東響/ロウヴァリ/バレンボイム(vn):秋雨のプロコフィエフ三昧2014/10/05 23:59


2014.10.05 ミューザ川崎シンフォニーホール (川崎)
Santtu-Matias Rouvali / 東京交響楽団
Michael Barenboim (violin-2)
1. プロコフィエフ: 交響曲第1番 ニ長調 作品25「古典交響曲」
2. プロコフィエフ: ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 作品63
3. プロコフィエフ: バレエ音楽「ロミオとジュリエット」作品64(抜粋)
 (1) 情景
 (2) 朝の踊り
 (3) 少女ジュリエット
 (4) 仮面舞踏会
 (5) モンタギュー家とカピュレット家
 (6) 踊り
 (7) 修道士ロレンス
 (8) ティボルトの死
 (9) 別れの前のロミオとジュリエット
 (10) 朝の歌
 (11) ジュリエットの墓の前のロミオ〜ジュリエットの死

初めてのミューザ川崎。台風近づく大雨の中、客入りはせいぜい半分くらいと寂しいものでした。このホール、一度来てみたいと思いつつ、改修工事で閉鎖になっていたこともあり今までタイミングが合いませんでした。螺旋状に繋がっている上階の客席がユニークで、あからさまに非対称なコンサートホールは日本では珍しいです。私の経験では海外でも、タイプは違いますが、ベルリンのフィルハーモニーとミュンヘンのガスタイクくらいですか。まあ楽団の楽器配置や楽器そのものは全然左右対称じゃないので、デザイン性を横目で見ながら、こういう設計も解としては十分ありなのでしょう。

今日は初物づくしで、東響も、サントゥ=マティアス・ロウヴァリも実は初めてです。ロウヴァリはまだ28歳のフィンランド人。年齢といい、モジャモジャ頭といい、ロビン・ティッチアーティとキャラがちょっとカブってますね。私も最初チラシを見たとき、一瞬「ティッチアーティが来るんだ」と勘違いしました。小柄ながらもダイナミックな棒さばきで、テンポを細かく揺らしながら、いろいろと仕掛けてくる指揮者だなという印象です。例えば「古典交響曲」第3楽章のガヴォットで、不意にねじ切るような終わり方は、あっ、バレエを意識しているなと(この曲は「ロミオとジュリエット」の舞踏会場面でも使われます)。でも「古典交響曲」として演奏しているときにその小技は唐突だし、ある意味あざとい。この人がこの芸風を若くして極めることができたらマゼールになれる、かも?ただしオケの応答は、キレと機動性に欠けて今一つの滑り出し。

続くコンチェルトではこれまた28歳のバレンボイムジュニアが登場。この人は2年前のBBCプロムスでウエスト=イースタン・ディヴァン・オーケストラを聴いた際のコンマスとソリストをやってました(指揮はもちろんお父ちゃん)。うーん、よくわからんです。顔は父親そっくりですが、驚くほどオーラがない。「巧い!」と思わせる技巧を持っている訳でもない。擬古典的で上品な、ハッタリの効かないこの選曲もどうなのかと。案の定、盛り上がるポイントを誰もつかめず終わってしまいました。まだ若いと入っても、ヴァイオリニストで28歳と言えば芸風は固まっているはず。この先の伸びしろはあんまり期待できないかも。アンコールはバッハ無伴奏ソナタ第3番のラルゴ。これまた微妙な感じで。アンコールくらい得意中の得意曲をやればいいのになあと。

メインの「ロメジュリ」は、これを目当てに家族ではるばるやってきたようなもんです。「ロメジュリ」の演奏会用組曲は、作曲者自身が編したものをその通りにやる人はほとんどなく、皆さん演奏会でもCDでもいろいろ変えてはくるけれども、私的にしっくりくる選曲に巡り会ったことは一度もありません。今日の選曲はミュンシュ/ボストン響のレコーディングに倣っているそうで、第2組曲を中心に、第1、第3からも要所を付け足し、物語の順序に並べ換えたもので、理にはかなっています。私としては、この曲は是非前奏曲から開始してもらいたいし、「ロミオとジュリエット」でバルコニーのシーンがないのは「画竜点睛を欠く」と言わざるを得ない。まあ、そこまでやったら長くなっちゃうし、似た曲想が繰り返されて少々しつこくなってしまうんですけどね。選曲のウンチクはともかく、ここでもロウヴァリの指揮はテンポをこまめにいじくって、アイデア投入型の音楽作りでした。ただしこの人、実演のバレエの指揮はやったことないんじゃないかと思いました。何にせよ、メインは特にオケがいっぱいいっぱいだったので、指揮者のコントロールがどこまで表現されていたのかどうか。特にホルンのハイトーンは常に厳しい状況でしたから、ならばトラを入れるとか、プロとしてのレベル感はちゃんとしたものを出して欲しかったです。それでも、オケ全体の鳴りとしてはなかなか良い瞬間もあって、来シーズンのプログラムがけっこう面白いこともあって、また聴きに行こうという気にさせるには十分なパフォーマンスでした。

行動展&チューリヒ美術館展2014/10/14 22:00

帰国以来、美術館に行ってないわけじゃないんですが、だいたいいつも演奏会の備忘録で手一杯なのでブログを書くチャンスを逃しています。この「行動展」も東京は2週間以上前に終わってしまいましたので悪しからず。


古い友人に招待状をもらい、見に行ってみました。彼がアーティストとして生き様を貫いているのは聞いていながら、こちらも故郷を離れて長く、このところ何年も海外に出ていたため最近の絵を見る機会がなく、ようやくじっくりと鑑賞できました。かんとくさんが詳細にレビューを書いてくださっているので私のほうで付け加えることはあまりないのですが、全展示品の中でも群を抜いてユニークだったものの一つ、とは確実に言えそうです。この「心細やかな、全編悪ふざけ」は、彼の人柄が大いに反映されているなあと思いました。

この「行動展」は、戦後すぐに設立された行動美術協会というアーティスト団体が毎年主催する公募展示会で、今年が第69回。絵画主体ですが彫刻もあって、屋外展示までありました。絵画はどれも2メートル四方くらいの大作品ばかりで、作者の費やした時間と情念がキャンバスに溢れている力作ばかり。彫刻も絵画も、実にいろいろな作風の作品があって、それは決して尖った前衛ばかりではありません。全体的に洋画寄りの傾向で、ジャパニーズテイストを押し出したものは少ないように思いました。ざっくりとした印象としては、抽象的な作品はむしろわかりやすいというか、色彩は予定調和的で、デザインアートとしてすぐにお金になりそうなところを狙ったものが多く、作品世界に入って行く敷居はそんなに高くないと感じました。ただ、それを逆に言えば、私ごときの鑑賞者に、鮮烈な印象を植え付けるものがあまりなかったのは事実です。

ちょうど同じ時期に「オルセー美術館展」と「チューリヒ美術館展」をやってて、国立新美術館としてはたいへんな賑わいでした。時間が余ったのでどちらかを見て帰ろうと思い立ち、オルセーは何度も行ったから、大好きなモンドリアン目当てでチューリヒ美術館展のほうを覗いてみました。

モンドリアン「赤、青、黄のコンポジション」は、まさにアイコニックな作品で見れてよかったし、ココシュカ「プットーとウサギのいる静物画」、ベックマン「スケベニンゲンの海岸の散歩」など、印象深い作品にも始めて巡り会えて、なかなか充実した展示会でしたが、とりわけ、ふと目に留まったジャコメッティの抽象画「色彩のファンタジー」の強烈な印象に、しばし釘付けになってしまいました。


漫画チックなヒョロヒョロ彫刻専門の人と思っていたジャコメッティが、こんな絵も描いているとはつゆ知らず。描かれて100年経ってなお鮮烈なその色彩感覚は、さっきの「行動展」では残念ながら一切見えなかったものです(もちろん、ジャコメッティと比べんなや、とは出展者の人たちも思うでしょうが)。繊細にして大胆、無秩序のようで調和。病的なビジュアルイメージは、気安いパクリを否定します。歴史のふるいにかけられた本物のオーラを、あらためて感じたハシゴ酒ならぬハシゴ展示会でした。

都響/ブラビンズ/オズボーン(p):今さら英国音楽その12014/10/20 23:59

2014.10.20 サントリーホール (東京)
Martyn Brabbins / 東京都交響楽団
Steven Osborne (piano-2)
1. ヴォーン・ウィリアムズ: ノーフォーク狂詩曲第1番 ホ短調
2. ブリテン: ピアノ協奏曲 op.13(1945年改訂版)
3. ウォルトン: 交響曲第2番

都響の英国音楽特集。今更のようですが、かえってロンドンでは英国音楽を聴く機会がほとんどなかったので、どの曲も初めて聴く曲ばかりです。ブラビンズもイギリスの中堅指揮者のようですが、ロンドン在住時、オーケストラの演奏会情報には隈なく目を通していたはずなのに、その名前にどうも記憶がありません。Wikipediaを見てみると、2011年のBBCプロムスでブライアン「ゴシック交響曲」を指揮とあって、そうかこの人か。この演奏会はアルバートホールには行けなかったけど、Radio 3で聴いたのを思い出しました。

初めての曲ばかりなので、まあさらりと感想を。ノーフォーク狂詩曲は、いかにもといった民謡調の曲ですが、これがまたさらりと聴き流してしまう、引っかかりのない曲です。英国音楽のこの「無表情な素朴さ」が、どうも苦手かもしれない。ヴィオラが重要な役割を負っているのに、ちょっと弱いかも。ブリテンのピアノ協奏曲は、4楽章構成の長大でごった煮のような曲でした。うーむ、よくわからんかったのは承知の上で、以前同じブリテンの「チェロ交響曲」や「パゴダの王子」を聴いた時に覚えた逃げ場のない冗長感がぶり返し、この曲を好きになるにはそうとうハードルが高そうかなあと。オズボーンのピアノは、飛び跳ねて、叩く叩く。この人の元気の良さだけやたらと印象に残りました。なお、アンコールはドビュッシーの何かを弾きました(後で調べたら、前奏曲集第2巻の「カノープ」だそうです)。

ウォルトンのシンフォニーを一度ちゃんと聴いてみようというのが、この英国音楽特集2夜を聴きに来たほぼ唯一の動機でした。その点は幸い、ブラビンズはさすが十八番だったようで、実に手慣れた棒さばき。オケは安心して着いて行き、最後までヘタレず、この曲の実像を余すところなく見せ切ったと言えるのではないでしょうか。意欲作だけに決して耳に優しい曲ではないですが、初めて聴くのに展開がいちいち腑に落ちるのは、文脈をちゃんと心得ているからでしょう。ノーマークでしたが大した職人です。次も俄然楽しみになりました。

MacBookちゃん「Death & Rebirth」、Appleの独善2014/10/26 09:00

2008年の年末位からだから、ほぼ6年連れ添い、その間ロンドンに引っ越したり、ヨーロッパ中を一緒に旅行したり、一時帰国の際ももちろん一緒で、本帰国にも無事ついてきた、我が家のMacBook Proちゃん(Late 2008モデル)が、先週のある朝、お亡くなりになってました。前夜までは普段通り使っていたのに、うんともすんとも動きません。急ぎの仕事があったのでたいへん困ったのですが、それはまあ別の話として。

ここ1年はちょっと使うだけで異常に発熱し、時々熱暴走で勝手にパワーダウンするようになっていたので、時間の問題とは思っていましたが、別れは唐突やってきました…。(T_T)

クイックガレージに持っていくも、ロジックボードの交換になりますが、型が古いのでもう部品の供給が終わっています、と。まあ買い替える覚悟はできてましたので、早速機種の選定に。もう引っ越しもないだろうから今度はiMacにしようと最初は思ったのですが、いろいろ検討したあげく、結局今回もアルミボディMacBook Proの後継機種に落ち着きました。2012モデルなので型落ち感は否めませんが、iMacも含めて現行カタログでこいつが唯一、DVDドライブ内蔵のMacなのでした。中古CDをよく買う私としては、PCに内蔵ドライブがないと不便でしょうがないという判断で。

一昨日到着し、この週末でしこしことセットアップ作業をやっているところです。長年の習慣やくせから、自分なりの環境設定はもうガチガチに決まっており、それをまたゼロから整えていくのは毎回骨の折れる作業です。今回は幸い内蔵HDDには何の問題もなかったので、外付け用の安いケースだけ買ってきて、データは全て無事救出できました。

20数年、自宅で使うPCはMacオンリーですが、今回のMacBookで5代目。

Macintosh IIsi
Power Macintosh 7100/80AV
iMac G4 (2002 17" Flat Panel)
MacBook Pro (Late 2008 15")
MacBook Pro (Mid 2012 13") ←いまここ

Macのソフトはそんなに早く陳腐化しないし、ハードも意外と長持ちするので、うちの場合5〜6年は使い続けるのが標準です。しかし、今後もどこまでMacと付き合い続けられるか。昨今のAppleの独善的なやり方には、頭にくることしばしばですので。

例えば、

(1) CD/DVDドライブ内蔵モデルの廃止
音楽・映像はiTunes Store、ソフトはApp Storeからオンラインで入手せよ、他の道は提供しません、という押し付けですよね。私は中古CDをコツコツ集めてiTunesのライブラリにしこしこと読み込ませることでこの膨大なライブラリを構築してきたので、音楽がオンラインオンリーになったらたいへん困ります。

(2) iTunesの「ジャンル名」勝手にローカライズ問題
iTunesでこのアルバムのジャンルは「Rock」だと入力しても、しつこく「ロック」に戻されてしまう。しかも動作が完全ではなく、戻るものと戻らないものがある!一方、iTunes創成期は逆にジャンル名が英語のみだったわけで、その頃からのライブラリをずっと引きずっている者としては、ある日突然押し付けられたこの変な仕様は未だに全く理解不能だし、心底邪魔です。

(3) Mail.appで送信メールの文字エンコードをAsciiかUnicodeに限定(ユーザが設定で変更できない仕様になった)
メジャーなメーラーはUnicodeに対応しているから問題ないということでしょうが、長年いろんな国の人と電子メールのやり取りを行ってきた実感として、相手に合わせた文字コード選びができないメーラーなんて、気持ち悪くて使えません。


こういった、長年抱えている微妙な不満も、この際だからと最近の解法をいろいろ調べつつやっていると、復旧作業は益々はかどりません…。