国立管/ガッティ: 驚異的な「ハルサイ」2010/09/07 23:59

2010.09.07 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2010 PROM 71
Daniele Gatti / Orchestre National de France
1. Debussy Prelude a L'apres-midi d'un faune
2. Debussy La Mer
3. Stravinsky The Rite of Spring

ストのせいで終日地下鉄がほぼ全面ストップになっている中、客入りは上々でした。上の方は空席がチラホラありましたが、立見のアリーナがいつにも増して満員大盛況でした。ガッティは長年ロイヤルフィルの首席指揮者だったので、ロンドンにもファンが多いのでしょう。

フランス国立管もガッティもまだ聴いたことがないなー、というくらいの動機でチケットを買ったのですが、期待を遥かに超えた脅威の演奏でした。フランスのオケと言うと、演奏旅行では手を抜いてアンサンブルがてきとー(「適当」ではありません)というイメージを持ってしまうのですが、全くそんなことはなく驚くべき集中力を見せていたのと、管楽器のソリストが皆一様にめちゃくちゃ堅実な腕前。安全運転を心がけていれば切り抜けられるような選曲では全くないにもかかわらず、その危なげのなさは、先日のベルリンフィルをも凌いでいました。正直、フランス国立管というと、フランスではパリ管に次ぐ2番手という勝手な印象を持っていたのですが、この演奏クオリティは半端じゃないです。

ガッティは音の整理がたいへん上手で、あのひどい残響のロイヤル・アルバート・ホールでもぐしゃっとならずスッキリと透明感ある仕上がりになっていました。パートバランスが適正にコントロールされているんですね。ティンパニはフィルハーニア管のAndy Smithさんを彷彿とさせる「いい味系」の人で、私的にはさらに高ポイントです。相対的に弦が少し弱い気もしましたが、ホールと席のせいも多分にあるでしょう。

「牧神の午後」では完璧なソロ楽器を軸に上質の演奏技術でジャブを打ち、「海」ではブラスの馬力を解放してダイナミックレンジの広さを見せつけ、「春の祭典」ではティンパニ7台、大太鼓2台、銅鑼2丁を駆使した強烈な打楽器群でさらにバーバリズムの味付けをするという三段飛びのような構成です。調べると、音楽監督に就任したお披露目演奏会でも同じプログラムをやっていて、自信の十八番なんでしょうね。

とにかく、正直期待してなかった分、そのハイクオリティな演奏はたいへんインパクトがありました。もしパリに住んでいたら定期会員になりたいところです。こういったフランスものでは特に冴えわたった演奏を聴かせてくれそうですし、ベートーヴェンやマーラーだとどうなるかもちょっと興味津々です。

今年のプロムスも個人的にはこれで打ち止め。最後にこんな良いものが聴けて幸せでした。あとは少し休んで、2010/2011シーズンの開幕を待つのみです。

BBC PROMS 65: ベルリンフィル/ラトル2010/09/03 23:59

2010.09.03 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2010 PROM 65
Sir Simon Rattle / Berliner Philharmoniker
1. Beethoven: Symphony No. 4 in B-flat major
2. Mahler: Symphony No. 1 in D major

PROMS 2010の目玉の一つだけあってチケットは早々にソールドアウト、満員御礼で場内はえらい盛り上がりでした。

まず私的には、舞台上にティンパニが3組もあったのが目を引きました。ベートーヴェンは弦楽器各4プルトのコンパクトな編成で、広いステージの前の方にかためていたのですが、マーラー用の2組とは別に、もう1組のティンパニをチェロのすぐ後ろに配置。バロックティンパニを使うのならまだしも、全く同じタイプの楽器だったのが不可解でした。ひな壇から上げ下ろしがたいへんなのはわかりますが、普通はティンパニを11台も持ってツアーには出ないでしょう。ブルジョワぶりを見せつけられたような気もしました。

比較するのもなんですが、一昨日のマーラー・ユーゲント管と比べたらさすがにベルリンフィルは大人の貫禄でした。弱音はとことん繊細に、強奏はとことん大胆に、ダイナミックレンジの幅広さと表現力の多様さが抜群に素晴らしいです。各ソロ楽器の音色も大人の艶やかさで(けっこう外すこともありますが)、さすがに世界最高峰のオケです。機会があれば何度でも聴きたいものですね。ベルリンに住まないと難しいでしょうが。なお、コンサートマスターは樫本大進さんでしたが、もう第1コンマスになったんですね。

ラトルはベートーヴェンにしろマーラーにしろ小細工の多い人で、細部まで精巧に作り上げた人工物のような演奏でした。ある程度はオケを解放しておおらかに響かせるのが得意なヤンソンスとは対照的に見えます。もちろんクオリティに文句のつけようはないのですが、どこか突き放した覚醒感が時々漂ってきます。特に弱音のデリケートなコントロールが徹底していて、ベルリンフィルの首席に抜擢されてもう8年ですか、表現は悪いかもしれませんが、自分のオケとしてしっかり飼い慣らしてますね。3楽章冒頭のティンパニをあえてミュートさせたまま叩かせたのは、乾いた音を出したかったのでしょうが、ちょっと小細工やりすぎと思いましたが。終楽章のコーダでは、お約束のホルン奏者総立ち(多分各人の音量から言えばその必要はないんでしょうけど)はスコア通りきっちりやり、最後は大太鼓も全力で鳴らして大音圧でたたみかけました。聴衆は会場が揺れるくらいに足を踏み鳴らしてのやんややんやの大喝采。アンコールはありませんでしたが、たいへん盛り上がった一夜でした。

BBC PROMS 62: マーラー・ユーゲント管/ブロムシュテット2010/09/01 23:59

RAH
2010.09.01 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2010 PROM 62
Herbert Blomstedt / Gustav Mahler Jugendorchester
Christian Gerhaher (Br-2)
1. Hindemith: Symphony 'Mathis der Maler'
2. Mahler: Lieder eines fahrenden Gesellen
3. Bruckner: Symphony No. 9 in D minor

本日は初めて正面ストールの席に座りましたが、うかつにもカメラとオペラグラスを持って行くのを忘れました。せっかく若いおねえちゃんがたくさんいたのにステージが遠くて良く見えず、残念です。

ブロムシュテット、マーラー・ユーゲント・オケ共に生演は初めてです。26歳以下で構成される若いオケですが、厳しいオーディションを勝ち抜いた人達なので技量は十分、立派なプロオケです。弦楽器はコントラバスを除きほとんどが女性で、私の経験ではそういう場合、弦の音が繊細すぎて厚みに欠けることが多かったのですが、このオケは実に重厚な弦を響かせます。コントラバスが12人もいて人海戦術で押し切っているところもあるんでしょう。総じてパートバランスは良さげです。ただ、管楽器は木管、金管共に時々不安定になり、音色もストレートすぎて艶やかさがなく、やはり多少熟成が足りないようにも感じました。名手が揃った年の大学オケ、という感じです。一方のブロムシュテットは、御年もう83歳にもなりますが元気いっぱいで、指揮の若いこと若いこと。まだまだ現役で行けそうです。なお、ティンパニはドイツ式の逆配置(右手側が低音)でした。

今日の席だと残響がかなり多めに聴こえて、ヒンデミットとブルックナーではそれがかえってオルガンっぽい重層的な弦の音を醸し出して良かったのですが、「さすらう若人の歌」では逆に透明感が殺がれてもやもやした感じになってしまいました。バリトンのクリスティアン・ゲアハーエア(Webで調べるとゲアハーヘル、ゲルハーヘル、ゲルハーエアなど様々なカタカナ表記がありましたが、どれが一番近いんでしょうか?)は多少上ずってたものの、軽めの美声で立派な歌唱でした。ブルックナーはオケがたいへん明るい音で健康的な演奏。2楽章スケルツォは長い残響のせいか、いまいちキレがなかったです。3楽章は厚い弦が土台を支えながらも全体では淡々とした演奏でした。しかしこの9番は未完成とは言え、この3楽章は全然途中の緩徐楽章らしくなく、長大なフィナーレ的性格が強いなあと聴いていてあらためて感じました。この後には何かを置くのは、よほどのものじゃないと厳しいでしょう。

ブルックナーは苦手な部類ですし、「画家マティス」もどんな曲だったかすっかり忘れたくらい久々に聴きましたので、雑駁な印象のみですいません。