ノセダ/ワシントン・ナショナル響:シーズン開幕は「パッサカリア」縛りで2017/11/11 23:59



2017.11.11 The John F. Kennedy Center for the Performing Arts, Concert Hall (Washington D.C.)
Gianandrea Noseda / The National Symphony Orchestra
Corinne Winters (soprano-2)
1. Webern: Passacaglia
2. Luigi Dallapiccola: Partita for Orchestra
3. Beethoven: Symphony No. 3 in E-flat major, Op. 55, "Eroica"

出張のおり、初のワシントン・ナショナル交響楽団を聴いてまいりました。エッシェンバッハの後を継ぎ、今シーズンから音楽監督に就任したノセダの、これがオープニングの演奏会になります。客入りは良く、温かく迎えられていたように感じました。

その記念すべき1曲目がウェーベルンの作品番号1番「パッサカリア」とは、なかなか意味深です。このオケを生で聴くのは初めてですが、さすがアメリカのオケ、というような馬力や華やかさは感じませんでした。金管がちょっと緊張気味で、音が安定しない。現代曲はあまり得意なオケではないのかなと。あと、ティンパニの配置がアメリカ式でなくドイツ式だったのが意外でした。ノセダは7年前のロンドン響で聴いたときはどうだったか忘れてしまったのですが、超高齢指揮者以外では珍しく、椅子に座っての指揮。Philharmonia版のちっちゃいポケットスコアを使っていたのは、7年前と変わりません。音楽は生真面目なスタイルで、無調・12音階に突っ走る前のウェーベルンを「歌」として捉えていたように私は感じました。

1曲目の後マイクを取り、音楽監督としてのオープニングシリーズでなぜこの選曲なのかを解説、モダンな作曲家があえて古いスタイルの音楽に枠をはめて作曲に挑戦したものばかりを選んだ、と言ってました。それはもちろん見え見えでわかりますが、最後はグダグダになり、肝心の「なぜこの選曲なのか」の理由についてははっきり言及しませんでした。

2曲目はダッラピッコラという20世紀のイタリア人作曲家の「パルティータ」。実は作曲者の名前からして初めて聞きました。12音技法に傾倒した人らしいですが、4曲からなるこの組曲は、まだ調性が残っている初期の作品。第1曲が「パッサカリア」ということで、前の曲とコンセプトが繋がってます。イタリアの陽気な太陽よりも、ちょっとブルーがかった冷たさを感じる作風です。聴きなれない曲ですが、ノセダの歌わせ方が上手いのか、すっと引き込まれる魅力を持っています。第4曲だけソプラノ独唱が入り、コリーヌ・ウィンターがしずしずと入ってきました。前のシーズンで英国ロイヤルオペラデビューも果たした期待の新鋭で、ルックスは抜群の美人。見た目若そうだし、オペラ歌手らしからぬウエストの細さは、こりゃあ人気が出るでしょう。ただし、この曲だけじゃちょっとわからないけど、正直、それほど綺麗な声でもなかったかなと。線が細く、どこかヒステリックになってしまう歌唱は、役どころを選ぶのではないでしょうか。「ルル」なんか、いいのかもしれません。

本人の公式サイトより。後ろから見るとさらにセクシーな衣装でした。

メインは私の苦手な「エロイカ」。前半はイマイチと感じていたホルンが、休憩後メンバーがガラッと変わり、レベルアップしたので、意外と飽きずに最後まで聴き通せました。この選曲も、終楽章が4分の2拍子のパルティータ風というところが1曲目と呼応しています。ちょっと理屈っぽい気もしますが、うまい選曲だと思いました。ノセダは、オケの人数は絞ったものの、ピリオド的奏法のアプローチはせずに、普通のモダンオケを使って、裏技なしで明快に仕掛けを見せていく誠実タイプ。今度はいかにもイタリア人らしい、明るくリズミカルな陽のベートーヴェンでした。終演後の熱狂は、地元聴衆の期待感の表れでしょう。上々の滑り出しと思います。

ケネディセンターは商業施設としてはだいぶ時代遅れ感が否めず、開放的な設計ではないので構造がわかりにくい建物でした。コンサートホールは座席が古くてスプリングがお尻に刺さるのが難点。2400席以上もあり、音響はお世辞にも良いとは言えません。ただし、ステージが低めなので、いっそ最前列とかで聴くのがよいかも。あとは、アメリカでは普通なのかもしれませんが、地下鉄・電車を降りてすぐにホール入り口があるわけではなく、日本や欧州の主要ホールと比べるとアクセスが悪い。またタイミングが悪いことに、隣のオペラハウスと終了時間がかち合い、大量の人が一斉に出てきてタクシーの列に並ぶも、待っていた第一陣のタクシーが一通りはけたらなかなか戻ってこず、地元の待ちきれない人々は続々とUberで車を呼んで逃げていました。結局シャトルバス、地下鉄を乗り継いでなんとか帰れましたが、夜は本数が極端に少なくなるので、ちょっとビビりました。