イノウエ/新日本フィル/小菅優(p):非ハンガリー系バルトーク2015/09/04 23:59

2015.09.04 すみだトリフォニーホール (東京)
Derrick Inouye / 新日本フィルハーモニー交響楽団
小菅優 (piano-1)
Alfred Walker (bluebeard/bass-baritone-2)
Michaela Martens (Judith/mezzo-soprano-2)
1. バルトーク: ピアノ協奏曲第3番
2. バルトーク: 歌劇『青ひげ公の城』op.11 (演奏会形式)

新日本フィルは過去何度か聴いて幻滅するばかりだったのですが、今シーズン(日本だと9月から新シーズンとは一概に言えない気もしますが)はわりと聴きたい曲が集中していたので、マイプランで5回分のチケットを買いました。さてその万難を排してでも聴きに行くバルトーク特集の開幕コンサートですが、イノウエは日系カナダ人、ウォーカー、マーテンスはともにアメリカ人、小菅優とオケはもちろん日本人だし、何故だかハンガリー色の薄い人々ばかり。

小菅優は、前にも聴いたことがあるように思っていたのですが、どうも児玉桃と勘違いしていたようで、実際は聴くのは今日が初めてでした。新日フィルのサイトに出ていたインタビューで、このバルトーク3番は「ずっと弾きたい曲でした」と書いてあったので、レパートリーになったのはごく最近なんですかね。見た目そのまんまと言うと失礼かもしれませんが、郷愁のない健康的なピアノ。このバルトーク最後の作品には晩年のエピソードがまとわりついていて、そんなことは無視してスコアだけに真摯に向き合うというアプローチもありかとは思いますが、私の好みとして、この曲にはストーリーの味付けがないとあまり面白みがないです。アンコールはミクロコスモスの「蠅の日記より」。こちらのほうが自由奔放で良かったです。

メインの「青ひげ公の城」は、オケの後ろにステージを立てて、白いクロスをかけバラの花瓶を乗せた小テーブルを置き、その周りで2人が演技を入れながら歌います。血のモチーフが聴こえるたびにオルガンが真っ赤にライトアップされ、花畑では緑、湖は青と、照明も大忙しの活躍。シンプルさではこれとほぼ同等の舞台をブダペストの国立歌劇場で見たこともありますし、演奏会形式というより立派なsemi-staged operaですね。演出家がクレジットされていないのが気になりますが、動きが歌手のアドリブ任せとも思えないし、誰か演出はいるはずです。

吟遊詩人の前口上はなし。ウォーカーはがっしりとした体格に加え、黒スーツ、黒シャツ、黒ネクタイに身を包んだ黒人歌手でしたので、威圧感がハンパない。もうちょっと声量があればと思いましたが、安定感のある深いバスで、ハンガリー語も違和感なく、感情を押し殺しつつも堂々とした青ひげ公の歌唱でした。一方のマーテンスは、化粧っ気がなく、見た目も声もまさに「ワーグナー歌手」。すっかり忘れていましたが、プロフィールを読んでおやっと思い記録をチェックしたら、2009年にENOで青ひげ公を見たとき、ユディットを歌っていた人でした。ENOなのでそのときは英語だったのですが、今日はオリジナルのハンガリー語。「tudom」「köszönöm」といった基本単語の発音にちょいと違和感を覚えました。あとは歌い方がフェイクすると言うか、いちいち後乗りだったのが、オケがインテンポでグイグイ進む感じだったので、余計に気になりました。各論はともかく総論としては劇的な歌唱で、いかにも舞台でこの曲を歌い慣れているなという感じがしました。

なかなか良かった歌手陣の奮闘に対し、それをかき消すくらいに、オケも頑張って鳴らしていました。フルート、クラリネット、トランペットのソロは、もうちょっとしっかりして欲しいところ。イノウエの指揮は、変にタメて流れを悪くしないという意味では私的に好ましいものでしたが、個性とか上手さは特に琴線に触れるものがなく。職業オペラ指揮者(職人ではない)という感じでしょうか。今回、扉の向こうのうめき声と、扉を叩く音はシンセで作った電子音でしたが、風情がなくて私は嫌いです。なお、第5の扉のバンダは1階客席後方からペット、ボーン各4本ずつを派手に鳴らしましたが、オケ、オルガンとクロックを合わせるのはさすがに難しそうでした。

「青ひげ公の城」ディスコグラフィーと、珍しい「日本語盤」2015/09/30 23:59


ずいぶん以前に途中まで作って放置していた、「青ひげ公の城」のディスコグラフィーを先の連休中にえいやで仕上げました。音楽ダウンロード2点、DVDソフト2点を含む、39点の所有ディスクのデータを整理してみただけですので、大したものではございません。私が認識している、まだ未所有のソフトについても分かる範囲でデータを載せており(CD-R等、非正規盤と思われるものは除外しております)、世の中に出回っている、あるいはかつて出回っていた音源については、これで結構網羅できているのではないかと思います。

これに伴い、ホームページに長らく「Under Construction」で放置していた「青ひげ公の城 8番目の扉」を仮設で開設しました(スタイルシートを使ってもうちょっとカッコよく作りたいんですが、まだ気力がなく…)。元々やりたいと思っていたのは、各ディスクのレビューと、ラップタイムの詳細な比較ですが、まずはデータベースのリストのみ公開しました。仕事が一段落したら、希望的観測では週に1枚くらいのペースでレビューを書き足して行きたいと思っていますが、さてそう上手くいくかどうか。

今回リストを仕上げるのにいろいろ調べている中で、最近になって初めて存在を知った、日本語版の「青ひげ公の城」という珍盤があり、速攻で入手しました。Naxos Music Libraryの「N響アーカイブシリーズ」として2012年にオンラインのみで配信開始されており、2014年9月からiTunes Music Storeでも売られていたようです。Amazon、Tower、HMVに出てくれば私の網にかかったはずですが、Naxos、iTunes限定とは、してやられました。

レビューはまたあらためて書くとして、「青ひげ公の城」をこれほど新鮮な気持ちで聴くのも久々で、頬が緩みっぱなしでした。1957年のN響演奏会記録を見ると、日比谷公会堂の定期演奏会でこの演目を取り上げていますが、これは放送用音源なので録音はNHKのスタジオで行われた可能性が高いです。当然録音はモノラル。しかし、この時代には珍しく、前口上付きの正当な演奏です(モノラル時代では、これ以外だとバルトークレコードのジュスキント指揮の録音だけです)。節度を守りつつも要所を押さえたオケのコントロールと、年代を考えると驚異的にも思えるN響の演奏能力の高さは、軽く衝撃的でした。ローゼンストックがいかにワールドクラスの優れた指揮者であったかは、この1枚を聴くだけで端的に分かります。ハンガリー語でも独語でも英語でも仏語でもなく、他ならぬ日本語の「青ひげ公の城」はたいへんに刺激的で、歌手陣、特にユディット役の伊藤京子さん(今年88歳でまだご存命の様子)のドラマチックな歌唱は、普通に欧米スター歌手と並べて遜色なかったです。

あと残る「珍盤」は、ロジェストヴェンスキー指揮のロシア語版。何とか聴きたいと思うのですが、LPレコードのみでCD化されてないんじゃないかと、危惧しています。しかし、日本語版があるのだから、中国語版、韓国語版、タイ語版なんてのも探せばあるのかもしれませんね。