読響/マイスター/オット(p):ピュアでナチュラルを貫く勇気2014/09/03 23:59

2014.09.03 東京芸術劇場コンサートホール (東京)
Cornelius Meister / 読売日本交響楽団
Alice Sara Ott (piano-1)
1. ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第1番ハ長調 作品15
2. R. シュトラウス: アルプス交響曲 作品64

8月はシーズンオフだったので久々の演奏会。アリス=紗良・オットはロンドンでも第一線で活動していましたが何故か縁がなく、初めて聴きます。深紅のドレスにDesire(by中森明菜)のオカッパヘアーで登場した実物の紗良オットは、確かに可愛い。顔は変わらず童顔ながらも、髪を切ってずいぶんと大人の色気が出たような気がします。さてその力量はどんなもんぞや、モーツァルトのような長い序奏が終わって入ってきたピアノは、全く肩の力が抜けたベートーヴェン。最上級のテクニックを持ちながらもそれをほとんど意識させない、コントロールされたナチュラルさが見事。学究肌のペリオディックでもない、男勝りに骨太でもない、彼女自身の自然体としか言いようがない、女性らしい演奏スタイルと見受けました。軽めのリリックと言ってしまえばそれまでですが、徹底した姿勢は十分に個性を感じました。バックのオケも全くのロマン派スタイルで、終止ソリストを立てた「合わせ」の演奏でした。指揮者は楽章の間隔を置かずに進めたかった様子でしたが、第1楽章の最後の残響がまだたっぷり残っているうちに起こり始めた咳ばらい(先頭切ったのは何を隠そう臨席のおっさんでしたが)に邪魔され、思いっきり憮然としていました。

アンコールは意外にも「エリーゼのために」。ある意味、勇気ある選曲です。ここでもまた、プロの「エリーゼ」を見せつけちゃるぜ、というような気負いや仕掛けは一切なく、あくまで曲を素直に研ぎすましたピュアな演奏がかえってプロの凄みを滲ませていました。

メインの「アルプス交響曲」はちょうど2年ぶりくらい。前回聴いたハイティンク/ウィーンフィルの鉄板Aクラスと比べたらそりゃいかんでしょうが、それにしてもやっぱりこの曲はたいへんなのね、というのを再認識しました。オケは全体的にがんばっていて、ホルンなどは結構良かったと思いますが、他の管楽器は正直苦しい。特にトランペットは、できればミキサーで落としたいくらい邪魔でした。長丁場聴いているのは苦痛で、失礼ながらもこれがオケの力量の限界かと。

名前からして「巨匠」なこの若手指揮者は、英国ロイヤルオペラも振ったことがあるらしいですが、私は記憶になく。この大曲に暗譜で望む姿勢は評価できるものの、場面ごとの表現、色づけとかはまだ全然説得力がなく、自分の音楽が完成するのはまだまだこれからかと。弦を対向配置にしながらもヴィオラとチェロを入れ替えたそのこだわりは、そもそもこのオケでこの曲をやるには不発だったでしょう。20世紀の大規模管弦楽は、素直にモダン型(低音を上手に集めたアメリカ式)採用でよろしい。個人的な楽しみであった打楽器の派手な活躍は、ウインドマシーンがきめ細やかに回転を変えて表情ある風を作っていたのに対し、サンダーシートは向きが悪くてほとんど聴こえず、不発でした。