OAE/ラトル:古楽器集団とは思えない音圧のベルリオーズ「ハロルド」「幻想」 ― 2026/06/10 23:59

2026.06.10 Royal Festival Hall (London)
Sir Simon Rattle / Orchestra of the Age of Enlightenment
Timothy Ridout (viola-1)
1. Berlioz: Harold in Italy
2: Berlioz: Symphonie fantastique
フィルハーモニア管が今年で創立80年なら、OAEはその半分、創立40年の記念イヤーだそうです。去年の5月に出張のおり聴いてから1年ぶりになります。今日はサー・サイモンが客演指揮なのでソールドアウト、かと思ったらそうでもなく、リアストールにごそっと空席があったのは団体のキャンセルでもあったのでしょうか。
OAEは本来古楽器の演奏集団なので、バロック期からせいぜいハイドン、モーツァルトくらいまでの古典期の管弦楽を小編成で演奏するのが通常モードなのですが、その固定観念に収まらない企画や共演も毎シーズンたくさん行っているところがユニークで、ラトルは頻繁に客演していますし、ベルリオーズは時代考証的にはそんなにターゲットから外れてはいないものの、やはり今シーズン随一の刺激的なプログラムです。幻想交響曲の古楽器演奏は、ガーディナー/ORR、ロト/ル・シエクルのレコーディングが有名ですが、元祖を辿ると1988年のノリントン/ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ(LCP)が一番最初のはずです。そのLCPはOAEに吸収されて今はもうありませんので、今日のOAEは元祖の血脈を引き継ぐ演奏と言えるでしょうか。
その前に、1曲目はヴィオラ独奏を伴う交響曲「イタリアのハロルド」。実は生演で聴くのは初めてでした。ステージを見て、このオケでは見たことない大人数が乗っていてびっくり。正規の団員だけでこの人数が集められるとは到底思えないのですが、普通のオケと異なり、特に管楽器は楽器自体が違うからエキストラを呼んでくるのも相当たいへんなのではないかと心配しました。最初、ラトルが一人で出てきたので「あれっ」と思ったら、演奏が始まってからソリストが上手から静かに登場、木管と打楽器の間をゆっくりと歩いていき、ハープの横でヴィオラソロを弾き始めました。しかしそこが定位置ではなく、演奏中にうろうろと舞台上を動き回り、いろんなところでソロを弾きます。OAEのオケメンバーが基本ノン・ビブラート奏法なのに対し、ソリストのリダウトは普通にビブラートをかけていて、あくまで素朴で優しい音色のオケの上にロマンチックなヴィオラソロが乗っていく、そのコントラストが今日の場合は非常に良かったです。弱冠31歳の若手、リダウトは舞台上を歩き回りながらも終始無表情で、協奏曲で自分のソロを聴かせるというよりは、ハロルドという役に入り切っている役者のようでした。
この曲はヴィオラ協奏曲のような形をしていながら、ヴィオラの出番がどんどん少なくなっていって、最後は殺されて退場してしまうのが特徴というか、この曲が滅多に演奏されず、さほどの人気もない理由になっていますが、はたして終楽章の途中、リダウトはずいぶんと早めにステージ下手から出ていってしまい、このあとどうするんだろうかと訝っていたら、最後はGreenサイド(上手側)のボックス席まで行って弾いていました(ちょうど頭上だったので姿は全く見えず)。その後のクライマックスは、このオケでは珍しいほどの音圧を感じる熱気でフィナーレを迎え、やんやの喝采。やはりラトルは何か仕掛けてきますが、良いパフォーマンスだったと思います。放送や録音はなさそうだったのが残念。

メインの「幻想交響曲」は、去年の11月にここでパヤーレ/フィルハーモニア管の演奏会を聴いて以来です。もちろん、指揮者はラトルだし、オケは古楽器集団のOAEだし、位置付けはずいぶんと違います。今日はトラも含めて大人数がステージに乗っており、元々そんなに精緻なアンサンブルを売りにしていたオケでもないので、縦の線はだいぶ甘かったです。第1楽章、譜面を立てずに暗譜で臨むラトルは、オケを振り落としても我が道を行く揺さぶりモード。古楽器だからとか客演だからとか、全く関係ありません。一方のOAEは古楽器ゆえの機能性の悪さがあり、実際、危うい場面はいくつもあり、崩壊しなかったのは奇跡でした。なお、古典的フォーマルを重視し、テーマのリピートはしっかりやっていました。
第2楽章はコルネットありのバージョン。ただ、自分席からは見えず(泣)。4台のハープが圧巻でした。終盤でオーボエが静々と上手に消えていき、第3楽章のコーラングレとのかけ合いは舞台袖から吹いていましたが、最後のほうにはいつのまにか戻ってきていました。テンポを頻繁に揺さぶるラトルのタクトで終始描写的に緩急をつけて盛り上げ、このともすればお眠りタイムになりがちな楽章を飽きさせないのはさすが。終盤のティンパニ四重奏はただでさえ小さい手回しティンパニを前に打楽器の女性奏者2名を加えてところ狭しと立ち、硬質のバチで落雷効果をバランスよく演出していました。
古楽器という特質でもあるのか、音が荒れてきていたのでここでラトルは一旦指揮台を下り、全体のチューニングを確認。気を取り直して第4楽章、けっこう早めのテンポでしたが冒頭のティンパニは基本に忠実に片手6連符で叩いていました。ここから登場するシンバルは小ぶりながら非常に澄んだ良い音。大太鼓も口径は小ぶりで胴が深い櫓太鼓のような外見で、こちらは腹に響いてくるような低音は出ない代わりにアタックの鋭い弾丸系の音でした。一方のラストの小太鼓2台はどちらもスコアに忠実に、通常のスネアドラムではなく深銅のミリタリードラムを使用。この楽章は特に4人のファゴットがめちゃきつそうで、ラトルも容赦なくアクセルをかけるものだからほとんど振り落とされる寸前でした。
終楽章も古楽器だからというよそ行き顔はなく、ラトルならではのメリハリの効いた、我が道を行く演奏でした。特に最後の畳み掛けは見事というしかなかったです。舞台裏から聴こえる鐘(チャイム)はなぜかタイミングが合わず、何度もずれていましたが、モニタがなかったんですかね?クラリネットがキツさのあまりヤケクソ気味にサバトのロンドを吹いていたのは猟奇的な感じがして良かったです。終盤に弓の裏の木で弦を叩くコル・レーニョ奏法は、ちゃんとやらずに弓の先の方で弾くのでごまかしていましたが、うーむ、高価な弦楽器が痛むのを避けたかったんですかねえ。なお、今はチューバで代用するのが普通のオフィクレイドは自分の席から見えず確認ができませんでした。
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