ハンカチ王子とイケメン若大将による日本初演、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第5番」2018/08/09 23:59


2018.08.09 ミューザ川崎シンフォニーホール (川崎)
藤岡幸夫 / 日本フィルハーモニー交響楽団
反田恭平 (piano-1)
1. ラフマニノフ(ヴァレンベルク編): ピアノ協奏曲第5番ホ短調(交響曲第2番の編曲)※日本初演
2. シベリウス: 交響曲第1番ホ短調

ラフマニノフのピアノ協奏曲はオフィシャルには第4番までしかありませんので、この「第5番」は幻の未発表曲、ではなくて、Brilliant Classicsのプロデューサーの発案で、交響曲第2番を大胆に編曲・再構成し、ピアノ協奏曲風に仕立て上げたものです。シューベルト「未完成」やブルックナー第9番の「4楽章完全版」のような仕事よりもさらにキワモノ度が高く、似たような曲としてはシチェドリンの「カルメン組曲」を連想しましたが、これは普通にシチェドリンの曲として扱われますよね。この「イロモノ」企画を「ヴァレンベルクの新作ピアノ協奏曲」と言わずに、子孫の許可も得て、批判を覚悟であえて「ラフマニノフのピアノ協奏曲第5番」として発表したのは、当然確信犯的なビジネスパースペクティブがあってのことでしょう。ベートーヴェンなら無理だがラフマニノフなら許される、みたいな、作曲家の格付け差別のような空気も薄っすらと感じないわけではありません。

ちょうど交響曲第2番がマイブームになり始めた頃の2009年にこの珍曲の存在を知り、発売されて間もないCDをロンドンで買いましたが、通しで1回聴いた後「うーむ」と唸ってしまい、それ以降あまり聴くことはなかったというか、聴こうと思ってもついオリジナルのほう(マゼール/ベルリンフィル盤やパッパーノ/聖チェチーリア盤)に手が伸びてしまいました。ラフマニノフの交響曲第2番は、メロウな旋律ということでは同氏のピアノ協奏曲第2番と比肩する人気曲ですし、これをピアノやボーカルに編曲したいという衝動はよくわかります。平原綾香の「adagio」なんかがそうですが、ワンフレーズだけ切り出してもメロディとして成立しないので、結局出来損ないの曲になってしまいかねない、ということがよくわかります。個人的にはクラシックの編曲モノは原則として否定的というか、「劣化コピー」と感じない優れた編曲に未だ出会ったことがない、というのが正直なところです。

前置きが長くなりましたが、「ラフ2」のマイブームが今でも継続中の自分としては、肯定派ではないにせよ、この問題作の日本初演ということであれば、これは是非とも立ち会っておかねばなるまいと。毎度の感想ですが、ミューザの平日夜の演奏会はいつも盛況な客入りです。後でわかったのですが、ソリストの反田恭平が今人気の若手ピアニストとのことで、マニアックな演目なのにソールドアウトだったのはそのおかげでしょうか。弱冠23歳の反田君は長髪を後ろに束ね、ハンカチで汗をふきふきする姿が可愛らしく、確かにファンがつきそうです。残念ながら席が遠かったせいか、ピアノがあまりストレートに届かず、随所にミスタッチもあって、印象は弱かったです。

あらためて実演で聴いて、ピアノ協奏曲風にするために随分とオーケストレーションや構成を削り込んだんだなあと、逆にその厖大な労力をおもんばかってしまいました。全体的に音を薄っぺらくした一方で、第1楽章エンディングのシンバル、大太鼓、ティンパニとか、終楽章のチューブラーベルとかの打楽器が増えていて、派手なピアノと相まって色彩感は増しています。構成では、元々4楽章から成る交響曲を3楽章の協奏曲に無理やり当てはめる解法として、どちらも三部形式の第2楽章と第3楽章をざっくりツギハギして「第2楽章」にするという暴挙に出たことが、やっぱり気に食わないです。暴力的な「びっくり開始」になってしまう「第2楽章」トリオ部も(おそらくピアノだと技巧的に追いつかないという理由で)想定外にテンポが落ちてしまうのがカッコ悪いです。これならば、元の第2楽章を丸々すっ飛ばす構成の方がよっぽど良いのではないかと思いますが、私の大好きな第2楽章の美しい第2主題(モデラート)が日の目を見るチャンスはいずれにせよありません・・・。他にも、「第2楽章」の最後、弦のコラールになる箇所がピアノに置き換えられるのはせっかくの流れを分断するよなあとか、終楽章エンディングの変なリズムは、ありゃ誰のマネじゃ、とか、いろいろ言いたいことはありますが、総じてシンフォニックな要素が削がれており、やはり交響曲第2番はまぎれもない「シンフォニー」だったのであって、ピアノ協奏曲第2番とは似て(もいないし)非なるもの、との認識を強くするだけでした。

メインのシベリウスは、よく考えたら創立者の渡邉暁雄から最近のインキネンまで、脈々と引き継がれているはずの日フィルの伝統です。個人的にはこの交響詩のような第1番がシベリウスでは一番好きな交響曲なんですが、巡り合わせが悪く、実演で聴くのは実は今日が初めて。指揮者はこちらも初めての、藤岡幸夫。往年の日活映画スターのような、脂の乗った男前です。初演なのでかなりぎこちなさがあった前半と打って変わって、指揮者は伸び伸び、オケは活き活き。特別凄かったとか心を打ったということでもないですが、弦が非常に良かったし、管もトランペット以外はしっかりしていました。特にクラリネットには美味しい選曲続きでしょう。ティンパニも硬質でキレが良く、私好みです。今までそんなに好んで聴きに行くオケではなかったですが、シベリウスを聴きに日フィルに行く、というのは今後も期待大かなと思いました。

アンコールは、何かシベリウスの小曲でもやるかと思ったら、エルガーの「夜の歌」。藤岡氏はBBCフィルハーモニックとプロムスに出演した実績もあるんですね。